それではどうぞ本編です!!
統一暦1927年6月5日 06時30分
ミッドウェー島沖 第16任務部隊旗艦 空母『エンタープライズ』
戦局を見て急速反転したエンタープライズがノースカロライナに追いついたのは、熾烈な大砲撃戦が幕を閉じた直後のことであった。
結論から言えば、金剛は敗れた。しかし、竣工時期が約三十年も古い旧式艦としては最高の大健闘をして散っていったと言えよう。金剛は16インチ砲18発、5インチ砲26発という“鉄の暴風”を受けてなお第一砲塔のみは砲撃可能という状態であったが、両舷に穿たれた大破孔が致命傷となった。浸水により沈みゆくその時まで砲撃を続けた敵艦を、無意識に敬礼して見送ったノースカロライナ艦長アーレイ・ハストビア大佐は、腕を下ろすとニヤリと笑い下令した。————機関一杯、目標南下する敵機動部隊。
…………もっとも、勝利を確信したハストビアであったが、ノースカロライナもまた少なくない損害を負っていた。いくつかの箇所で未だ火災の消火が終わっておらず、14インチ砲弾が直撃した第三砲塔は復旧の見通しが立たないほど破壊されていた。特に懸念されたのが、機関部の損傷であった。直撃弾はなかったものの、火災による熱気の流入や、配線の断絶等によりとてもではないが最大速力である28ノットは出せず、精々25、26ノットあたりが限界と考えられていたのだ。
が、だとしても皇国五航戦は観測の結果20ノット少々しか出ていないことが分かっている。即ち彼我の速力差6ノット(時速11キロメートル)であるから、現在の距離40キロは、1時間後に29キロ、2時間後には18キロにまで縮まるということだ。更にこちらは直進できるが、砲撃を避ける必要がある五航戦側はジグザグ機動を余儀なくされる故、実際には更に距離差は小さくなると予想される。
「…………もっとも、そんな上手くは行かないだろうがな」
側から見ても意気揚々とした士気の高さが見て取れるが、実際はそれ程良い状況ではない事を、第16任務部隊司令官ウィルバルト・ニルゼー中将はエンタープライズの艦橋で看破していた。ノースカロライナは、先程述べた損傷により射撃管制装置が破壊されており、砲撃は各砲塔がそれぞれ観測し照準を合わせる必要があった。更に先程の超近距離砲撃戦で感覚が狂った砲撃員が、すぐに長射程に対応し命中弾を得るのは極めて困難であり、それらを加味すれば有効射程は20〜15キロメートルほどになるだろう。
「つまりタイムリミットはおよそ2時間という訳だ。…………それまでに、敵空母が
随分妙な状況である。………いや、それは最初からか。ニルゼーは皮膚病による全身の苦痛を押し殺しつつ、心中で薄く笑った。彼の自嘲通り、開戦以降彼と空母エンタープライズは極めて数奇な僥倖と偶然に振り回され続けていたのだ。
……そもそも彼の指揮する第16任務部隊——当時は第8任務部隊だった——は当初ミッドウェー島ではなくウェーク島へ向かう予定であった。が、本来ミッドウェー島に赴く予定であった空母レキシントンが搭載機の準備の遅れ等により、真珠湾へ到着するのが遅れると予想された為、急遽第8任務部隊のうちエンタープライズと重巡ソルトレイクシティをミッドウェー島へ、その他重巡3隻は航空機以外の人員・物資を載せウェーク島へ向かわせることとなった。
結果、ウェーク島に向かった第5巡洋艦戦隊本隊は皇国の同島上陸部隊と遭遇。必死の抵抗虚しく遁走に成功した1隻を除き全滅。ニルゼーの後輩であり友人だった司令官アーモン・ルーアンス少将もろとも海の藻屑となってしまった。そして遅れてきたレキシントンは哀れにも真珠湾攻撃と重なり鹵獲される羽目になり、太平洋で生き残った合州国艦艇はニルゼー率いるエンタープライズとソルトレイクシティの2隻のみとなった。しかも、オアフ島を占領された為にミッドウェー島を出るに出られず、本国が救援部隊を差し向けた今になってようやく脱出することができたのだ。
………しかも、出港したはいいが出て早々に嵐に巻き込まれ、さらにその後の濃霧により位置を見失った為に事前に設定されていたノースカロライナ以下の第17任務部隊第1群との合流ポイントにすらたどり着けず、こうして奇妙な不期遭遇戦に巻き込まれているというわけだった。
