幼女極東戦記   作:信濃氷海

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定時投稿2日目ですね!

それではどうぞ本編です!!


第四十話 望まぬ遭遇

統一暦1927年6月5日 午前

オアフ島 真珠湾

 

 

 この時、陸軍側の真珠湾防衛責任者は布哇(ハワイ)駐屯軍司令官田中和一中将であった。彼は赴任後もっぱら港湾やら駐屯地の復旧・整備に注力しており、防衛任務に関してはほぼ海軍の一航艦に一任していたが、だからと言って完全に怠っていたわけでもなかった。

 

 より正確に言うと、彼はそもそも空母や機動部隊についての知識が乏しく、信用もしていなかったが故に、真珠湾の基地航空隊に対しては常に迎撃準備を整えさせていた。

 

 更に、従来より電探等のレーダー技術に関心が深かった陸軍軍人らしく、彼は着任後直ちに故障して放置されていた合衆国製のレーダー設備の復旧を命じ、また本土より最新鋭の電探である超短波警戒機甲・乙を輸送させ5月末ごろより実戦運用を開始させていた。これらが功を奏し、敵機動部隊の空襲に対しては極めて迅速な対応を取ることが可能だったのである。

 

 そのレーダー網が、北方向より接近してくる百機以上の大編隊を捉えたのは6月5日05時過ぎのことだった。

 

「来おったか…………樋口君、敵が上陸してくる可能性はあるか?」

 

 接収した旧ハワイ方面陸軍司令部にて、朝日に煌く真珠湾を眼下に収めつつ田中中将は背後にいる参謀長の樋口喜八郎中将に低い声で尋ねた。

 

「…………可能性が高い、とは言えませんな。ですが、今とよく似た状況で上陸が成功した例が存在します」

 

「昨年のハワイ作戦、か」

 

 配備されている兵力、航空機による奇襲、確かにあの時と酷似している。ならば………

 

「ただし、その時とは決定的に異なる点が一点。——————こちらの索敵が成功し、敵の奇襲は失敗したということです」

 

 無論樋口は、この時点で蔓延しつつあった『合州国弱小論』——所謂“合州国兵は薄弱腰抜けばかりなので、少し脅せばすぐに逃げ出す”といった風説——など一笑に付しており、合州国軍侮りがたしと常に警戒していた皇国軍でも有数の人材であった。

 

 ただ、彼はここハワイに赴任するにあたり史上における上陸戦、そして要塞における防衛戦等を一通り研究しており、結果的にこういう結論を出していた。————大前提として味方の補給線が健在であり、航空兵力も十分である事。そして敵上陸前には水際戦術の徹底、敵上陸後は完全に統制された組織的遅滞戦術・出血戦術を堅固な要塞陣地に拠りつつ繰り返し行う。これにより、5倍程度の兵力差であれば十分対抗可能である、と。

 

 しかし、奇襲された場合は話は別である。それこそ半年前に皇国がやってのけたように、たとえ攻撃側が寡兵であってもあっさり制圧可能となってしまう。それを防ぐために大本営に嫌な顔をされても、貴重な輸送力の一部を使ったとしても最新鋭の電探を運び込ませ、さらに捕虜の助けも借りて合州国製レーダーの再利用にも尽力した。それが、功を奏した。

 

 もはやこうなったら、敵が上陸を企もうとその先にあるのは徹底的な総力戦だろう。そして、付近の制海権、制空権が未だどっちつかずのグレーである以上それに耐えうるだけの戦力、物資を補給し続けるのは合州国といえど不可能。そして、それを知りつつあえて上陸してくるほど合州国は間抜けではあるまいと樋口は考えていたし、前述の通りたとえ敵が上陸を強行してきたとしても十分対抗可能である。

 

「ならば、基本的には空襲のみと考えるべきか」

 

「上陸よりは、その可能性の方が高いでしょう」

 

 そうか、と田中は呟く。多少残念そうに見えるのは、ヤンキーと本気の殴り合いをしてみたかったからか———————?いや、馬鹿な考えはよそう。邪推を止め、樋口は敬礼するとその場を後にした。上陸はないとしても、やるべき事は山ほどある。

 

「——————第六飛行団は動いたか?」

 

「はっ、先程ヒッカム飛行場の青木大佐より連絡があり、邀撃機順次発進させるとの事です!」

 

 よし、と樋口は頷く。後は…………

 

「ならば海軍の井上君に伝達、青木の第六飛行団と協力し、敵機撃滅をお願いすると伝えろ」

 

「はっ、了解であります!」

 

 走り去る部下を数秒見つめた後、すぐに別の仕事に取り掛かる。………本来陸軍が、たとえ階級が下とてこのように命令を下すことなど出来ないし、そもそも相手の方が無視してくるだろう。

 

 が、そんなことを言っていたら孤島の防衛なんて夢のまた夢。着任後この事を痛感した樋口は自ら陸海軍の首脳部や実戦部隊指揮官とのパイプ役となり、相互連携に腐心してきた。井上君——海軍第二航空隊司令官井上左文字大佐——ともゴルフやら会食やらで関係を深めており、またその都度陸海軍の相互協力の大切さを説いてきた為、今や防衛の為の重要なパートナーとして実に良い間柄となっていたのだ。

 

「………あとは、高射砲に迎撃態勢を取らせ、その次は…………………」

 

 あらかじめ作成しておいた防衛手順を参考に、着実に迎撃準備を完了させていく。…………ふと、卓上の時計が目に入った。時刻は05時20分。もう、間もなく————————

 

 

 

