それでは本編です!!
統一暦1927年2月7日 12時50分
第一特務艦隊 特務艦『白銀丸』上空
「………まったく、あのデカブツも複葉機相手なら無双できると言うわけか」
皮肉たっぷりに呟くターニャ。およそ10分間続いた航空戦は、早くも収束しつつあった。もっとも、僅か20機足らずでそれだけ粘ったとも言えるが…………
基本的に迎撃を担当したのは、先程大和率いる第一特務艦隊に合流した白銀丸であった。単艦で、しかも今の倍以上相手に圧勝した彼らにとって、これは最早消化試合とすら呼べるものであり、数十人が1機の哀れな旧式機に殺到していく様は、凄惨を通り越して滑稽とすら言えた。
………しかも、そこへ大和から入電。曰くこれでは対空射撃の訓練にもならないので迎撃を緩めろという。なんとも戦争を舐め腐った頭のおかしい発言だが、ターニャは肩を竦めてそれに従った。そんなに言うなら好きにすればいい、せいぜい高みの見物といこうかと、攻撃の手を緩めて眼下を眺める。
もっとも、その頃には既に敵攻撃機は数機しか残っていなかった。彼らは勇敢にも(これが誘導されたものと知ってか知らずか)大和目掛けて突っ込んでいく…………が、待ってましたとばかりに大和の誇る15センチ副砲と12センチ高角砲が凄まじい弾幕を張る。対空砲としては鈍重と言われたこれらの砲も、相手がさらに鈍重な複葉機であれば大活躍できる。
結果、大口径砲弾により数機が吹っ飛ばされ、なんとか潜り抜けた機も25ミリ機銃により蜂の巣にされて攻撃隊は全滅。生き残ったのは上空で逃げ惑っていた3機のハリケーンだけであり、一縷の望みをかけて行われた東洋艦隊最後の航空攻撃は失敗に終わった。
「………………さて、ここからは我々の出番ではない。あのデカブツ氏に頑張って頂く訳だが」
ぶっちゃけた話、ターニャにはこの対決の行く末が全く分からなかった。ここまでの攻撃で航空戦力は完全排除され、艦隊決戦主義者の御希望通りの展開となった………………が、それでも戦艦戦力的にはこちらが劣っているのだ。
果たして大和に、それをひっくり返せるだけの力があるのか…………?
上空から遥か彼方に見える東洋艦隊を眺めつつ、ターニャは心中で呟いた。
————————12時55分、敵艦隊との距離 21000メートル。
※
同日同刻
東洋艦隊旗艦『プリンス・オブ・ウェールズ』
「全艦速力を上げろ!だがまだ撃つな、20000まで待て!」
フィリスが声を張り上げ吠える。既に両艦隊はその姿を目視で捉え、互いに鈍く光る砲口を向け合っていた。だが、射程内にも関わらずフィリスは未だ攻撃を許さなかった。
と言うのも、最大射程が有効射程を意味せず、更に古今東西20000メートル以上の距離で命中させた例はほとんど存在しないと言う事を彼はよく分かっていたからだ。そして敵艦隊もそれを重々承知しているらしく、先程の最大射程での斉射一発以降全く動きがなかった。
…………が、砲撃はせずとも考え、作戦を練る事はできる。フィリスは勝利の為非情な判断をし、それを伝達した。
「—————巡洋戦艦ネルソンに連絡。残存する巡洋戦艦を率いて左舷側へ迂回。敵の側面を突かせろ!」
数分後、命令を受け残っていた3隻の巡洋戦艦が、その速力をフルに発揮して変針。フィリスはそれを悲壮な面持ちで見送った。装甲の薄い巡洋戦艦のみでの単独行動だ。狙われたら最後どの距離、角度でも、容易に装甲を抜かれるだろう。だが…………許せ、勝利の為だ。全ての思いを振り払い、彼は再び前を向く。
そして
「———————距離20000を切りました!」
「砲撃開始!!全艦攻撃を敵戦艦に集中させろ!!!!」
一挙砲門を開き、総計93門からなる砲弾の嵐を眼前の戦艦へ叩き込む。……………だが
「っ!ま、全く効いていない、だと………………………ッ!!」
無論、全てが命中したわけではない。されど、爆煙が散った後、再び現れたその戦艦——否、怪物は、全くの無傷であった。………これは、連合王国の建艦思想が影響していたと言える。東洋艦隊最大口径のセント・アンドリュー級戦艦及びネルソン級巡洋戦艦に搭載された16インチ砲は、口径こそ大きいものの高初速軽量弾という性質上、近距離ならともかく20000メートル前後での戦闘の場合15インチ砲、いや場合によると14インチ砲と同程度の威力しかない。
そして最新鋭のキングジョージ5世級は14インチ砲搭載艦であるため威力はお世辞にも良いとは言えない。クイーンエリザベス級に至っては15インチ砲とは言え竣工が20年以上前の骨董品であるし…………………
つまるところ、大和相手の場合この編成………いやそもそも連合王国の戦艦では決定的に相性が最悪だったと言える。しかも、この微妙な攻撃力の分連合王国は防御力を重視してきたのだが…………………
それも、18インチ砲相手にはあまりに無意味であった。
「っ!敵砲塔旋回!!巡洋戦艦部隊に……ア——————————ッッッッ!!」
ズドォォォォォォ……チュドガァァァァァァァァァン!!!!