まぁ、霧中で迷っていたのはノースカロライナや皇国艦隊とて同じことだっただろうが。
「—————迎撃機気合を入れろ!皇国のクソどもを戦艦に近づけるな!!」
早速おいでになった瑞鶴の攻撃隊を睨み、ニルゼーは短気な性格そのままに怒鳴る。さぁ、楽しい楽しい鬼ごっこを続けよう———————
————06時30分:両艦隊の距離40000メートル
※
同日 08時00分
ミッドウェー島沖 第17任務部隊第1群上空
……………“鬼ごっこ”開始から一時間半後、ノースカロライナは壮絶な空襲を受け続けていた。
「敵機直上!爆弾投下——————ッ!!!!」
攻撃は最大の防御である。ここでノースカロライナを撃沈しなければ、三十分後には16インチ砲の集中砲火で五航戦は消滅するだろう。凄まじい猛攻であったが、実際には刻一刻と追い詰められているのは皇国の方であった。
「ッ!!………………?!、不発弾か!!全くこの艦も悪運が強すぎるな」
一縷の望みをかけて投下された九七艦攻の800キロ爆弾は、艦橋直近の甲板に命中するも不発。ニルゼーの言う通りエンタープライズの悪運が強いのかそれとも瑞鶴の運がないのか…………。ともかくエンタープライズ総力を上げての迎撃によりロクな戦果を出せていなかった中での貴重な命中弾が不発であった事は、極度の緊張により摩耗していた皇国側搭乗員をさらに追い詰めていった。
「チッ、なら敵空母の飛行甲板を狙え!!穴でも開けてしまえばそれで終わりだ!!」
その大空中戦で、ターニャ達第一特務航空魔導連隊も制空隊の頭数に入れられ投入されていた。ターニャの指示に従い、一部の隊員が果敢にエンタープライズへと突入していくが、後一歩のところでノースカロライナの合州国航空魔導部隊に阻止されてしまう。舌打ちしならば私自らがとターニャもヴィーシャを引き連れ反対側から突っ込むものの、F4F小隊が体当たりも辞さない勢いで攻撃を阻止してくる。
どう見ても、分が悪かった。マレー沖海戦の時のような奇襲一撃離脱ならともかく、このような大混戦の中での消耗戦となるとさすがに第一特務航空魔導連隊とて練度不足は否めない。そうでなくとも連続した長時間の戦闘で消耗著しく、先程から撃墜される隊員が続出しつつあった。
(………こうなったら部隊を集めて強行着艦でもするか?いや駄目だ、味方の支援が望めない状況では一時的に圧倒できてもジリ貧になる。そうなればただの自殺行為だ)
既に瑞鶴、白銀丸双方で航空隊の損耗が著しくなっていた。数の上ではエンタープライズの方が搭載機数が多く、特に攻撃隊及び母艦両方を援護する必要がある零戦隊はその長大航続力が裏目に出て補給も後回しにされ、数時間以上の戦闘継続を余儀なくされていた。皇国側のこの状況は、やがて少しずつ合州国側も把握していった。この時点で、相対距離は23000メートル。…………ノースカロライナのハストビア大佐はちらりとエンタープライズを見て、このまま皇国側が更に摩耗すればエンタープライズが全てをかっさらっていく可能性を懸念し出した。ならば———————
「————ニルゼー提督、ここから第二幕だ。我々は砲撃し、提督は航空攻撃する……………どちらが先に
無線でそう伝えた後、ハストビアは稼働する第一、第二砲塔へ簡潔に指示した。
———————観測機のデータを元に発砲せよ、と。
————08時00分:両艦隊の距離23000メートル
※
同日 08時30分
ミッドウェー島沖 第五航空戦隊旗艦 空母『瑞鶴』
「クソが…………」
そう言って、原西司令官は呻いた。………もはや、呻くしか出来なかった。
「て、敵第九斉射、夾叉弾3発!!」
ノースカロライナ砲撃開始から30分後、状況は最悪の一言だった。当初は悲惨なほど低かった敵の砲撃精度も、時間と共に改善されていき、ついに夾叉弾が出た。このままいけば、次の斉射で確実に命中弾が出るだろう。
………更に回避行動をとるか?いや、既に距離は18キロにまで縮まっている。更に速度を落とせば一気に近寄られ、手痛い一撃をくらうのは誰の目にも明らかだった。
瞬間
ズドォォォォォォォォォォン!!!!
