それでは本編どうぞ!!
統一暦1927年6月5日 05時20分
ミッドウェー島沖 第五航空戦戦隊 空母『翔鶴』
「っ!回避………面舵、面舵とれぇぇぇぇぇ!!!!」
咄嗟に、直感で翔鶴艦長有馬正武大佐はそう怒鳴った。五航戦の先頭を直進する翔鶴に対し、右斜めから現れた合州国戦艦2隻は翔鶴の動線を横切るように接近していた。交戦云々以前にこのままでは激突必至であり、有馬はひとまず海上船舶の基本ルールを思い起こし右に転舵を命じたのだった。
幸いにも、元々の速度が遅かった事もありなんとか衝突コースから外れる事に成功。しかし……………………
「クソが…………ッ、総員衝撃に備えろ!!!!」
翔鶴側が転舵する事を見越していたのか、それとも衝突すらも覚悟していたのか。ともかく、進路を変えずただ速力のみを上げた敵戦艦は、冷静かつ冷徹に全砲塔を旋回。その砲口は、まっすぐ眼前の翔鶴を見据え———————
瞬間、18個の閃光が煌めく。その約2秒後
海面が、爆ぜた。
「ぜっ、全敵弾夾叉!!」
「機関一杯逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」
周囲にぶちまけられた敵砲弾が、莫大な海水を吹き上げ翔鶴の飛行甲板に降り注ぐ。あまりの近さによりくっきりとわかる艦型。間違いなく、合州国の最新鋭戦艦ノースカロライナ型である。即ちこの砲弾は世界最強クラスの16インチ砲のものなのだ。
2500メートルなど目と鼻の先もいいところで、おそらく次で命中弾が出るだろう。そして
16インチ砲弾に耐えうる装甲を持った空母など、世界のどこにも存在しない。無論それは皇国最新鋭たる翔鶴型とて同じ事だ。
そして、前回の砲撃からきっかり30秒後。今度は、完全に正確無比だった。
ズガッッッッドガァァァァァァァァァァン!!!!
右回りにUターンし離脱しようとしていた翔鶴だったが、その横っ腹を晒した瞬間に第二斉射が叩き込まれた。そのうち、敵先頭を走る戦艦ワシントンが放った一発の
翔鶴の飛行甲板中央を直撃したそれは、あっさり貫通し内部に侵入。格納庫内で待機中だった九九式艦爆ごとあらゆるものを粉砕しつつ直進し、右舷側壁で爆発した。
「ッ!被害状況報告しろ!!」
「て、敵弾飛行甲板貫通、格納庫内で爆発した模よ————ウワッ!?」
再び起こる衝撃。有馬は即座に悟った。—————誘爆した、か。
彼の悪い予想は的中していた。砲弾炸裂後、まずその衝撃で先程粉砕された九九式艦爆の250キロ爆弾が誘爆。そこからはねずみ算式に周囲の爆弾、魚雷へ爆発は連鎖していき、被弾から数十秒で翔鶴格納庫内は地獄と化していた。
…………ただ、不幸中の幸いというべきか、被弾時に飛行甲板に開いた大穴と、砲弾爆発時に脱落した右舷側壁の一部が一種の開口部となって爆風を逃がせたため、飛行甲板が吹き飛ぶといった最悪の事態は回避された。
もっとも、だとしても被害は甚大だった。格納庫では誘爆と大火災発生によりその場にいた数十人が即死。更に高音の熱風が機関部に流入した事で機関部員の多くが死傷し、一時的に航行不能に陥った。また側壁に開いた穴から亀裂が水線下に延び、浸水が発生。被弾から数分後には、翔鶴は右舷へ数度傾斜、艦内及び飛行甲板の大部分で大火災発生という壊滅的状況となっていた。
たった一発で、最新鋭正規空母が大破漂流に追い込まれたという衝撃的事実は、皇国側残存艦艇を唖然とさせるのに十分であった。が、対し敵のノースカロライナ、ワシントン両艦は止まる事なく次の標的を翔鶴の背後にいた空母瑞鶴へと定め—————————
「「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
だがそこへ割り込む2隻の艦影。五航戦に随伴してきた第三戦隊の戦艦金剛及び比叡であった。両艦は30ノット近い高速で射線を塞ぎ、主砲、副砲、機銃全ての武装をフル稼働させ敵戦艦へと砲撃を開始した。この近距離であれば、双方の装甲厚の違いだの砲口径の差異だのはもはや無意味である。当たればどこだろうと容易に敵をブチ抜けるのだ…………が、砲門数——ノースカロライナ級は1隻9門の合計18門、金剛型は1隻8門の合計16門——の違いのみは大きかった。更に合州国側はほぼ完全なT字をとることに成功しており、その点から言っても皇国側にとっては不利な態勢と言わざるを得なかった。
「だ、第二砲塔大破ッ!!内部との通信途絶!!」
「前方の敵に命中弾!!火災発生を確認!!」
「艦首部で火災発生!!第一砲塔旋回不能!!」