距離19500で放たれた大和の砲撃が、迂回していた巡洋戦艦フッドに正確無比に命中。艦尾の第三砲塔を無慈悲に貫いたそれは、あっさりと弾薬庫誘爆を引き起こした。一瞬にしてフッドの艦尾は吹き飛び、轟沈。連合王国の誇りであった巨大巡洋戦艦の、あっけない最期であった。
「フッドが一撃———————ッ!?やむをえん、全艦突撃!砲撃を続けつつ近距離戦闘に持ち込め!!」
フィリスは覚悟を決め、一気に10000にまで接近するよう命令。さらに右に転舵させ、正面から来る敵艦隊を左右から挟み撃ちにしようと試みる。
と、そこでフィリスは敵艦隊の意外な事実を知る。
「報告します!敵巡洋艦は誤認!扶桑クラス、戦艦です!!」
「扶桑クラスだと?…………チッ、モンスターめ、タチの悪い冗談だな全く!!」
既存の超弩級戦艦すら、巡洋艦と誤認するほどの巨体。それほどの怪物と真っ正面から殴り合わねばならないとは実に酷い状況である。だが、近距離戦しかも挟撃に成功すれば可能性が———————
「敵変針!…………ダメです、頭を押さえられません!!」
「構わん!巡洋戦艦側から殴れればいい!何の為に迂回させたと思っている!!」
しかし、敵は扶桑型戦艦2隻を巡洋戦艦側に差し向け大和を援護。これに対し何とかそれらを排除すべく巡洋戦艦ネルソン及びライオンは砲火を集中させた。
「何をしている!相手は戦艦と言っても全身火薬庫の旧式艦だぞ!!ええいならこちら側からも援護し——————」
「っ!敵戦艦我が方へ斉射!!」
「!………うぬ——————————ッ!」
18インチ砲弾が叩き込まれ、容易に動くこともできない。そして、まず大和の一撃を喰らったのは
「セント・アンドリュー航行不能!!セント・パトリックも敵弾の損傷で応戦できません!!」
「チッ、この艦を盾にして守れ!」
「!第一砲塔故障!!射撃困難です!!」
と、そんな中にで無情にも発生する砲の不具合。欠陥戦艦ここに極まれり——————だがフィリスは迷わず言った。
「知るか!例え本艦が沈もうと奴を道連れにできれば他艦が作戦をまっとうする!!ここで総崩れになるより百倍マシだ、撃てる砲は総力で応戦しろ!!」
近距離での確実な撃破を狙い、18インチ砲弾の雨をくぐってじりじりと大和へ近づいていく東洋艦隊戦艦部隊。しかし、近づいた代償もまた相応に巨大なものであった。
「セント・アンドリュー沈没!!セント・パトリックで総員退艦命令出されました!!」
そして、巡洋戦艦の方でも………………
「巡洋戦艦ライオン沈没!!敵砲火がネルソンに集中します!!」
いくら旧式艦とはいえ、2隻で14インチ砲24門という大火力は侮れなかった。こと防御力に欠陥を抱える巡洋戦艦相手であればそれは実に大きなアドバンテージとなる。かくして壮絶なノーガードの殴り合いの末、ライオンが撃沈。しかしネルソンも負けじと16インチ砲弾を叩き込み山城を沈めることに成功。ようやく得た敵艦撃沈に東洋艦隊は初めて歓喜の叫びを上げた。
が、ここで均衡が崩れた。山城撃沈の報で気が緩んだのか、緊張の糸が切れたのか…………ともかく東洋艦隊の奮戦に、ついに限界が訪れたのだった。
「損害に構うな!!敵の装甲が破れぬのなら艦上構造物を破壊しろ!!浮かぶ鉄屑にしてやれ!!!!」
「提督!もはや持ち堪えられません!このままでは我が艦隊は壊滅致しますぞ!!」
「何を言うか!!敵はもはやたった二隻だそれを沈めればこちらの勝—————————
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
瞬間、全てが吹き飛んだ。
「……………うぐ………くそ、状況報告!!」
意識を取り戻したフィリスは、呻くように怒鳴った。だが、応答はない。この瞬間、フィリスはすべてを悟った。薄く目を開ける。………………ああ、神よ—————————
「……………直撃、か」
大和の放った18インチ砲弾が艦橋に直撃したのだった。だが、奇跡的なことにあまりに艦橋付近の装甲が薄かった為に砲弾は起爆せず後ろ側の壁をも貫通していった。そのためフィリスはほぼ無傷で、ただ失神しただけで済んだ。だが…………………
