それではどうぞ本編です!
統一暦1927年4月19日 昼
皇国 東京 海軍省大臣室
ドゥーリトゥール空襲の翌日、ターニャは急遽横須賀を発ち皇都へと向かった。今や皇国陸海軍の実質的なブレーンとなっている彼女にとって、今回の事件は千載一遇の奇貨であると共に、絶体絶命の危機とも言えた。皇国が以後どのような方針を取るにせよ、やるべき事はやらねばならない。
「………来たか。早速ですまんが、これだ」
来て早々、MI作戦の素案を投げてよこす山野。それを危なげなくキャッチしたターニャは、中身を一通り流し読みして机に置いた。
「閣下、単刀直入に申し上げます————第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴を投入すべきです」
「五航戦?………だが真珠湾には現在一航戦及び二航戦の計四空母がいる。ミッドウェーに篭るエンタープライズはたしかに強力な正規空母だが、四隻以上は…………」
甘い。それは慢心というものだ。たしかに山野は、現状の皇国では極めて珍しく、現在の状況をほぼ正確に把握していたが、それでも連続した勝利に少なからず毒されている。
「確かに敵がエンタープライズ一隻だけならば問題ないでしょう。しかし……………」
「……………増援、か」
だが、頭の回転は速い。“話の分かる上司”のなんとありがたいことか!ターニャは心中で安堵しつつ続ける。
「はっ、確実に現れるでしょう。少なくとも先の空襲で使用されたサラトガ及びホーネット、そしてヨークタウンの計三隻は投入してくる可能性が非常に高いと推測されます」
「根拠は」
「ここでエンタープライズとミッドウェー島双方を失えば、合州国軍は反攻の望みを完全に断たれるためです」
しかも、援軍を出さねば見殺しにしたとして世論が激発するだろう。“国民からの絶大な支持”を権力の拠り所にしているデラヴェルト大統領にとってそれは、なんとしても防がねばならない最悪の事態であった。
「………しかし、それでエンタープライズだけでなく増援した他の空母をも失うかもしれないとは考えないのか?」
「無論その可能性も十分にあり得る話でしょう。ですが、“助けに行った”という事実さえあればどうとでもなるのです。なにより————
————合州国の国力ならば、
事実上、皇国にとってのタイムリミットをも同時に意味していた。
「現状皇国で、あと数年以内に実戦投入可能な正規空母は神戸で建造中の
そのようなやべー奴相手に、来年以降も戦争を続ける国力も気力も無い。………いや、気力だけはある奴がどうも皇国内には無数にいるらしいが、少なくともターニャは断固御免だった。
故に、講和のタイムリミットである今年中に、合州国の首を縦に振らせなければならない。その為には、戦力を出し惜しんで逐次投入などしている場合ではない。最初から出し得る最大戦力を敵にぶつけ、多少の損害は気にせず目的を完遂する。これこそが勝利の基本であり、ターニャの帝国時代からの信条でもある。
「真珠湾の四空母に合わせ、翔鶴、瑞鶴のニ空母を足すと正規空母六隻となります。一方合州国側はエンタープライズと、先に述べたサラトガ、ヨークタウン、ホーネットの計四隻ですので、確実な数的優位を現出可能となります」
「だが、合州国にはあと二隻正規空母がいただろう。それを考えた場合翔鶴、瑞鶴だけでなく龍驤、祥鳳の四航戦も付けた方が良くはないか?」
山野が尋ねるのは、合州国が大西洋側に配置している空母ワスプとレンジャーについてだ。数的優位というのならば、それらも動員すべきではないかと彼は問う。が、ターニャとしてはその心配は低いと見ていた。
「先のマレー沖海戦において連合王国海軍は壊滅的打撃を受けています。更に依然として大西洋では帝国潜水艦による通商破壊活動が活発ですので、対潜警戒や帝国海軍への牽制等の必要性によりその二隻が太平洋側へ来る可能性はあまり高いとは言えないでしょう。正規空母よりかなり搭載機数の少ない四航戦は本土防衛と南洋方面への船団護衛等に回すべきです」
もし仮にワスプ及びレンジャーが遠路はるばる出張ってきたとしても、戦力比は六対六。更にエンタープライズの航空隊が既に消耗しきっていることを考慮すれば十分に互角以上に持ち込めるだろう。
「…………なるほどな。よし分かった、軍令部の方には俺からそう言っておく」
「はっ、宜しくお願い致します閣下。それと、以前から申し上げている通り作戦目標はあくまで…………」
「それについても重々承知している。今作戦の第一目的は“敵空母撃滅”だ、それ以外に無い」
よし、とターニャは敬礼しつつ心中で頷いた。これで、空母の増援と作戦目的の不統一という、前世のミッドウェー海戦で死亡フラグとなった要因の排除に成功した訳だ。
(………………まぁ、ここまで偉そうに口出ししたからな、今回は前線送りも仕方あるまい)
海軍省を去りつつ、内心そう自嘲するターニャ。かつて軍大学でゼートゥーアに偉そうに演説ぶった時同様、今回も「そんなに言うならお前がやれ」という体で確実に白銀丸はミッドウェー攻略部隊に編入されるだろう。………まぁ、少しでも兵力は多い方がいいからな、と肩を竦める。
前線を唾棄し、後方を愛するターニャだが、流石に今回ばかりは何も言うまい。第一、この作戦が成功すれば講和は成る。そうなれば、帝国には悪いが平和となった皇国で、莫大な年金を受けつつ悠々退役生活を送れるだろう!
