Re:ゼロから始める転生生活   作:夜はねこ

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ゼロカラアヤマツイセカイセイカツ


 この世界に転生して、私は傍観者になろうと思った。何があろうと、原作とは関わらない。もし関わってしまったとしても、最小限に止めよう、と。

 だがしかしーーーー

 

「エミリア様、どこに行った…?」

 

 正確に言うならば、ラムとエミリア様だ。龍の意匠があしらわれた制服に袖を通した私は、少し目を離した隙に居なくなってしまった二人を探す。いや、ラムはまだいい。しかし、エミリア様は困る。非常に困る。かといって、彼女のことを見かけたか人に聞くのも躊躇われる。

 通りの様子を眺め、どうしようか考える。

 商業街と呼ばれる大通り、そこも他と変わらぬ人波が左右に入り乱れ、王都ルグニカの賑わいを証明する役目を負っている。

 ただ突っ立っているだけでも、十分すぎるほどに喧騒が鼓膜に飛び込む空間だ。

 しかし、その賑やかさの雰囲気が、ふいに違った形に変化する。

 

「――待って! もう! 待ちなさい!!」

 

 一際、大通りの喧騒を高く切り裂いたのは、聞き慣れた銀鈴の声音だった。

 切羽詰まった雰囲気を孕みながらも、どこか声の主の気性の穏やかさを隠し切れずにあるその声は、通りの人波をすり抜ける小柄な影に向けられている。

 

「へへっ」

 

 と、猫のような笑みをこぼし、人の隙間を縫って抜けるのは金髪の少女だ。その手には輝く何かが握られており、一仕事を終えた感がありありと窺える。

 そうして、その少女へ目掛け、通りを青白い輝き――氷槍が飛びかかっていった。

 

「――ッ!!」

 

 思わぬ攻撃に少女が驚き、跳んだり跳ねたりを駆使してその氷槍を躱す。

 その魔法攻撃は人の多い通りで放たれたものであり、突然のことに混乱が生じ、王都の人々は一斉に道を開け、関わり合いになるのは御免だと両手を上げた。

 ずいぶんと統率された動きだ。王都で騒ぎに巻き込まれるのは日常茶飯事、とまで言ってはなんだが、それに近いものがあるのかもしれない。

 

 ともあれ、道を開けた人垣を駆け抜け、姿を見せるのはお目当ての人物。

 

「――――まさか今日って…」

 

 長い銀髪に紫紺の瞳。そんな彼女の目的は、直前にすり抜けた金髪の少女――フェルトだ。フェルトに徽章を奪われ、それを取り返すために彼女は王都を奔走することになる。そしてそれは彼女にとって、避け難い不幸の運命へ続く道なのだ。そして、私にとっても。

 

「原作開始か…」

 

 黒髪に金色の瞳の『聖女』レイラ・ジゼル・グラディス。そして、もう一つ、私に足された称号は『銀髪のハーフエルフ(エミリア)の騎士』だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「──そこまでだ」

 

 

 突如として盗品蔵の屋根を貫いたのは、赤髪の青年。

 身に纏うのは鬼気、それは燃え盛る炎が降臨した様だった。

 腸狩りのククリナイフの一撃を鞘の付いた剣で防いでいた。

 

 穴の空いた屋根から、黒髪金目が遅れて降りてくる。

 

「エミリア様。」

「ジゼル⁉︎どうしてここに…」

「それはこちらの台詞ですよ、まったく。」

 

 ラインハルトの戦いを横目で見つつ、ジゼルはエミリアに駆け寄った。だがこの場の違和感に気づく。主人公 ナツキ・スバルがこの場にいないのだ。ジゼルというイレギュラーが紛れ込んでしまったからなのかと思いつつ。どうやら決着がついたようだった。

 

「相変わらず、デタラメ人間の万国ビックリショーって感じだな、ラインハルト。」

「ありがとう。久しぶりだね、ジゼル。」

「久しぶり……だが、別に褒めてないぞ。そして何故にふくれておられるのですか、エミリア様」

「それよ!ラインハルト達と同じように……昔みたいに接して欲しいの。」

「…なかなか無茶をおっしゃるようで。」

 

 ジゼルとエミリアが可愛らしい口論を見て微笑むラインハルト。そしてそんな光景に痺れを切らしたフェルトが口を開く。

「おい、姉ちゃん。これ返す」

 

 そう言ってフェルトの掌にあったのは、エミリアの徽章だった。

 

 

「……ありがとう。でも、意外……そのまま持って行っちゃうかと思った」

 

「依頼主があんなんじゃな。アタシはただの盗みはしねーし」

 

「どんな理由があっても盗みは駄目だからね?」

 

 そう言って徽章を取ろうとすると……

「え?」

「何してるんだ、ラインハルト?」

 