「………最早柳の下にドジョウは居ない。あまり、イエローモンキー(皇国)を甘く見るなよヤンキー(合州国)諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統一暦1927年6月5日 05時10分

ミッドウェー島沖 第五航空戦隊麾下 特務艦『白銀丸』

 

 

 ターニャは迷っていた。物理的にも、思考的にも。

 

「………先程傍受した呼び出し符号、あれはやはり……………」

 

「十中八九空母でしょうな。もっとも、それがエンタープライズであるかは不明ですが」

 

 ターニャの呟きに、憮然とした表情の藻塁副長がそう返した。いつになく彼は不機嫌であったが、その訳はこの天候にあった。

 

 前日の夜から降り始めた雨は、日付が変わる前後には滝が何かのような土砂降りになって五航戦に襲いかかっていた。雨だけでなく風と波も激しくなり、随伴の駆逐艦などは目も当てられないほどの惨状となっていた。それでも落伍したり、追突したりする艦が出なかったのは日頃の練度の賜物か、あるいは単なる僥倖か。

 

 ただ、雨風はそれをピークに次第に落ち着き、波も段々と落ち着いてはきたが、その代わりに別の懸念事項が浮上した。—————凄まじいまでの霧が、周囲を支配していたのだ。

 

 視界は一時ゼロに近くなり、艦隊行動すら困難になったが、その後やや回復。それでも300メートルという衝突しないギリギリの近さで、かつ数ノット程度の極低速での移動を強いられる事となっていた。

 

 こうしたロクでもない状況が、藻塁や操艦担当の海軍将兵をピリピリさせていたのだが、一方のターニャもまた焦りと苛立ちを少なからず感じていた。

 

(…………こんな低速では、霧が晴れた瞬間目の前に()()がいても即時対応が極めて困難だ。それに例の呼び出し符号……………まさか前世の史実と同じ日に空母が来るまいが…………)

 

 やはり無線封鎖を解いて真珠湾の一航艦と連絡を取るべきではないか?そうすれば敵の位置を詳しく知れ、かつ対応も十分可能となる。…………だが無線が傍受されたらどうする?敵の増援として二隻………いや、皆信じ込んでいるがサラトガが沈没したという確たる証拠は無く、米帝のチートプレイなら多少の損傷でもすぐに実戦復帰させるだろう。そうなれば敵は3隻ということになる。

 

 そして、真珠湾といまだ2500キロ近く離れている事を考えると、我々はたった2隻で数時間以上3隻の敵空母を相手しなければならないのだ。しかも、先のビスマルク海作戦もあり、長きにわたり休む間も無く酷使され続けてきた五航戦の疲労はかなり高まっている。……………それを考えると、自らが先に発見される危険を冒すのにはさしものターニャですら腰が引ける。

 

 第一、一航艦どころか付近の五航戦各艦とすら満足に意思疎通できていない状況なのだ。これも無線を使えば解決するのだが、ターニャと同じようにどの艦も“敵に傍受される”事を警戒して何も出来ない状況である。

 

 このため、取り敢えずの目的である真珠湾入港については全艦了解しているだろうが、果たして今なお臨戦態勢をとっている艦がどれだけ有るだろうか?軽率、慢心ほどターニャが嫌うものは無かったが、ここ半年の勝利の連続により、それらが皇国軍中に蔓延っているのもまた歴然とした事実であった。

 

「…………!どうやら、霧が晴れつつありますな」

 

 と、深い疑念に悩まされていたターニャに、外を凝視していた藻塁が声をかけた。その時点ではそうなのか専門外のターニャには判別しづらかったが、数分後には成る程確かに天候は回復傾向にあるようであった。

 

「………現視界1000メートル!………………………1500メートル!」

 

 見張員の声と共に、白く不快な霧は次第に薄れ、ノロノロと単縦陣で動く五航戦の姿が明快になってい—————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()に気づけたのは、視力の良さか或いは————天性の勘なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———!?おい、アレはなんだッ!!」

 

 艦長席を蹴倒す勢いで立ち上がり、両眼を見開いたターニャが叫んだ。ハッとして藻塁が双眼鏡を覗く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

————————後に、ミッドウェー海戦を総括した報告書にて、この時の状況が実に端的かつ的確な一文で記された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「————う、右舷、2時の方向敵艦…………敵戦艦2隻!!距離——————()()()()メートルです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

————————“ 敵は高き前檣楼(しょうろう)を有し上甲板高く偉大なる新式戦艦”、と。

 

 

 

 




新型戦艦ズ「やあ」

まぁ実際には新型戦艦(一体何カロライナ級なんだ……)の方も急に空母が現れてビビってると思いますが。

霧中航行についてですが、正直これで正確なのかいまいちよく分かりません。読者様の中で本職の方がいらっしゃいましたら、「ここちげーよ」と遠慮なくご指摘お願いします。

さて、一航艦に一挙に飛び込んできた二つの遭遇戦の報せ。果たしてどうするのか?!———の前にもうちっとだけターニャ達五航戦を見ていきます。一気に大ピンチになってしまったターニャ!どうするどうなる?!待て次回!!

アンケート沢山の方にご協力いただきありがとうございました!!昨日の時点からさらに状況が変わり、ほぼ定時投稿派が優勢となりましたので、今後はなるべく提示で投稿したいと思います。でも、出来る限り毎日投稿していくつもりなので、出来たらすぐに派の方もご承知おき下さると嬉しいです。

また、定時の時間についても今後アンケート取ろうと思うので、その時も皆さまご協力いただけると幸いです。今後とも拙作をどうぞよろしくお願いいたします!

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