幼女極東戦記   作:信濃氷海

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ペースが少しずつではありますが戻ってまいりました。このまま頑張ります頑張るぞ!

それでは本編!



第三十話 船の名は

統一暦1927年2月7日 早朝

南シナ海

 

 

「—————!来ました、特設巡洋艦『報国丸』より入電!『………敵艦隊見ゆ。東経111、北緯11』です!!」

 

「………ふむ、ゾロ目ですな」

 

 隣で愉快そうに副長が呟いた。が、ターニャにとってはゾロ目だろうが何だろうが、なんの感慨もない。

 

 そもそも彼女は、生まれた時…………どころかはるか前世の時から、そういった風水だとか、縁起だとかについてはまるで無関心だった。あらゆる物事は何か理屈や理論があるのであり、もし万が一ないとすれば………それは即ち存在Xの陰謀なのだ。

 

 ……………クソッ、妙な事を考えたせいで気分が悪くなってきた。ターニャは心中で毒づき、あの忌々しい存在Xを呪いながら一体なぜこんな羽目になったのか、その原点を思い返していた————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統一暦1926年8月28日 午後

皇国 呉海軍工廠

 

 

「よぉ、遅かったな」

 

 実ににこやかに、出会い頭にフックを入れてくるクソおやじ(山野大臣)。もっとも、天性の煽り耐性を誇るターニャ・フォン・デグレチャフ少佐(じゅうにさい)だ。その程度の嫌味には反応する事なく大変穏やかに、友好的かつ規律正しい軍人然として返答する。

 

「はっ!これは大変失礼いたしました。確かに()()()()()()()()()()()()()可能性を考慮に入れ行動すべきでありしましたな。以後の反省点と致します」

 

 素直にこちらの非を認める。別にスケジュール上はなんの遅れもないが、しかし上官がそう仰せになるのであればこちらが間違っているのだ。そのスケジュールを寄越してきたのが山野であるとか、そもそも本来ならば山野は東京で陸海軍の連絡会議に出ていなければいけないはずだとか、そんな事は全く何の問題でもないのだ。

 

「ぐっ…………くくく、しかしそれはともかく、貴官最近麹町の石渡邸に出入りしているそうじゃねぇか」

 

「ええまぁ。それを仰る閣下も、最近は趣味の賭博もやらずに大臣室に篭って連日なにやら謀略を練られておるとか」

 

「…………………………」

 

「…………………………」

 

 両者沈黙。やがて昏く笑いだすと、疲れたように顔を見合わせた。

 

「…………戦が、近い」

 

「…………でしょうな」

 

「で、あれば……………せめて早期にケリをつけなければならん。………今日貴官らを呼んだのはそれの為だ」

 

 そう言って、山野はターニャとヴィーシャを連れ工廠の奥へと歩いていく。………が、割合すぐに立ち止まった。そこは、どうやら艤装用の岸壁らしく、一隻の軍艦が接舷していた。

 

「着いた。こいつだ」

 

 彼の眼前、そこには———————

 

「………これは、空母?」

 

 ターニャが思わずそうこぼす。実際、それは形状的には箱型で艦上構造の少ない平甲板という実に航空母艦によく似たものだった…………が、山野はにんまりとしたまま首を振る。だが、答えは言わずにターニャらを促し、タラップを登って艦内へと入っていった。

 

「おや、山野さん。会議はどうされたんで?」

 

「あんなもん時間の無駄だ。実務のことなんぞ分かる奴同士が詰めればいい話だろ。……今日はあれだ、顔合わせっちゅーやつだな」

 

 ……………顔合わせ?刹那、ターニャの危機察知センサーが全力で反応した。これは、なにか、まずいんじゃ…………………

 

 だが、時すでに遅し。山野はくるりと振り返り、大層嬉しそうにターニャの肩を叩いてこう言った。

 

「そんじゃ、デグレチャフ………いや出暮()()、この艦の艦長やれ」

 

「は?」

 

「ま、そういう事だ。じゃ藻塁(もるい)中佐後は頼んだ」

 

 あっさりと、非常に軽い口調でとんでもない事を言い、一人満足したとばかりにスタスタと去っていく山野。あまりの急展開に、さしものターニャも困惑を隠せなかったが、取り敢えずその藻塁とかいう男に詰め寄った。

 

「御説明を、願えますかな?」

 

「はっはっは!そう気を悪くしなさんな、山野さんも別に悪気がある訳じゃ……無い筈ですよ、多分」

 

 そう言って、藻塁は呆れたように笑うと山野の“奇策”について話し出した。

 