「?!…………どこに当たった!!」
「く、駆逐艦夕暮に命中弾!……………ご、轟沈しました」
翔鶴の脇を走っていた駆逐艦夕暮に、第十斉射の16インチ砲弾が命中。艦橋に直撃したそれは近くの魚雷発射管を誘爆させ、一瞬にして夕暮は海の藻屑となってしまった。と、その直後に鈍い衝撃と共に瑞鶴が揺れる。甲板を見ると左舷艦首近くの飛行甲板上で黒煙が上がっていた。どうやらエンタープライズの僚艦重巡ソルトレイクシティの放った8インチ砲弾が命中したらしい。被害は軽微であったが、甲板応急修理のため発着艦は不可能となり
事実上、五航戦にはなす術がなくなってしまった。
「総員、衝撃に備えろ———————」
最早、原西はそれのみを絞り出して言うほかなかった。対し勝利を確信したノースカロライナのハストビア大佐は目を血走らせ吠える。
「チェェェェェックメイト!!ニルゼー閣下には悪いがこれで我々の総取りだ!!消し飛べ野蛮人どもめ!!!!」
そして、装填が完了し、砲口が火を———————————
その時
「————あれは」
気づいたのは、またもターニャだった。既に瑞鶴攻撃隊は壊滅しており、最後の望みを絶たれた彼女ら第一特務航空魔導連隊も失意と共に白銀丸へ帰投していた。舞台の大半が被弾し、未帰還者も多数いる中、一人飛行甲板の艦尾側に立ち、後方を睨んでいた彼女は、その上空より降下……いや落下する極小の点を発見した。
点は、やがて更に小さな点を落とした。それは、砲弾に比すれば誠にゆっくりと落ちていき—————————
————————刹那、ノースカロライナの艦上で大火焔が噴き上がった。
「な、何が起きたァァァァァァ!!!!」
激震の後、艦橋で吠えるハストビア。それに対し、混乱していた幕僚らからやがて衝撃的な事実が伝えられた。
「————に、250キロ爆弾が、艦橋横の5インチ対空砲塔に命中、内部で誘爆が起きた模様で………」
「馬鹿を言え!!敵機は全て潰しただろうが!!それで何故——————」
「————8時の方向より敵大編隊接近!!………?!あ、あれは」
と、そこへもたらされる更なる報せ。………8時?何を馬鹿な五航戦は真南、12時方向だそれで何故そんな方向から—————
ま、まさか、真珠湾の南斗艦隊か?だが、何をどうしようと
「ぜ、
「?!な、何!!」
—————爆装した零戦、後に爆戦と呼ばれたそれは、このミッドウェー海戦における
一つ目の、
人数が多い分どうしても質の面では203に及ばない第一特務航空魔導連隊ですが、それでも世界平均よりは大幅に上の方でしょう。そんな精鋭部隊でさえ正規空母同士のガチの航空戦に巻き込まれるとただでは済みません。
さて次回は、ついに現れた援軍!!だがそのカラクリは?!という訳で視点が変わり真珠湾とミッドウェーの狭間を彷徨う一航艦についてです。乞うご期待!!
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