何も言うまい土下座
…………それでは、どうぞ
統一暦1925年12月24日 昼前
陸軍航空士官学校 校長室
「………………教官?小官が、ですか?」
ターニャが驚いた顔で聞く。すると、校長木下正三中将は重々しく頷いた。
「ああ、そうだ。なんでも、デグレチャフ少佐は大層学生らから慕われていると聞く。さらに、貴官はあの帝国軍の偉大なエースとして、“銀翼突撃章”すらも授与された古参兵だ。そこで、学生たちに戦訓話や、戦場での巧い戦い方などを訓示して頂こうと考えたわけだ」
確かに来る時も、山脇次官から実戦の話でもして来てくれ、と頼まれていたわけであるし………とターニャは特になにも言わず了承した。実際、既に二度目である士官学校生活は、ターニャにとって少々退屈なものとなっていた。無論、ここは“航空”士官学校であるため多少はマシだが………
だが……………
(…………はぁ。しかしそうすると、
悪い奴では、無い。それはここ数日の交流(嫌々ながらも)ターニャにも分かった。しかし、それとこれとは話が別なのだ。
(まるで不良の舎弟でも出来たようなものだ!あんな社会不適合者ども、前世では忌み嫌っていた筈なのに!!)
廊下を突き進みながら、イライラする頭でそう考える。まったく、こんな事なら厳格に処罰させておけばよかった!今更ながら、ターニャは心の中でそう吐き捨て、自室へと戻っていく。
…………………彼女の去った校長室では、二人の男が沈黙していた。やがて唐突に、木下が呟く。
「……………アレは、とんでもない傑物だな」
それに、隣に直立不動で控えていた副校長が真意を尋ねる。
「………傑物、でありますか?」
「そうだ。貴様とて感じただろう、技能だけではない。アレは、アレこそが
愛国者……………それは確かにそうだろうが、しかしなぜ今それを?
「普通ならば、あの様な————馬鹿な逆恨みによる襲撃など、一刀両断に断罪すれば良いのだ。彼女は他国の外交官なのだから、いくらあの馬鹿どもが優秀とて甘くて放逐、順当に行けば銃殺だったろうな。だが」
それでは、駄目だという。何故ならば
「
「…………しかし、帝国はそれでは困る、という事ですか」
そう、帝国はそれを看過しえないだろう。特に今、この情勢では。
「帝国は、友好国を欲している。自らの“正義”を理解する者を、な。あの胡散臭い帝国大使の怪しい動きは、その証左だ。そして、現状この世界において、そうなり得るのはただ一国、ここ秋津洲皇国のみ!」
「まさか、彼女はそれを慮ったと?それでは彼女は……………」
あまりに献身的、あまりに狂信的———————
「流石は“銀翼”持ちだ。あれは、正に神が帝国のために創った使徒なのだろうよ。………神なんてものが、本当にいればの話だがな」
絶句する副校長。しかしふと、ここで素朴な疑問が浮かんだ。
「……………しかし、それはともかく何故教官に?」
「……………………………………それは、な」
真剣そのものの表情で、木下は————————
「……………上坊が、居なくなったってしまったから、な」
「あ…………あー。上坊大尉、半年間の謹慎でしたね………。その代理、ですか…………」
結構、切実な事だった。
※
同年同日 昼
陸軍航空士官学校 食堂
「クリスマスですよ、クリスマス!!」
会って早々ヴィーシャの満面の笑顔。周りを見ると、確かにクリスマスっぽい飾り付けが。非常に微妙な感じではあるが……………
「ああ、そういえば、そうだったな」
ヴィーシャの態度や、その珍妙な様相を見て、ようやく思い出した様にターニャが呟く。そのどうでも良さそうなそぶりに、ヴィーシャは首を傾げる。
「あれ?少佐殿はお好きではないのですか?クリスマス」
「別に嫌いなわけではないさ。ただ、ここ最近のクリスマスは、ろくなことがなかったからな」
