幼女極東戦記   作:信濃氷海

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無理だった(土下座)いやーいけると思ったんだが…………やはりもう1日三話は無理だ…………

それでは!!本編っす!!!


第二十話 パーフェクト・ゲーム

統一暦1926年5月10日

皇都東京 帝大病院

 

 

 無論ターニャは死ななかった。と言うか、撃たれた時点でそのことは分かりきっていた。

 

 基本的に魔導師は、かなりの耐久性を持っている。そりゃあ何十発も銃砲弾が命中すれば死ぬだろうが、しかしあの程度の拳銃弾が二発程度当たった位ではせいぜい気絶するのみ。

 

 ………もっとも、戦場での気絶はすなわち死と同義な訳だが。

 

(やれやれ、しかし負傷する前にその大小が分かってしまうとはな。まぁ、()()()()()こんな事をやった訳だが)

 

 個室のベッドの上で、ターニャはそう考える。事実彼女は自らの生命の危機はなく、かつもし山野に死なれたら極めて厄介なことになるからこそ、こんな事をしたのだった。

 

 現状ターニャが密かに属する“避戦派”は、事実上山野こそが首魁であり、それ以外は単なる有象無象に過ぎない。…………と、言うよりも正確に言うならば“避戦派”なる派閥など存在しない。あくまで対外強硬派の中心たる“北方派”と対比して、『山野率いる戦争反対組織』とあやふやに考えられているのみ。

 

 故に、山野が斃れると()()()。何せ、“避戦派”と目されている人々にとっては、『戦争はしたくないが、強硬派に睨まれのも嫌だ』というのが偽りならざる本音である。そんな輩は山野が撃たれたと知ればたちどころに霧散し、最悪“北方派”に寝返りかねないのだ。

 

 そうなればターニャはどうなる?面と向かって啖呵をきった彼女は?

 

 当然八つ裂きである。彼女が避戦派に加わったのも、最悪その庇護下に入ればいいという打算があったからだ。だがその最大の庇護者が消えれば、ターニャは逃げ場を失う。

 

 …………そう、ターニャにとってたかが拳銃弾数発程度に撃たれるよりも、山野が死んで完全に孤立する方が極めて危険だったわけだ。

 

(……そして私はやりきった!北方派の間抜けめざまぁ見ろ!しかし皇王とやらもなかなか話が分かるじゃないか)

 

 ゆったりと読書を楽しみながら、ターニャは愉悦と共に考える。彼女にとって前世の記憶もあり、皇王(天皇)は国難でも何もできない無能であるという認識だったが、今回の件でそれをかなり上方修正する。

 

「ああ、なんて退屈なんだろうか!いやはや、まったくやることが無いぞ困ったな!」

 

 嘯くターニャ。…………内容とは裏腹にその表情はどうしようもなく緩みきっている。

 

 と、不意に鳴り響くノック音。

 

「…………失礼いたします。ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐ですね?」

 

 ————————大変恐縮ですが、御同行願えますか?

 

 

 

 

 …………………ターニャの表情が、変な音をたてて固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同年同日

???

 

 

 黒塗りの高級車に乗せられ、ターニャが連行された先とは……………

 

 

 

 

 

 巨大な宮殿であった。

 

「??????」

 

 目が点になるターニャ。笑顔の係員らが、慇懃無礼にターニャを引き廻す——————

 

 ………馬鹿デカい浴場で無数の女官らに全身を磨き上げられ

 

 ………そこを出たら()()()用意されていた自身の礼装を、これまた無数の女官らに着せられ

 

 ………髪をやたらめったらいじくりまわされ

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………数時間後、そこには“光り輝く”と言っていいほど()()()()したターニャ・フォン・デグレチャフが、呆然と突っ立っていた。

 

 無論着ているものは軍服だ。が、それは普段滅多に着用しない将校用礼服であり、髪は()()()()()()()程度にパーマすらも施されている始末。

 

 …………あまりに衝撃的なことが連続して起こり続けたために、ターニャは既に機能不全に陥っていた。

 

 そこへ、侍従が容赦なく声を掛ける。

 

「それでは準備が整いましたようなので、これより叙勲式を執り行います…………では、デグレチャフ少佐、どうぞお進み下さい」

 

 ほとんど軍人としての条件反射であったが、とにかくターニャはなんとかその声に促され、煌びやかな謁見室へと入っていく。

 