「敵若干の傾斜!!浸水しているものと思われます!!」
それでも、かつての戦列艦同士の海戦を彷彿とさせる超近距離砲戦は有利不利を超越して双方を破壊し尽くしていった。だが特に砲弾、銃弾が集中して降り注いだのは双方の先頭を走っていた戦艦比叡、ワシントンの両艦であった。
そして砲戦開始からおよそ20分後、16インチ砲弾14発、5インチ砲22発、小口径銃弾多数を受けた比叡が大火災、大浸水を起こし戦闘不能となる。そして05時52分にとどめの一撃がノースカロライナより放たれ、比叡は復原力を失い左舷に転覆し海中に没していった。
が、その代償として合州国側も先頭のワシントンが甚大な被害を受けていた。14インチ砲弾18発の命中を受けるものの未だ沈んではいなかったが、艦上構造物は滅茶苦茶に破壊されており、機関も復旧に失敗して停止したため“浮かぶ鉄屑”となり事実上戦闘から脱落してしまったのだ。
かくして残り1隻ずつとなった金剛、ノースカロライナ両艦は距離1600での、ノーガードかつサシの殴り合いという状況で決着をつける羽目になる。この死闘はその後30分以上にわたり続き、皇国にとって貴重な時間を稼ぐこととなる。
…………第三戦隊が事実上の捨て石、足止めに徹している間に、なんとか機関を復旧させ20ノット程度での航行可能となった翔鶴と、それに付き添う瑞鶴及び駆逐艦4隻、そして白銀丸は急速回頭後直ちに離脱を図った。が、そうはさせじとノースカロライナに随伴してきた合州国駆逐艦5隻が肉薄雷撃を企図して接近してくる。さらに———————
「ッ!!7時の方向敵艦………敵空母です!!艦型からエンタープライズと思われます!!」
「んなっ?!」
そのとんでもない報告を聞き、思わず奇声を上げて双眼鏡を目に押し当てる瑞鶴座上の五航戦司令原西忠市少将。振り向き水平線を見ると、確かに15キロ程先に敵空母らしき艦影がある。南へ転舵し逃走する五航戦とは逆向き、反航戦の状態であったが、この距離ならばすぐにでも敵機がやってくるだろう。
………なんとも奇怪な話である。先程の霧は、進路を見失った別個の3部隊を視界範囲内へ引き摺り込んだのだ。結果現出されたのは海戦史上最大クラスに複雑怪奇なこの不意遭遇戦という状況だった。
だが変な事に感心している場合ではない。原西は直ちに瑞鶴で待機中の艦載機へ発艦を命じようとした。………だが駆逐艦はどうする?こちらの4隻だけで阻止できるのか———————
と、そこへ緊急電。白銀丸からであり、内容は———————
「………はっ、成る程流石は山野さんの秘蔵っ子か。———敵駆逐艦は構うな!目標敵空母エンタープライズ!!」
かくして、史上初の正規空母同士の航空戦が幕を開ける——————
※
同日 05時55分
ミッドウェー島沖 五航戦上空
「死守しろ!!駆逐艦どもを空母に近づけるな!!」
敵駆逐艦排除の為緊急発艦したターニャ率いる第一特務航空魔導連隊400名は、最大魔力をもって合州国の駆逐艦に襲いかかっていた。空母や戦艦相手では非力な彼らの火力も、貧弱な駆逐艦相手ならば大いにその効果を発揮できた。
「甲板の魚雷を狙え!誘爆すれば駆逐艦など一瞬で消し飛ぶぞ!!」
「!大佐見て下さい、あれは————————」
「!?クソッ、柔軟に取り入れすぎだヤンキーめ!!」
味方駆逐艦と連携し、どうにか雷撃圏内への侵入を阻止するターニャらであったが、そこでヴィーシャが顔をしかめ何かを発見する。その方向には——————
「っ!敵の魔導師どもがおいでだ!!第一大隊は私に続け、一挙に全部叩き落とすぞ!!」
駆逐艦攻撃の指揮をヴィーシャに任せ、第一大隊長島風少佐と共に敵魔導師を迎撃する。どこから湧いてきたかと思えばなんと敵戦艦ノースカロライナからである。………しかも、乗組員との兼任であった従来の艦上魔導師と違い、彼らは純粋な航空魔導師であった。練度は203どころか我が第一特務航空魔導連隊にも及ばぬほど低いが、数は百人以上おり、厄介である事に変わりはなかった。
艦隊防衛のため、本職の航空魔導師を軍艦に載せる———どう考えてもマレー沖海戦に触発された……というより白銀丸をパクったらしい。なんと理解のある敵上層部だろうか!まったく敵が有能だと仕事がやり辛くて敵わん。ターニャは心中で吐き捨てるも、必要最小限の動きで敵魔導師を魔力刃を使いぶった斬っていく。
と、そこへさらなる厄介事が舞い込んできた——————
「連隊長、敵艦載機です!数およそ50!!」
「全くこのクソ忙しい時に!こっちの直掩機はどれだけ出てる!」