 ラインハルトはフェルトの手を取り、その赤い目で徽章を見つめていた。

 その男らしからぬ行動に驚きを隠せない。

 

「痛いから……はなせっ……つの」

「なんて事だ……」

 

 驚愕の表情で、まさにありえないといった具合の様子であった。

 

「お、おい! どうしちまったんだよ!」

 

 振りほどこうにも剣聖の力の方が圧倒的に強すぎて逃れられない。

 

「………君の名前は?」

「えっ……ふ、フェルト」

「家名は?」

「アタシは孤児だ。家名なんて大層なものもっちゃいねーよ」

 

 すると深く考え込んだかというと唐突に

「すまないがこれからついてきて欲しい。そして、これに拒否権は与えることが出来ない」

「はぁ!? 何言って……る…………」

 

 手刀を受けたフェルトはこくりとラインハルトの腕の中で倒れ込む。

 

「どういうこと? 一体何を……」

「すみませんが彼女の身柄は僕が預からせて貰います」

「理由って聞いても?」

「……。」

「……ラインハルト」

 

 黙ってしまったラインハルトの名をジゼルが静かに呼ぶと、彼が彼女に向き合って言う。

 

「これにも事情があるんだ。決して悪いようにはしないと約束する」

「ああ」

「正直君とは対立したくない。それはアストレア家の意思でもある。だが、これも運命なのかもしれないな」

 

 自らが抱えるフェルトを見つめながらそう言った。どうやら一身上の都合というもののようだ。

 

「わかった、行け。」

「ジゼル…ありがとう。…エミリア様、すみません。」

「ううん、大丈夫。」

「では」

 

 そう言って剣聖ラインハルトはこの場を後にした。

 

「…何があったのかしら。」

「…ラインハルトのことですから、大丈夫ですよ。」

「うん…」

 

 少し俯いたエミリアに手を差し出して、ジゼルは言った。

「帰るぞ、エミリア」

「‼︎」

 

 エミリアは驚いて顔を上げる。

「二人きりのときだけだからな。」

「うん!」

 

 エミリアは嬉しそうに笑って、話しかける。

 

「ねぇ、ほんとに二人きりのときだけ?パックは?」

「……及第点」

 

 他の人間が見たらどうでもいいような、たわいも無い話。けれど二人は楽しそうに話しながら帰路を歩く。強い風が吹き、二人の髪がたなびく。空に浮かんだ月だけが、彼女たちを見下ろしていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 私達が拠点としている、メイザース領の屋敷。色とりどりの花が咲き乱れ、噴水が鎮座する庭を抜けて扉に手を掛ける。

 重々しく開かれた扉の先で出迎えたのは豪勢な装飾の他にも、瓜二つのメイドがいた。

 黒を基調としたエプロンドレスと、控えめな装飾が施されたホワイトプリム。

 片方は桃色の髪で左目が隠れるような形

なりをしていて、もう片方は水色で右目が隠れるような形をしていた。

 そんな双子のメイドは寸分違わぬ仕草で。

 

「「おかえりなさいませ、エミリア様」」

「うん、少し遅くなったわ」

「いや、違う。どうしてラムがここにいる。いつの間に先に帰ったんだ?」

「バジルならエミリア様を見つけられるでしょう。」

 

 他人任せだった。それから、私の名前はジゼルで、決して緑色の葉の名前じゃない。そう言うと、これよりもひどいあだ名になったので、バジルで妥協している。

 

ーーーー

 

 「……ん」

 

 

 朝の日差しが顔に掛かり、目が覚めた。身体を起こして、ひと伸び。寝覚めの悪い方ではないので、まだ眠たいという事はあまり無い。立ち上がって着替え、窓を開けると庭にエミリアがいた。

 庭に降りて、エミリアに近づくと、突然精霊石が輝き出す。次第に小さな輪郭が生み出され、耳、頭、胴、足、尻尾の順にそれは姿を現した。

 

 

「やぁ、ジゼル。おはよう」

「おはようございます、パック殿。」

 

 私は精霊の血を4分の一引き継いでいる、いうならばクオーターだ。本来、精霊との間に子供が生まれることはない。宿ったとして、かなりの確率で子供は死に至る。だが私は奇跡的に死ぬことなく生まれた。そしてどうやらこの大精霊殿、私のことを遠い親戚程度には思ってくれているらしかった。

 

「ふふ」

「?」

「いやね、起きてからリアが君の話ばかりするものだから。」

「ちょっと、パック!」

「昔みたいに話してくれたって嬉しそうに…」

「もう!」

 

 少し拗ねたように頬を膨らませるエミリアを横目に、二足歩行の猫が寄ってくる。

 

