それでは本編どうぞッッ!!
統一暦1926年4月30日 午後
皇都東京 国会議事堂内会議室
「…………………今、何と言いましたか?」
静まり返った室内に、オットーの震え声が響く。その場にいた全員が、ただ一点のみを見つめていた。
その、無数の視線の先。幼女は、無表情に、静かに言った。
「お断りさせて頂きます、と言いました。大使閣下」
瞬間、彼の感情は爆発した。
「なッ、何を言うか!!貴方は私の部下だ、なのに何故抗命する!!」
「…………部下?私が??まぁ、確かに一面ではそうでしょう。ただし、それはあくまで平時においてです。小官は、あくまでプルッツェン帝国陸軍軍人であり、故に小官が従うべきは参謀本部の決定なのです」
オットーは、立ち上がったまま体を震わせ、口を半開きにしたままよろめいた。何か反論しなければ、しかし、何を————?
すっかり、彼は幼女を味方か…………あるいは自らの忠実な駒程度だと思い込んでいた。そのツケが、ここで回ってきたのだった。
「参謀本部の声明は、“既存権益に対する軍事的行動は断固容認できない”というものでした。ですから小官もハッキリと言いましょう。このような悪行に、小官は絶対に加担出来ない、と」
…………そもそも、会議が始まる前にターニャは確信していた。あの電報を送れば、
何せ、協商連合から共和国まで、帝国はその国力を使い過ぎてきた。これ以上の戦線拡大は、まともな頭の者であればまず反対する。特に軍人にとっては“増援より敵の減少”こそが至上であるため、そもそも味方など欲していない………まぁ、
そのため、外務省が訳の分からぬことを言い出した時は多少驚いたが、しかしそれも許容範囲。何せ奴らは共和国撃滅後ロクに
更に………もしここでオットー大使(いよいよ頭がおかしくなったようだ)と本気で敵対しても、ターニャの安全は確保されている。何か刺客でも送られたらたちどころにオットーの仕業だと露見する上、最悪海軍の次官室にでも逃げ込めばいい。
何より、ここで動かなければ即座に戦争が始まりかねない…………皇国人は、どうも合州国を過小評価しすぎるきらいがあるが、そんな事はない。彼らは決して腰抜けなどではないのだ。こういった口実さえあれば、奴らは直ちに“正義のため”とか抜かして宣戦布告してくるだろう。
そうなれば、ターニャの安全な後方生活は完全に終わる。それに比べたら頭のおかしくなってしまった可哀想な大使の相手をしていた方が何十倍もマシというものだろう。
「何を、バカなことをッ………………!」
苦虫を数百匹まとめて噛み潰したような渋面で、石渡が呟く。が、それを咎めて山野も参戦。
「おいおいおい、口を慎めよ君。今のは帝国の正式な判断と同義だ。そうだろう?」
「ふ、ふざけるなッッ!!参謀本部如きにそんな権限はないッッ!!外務省が、外務省の声明こそが正しいのだ!!」
「ハッ、権限はない?何故?おたくが勝手にそう信じ込んでるだけだろ。少なくとも、デマゴーグでは無いんだからな!」
「貴様こそ口を慎め…………大使閣下になんたる暴言だ!」
「こんなバカ思想に凝り固まったクソジャガイモ野郎を敬えだ?冗談じゃないわこの戦争狂どもが!」
「なんだとこの腰抜け海軍めッッ!!」
「黙れクソッタレ謀略陸軍がッッ!!」
…………阿鼻叫喚の地獄絵図。陸海軍の将校らが聞くに耐えない罵声を浴びせかけ、オットー大使が喚き散らす。それに輪をかけて滑稽なのが、この状況でも何も出来ずにおろおろするばかりの首相やら外相やら…………
これこそが、秋津洲皇国の縮図なのかもしれんな……………ターニャは呆れ返りながら座席で黙っていた。
さて、このままこっそり帰るか………なんなら光学術式でも使おうか?