「さて大佐、この艦は見た目とは違い空母ではありません。……まぁ()()は同じでしょうが、しかしある一点において決定的に従来の空母とは異なります」

 

 どこだか分かりますか?と尋ねてくる藻塁。それに対し、困惑の中であることに思い至ったターニャはどうか違いますようにと願いつつ心底嫌そうに答えを言った。

 

「…………………即ち、『航空魔導師母艦』ということでしょう」

 

「素晴らしい、流石は帝国の誇る大エースだ。ええその通り、この艦に航空機は一切搭載されませんが、その代わりに——————航空魔導師一個連隊を搭載する予定となっています」

 

 ………………で、ナンデソノフネニワタシガヨバレタノカ?嫌な予感しかしなかった。ああ………203の時と同じだどうしてこうなった!!

 

「まぁ、ここまで言えばもうお分かりかと思いますが………大佐にはその連隊の編成をお任せしたいのです」

 

 普通の“艦長”任務は副長の私がやっておきますので、と藻塁は実に嬉しそうに言った。

 

「…………だがなぜ私なんだ…………」

 

 堪えきれずにターニャが呻く。すると、藻塁は苦笑しつつこんな事を話し始めた。

 

「まぁそれはアレです、大佐が一番都合が良かったからですな。この艦は名目上は参謀本部(陸軍)軍令部(海軍)どちらにも属さず、大本営総司令官たる皇王陛下直属………という事になっとるんです」

 

 こうする事で、ここぞという戦局において陸海軍の対立や確執に囚われる事なく投入できる。が、その為に陸海軍どちらの軍人も艦長にできない。

 

 故に、唯一の友好国のエースオブエースであり、しかも皇国陸軍、海軍のどちらとも繋がりのあるターニャに白羽の矢が立ったのだ。流石に他国人ではまずいので以前の謀略で使った偽造軍籍たる『出暮谷阿海軍少佐』を使用。ついでに二日で二階級昇進させ大佐にし、艦長に仕立て上げた…………

 

「と、言う訳です。あ、先ほども言いましたが操艦についてはご心配なく。操艦は私含め海軍軍人、航空魔道師は陸軍軍人と言う事になってますので」

 

「ふむ………まぁそれについては良い。命令ならば仕方あるまい。…………が、一つだけ懸念点がある」

 

「と、言いいますと?」

 

「私は……というより基本的に航空魔導師は精々沿岸及び母艦から数十キロ程度までしか進出できない。遠洋上での作戦行動は出来ないのだがその点については何か解決策はあるのか?」

 

 こういう問題は、生粋の陸軍国家たる帝国においては少しも考えられてこなかった………正確に言えば全く必要ではなかった為に考慮されてこなかった点だ。艦隊の直掩任務しかしないと言うのであれば別だが、もし敵艦隊攻撃もするとなれば…………………

 

 が、藻塁は自信たっぷりに懸念を否定した。

 

「その点についてはご心配なく。既に海軍技術研究所においてこの、『一式魔道母艦帰投装置』が開発されていますので、これを用いればたとえ単独になっても帰投可能です」

 

 そう言いながら、どこからともなく小さな———演算宝珠くらいの機械を取り出し、ターニャに見せる。

 

「……………その装置の信頼性は?」

 

「無論、演算宝珠並には」

 

 それは結構なことだ!九五式みたいに存在Xあたりの陰謀じゃないだろうな?とターニャは心中でで吐き捨てるも、心配ないと断言された以上今この段階ではどうしようもない。…………もし訓練段階で何か不具合があればそれを口実に艦ごとご破算にしてやるつもりだが。

 

「………なるほど、それならば今は構わん。それで連隊の編成と言ったな、その全権限が私にあると考えてよろしいか?」

 

「ええ。山野さんが根回ししてくれてるみたいなので、皇国軍で優秀そうな魔導師はあらかた引っ張ってきて大丈夫です」

 

 ………うーむ、その点も203の時と同じだ。だがアレほどまでの恵まれた人材を連隊分確保できるかどうか…………

 

 まぁ、だとしても

 

「…………それが命令ならば、遂行するまでだ。中佐、編成期限はいつだ?」

 

「この艦の竣工自体は後数日で終わるんですが、その後乗組員の慣熟航海を一ヶ月ほどしなくてはならんので…………そうですな、10月の頭までには編成完了して欲しいところですな」

 

「結構、十分だ。それまでになんとかモノにしてみよう」

 

 ………なるほど、士官学校での教官任務が今月末で終わり、と言うのはこう言う事情があったからか。……………ん?士官学校?