————自らの安寧の為ならば、たとえ辛くとも仕事はしなければならん。ターニャは薄く呟き、すぐに下令されるであろう出撃命令に備える為、白銀丸へと足早に帰っていくのだった。
が
「何故だ!何故——————出撃命令が出ない?!」
※
統一暦1927年5月31日
横須賀鎮守府 白銀丸
この遅延は、陸海軍の確執………いや確執と言うほどのものではなかったが、少なくとも作戦をめぐる対立があった故に起きたものであった。
別に陸軍側も、MI作戦を中止しろとかそういう事は言っていない。従来の作戦案通り空母四隻のみで実行するのであれば、できる限りの協力はすると言ってきている。
………が、五航戦(翔鶴、瑞鶴)をすぐにMI作戦に投入するのをやめてくれというのである。彼らとしては、現在進行中であるパプアニューギニア及びビスマルク諸島作戦にこの二空母がどうしても必要だったのだ。
既にほぼ完了しているフィリピン、シンガポール攻略部隊を転用させた訳だが、これらの輸送や索敵、航空支援の為には現在南方担当の第四艦隊に派遣されている龍驤、祥鳳といった軽空母では不十分。そこで、しばらくの間南方へ正規空母たる翔鶴、瑞鶴を回してくれないかということだった。
これに対し山野は消極的だった。そのような戦略的価値の乏しい僻地を占領したところで大勢に与える影響は少ないし、なにより例の“タイムリミット”を考えるとあまりMI作戦実行を先延ばしにしたくなかったからだ。
が、海軍の一部将兵らは陸軍との協調も重要ではないかと考えつつあり、又領土拡張という甘い誘惑も彼らの心を揺さぶっていた。さらに、決定的となったのは4月24日に、北太平洋で哨戒中だった伊第六号潜水艦から『敵空母サラトガの雷撃に成功、これを撃沈せり』と急報が入ってきた事だった。
当初は過大報告ではないかと疑う声もあったが、その後太平洋中で合州国側の無線通信が急増。解読はできなかったもののかなり逼迫した様相を見せていた事もあり、サラトガ撃沈はほぼ確実だと見られるようになった。
これを受け山野はついに折れる。一ヶ月という制限付きではあるが五航戦の南方派遣を認めたのである。敵空母戦力が例えワスプ、レンジャーを含めたとしても皇国側を下回ったのであるし、作戦開始が一ヶ月ずれようと問題はあるまい。山野は幾ばくかの懸念を抱きつつもそう考え、その決断を下したのだった。
かくして、当初4月中に実行予定であったMI作戦は陸軍との折衝の結果一ヶ月延期。結局、白銀丸に出撃命令が出たのは
統一暦1927年5月31日のことであった。
《朗報》五航戦参戦!作戦目的明確化!
《悲報》作戦延期!史実と時期が被るやんけ………
サラトガが沈………ん?
この時点で、皇国はハワイ諸島(ミッドウェー島除く)、フィリピン、インドシナ、マレー半島(シンガポール)、インドネシアを占領しています。が、史実の日本軍と異なり中国大陸へはあくまで連合王国領のみしか侵攻しておらず、ビルマ方面へも進出しておりません。
特に満州事変や日中戦争がなかったために国力を浪費しておらず、その事が今後の展開にどう影響するのか…………
まあしかし、取り敢えずはミッドウェーが以後しばらくの舞台となります。いよいよ出撃したターニャ達増援部隊は、果たしてどのような役割を果たすのか?!次話に続く!!
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