それでは気を取り直して本編です!!
統一暦1927年2月8日 午後
皇国 海軍省
「まさかここまで大勝利とは………………」
拍子抜け、と言った風に山野が呟いた。それを聞き、丁度大臣室に来ていた部下が呆れたように言葉を返す。
「閣下がそれを仰るとは…………そもそもこの作戦を立案されたのは閣下ご自身でしょうに」
「はっはっは!いやあんなの唯の嫌がらせだよ。出来る限りの嫌がらせと時間稼ぎを詰め込んだだけだ、あんな大戦果など…………」
そう。当初山野ら軍高官はこの程度の攻撃で東洋艦隊を撃滅……どころか撤退させられるとは露ほども思っていなかった。あくまで真珠湾から急行してくる救援部隊が到着するまでの数日程度を稼ぎ出せればよかったのだ。
だから、作戦遂行中の山野の呟きとは裏腹に、彼の大本命は第四段階以降に予定されていた水雷戦隊による夜間雷撃であった。確かに山野はいずれ航空機こそが戦場の王となると考えてはいたが、あくまでそれはいずれの話である。今………しかも他国より劣ると自ら考えていた皇国航空機では足止め程度に………それすらも現状では厳しいと半ば諦めていた。
大和に至っては、航空論者の山野が信用しているはずもなかった。あのようなデカブツに何ができるのか………。精々あるのならば捨て石程度にはなるだろうと、扶桑型とともに出したまでである。軍令部の奴らはもったいないだなんだと文句を言っていたが、備蓄燃料等未だ十分以上ある今出さないのであれば永遠に戦闘になぞ出せないだろう。
ところが、こうした下馬評を大きく覆しての大勝利。さしもの山野も驚かざるを得なかった。特に敵の最新鋭戦艦たるキングジョージ5世級戦艦をなんと2隻も叩き沈めることが出来たとは、かつての対ルーシー帝国との戦争における対馬沖海戦並み、いやもしくはそれ以上の衝撃を皇国指導部にもたらしたのである。
いや、衝撃という点では皇国よりむしろ世界への影響の方が巨大であっただろう。………………世界というより、連合王国と言った方が正しいか。
何せ、意気揚々と送り出した大艦隊が、ほぼ全滅状態となって惨めに逃げ帰ってきたのだ。最初その報を聞いたチャーブル首相は卒倒したというが、国家としての損害は卒倒程度では済まなかった。————後世の歴史家たちは断言する。この海戦の結果、連合王国は事実上大戦における主導権を完全に失ったのであると。
合州国にとって変わり、自らこそが世界の主だと知らしめるための艦隊派遣。それが大失敗に終わった今、連合王国の権威は地に堕ちたのだ。それはもはや二度と復活できないだろう。……………一部の過激な歴史家はこうも続けた。連合王国による既存の世界体制を叩き壊したその一点で、この海戦は皇国にとって唯一の美点となった、と。
しかも、海戦から生還した3隻の戦艦のうち2隻はよりにもよって自由共和国から同盟の証として貸与されたものだった。当初よりこの艦隊派遣に反対であったド=ルーゴはこの点を挙げ連合王国をここぞとばかりに非難。当然それを支援する立場の連合王国は物資供給を武器に黙れと自由共和国に迫るも、彼らの非難に合州国、そして連邦までも同調したため立場は崩壊。しかも連邦に至っては非公式情報ではあるが皇国へ祝電まで送った始末。
……………哀れ、連合王国。全てを失った彼らは、以後帝国や皇国にとって『合州国&連邦の付属部隊』程度にしか認識されなくなってしまう。そしてそれとは対照的に、大勝利を得た皇国は名実ともに世界大戦の主役の座を勝ち取ったのである。かくして欧州大戦は完全なる世界大戦となり、少なくとも今この瞬間は、秋津洲皇国はそのあらゆる状況を動かしうる頂点にあった。
「ま!何にせよ勝利は最高だよ特にデグレチャフ!いやー、ただの陽動程度と思っていたのにとんでもねぇなアレは!これからはやはり航空機と航空魔導師、その天下だな!!」
まぁ本格化する前にずらかるけどなアハハハと山野は笑う。間抜けな外務省も、珍しく本気で講和交渉に取り組んでいるらしいし、未だ態度のあやふやな合州国だってここまでくれば講和を呑むだろう。全ては順調!オールグリーン!!皇国中がそう思い、世界だって恐らく殆どの者がそう信じて……或いは諦めていただろう。
そのはず、だった。
※
統一暦1927年2月27日 午前
フィラデルフィア合州国 ホワイトハウス
「大統領!イルドア王国より講和仲介の申し入れが入りました!!」
泡を食ったように叫びながら、大統領補佐官が部屋に入ってきた。が、そこの主たる合州国大統領デラヴェルトはただ一言そうかと言ったのみ。その全くの無関心に、補佐官は戸惑いを隠せない。
「よ、宜しいのですか?」
「宜しい?宜しいも何もそれを聞いた所で今私ができることなどないだろう。………そんな事より見たまえ!」
喜色たっぷりの表情で、デラヴェルトは一通のレポートを掲げた。………題して、『週間空母建艦計画案』。それを見た補佐官は、怪訝そうな顔になりつつも受け取り、中を見る。その脇で、陶酔したかのように大声で演説をぶつデラヴェルト。
「素晴らしいとは思わんかね!!これこそまさに合州国を体現した最強にして最高の建艦計画である!!一番艦竣工は一年半後を予定、そしておよそ一週間ごとに一隻ずつ竣工する……………ふははは!総勢50隻の護衛空母が太平洋を埋め尽くすのだ!!合州国万歳!物量万歳!民主主義よ永遠なれ!!」