「………10機もいません、かなりヤバいです大佐!」
ヤバいと言われても、こっちも十分手一杯である。………が、残り一隻の空母がやられればそれこそ本当にヤバくなってしまう。数秒思考したターニャは、しかめっ面で苦渋の決断を下した。
「………第四大隊!敵駆逐艦攻撃を中止し敵艦載機迎撃に回れ!!」
『了解』
ターニャの命令に短く返す第四大隊長上坊少佐。ターニャ個人としては極めて嫌う人間であったが、酒が抜けている時の能力は確かなものがある。何より副官はアレを補佐して余りある優秀な人材である故、特に心配はいらないだろう。…………更に戦力が減ったヴィーシャには悪いことをしたが、状況が状況だ仕方あるまい。
「……………とっととヤンキーどもに御退場頂くぞ、総員突撃!!」
……………そして30分後、どうにか難局は去りつつあった。敵駆逐艦は数度の雷撃を試みるもほぼ失敗。そして唯一翔鶴を射線に捉えた一発も、皇国駆逐艦有明の身を挺した体当たりにより阻止された。それと引き換えに有明は艦首部10メートル以上を吹き飛ばされ航行不能となったが、乗組員の大半は脱出し他の艦艇に救出された。
対する合州国側は雷撃失敗後砲撃により翔鶴、瑞鶴両艦を攻撃するものの皇国側駆逐艦の応射と航空魔導師による空爆により壊滅。5隻中3隻が沈没し、逃げおおせたのは2隻のみだった。
また空襲に来たエンタープライズ艦載機部隊も、直掩の零戦8機による必死の迎撃と白銀丸の第四大隊により多大な犠牲を出し撤退。翔鶴、瑞鶴共に更なる被害はなく、なんとか九死に一生を得た形となった。もっとも瑞鶴艦載機によるエンタープライズ空襲も、待ち構えていた敵の直掩機により相応の被害を出し結局ほぼなんの戦果もあげられなかったが………。
「………引きも早い、か。練度はともかく判断等は実に優秀な部隊だなまったく」
そう言って、渋い顔のまま第一大隊に撤収を命じるターニャ。味方の攻撃が失敗に終わったと分かるや否や早々に撤退を始めたノースカロライナ所属航空魔導師部隊は、歴戦のターニャをしてそう称賛せざるを得ないほどになかなか出来る部隊であった。………まぁ練度がかなり低い為大損害は与えられたが、次会敵する時はどうなっていることやら、ターニャにとっては実に嫌な話であった。
こうして、五航戦は敵の追撃をなんとか阻止し、離脱に成功した—————————かに見えた。
が
06時30分。均衡が、完全に崩れた。
「っ!第二次攻撃隊より入電!『金剛撃沈さる、金剛撃沈さる』です!!」
「チッ!翔鶴の速度は上げられんのか!」
「駄目です!これ以上出す為には船渠での本格的修理が必要との事で…………」
じとり、と原西の頬を冷たく嫌な汗が流れた。………ノースカロライナ級の最大速度は恐らく26、27ノット以上。対しこちらはどう頑張っても20ノット弱………………第三戦隊が稼いだ約1時間でなんとか40キロほど離れたものの、この速度差では————————
————————一難去ってまた一難。後に“五航戦死の騎行”と呼ばれた悪夢の鬼ごっこが、
始まる。
ノースカロライナ級の16インチ砲でブチ抜かれる哀れ翔鶴さん………まぁでもまだ沈んでませんよまだ…………
そして!金剛型とノースカロライナ級の殴り合いです!全話最後でも分かる通り、この砲戦は主に史実の第三次ソロモン海戦第ニ夜戦を参考にしております。というか、太平洋戦線の戦艦同士の殴り合いってそれくらいしか例が無いし…………
…………20ノットで果たして発艦出来るのか?という疑問を持たれる方いるかもしれませんが、“向かい風が強かった”という事でお茶を濁して頂けたら…………
次話は死の騎行続きです。果たして五航戦はノースカロライナの魔の手から逃げられるのか?!待て次回!!
定期投稿の時間調査(投稿してほしい時間に投票してね)
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00時00分(夜中)
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12時00分(昼)
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19時00分
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その他の時間
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何時でもいい