それではどうぞ!
統一暦1926年1月9日 午前
皇都東京 上野 高級雀荘『清一色』
暇である。ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ少尉は、またも心の中で叫んだ。
「ぐ、ぐぎぎ……………なんだこのガキ………お、俺の
「ボーナスが、新居のローンが……………」
「ば、化け物め………………」
彼女の周りには、無残にも所持金全部消し飛んだ負け犬たちが、死屍累々と倒れ伏している。が、ヴィーシャにとってはそんな事毛ほどの興味もない。
もっと、強い敵を………!すっかり麻雀中毒者になったヴィーシャの想いはただそれだけだ。たちが悪いことに、中毒にも関わらず彼女は日常生活を完璧にこなしていた。203で鍛えられた耐久性が、こんな所で役に立つとは………
負け犬たちの中には、逆ギレして暴力行為に及ぶ馬鹿もいる。が、ヴィーシャの背後に控える屈強な店員によりあっさり止められ、店の裏へ連れて行かれる。その後?さぁ。まぁしかし、その後二度と店に来ないことだけは確かだ。
と、そこに
「はーっはっは!いやぁすっかり遅れちまった!!ガハハまぁ許せヴィーシャ!」
「テメェがあんな所で寝てるからだろアホ。何で軒先のドブで寝てんだ」
「くっくっく、やめとけ浅村。言って治るならとうに治っとるさ」
三人のイカれた賭博馬鹿達が店に入ってきた。
「あ!皆さん!遅いですよー!」
途端にヴィーシャは目を輝かせる。ようやく、楽しめそうだ……………ッ!
「ああ、だがその前に……………
あけまして、おめでとう
今年も良い麻雀を、打とう!
そして、挨拶もそこそこにヴィーシャら四人は、店の奥にあるVIP専用卓に移動する。さぁ、
いざ開局ッッッッッッ!!!!
「そうだ、今日は記念すべき新年第一回めだからな。ここは一つ一荘戦でやほうや」
南家、山野四六が牌を並べながら言う。一荘戦とは、簡単に言えば通常の半荘戦の倍、つまり東場から北場までの計十六局闘うというルールの事だ。が、
「………いや、一荘戦のルールなど知らんぞ」
その横、西家の浅村均が突っ込む。そう、日本の麻雀では半荘戦が基本であり、一荘戦など彼らはやったこともなかった。
「………………まぁ、それじゃこうしよう。半荘戦連続二回!点数引き継ぎで、な」
北家、堀山定吉の鶴の一声で、半荘戦をぶっ続けで二回やるというふうに決まった。
「…………それでは、始めますねー」
そして、東家、ヴィーシャ。彼女の言葉とともに、試合開始——————!
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
開始してしばらくは、卓を沈黙が支配する。
「…………………………
が、早速、ヴィーシャの進撃が始まる。
「?!も、もう…………か?」
慄く山野たち。その記憶に刻み込まれた恐怖に、男たちは震えるが………
「……………はい、次どうぞ」
…………流石に、もう上がったりはしないか。ホッと一息。冷静に考えれば有り得ないのだが、
彼女の化け物っぷりを良く知る者たちは、その可能性を否定しきれない。
現に————————!
「………………………もう一つ、カン」
?!?!ま、まさか、そんな………………………!
ヴィーシャの手が、王牌に伸びる。そして、それを掴み…………………チラリと確認。
………………………笑った。
「ツモ、嶺上開花。…………………どうしたんですかー?お正月ボケですか??」
悪魔の笑みで、容赦ない煽り…………ここから、彼女の蹂躙が、始まる。
※
同年同日 午後
同地
………………勝負開始から、早数時間。戦いは、混迷を極めていた。
「………はいそれロン!ろぉぉぉぉぉぉぉん!!!!」
山野が叫び
「やられたらやり返す、やられてなくても百倍返しッッ!ツモ、3200オール」
浅村が嗤い
「攻めてばかりは、な。守りがお留守だぜ?………ロン、5200」
堀山が嘯く
そして、ヴィーシャは……………
「……………皆さんどうもチマチマしてますねー。麻雀は、こうやるんですよー!」
————————ツモ、三倍満
一気に1万点以上消し飛ぶ。下々の小細工を嘲笑うかの如きその暴虐さ。しかし、それでも漢たちは戦いをやめない。
「…………くくく、面白ぇ、面白いぜヴィーシャァァァァァァァァ!!」
…………………そして、いよいよ、
「最終局か………………ちっ、まったくとんでもない奴だぜ本当に」
浅村の呟くとおり、点数はかなり悲惨なことになっていた。
山野 5600
浅村 12700
堀山 7000
ヴィーシャ 75700
……しかし、これでもよくもっている方である。この三人以外に、ヴィーシャ相手で南場を迎えられた者はいないのだから。
