それではどうぞ!本編です!
統一暦1926年2月6日
皇都東京 海軍省
「そ、れは………………」
ターニャは言葉に詰まった。確かに、心当たりはあった。あまりに情報が少なすぎたのだ。
南方戦線のこと以外にも、本国からの連絡はほとんどなかった。それは、ターニャが着任してからずっとそうだった。
「まさか…………」
ターニャの不安は色濃くなる。それを見透かすかのように、山野は語り出した。
「今、この国にはある陰謀が蔓延っている。魔物のようなその渦中には、ある人物がいるのだ。……………彼の名はクルト・フォン・オットー。そう、貴官の所のボスだ」
…………。ターニャは黙る。黙るほかなかった。まさか、自分の上司が他国でヤバい事をしていたとは………………
しかも、タチの悪いことにターニャにはそれをどうすることも出来ない。本国に密告したってそもそも通信はオットーが握っているし、そんな事をすればターニャはオットーらに秘密裏に処分されてしまうだろう。
そのくせ、黙認すれば後々彼のの陰謀が露見した時、仲間と誤認され反逆罪にされかねない。つまり、現在の状況ではどう転ぼうとターニャは詰むのである。
なんたる事だ!これならラインで死にかけた方がまだ良い!思わずそう考えてしまうほど、ターニャは追い詰められていた。
「その陰謀とは何か?…………まぁ陰謀と言っても、オットー氏の望みは簡単さ。帝国の味方が欲しいのだ。まったく、愛国者ってのは恐ろしいねぇ頼まれてもいねぇのに頑張っちゃって。……………だが問題なのは彼が頼った相手だ」
タバコを吸い出した山野は、呆れたように言う。だがすぐに真剣な、というより侮蔑するかのような表情になる。
「奴らはヤバいぞ。帝国と組んで連邦に喧嘩を売ろうとしてやがる。………陸軍士官らの集まりで、奴らの自称するところの“北方派”という輩どもだ。北方権益を、さらに拡大したいんだよあのバカども。…………ったく、それで何になるってんだ。あんな凍ったところをよ」
資源はあるらしいが、探して採掘する方が手間だろう。山野はそう言って小さく笑った。だが、それはあくまで前座だという。
「おそらくこれはオットーにも言われてないだろうが………奴らの最終目的はそれじゃない。連邦を分割して得た領土、人材、資源。これを総動員して—————世界に、喧嘩を売るつもりだ」
世界、それはつまり…………
「…………………まさか、連合王国と合州国に戦争を仕掛けるつもりですか?それは……………………」
イコール“死”である。皇国程度の国力では、いいとこ植民地全部没収されて終わるだろう。無論それで済めば万々歳、実質大勝利と言えるかも知れないが………
基本的には、亡国まっしぐらである。
「それは、看過できん。俺は、俺の目が黒いうちはそんな事させん。だが……………」
殺されるかも知れん。実際に、“北方派”に煽動された右翼どもが、怪しくつけ狙ってきているという。対抗して山野も慕ってくる変わり者右翼に護身術を習ったりしているが、しかしその程度は焼け石に水である。
「無論俺が死んでも海軍の考えは変わらんが………しかしどうにもな、我々はどうしても絶対数が足りん。そこで、ここからが本題なのだが…………」
…………嫌な予感がする。だが、トンズラしても後は地獄だ。おのれオットー大使め!
「デグレチャフ少佐、どうかね?我々と共に浅慮な侵略を阻止しようではないか!」
ほらきた、どいつもこいつもロクなもんじゃない。ターニャは心の中で毒づく。
だが…………………
「小官に、スパイにでもなれと?聞かなかったことにしておきましょう」
もし…………………
「…………本音を言えよ少佐。俺は知っているぜ?貴様が陸軍省の晩餐会で言った事を…………これ以上の戦争なんて、望んでないだろ?」
それが………………
「祖国の完全なる勝利が絶対条件です。……………無論、それが成し遂げられるなら………」
確約…………………
「いや違う。貴様は望んでいない。…………何故ならば」
………………………されるならば
「「帝国は、侵略国家ではないから」」
苦渋の表情で、ターニャは言う。もっとも、その顔すらもフェイクに過ぎない。
そもそも、(不思議なことに)勘違いされやすいが、ターニャ・フォン・デグレチャフは愛国者などではない。帝国などカケラも愛していないし、忠誠心など存在Xにでも食わせろ!とまで考えている。そのくせ保身こそ第一であるから、そんな内心は決して見せないが。
彼女にとって、戦争は害悪以外の何物でもない。だが、腐れ存在Xの陰謀で軍人にさせられたから、仕方なくやっているのだ。そのため出世の糧となる“すぐ終わり、圧勝できる”戦争は支持するが、それ以外の戦争などお呼びでない。
協商連合への深入りなどすべきではなかった。世界が帝国に同情的なうちに、講和すべきであった。そこから先の戦争は、全てターニャにとって無用のものであった。しかし、そんなそぶりを見せれば即敗北主義者のレッテルが貼られてしまう。故に勇ましい愛国心を“つくって”見せてみたが………………
(ふざけるな………それはもう過去の話だ!今はもう私は平穏と安寧を手にしたのだ!これ以上の戦争などいるか!!)