 …………どうやら宮中側もかなり急な事だったらしく、中にいる人はまばらだった。ターニャは指示されるまま部屋の中心部へと進み、止まる。

 

 と、

 

「…………皇王陛下、御入場!!」

 

 間髪入れずに侍従が叫び、皇王が入ってくる。すぐにターニャは敬礼…………だがそれを見た皇王が慌てて言った。

 

「あぁ、無理はしないでくれデグレチャフ少佐。怪我に触るだろうから、そのままで良い」

 

 …………困惑するターニャ。だが、皇王本人がそう言うならと手を下ろし、その代わりに45度のでお辞儀をした。

 

 場の空気がやや困惑したものになるが、しかし皇王は気にせずさっさとターニャの近くに寄り、側の侍従から一巻きの書を受け取ると、内容を読み上げた。

 

「プルッツェン帝国大使館附陸軍武官ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐、貴殿は先日の『東南事変対策会議』において、身を挺し朕の股肱の臣らを守られた。その多大なる勇気と献身を深く感謝し、ここに“勲一等旭光大綬章”を授与する」

 

 …………………………はぁ?ターニャは完全に混乱した。が、皇王はそのまま()()()()()大綬をターニャに掛け、副賞を左胸に取り付けてしまった。

 

 そして

 

「…………ここからは、しばし朕と少佐の二人で話したい。皆、すまないが外で待っていてくれぬか?」

 

「…………は、はっ!?いえしかし陛下、それは、さすがに…………」

 

 とんでもない事を言い出した皇王を、慌てて侍従が諫める。が、皇王は苛立たしげにそれを拒否する。

 

「お前たちは、まさか叙勲された我が国の大恩人が朕を害するとでも言うのか?!朕が良いと言っているのだ、何も言うな」

 

 そこまで言われれば、もはや侍従たちは何も言えない。静々と警備兵も含め皆退出する。

 

「…………デグレチャフ少佐、今回の件は誠に感謝しても仕切れないほどだ。………更に、あなたがあの席で実に堂々と素晴らしい事を言ってくれたお陰で、私もあの場に出る決心がついた。本当に、ありがとう」

 

 ………だが、と皇王は続ける。

 

「………私も、あなたと同じくらいの息子がいる。だから、これだけは言っておかなければならない。どうか、以後は()()()()()()()()()()()()()()()()。あなたのような未来ある若者が、長くない老人の為に犠牲になることはないのだ。……………山野も、それを望んでいるだろう」

 

 ……………その、皇王の本心からの頼みに、しかしターニャは頷かない。いや、肯けない。

 

「…………小官如きのためにそのような御心配をして頂き誠に恐縮です。しかしながら、小官は軍人であります上、魔導師であるためあの程度の怪我など即座に治ります」

 

「………しかし、それは」

 

 苦しそうに呟く皇王を、ターニャは敢えて遮るように続けた。

 

「ただし、小官も常に自らの安全を出来る限り優先して行動しております。命あっての軍人でありますし、そもそも良い軍人とは戦争ではなく、常に平和を望む者であるからです」

 

 ………これは、ターニャの本心を僅かながらもさらけ出したものだった。故に、皇王もそれを聞きようやく少しばかし笑みを浮かべる。

 

「そうか……………ならば、私はあなたが少しでも長く平和であれるよう、この国を正しく導かなくてはならないな」

 

「ええ……………それを、秋津洲の国民皆が望んでいるでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

同年同日

宮内省送迎車内

 

 

 ターニャは浮かれていた。ついに!ようやく!!待ち望んでいた安全な後方での、しかも優雅な年金生活を完全に手に入れたのだ!!

 

 ターニャが授与された“勲一等旭光大綬章”、これは受け取っただけで生涯800円の年金を保証されるとんでもない代物である。800円!同年の皇国における平均収入が年750円弱である事を考えると、これは…………

 

 さらに、彼女は帝国陸軍少佐としての収入、そして皇国陸軍からも“実質的皇国陸軍少佐”として年収をもらい、さらに極め付けに例の出暮少佐としての給料も海軍から貰っているため、合計するとその総額は

 

 約、5000円余り。これは、軍の将官クラスに匹敵する大金であり、ターニャは僅か12歳にして将来安泰とまで言える巨額の財産を手にしたのだった。

 

 何せ、例え今すぐ軍を辞めたとしても、何もせずに毎年平均年収以上の額が転がり込んでくるのだ。正にこの瞬間、彼女は世界でも有数の勝ち組の一人だっただろう。

 

(はっはー!更に冷静になったらこの裏事情も容易に見えてくるな。くくく、皇国め私を使って不始末の粉飾がしたいんだろう?)