艦橋に居た他の者たちはほぼ全滅。さしものフィリスも、呆然としたまましばし放心していたが、そこへ第一砲塔の修理を催促しに行っていたリーチ艦長が駆け戻ってきた。
「ご無事ですか?!…………ッ!こ、これは…………………!」
「ああ…………………艦長か」
「提督!!ご無事でいらっしゃいますな!すぐに医務室へ……………」
だが、フィリスはかぶりを振ってそれを拒否する。今の一撃で、彼は自らの命運が尽きたことを悟っていた。艦隊の状況を尋ねる。すると、帰ってきたのは最悪のものであった。
「っ…………クイーンエリザベス、ヴァリアントの両艦が沈没。ネルソンも、扶桑をほぼ撃破致しましたが大浸水、大火災を止められず放棄されました……………………」
「………………………そう、か」
そこに、再び大きな衝撃が起こる。次の瞬間には、ゆっくりと傾き始めてきた。…………どうやら、この艦も終わりらしい。
「艦長、貴様に命ずる。………この海戦の顛末、反省点そして、皇国の戦法及び新型戦艦について纏めろ。そして、それを活かして———————————皇国を倒せ」
故に、貴様は死ぬな。と言外にそう告げたフィリスは、ゆっくりと立ち上がり最後にこう呟いた。
「皇国……畏るべし…!!だが……………………………」
自らもここで死ぬつもりであったリーチは、しかし尊敬する上官たっての命令を無碍にすることも出来なかった。故に彼はその場で敬礼し、その場を後にする。
……………………………かくして、14時30分過ぎに勝敗は決した。航行不能、復旧不能となった旗艦プリンス・オブ・ウェールズはその場で自沈し、司令長官トニー・フィリス中将は艦と運命を共にした。司令部の移された戦艦ウォースパイトでは、なお継戦論が噴出し、せめて残存駆逐艦を突入させ水雷攻撃により敵の撃破を図るべきと言う意見が出たが、指揮権を委譲されたジョフリー・レイバン少将はこれを退けた。
「例えそれが成功しても、作戦はもはや失敗である。これ以上の損害を出す前に撤退すべきだろう」
この一言で、東洋艦隊は進路を180度転針。残存艦艇を連れなんとか敵の射程内から脱出し、シンガポールへと帰投していった。
この海戦の結果、東洋艦隊は戦艦7隻、巡洋戦艦8隻、空母4隻を含む41隻を喪い事実上壊滅した。対し皇国側は山城が沈没したものの、扶桑は大損害を受けつつも未だ辛うじて浮いている。又、切り札となった大和は艦上構造物などにかなりの損害を出し、いくつかの副砲及び高角砲が破壊されたものの、どれも致命的ではなく、主砲戦闘に支障はなかった。
その他航空機についても、連合王国側が事実上全戦力を失った一方、皇国はこの大戦果に比すれば損害は微々たるものであった。
以上からも分かる通り、今海戦は皇国の圧倒的勝利に終わった。その勝利の規模は、一昨年の帝国による解錠作戦に匹敵し、後世の研究家をして「これほどまでの戦術的かつ戦略的大勝利はほぼ前例が無い」と言わしめる程の大戦果となった。
まさに、今この瞬間皇国は栄光の絶頂にあった。合州国と連合王国という、不可能と言われた二つの障害を粉砕し、ここまで登り詰めた国家は皆無であっただろう。帝国と皇国、この二カ国が手を結んだ以上もはや世界に敵など存在しない。合州国や連合王国も、まさかこれ以上戦争を望みなどしないだろう——————と、誰もがそう考え、そう心から信じていた。
……………少なくとも、今この瞬間は。
大和圧勝!!!!まぁ連合王国の…………というより史実のイギリスの戦艦はどれもこれもいまいちパッとしな………まぁ戦果は一番上げてますが。
つまるところ、太平洋と大西洋&地中海では必要な性能が天と地ほどに違うということですね。キングジョージ5世級や史実のネルソン級も、本国付近でビスマルクやらポケット戦艦、そしてイタリア艦隊やらをリンチする分には実に丁度いい性能ですし。ただ、より強力な防御力、火力を持つ日米の新型戦艦(大和とかアイオワ、サウスダコタとか)の相手としては力不足なんですね。
さて次回は、海戦後の色々についてです。それが終わったら第五章も終わり!新章突入ですな。
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