本国が、戦争をしようがどうしようが、もはやその蚊帳の外にいるターニャにはどうでもいい話だ。しかし、皇国が戦争をするとなると、巻き込まれる、確実に。
そして、相手が連合王国だったとしても、その親分たる合州国がしゃしゃり出てくるだろう。そうなれば、先ほども述べたように亡国まっしぐら。五年とたたずに皇都にB29の大群が蠢くことになる。私は詳しいんだ史実だったからな!
大空襲を逃げ惑うなど言語道断。そんな物は安寧ではない。だから、ターニャはある一点のみを条件として山野の提案を呑む。
その条件とは、すなわち
「……………すまないが、ヴィーシャ。先に学校へ戻っていてくれないか?私はこの後寄らねばならぬ場所があってな。何、今日中には戻るさ」
「………!はい、了解です少佐!それでは、お先に失礼させて………………」
「あ、賭博の件は帰ったらたっぷりと聞くので、楽しみにしておけ」
「ひえっ」
……………脱兎の如く逃げ出すヴィーシャ。………どうも釈然としないが、しかしこれで目的は果たせた。
「……………なるほど、な。では、意見が一致した所で、改めて答えを聞こう」
そして、ターニャは
「………………いいでしょう。ご協力いたします」
それを聞き、山野はニヤリと笑う。だがそこに、続け様にターニャは言った。
「ただし、条件があります。………………例えいついかなる場合でも、私が秋津洲皇国に亡命する権利を」
……………しばし固まる山野。だが、すぐに笑い出し、こう言った。
「ああ、無論だとも。俺は仲間を見捨てん、証書も血判も、いくらだって書いてやる!!」
※
「くくく、“北方派”ねぇ…………所詮はつじーんあたりの無能な働き者どもの巣窟だろうな。はっはっは!存在Xめ仕事をサボるからこうなる!ザマァみろ!」
士官学校までの夜道。そこを一人で歩きながら、ターニャは呟く。その表情は実に嬉しそうだった。
だが、それは突然やってくる。
『自惚れるな、人間』
不意に、周囲のあらゆるものが止まる。こ、これはまさか………ッ!!
「そ、存在X!貴様ッ!!」
『…………貴様は自らを神に反逆した英雄かのように考えているようだが———————貴様にそんな価値はない』
風が、外灯が、空が、月が、
存在Xの声を響かせる。
『ふむ………しかし貴様の僅かな働きでも、多少の効果はあったようだ。使徒としては愚昧もいい所ではあるが、しかし褒美として、我に跪き、創造主を讃えるのであれば、この世界を貴様の望む通りにしてやろう』
…………………またか、また私を愚弄するかッッッッ!!!!
「黙れ存在Xッ!!だれが貴様の思い通りになどなるものか!!」
『…………………なるほど、ならば———————
———————あらゆる苦しみを受けながら、虫けらのように死ぬがいい
「………………くくく、くはは、アーッハッハ!!いいだろう存在X、かかってくるがいい!だがな、私は必ず手にするぞ!平和という完全な安寧をッッ!!」
その世界に向かい、幼女は吠える。自らの望みを手にするために。
『………臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。連邦軍が帝国に奇襲侵攻せり、連邦軍が帝国に奇襲侵攻せり。欧州情勢は、極めて複雑怪奇な様相を…………………』
かくして安息は終わり、破壊と混沌が、
始まる
第二章、完
《予告》
「———————海軍としては、陸軍の陰謀に断固反対である」
「———————陸軍としては、海軍の腰抜けに断固反対である」
「———————今だ!今こそ好機!!連邦を叩く絶好の好機である!!」
『———————今や帝国と皇国は、世界に蔓延る悪の枢軸となった』
「———————デグレチャフ少佐、宜しく頼みますよ」
「———————流れが、変わった………………?」
「———————ついに、始まるぞ…………」
終わりの始まりが、迫る
第三章、近日開始
はーい、という訳で第二章終了!!あ、最後の予告はあくまで予定ですので、予告なく変更されることが稀によくあります。ご理解ご協力お願い致します。
ついに、妙な争いに巻き込まれたターニャ!第三章ではどうなるんでしょうか!でも次話は幕間です。さらにその次も別の小話です。ゆるしてね♡
次話もとい幕間は、今日中には、投稿する予定です多分。
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