「ありがとね。」

「何がですか?」

「……ちょっと寂しいけど、君のおかげでリアが本来の性格を剥き出しにすることが多くなったから。」

「そんなことは…」

「ううん。やっぱり僕の存在はリアにとって『家族』だから。『友達』っていう、リアの横に並んで手を貸す君の存在は大きいよ。」

「…そう、なれているようにみえますか。」

「ボクが見た感じはね。」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

威厳に満ちたマイクロトフの宣言があり、広間に緊迫感が張り詰める。それは会場の雰囲気を切迫させるのに十分であった。

 この人物が賢人会、そして貴族や騎士においての存在の強さを証明することが出来た瞬間だった。

 ふいにその存在感を増してみせるマイクロトフに、自然と王座の間の全員の注視が集まる。

 九つの席がある内の中央から全員を見渡すと、それぞれに元の立ち位置から散っていた者達が戻っていった。

 四人から五人になった王候補は玉座を背にして一列に、それらを護衛する騎士は対立するように列に並ぶ。

 

「それでは早速、王候補による演説を頂きます。皆様には主張や立場がおありです。それを踏まえて王になる覚悟、その上で何をするつもりでおられるのかが主な内容となります。」

 

 まずはカルステン家当主、クルシュ・カルステン様と騎士フェリックス・アーガイル。今までの国の在り方の否定し、自らが龍となり自分たちの意思で全てを決定し、未来を変える、と。

 それから、プリシラ・バーリエル様と騎士アルデバラン。この国が今抱えていることは王が居ないことなので、自分が即位すれば解決する。今後の苦難もその時に考えれば良いという考えだ。正直ジゼルは頭が痛くなった。

 続いてアナスタシア・ホーシン様と騎士ユリウス・ユークリウス。欲深い彼女は、自分の国が欲しいらしい。強欲ーーーまさにそれに尽きる。

 そして次だ。

「エミリア様、騎士レイラ・ジゼル・グラディス。 そしてロズワール・L・メイザース卿。お願いいたしますーーーーーー」

 

「はい」

「……。」

「はーぁいはい。いんやぁ、こーぅして騎士の介添え人がいるにもかかわらず、私もいるだなんて、場違い感がすごくて困りものだーぁよね?」

 

 

 名前を呼ばれ、緊張の色が濃い表情でエミリアが返事をした。ジゼルとロズワールは、前に出る彼女の斜め後ろで控える。

 そして、あくまで軽々しい調子でロズワールが応じ、傍らのエミリアとジゼルに「ねぇ?」と振り返る。それに対して二人は一切の反応を返さない。

 ロズワールの空気の読めなさにジゼルは突然のことながら苛立っており、エミリアの強張りを思えば、普段通りのリアクションなど期待するべくもない。

 そして、ファーストネームを呼ばないで欲しいなどというジゼルの願いは言える空気ではない。しかし、そのことに関しての負の感情は即座に置き去りにされた。

 なぜなら――、

 一拍……どころか数十秒の沈黙が流れる。

 

「どうかしましたかな?」

「い、いえ……」

 

 まさか……とは思うが。消え入るような小声で。

「ど、どうしようジゼル。何を言うか忘れちゃった」

 どうしようもない阿呆だ。しかしそれも想定の内である。

 私は彼女の背中を軽く押した。

 

「君は君が今、言いたいことを言えばいい。相手に自分が伝えたいことはなんだ?自分の気持ちを吐き出せ。」

「……私の気持ち。」

 

 それは、差別のない世界を作ること。ハーフエルフであることや、生まれがその後の人生の絶対の評価とはならない場所、そんな環境を築くことが、拙いながらもエミリアの願いだ。そうした願いの先にある、エミリアの故郷の解放ーーーエリオール大森林の大地で眠り続ける、氷像と化した仲間たちを救い出すこともまた、彼女の願いである。

 

「そうだ。まずは挨拶からだな。」

 

 不安で揺らいでいた瞳が、強い意志を込めた瞳に変わる。ゆっくりと前を向き、

 

「お初にお目にかかります、賢人会の皆様。私の名前はエミリア。家名はありません。ただのエミリアとお呼びください」

 

 凛とした銀鈴のごとき声音が広間中の鼓膜を揺らし、その名を全員の胸に刻み込む。声に震えはなく、前を見る眼差しにも揺らぎがない。先ほどまでの緊張した様子はどこへ行ったものか、賢人会を目前に己の名を紡いだエミリアの姿は、これまでの候補者と比較しても劣るところがない。

 

 

「エミリア様の騎士、グラディウス家のジゼルです」

 

「騎士レイラ・ジゼル・グラディウスです、賢人会の皆様」

 

 ジゼルの名乗り上げをたしなめるように訂正するマーコスに、ジゼルの刺すような視線が刺さるが、マーコスは頑健な無表情でそれを無視。フェリスの時同様、部下の誰も特別扱いするつもりはないらしい。

 

 

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