ターニャが早くもそんなことを考え始めていた
その時
「控えよ」
小さい。実に、小さい声が、とても大きく響いた。
「——————ば、馬鹿な」
思わず、呟く辻本。だが周囲の刺すような視線により即座に黙り込む。
しかし、確かに彼の言う通り、
「……へ、陛下!入られるのは————」
「いいや、もう我慢ならぬ。これは、私がやらねばならぬ事なのだ」
必死の形相で縋り付く侍従を振り切るように、一人の男が入ってきた。モーニングコートを着たその彼こそ、
秋津洲皇国皇王その人であった。
「…………皆は我が国を正しく、良く導かなくてはならない。にも関わらず、私利私慾により醜く言い争うとは…………。お前たちは私の股肱の臣たちだ。しかし、今後は利己心を捨て、厳しく猛省せよ。決して、此度の様な不備を起こしてはならぬぞ」
ハハァ、と山野は、石渡は、辻本は、激しく恐縮しきってこうべを垂れる。それを非常に厳しい目で見た後、皇王は視線をずらし、大使らの方へと歩み寄った。
「……………各国大使各位、本日はお越し頂き誠に感謝の念を禁じ得ません。にも関わらずこの様な醜態をお見せしたことを、どうかお許し願いたい。………そして、アンリ大使殿」
皇王が共和国大使と向き合う。あまりの展開に、アンリは既に若干腰が引けていたが、なんとか立ち上がり皇王と相対した。
………一体皇王陛下は何を仰るおつもりなのか。皇国軍人たちは固唾を飲んでそれを見つめていた。
「……………アンリ殿、この度は我が国の兵が、貴国へ多大なるご迷惑をお掛けしたことを心からお詫び申し上げる。即時撤兵と、首謀者の厳格な処罰及び貴国への十分な賠償、それからこの
「………………む、無論でございます陛下。そ、それがなされるのであれば、私いえ本国政府も、十分納得するでしょう、ええ………………」
いきなり飛び出た皇国側の全面譲歩。面食らったアンリはかなり吃りながらも何とか最低限の礼儀で返事をする。が、だんだん尻つぼみに声が小さくなっていくのはどうにもならなかった様だ。
それに対し、深々と頭を下げた皇王は、背後で突っ立っていた総理に小さく目配せする。途端に飛び上がらんばかりに前田総理は叫んだ。
「そっ!それでは議題の方御聖断が下りましたため、会議はこれにて終了とさせて頂きます!!」
彼の宣言を満足げに聞き、皇王は足早にその場を去る。が、扉の前でふと振り返り、侍従に話しかけた。
「…………あの少女が、か」
「はっ!彼女は帝国の駐在武官その人で御座います」
「…………いやはや、帝国とは恐ろしい国だ」
感嘆したように、わずかに恐怖するかのように皇王は言い、そのまま部屋を去った。
……………閉まる扉の音、それをきっかけに、固まっていた人々が再起動した。
「で、では、会議終了後の記念撮影を行いますので、皆さまどうか議事堂入り口までお集まり下さい!」
前田首相が言い、人々はゆらゆらと外に向けて歩き出す。が、依然その場に突っ立って微動だにしない男が一人。
と、そこに石渡が近づく。
「……………おい、何をしている」
「…………こ、こんな筈では。間違っている、こんな事は民主国家にあるまじき横暴だ!」
どうやら彼、辻本中佐はかなり錯乱しているようだ。だが石渡は構わず辻本の顔をひっぱたいて言う。
「………聞かなかったことにしてやる。それに、そもそも
…………何故か笑みが浮かぶその顔は、余りに不気味で———————
「————?!ま、まさか………!」
「くくく、なるほど確かに貴様は偉大な軍人だ。が、我々の理想とは相反するのでな…………悪く思うなよ」
石渡の見つめる先、そこには、
「い、いけませんぞ閣下!!それは、それだけは御再考を!!」
部屋を出る寸前の、山野が。
全てを察した辻本が懸命に止める。が、
「死ねぇェェェェェェェェ売国奴ォォォォォォォォォォ!!!!」
人々が廊下に出たその瞬間、奇声と共に警備員の一人が突進してきた。その片手には、
黒く光る拳銃が。
何の躊躇いもなく、
その男は拳銃を構え、
全弾ぶっ放—————————
そこに、小さな影が飛び込んだ。
「———————まっ、たく……………僅かに、遅れたか」
「しっかりしろデグレチャフ少佐!!くそっ、早く担架を持ってこい!!」
床に座り込み、必死に呼びかける山野。
その側に倒れ、吐き捨てるように呟く幼女。
……………男の狙いは完璧だった。弾は全て山野に直撃する
その筈だった。
「……………ふっ、ここまで死に掛けるのは、ノルデン以来だな………」
「喋るな!…………なぜだ、何故庇った!!」
…………が、その直前にターニャが割って入り、防殻術式を使用。しかし、最初の二発は術式が間に合わず、ターニャの体に命中。
一発は、腕を貫通しそこまでの重傷ではない。が、残る一発は体内に残ったままであり、しかも撃たれた場所は胸部であった。血は大量に流れ落ち、それと共にターニャの思考も緩慢になっていく。
「………………何故、ですか。なに、簡単ですよ。——————
「何?!…………おいっ、目を閉じるな少佐!医者!医者はまだか!!」
無数の怒鳴り声が、やがて小さくなっていく。視界は暗く狭くなっていき………………そして…………………………
漆黒が、全てを覆った。
ターニャ、凶弾に倒れる!!お前そんなキャラちゃうやろ何してんねん!!
すみません事情は次回イロイロ説明するので許して土下座
あと皇王陛下御登場。…………しかし特に言うことがない!!
さぁ第三章もいよいよ佳境!!果たして戦争は、回避できるのか—————ッッ!!
次話!多分明日!!でももしかしたら、マジで超調子良ければ日付変わる前後までにいけるかも………でも一時越えたら察してください。多分諦めて寝てるんで。
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