「し……しかし大統領、確かに素晴らしい計画ではありますが、現実性に乏しく…………」
「現実性?!君は何を見ているのかね、その計画書を出してきたのはあの“魔術師カイザー”だぞ!!しかも既に造船所及び資材の確保は済んでおり、あとは我々政府が承認と予算を与えるだけなのだ。これで不可能と言えるのかね?!」
吠えるデラヴェルト。そして、補佐官もまた飛び出てきた名前に驚愕した。————“魔術師カイザー”。世界最大規模の戦時標準船『リバティ』を1日2隻以上作り上げる造船界の大物であり、“魔術師”という異名を引っ提げあらゆる不可能を可能にしてきた、まさに奇跡の男であった。
「今年中には3万トンクラスの新型正規空母も就役するからな。………何故この状況で講和なぞ受け入れねばならんのだ?誰も彼も勘違いしているが——————最初から最後まで、主導権は合州国にある」
そして、不気味な笑みを浮かべつつ、デラヴェルトは遙か遠方を眺めつつ呟く。
「———————上り坂は終わりだ。…………せいぜい派手に転げ落ちろ」
※
統一暦1927年3月1日
連合王国領インド帝国 セイロン島トリンコマリー軍港
先の海戦の結果、あらゆる戦場の常識は崩壊した。………そして、その事を文字に起こし、戦訓として纏めようと一人の男が奮闘を始めていた。
「…………航海日誌、そして敵の推定航路は………………」
かつての東洋艦隊旗艦『プリンス・オブ・ウェールズ』の艦長、ジョニー・リーチ大佐。彼は敗北の後死ぬつもりであったが、司令長官フィリスの最期の頼みを果たすべく生還。そして、シンガポール陥落後ここトリンコマリーに移ると、そこで必死の編纂作業を行なっていた。
内容は、海戦の概要に始まり、皇国航空機の高性能さ——特にその3000キロに及ぶ長大な航続距離や、複葉機の無意味さ、そして、航空魔導師の有用性。
彼はできる限り正確に、そして客観的にこのレポートを作成した。………もっともそれはあくまで“連合王国側である彼ができる範囲で”のことであり、神の視点から見れば不正確な点も多々あった。が、それが完成するとこのレポートは連合王国、合州国そして連邦などあらゆる連合国軍の、指導者から下級将兵までありとあらゆる軍人の手に渡った。彼らはこれを読み、そして学んだ。————皇国軍の能力と、それへの対抗策を。
この、現状では最も強く、確実な情報という“兵器”を、人々はやがてこう呼んだ。
フィリス・レポートと。
…………戦争を倦み、講和を望みつつもそれとは正反対に、戦争を広げる“手段”がばらまかれた。それは、この後ちょっとした、しかし極めて重大な事件を引き起こすが………………………
今はまだ、誰にもこの戦争の行く末は
分からない。
—————第五章 完
《第六章予告》
統一暦1969年元旦。ようやくターニャ・フォン・デグレチャフの名を再発見した連合王国記者アンドリューは、さらなる手がかりを求めて単身秋津洲へとやって来ていた。
「ここが、秋津洲か……………」
大戦から40年。戦争の影響は消え去り、今や秋津洲は世界を軍事ではなく経済で支配する大国として君臨しつつあった。
「…………これは」
首都東京を散策するアンドリュー。ふと、道端の本屋の軒先にあった一冊の雑誌が目に止まった。……曰く、『ミッドウェー海戦40年目の真実』。
「コ、コレクダサイ」
「毎度、400円ね」
職業柄、そして今まさに調べている『大戦』というテーマ、それらに促されるかのように雑誌を購入したアンドリュー。近くの喫茶店に入り、それを読み始めた。自らの拙い秋津洲語能力を駆使し、読み進めていくと
「………………特設空母『白銀丸』艦長、出暮大佐……………?」
……………歴史の混沌の中へ自ら潜り込んでいくアンドリュー。果たして彼の望む答えはここにあるのか——————?
かくして、時計の針は巻き戻る。……………大戦のターニングポイントとなったミッドウェーの死闘へと—————————
まぁ史実でも山本五十六はレパルスはともかくプリンス・オブ・ウェールズは無理だろうと言ってましたし、そもそも大和に至ってはあまり好きではなかったようですし。日露戦争以降の基本戦略として敵艦隊撃滅は戦艦部隊と自慢の水雷戦隊の任務ですからねー。
……そしてその裏で密かに始まる米帝の本気。いやぁ調べれば調べるほどわかるアメリカ帝国のトンデモ国力。マジでおかしいだろチートやチーターや!!なんやねん護衛空母50隻って……しかもレーダーとカタパルト標準装備って………………
ただ、一番恐ろしいのはそれだけ作れることではなく、そんだけ作ってもなお余裕で補充できる人的資源だったり………………
そんなこんなで第五章完!この後幕間何個か挟んで第六章突入ですが……プロット上はここで折り返し地点、この物語もいよいよ後半突入となります。なんとか最後までエタらないよう頑張りますので、皆様もどうか宜しくお願い致します!
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