「三倍満でも不可能………しかも他が飛んじまうからツモも駄目…………クソッ」
だが、粘る、粘る、粘る……………
そして、ついに
「くくく、くはは!」
———————浅村、国士無双聴牌。
これで、ヴィーシャへの直撃により逆転が可能となった。それを察した山野や堀山も、支援に回る。
…………沈黙が続く。浅村の全身に脂汗が広がる。対しヴィーシャは全くの無表情。ただ、機械的に牌を移動させる。
「…………………………くそ、まだだ、まだ終わらんよ!」
迫る流局。それでも一応は生きながらえるが、浅村は確信していた。ここで勝たねば、流局しようがどうしようが負ける、と。
だからこそ、“これ”も、浅村にとっては不要。
(……………テメェは
山野が捨てた發を、しかし勝利のために無視する。彼にとっては、上がることが大事なのではない。勝つことこそが、重要なのだ——————
……………………と、その時
「………………西洋にこんな諺があります。“深淵を見る時、深淵もまたこちらを覗いている”…………………
……………………驚く暇も、無かった。
「………………ツモ、嶺上開花…………いえ、
ついに、決着。
「……………はぁ?!いやいやいや、りゅ、緑一色?!おま、さっきいくつか捨ててたろ索子!!」
「ええ、でも、いっぱいきちゃったので」
「何その豪運?!」
浅村がドン引きして突っ込む。が、しばらくすると脱力して燃え尽きた。
「あー…………国士無双が………畜生」
「ふふふ、でも、危なかったですよ。私この牌が来なかったら、“これ”を次に捨てるつもりでしたから」
そう言って、ヴィーシャが出したのは先程浅村が無視した發。だが、浅村はかぶりを振る。
「いや、そうじゃねぇんだ。もう勝負はついた。今更そんなこと言ったってどうにもならん」
「?でも、二位ですよ?」
ちがう、そんなものに意味はない。
「二位だろうがなんだろうが………俺は負けた、それだけだ。あそこで山野に役満直撃させたって、勝てなかったろ?」
そして、終わった後に“勝てそうだった”などと言うのは負け犬のやることだ…………浅村はそう言ってタバコを吸い始める。
「………なーにスカしてんだあいつ。俺たちが散々支援してやったのによ」
「全くだ。女子にカッコつけたいみたいだが、負けてる訳だし普通にダセェぞ?」
「もういっぺん言ってみろゴラァ!!大体テメェらこそなんだその点数!!俺が負け犬だとしたら、テメェらはゴミムシだなはっはっは!!」
「「ぶっ殺す」」
「おうおうかかってこいよ返り討ちじゃ—————「あのー」?!」
と、そこに乱入してきたヴィーシャ。彼女はにっこりと笑って、言った。
「お金、いただきますよー」
うっ!?そ、そうだった…………馬鹿な負け犬たちは慌てて財布をひっくり返す。えー、足りるかなこれ…………
「あ、浅村さんは今日はいいです」
「は?!な、なんで……………」
思わず聞き返す浅村。すると、ヴィーシャはこれまた美しい笑顔で言う。
「まぁ、私の気まぐれです!あ、でも、その代わりに……………ひとつ、“貸し”ですよ?」
………………なるほど、そうか。浅村はやれやれと肩を竦める。それをジト目で見る他の馬鹿達。
「……………こんなおっさんの何処がいいんだ?顔か?そんな良いかこいつ!!」
「お前よりは良いだろ………しかしこれは…………」
……………こうして、賭博馬鹿たちの1日は過ぎていく。未来がどうあろうと、今この瞬間は、
彼等は実に平和を謳歌していた。
一応断っておきますが、別に変な意味じゃないですよ。まぁおそらくは、感銘でも受けたんでしょう彼女は。浅村氏の勝負観に。多分おそらく。
ちなみに、ヴィーシャの闘牌は某タコスと某しろいあくまをモチーフにしております。まぁあくまでモチーフなのであまり細かいことは無しで………
無論麻雀の描写もこれで良いのかさっぱりわかりません。本気でおかしい所があれば指摘お願いします。ただ、これもあくまで幕間なのであまり細かいことは無しでお願いいたします土下座
次話はまたまた幕間です。が、ヴィーシャについてではなく、全く新しいやつです。乞うご期待!!その後はいよいよ第三章突入します。
次は…………日付変わるあたり、ですかねー?
《追記》
超重要な御指摘がありました。一筒なわけねーだろアホか。私のアホさを許してください………
とりあえず發に直しておきました。その他何かご指摘あればお願いします…………
ちがうんだ………つい頭の中で鷲巣様が叫ぶから…………
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