一昨年は士官学校でのしごき、挙句はノルデンでの敵地偵察
去年は北の海で潜水艦狩り、しかも取り逃した挙句ラインへの左遷……
本当に、ロクでもない……………
「で、でも今年は平和ですよ?少なくとも私たちは…………」
まぁ、確かにそうだ。それに……………
「クリスマス、良いではないか。実に良い。商業主義が、資本主義が、宗教行事を乗っ取った実に小気味良い行事ではないか!そうだヴィーシャ、何か欲しいものはあるかね?クリスマスと言えば、プレゼントの送り合いだろう?」
にこやかに、実に良い笑顔でターニャは言った。
「え!本当ですか?!………えーっと、実は、私欲しい物がありまして………」
おお、本当か!とターニャはニコニコと言う。キャッキャウフフと女子二人、実に充実している光景である。
「で、欲しい物ってなんだ?」
「あー、それは…………」
と、
「押忍ッッ!!少佐の姉御、本日はお日柄も良く!!」
二人の座る席の前に、幾人かの学生らが立った。ただ、何かがおかしい……………
「ターニャの姉御親衛隊!番号一番!総隊長穴吹敏雄!!参上致しました!!!!ささ、なんなりとお申し付けくだされ」
「……………いや、呼んで無いから」
豚を見る目で冷たく言う。が、まるで動じず、むしろ何故か嬉しそうに穴吹達は続けた。
「ははは!またまた御冗談を。そう言えば聞きましたよ少佐殿!なんでもついに教官になられたとか!!いやぁこれでこの学校の天下も近いですなぁ」
何故天下?そしてなんでそんな情報早いんだ?
頭痛が……………あたまが、いたい…………。ターニャは嘆く。本当に、どうしてこうなった……………
「あの酒乱のおっさんなんぞ比べ物にならないでしょうなぁ!いやぁ本当に講義が待ち遠しいですよ!!」
まるで邪気の無い笑顔。だがそれが何人も、しかも大柄の青年ともなればただただむさ苦しいだけだ。非情にも、危険を察知したヴィーシャは上官を置き去りに逃げ去ってしまっている。
完全に、孤立無援であった。ターニャは全てを諦め、彼らとともに教室へ向かう。死んだ目をして……………
※
統一暦1925年12月25日 午前
陸軍航空士官学校 宿舎
「メリークリスマスです、少佐殿!」
「うむ、メリークリスマス。ヴィーシャ」
起き抜けに、二人でプレゼント交換。うーむ、実に平和かつ資本主義的な交遊だ。ターニャは実に満足であった。
コンコンコン!
軽快なノック音。この時点で、既に嫌な予感しかしない。ヴィーシャと顔を見合わせ、ため息をつく。
「……………入れ」
「おはようございます少佐殿!!クリスマスゥゥゥゥゥゥ!プレゼントをご用意いたしました!!!!」
ターニャはずっこけた。今日も一日、振り回されそうだった……………
「…………………なんだこれ?牛乳?」
「ハッ!自分の故郷の名物、ミルクヨーカンであります!!」
「………………何故これを?」
「ハッ!少佐殿の御成長に大変良いと考えたためであります!!」
「……………………」
「あっ!ちょっと駄目でしょうそんなこと言っては!少佐殿も気になさっているんですから!!」
「妙なことを言うなセレブリャコーフ少尉!気にしてなどいないわ!」
うーん長くかかった割に……………
あ、ところでミルクヨーカンは戦前には無いですよ!!捏造です為念
クリスマス、と聞くとまず真っ先に思い浮かぶのが、ニコ動にあるじょしらくの某動画……………毎年聞いちゃうんだよなぁアレ
第二章もそろそろ折り返し地点ぐらいですね。以後の展開に乞うご期待!
次は………こんな予言してるから変なことになるんだが…………夜中?ぐらいかな??
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