 

 ………………ああ、いるじゃないか。そこそこの人材が。

 

 早くも人材確保の目処をつけ始めたターニャ。だが、だからと言って全く不満がない訳では、決して無い。

 

(……………ようやく最前線を離れられたと思ったら、たった一年半で最前線に逆戻りか!203の例から言って散々こき使われるのは目に見えているからな………クソッ!腐れ合州国(ヤンキー)と存在Xめ、呪われろ!!)

 

 そう全身全霊で呪っていたターニャ。だが、そこでふとあることに気が付いた。

 

「………そういえば、この軍艦の名は?」

 

「おお!そうだ忘れていました。実は山野さんがこれだけは譲れんと既に決めておられましてな」

 

 

 

 

     ————————————『白銀(しろがね)丸』です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統一暦1927年2月7日 早朝

南シナ海 特務艦『白銀丸』

 

 

「——————大本営より入電!『作戦開始』です!」

 

 再び通信員が叫んだ。その声に、しばし瞠目していたターニャは意識を引き戻す。

 

「ヴィー…………いや尾石(びいし)大尉!第一、第二、第三大隊に出撃命令を出せ、0600までに飛行甲板で待機させろ」

 

「了解です大佐!」

 

 信頼する副官にそう伝えると、くるりと藻塁副長の方を向いた。

 

「副長、第四大隊を直掩として残す。………こう命ずるのは若干心苦しくもあるが、しかし有事の際は()()と協力し対応せよ」

 

「了解しました。まぁあの男も腕は本物らしいですからな、それにいざとなれば、私の冴え渡る操艦でどうにか逃げ切ってみせますよ」

 

 不敵に笑う藻塁。ここ数ヶ月で、彼の腕が確かなものであると分かっていたターニャは同じく不敵に笑い、敬礼しあう。

 

「では、御武運を」

 

「ああ、艦を頼んだ」

 

 …………その後、格納庫内で装備を整える。と、そこに一人の兵士がやってきた。どうやら留守の第四大隊の者らしい。…………ああ、いや知っている顔だ。確か——————

 

「貴官、確か()()()()の副官だったな。……………奴はどうした?」

 

「はっ!大変申し訳ございません大佐殿!実は…………………」 

 

 なんでもこの副官曰く、上坊は二日酔いらしき病で昏倒し、医務室に収容されたという。………彼の場合もはや何というか………………

 

「はぁ…………ならいい。だが死んでも仕事はやれと伝えろ」

 

「はっ!了解致であります大佐!」

 

 そのまま回れ右し、小走りに医務室の方へと向かう兵士を見つつ、憮然とした顔になるターニャ。…………素行に難が有りすぎるが、能力はずば抜けている。天才型の典型ともいえるかの男は、ターニャにとって無能とはまた違う意味で唾棄すべき存在であった。が、人材の少ないこの皇国においてはそんな贅沢など言っていられないのも事実だった。…………対し合州国や連合王国の人的資源は…………………

 

 これは良くない。その場で深呼吸し、悪くなる一方の思考を振り払う。とにかく今はこの作戦に全力を注がねばならない。ターニャはそのまま甲板へ向かうエレベータへ乗った。

 

 建造時の手間を少しでも減らすためか、普通の空母と全く同じエレベータが白銀丸には搭載されていた。人間用としては少々巨大すぎるそれを、贅沢にも一人で占有しつつ、静かに甲板へと向かう。

 

「!総員、敬礼!!」

 

 答礼、そして彼ら————第一特務航空魔導連隊の先頭に立ち、ターニャは嗤った。

 

「諸君!今次大戦において、この海戦は歴史の転換点となる。航空兵力こそが戦争の帰趨を決する兵科であると世界に知らしめるのだ!さぁ行くぞ、王立海軍の紳士どもを丁重にお出迎えする時間だ!!」

 

 スッ、と腕を上げ、遙か空の彼方を指し示しながら——————告げる。

 

 

 

「総員、発艦!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———————作戦第一段階、開始せり

 

 

 

 

 

 

 

 




キリ良くしたかったためちょっと長めです。ターニャ艦長になる?!まぁモデルはアレです、宮崎御大の雑想ノートに出てた安松丸です。あくまでモデルと言うだけなので、別にインド洋で通商破壊やるわけじゃ無いですが。

次話からいよいよ激戦が始まります。王立海軍対皇国海軍勝つのはどちらだ!?

あ、白銀丸については、まぁ大体龍驤みたいなものを(あんなトップヘビーじゃ無いですが)想像していただきたいです。いずれ要目とかは後書きに書こうと思いますが。

《追記》 流石に題名でネタバレはまずかろうと改題しました。

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