 

 今回の叙勲は、海軍次官山野を身を挺して守ったターニャを顕彰するため、と皇王は言っていたが、しかしそれは裏を返せば警備がザル以下の無能だった事が(というか、警備員がそもそも犯人だった)露呈された訳だ。故に、大いに仰々しくターニャを褒め称え、前面に押し出す事で無かった事にしようとしているのだろう。

 

 その証拠に、皇王との会談後勲章をつけたまま何枚もの写真を撮られ、新聞記者と思しき大群にインタビューされまくったのだった。あれは、恐らく明日の朝刊を大々的に飾ることだろう。それはそれでかなり困ったことになるが、しかしそれで年間の安楽生活を手に入れられたのだ。むしろ皇国には感謝しなければなるまい。

 

 あとはこの国が戦争にさえならなければ良いが………その可能性も薄れただろう。北方派の馬鹿どもは会議ではターニャや皇王に粉砕され、山野暗殺計画

も失敗したのだ。その権威は大いに揺らいだことだろう。

 

 現に、この数日間で陸軍は凄まじい粛軍を実施。陸軍省や参謀本部はほとんどの者が左遷され、飛ばされた。あの辻本や石渡もそれに含まれており、もはや彼らに戦争を引き起こす力などないだろう。

 

 ………さらに、喜ばしい事に現海軍大臣が体調悪化により辞任し、後任になんと山野が内定したのだ!体勢は盤石となった。

 

 唯一気がかりなのが帝国大使館だが…………そもそもロクな仕事がなかった上、もはやクビにされてもターニャは痛くも痒くもない。ヴィーシャも山野の計らいで海軍から給料が出るようになった為、障害と呼べるものは無くなった。

 

 万一刺客が送られてきても、相当の手練れでなければ(そんな人材大使館にいないだろうが)ターニャは難なく対処できるだろう。しかも、もし本当にそんな事をすれば、この報道の嵐もある。一発でオットーらの仕業とバレるだろう。

 

 まさに、完全勝利だった。

 

(あっはっは!ざまぁ見ろ“北方派”!大使館!そして腐れ存在X!!お前たちの目論見なんぞ粉砕してやったわ!!くくく………後は士官学校の教官にでも落ち着けばいい、そこそこ楽しいしな)

 

 勝利という最高の美酒に酔いしれながら、幼女を乗せた車はひた走る。

 

 平和という道を、進みながら………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ターニャは失念していた。帝国の時と同じことが、再び起きようとしている事を——————

 

 

 

 

 

 

 

 

同年同日

フィラデルフィア合州国 

 

 

 薄暗い室内に、彼はいた。

 

 一通の電報を読みながら、彼は、実に…………………

 

「…………………閣下、スチーム陸軍長官からの中間報告書です。やはり、依然としてかなり厳しい……………閣下?」

 

 と、そこに彼の秘書が入ってきた。秘書は、そこで彼の顔を見、

 

 何かに、気づいた。

 

「………………実に、楽しそうですね。どうされましたか?」

 

 すると、彼は顔を上げこう答えた。

 

「ああ!先程グルースからの電報が届いてな。…………………………実に、興味深い」

 

「駐皇国大使の?それで彼はなんと?」

 

 …………………………その返答と、表情。それらは、秘書の男にとって二度と忘れられぬものとなった。

 

 

 

 

 

「ああ………………………皇国を叩く、好機だ」

 

 

 そう言って、彼———合州国大統領フランク・デラヴェルトは、

 

 無垢に、笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が、動く。

 

 

 

 

 

 




ターニャ叙勲!!年金生活だよかったね!!

一応このまま“勲一等旭光大綬章”でググるとある実在勲章のWiki様がトップに表示されます(多分)。が、モデルはそれではなくその一階級下のやつです。モデルのやつは「まぁ外交官が貰ってもあり得なくはない」ものですね。

そして、勲章ももらい“北方派”一網打尽にしてウハウハなターニャ。でもね、それじゃ終わらんのですよ……………

次回でとりあえず第三章終了(予定)です!その後何個か(未定)幕間挟んでついに第四章突入!!

次話は、まぁ順当に行けば今日の夜更ぐらいでしょう。順当に行けば、ね……………

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