――美しい黒髪を長く伸ばした、震えるほど横顔の綺麗な少女だった。
スバルがクルシュ・カルステンの邸宅に入り、すでに二日が経過していた。
邸宅――といってもこの場合、カルステン公爵家であるクルシュの本家という意味ではない。公爵として領地を持つ彼女の本邸は王都にはなく、スバルが厄介になっている屋敷はいわゆる王都滞在中のみ利用される別邸に当たる。
王都の上層――高級住宅の並ぶ貴族街の中でも一際ランクの高い、家々というより屋敷群が立ち並ぶ一角にその屋敷は存在していた。
規模はさすがに田舎の広大な土地を無闇矢鱈に開拓したロズワール邸には及ばないが、内装や装飾品は素人目から見ても同等あるいはそれ以上。
王都という土地で客人を招くことも視野に入れれば、公爵家ともなるとこうした点に気を配ることも必要となってくるのだろう。
単純な成金趣味でないことは、実務主義なクルシュの人となりからそう知れる。必要経費の一環――と考えるには値が張りすぎているとも思うが。
その点、そうした小道具を必要としない庭園のシンプルさが屋敷の主の気質を反映しているようでどこか居心地が良く感じる。
屋敷を囲む植林は庭師の手で丁寧に整えられている他、庭園には背丈の低い草原が広がるのみで無駄が一切ない。ともあれ、庭園のシンプルさはその使用用途に適した形でもあるのだろう。
主な用途は今しがた、スバルもしていたような戦闘訓練を行う場としての役割。そこに目を楽しませる花園など不要とするあたり、花より鉄を好みそうなクルシュの性質を表しているようでもあった。
ーーーーしかし王選の開始が宣言された日、スバルとエミリアが決別した日より三日。
ナツキ・スバルが順調に、腐っているときに気づいたのは、裏庭に視界一面を覆い尽くす花園があることだった。
王都では全く目にしなかった花が咲き誇る花畑。それがクルシュ・カルステンの邸宅の裏にあった。
種類別に綺麗に分けられたその花畑は、自然に咲いた花ではない。敷地内に誰かが種を撒き育てたものであろう。
ここで話は冒頭に戻る。
梳った夜色に染まった黒の長髪。輝くような白い肌。しなやかな肢体に硝子細工のように綺麗な顔立ち。美しい青色の瞳がこちらをのぞく。彼女は、どこかお金持ちに飼われている黒猫と表しても良いぐらいだった。
「・・・・不審者?」
「違うッ!」
綺麗な声で、とんでもないことを言う。
「なら、泥棒?」
「違うし、不審者となんら変わりねーよ!?」
「じゃあ、変態だ!」
「不名誉極まりないね!?」
しかし、スバル的にいいテンポで話せたので、大満足。
「冗談です、ナツキさん。」
「あれ、俺のこと知ってる感じ?」
「はい。黒の短髪、平凡な顔立ち、極め付けにその目つきの悪さ!フェリスさんから聞いていた、ナツキ・スバル像にピタリと当てはまります!」
「すっげー失礼だけど、ホントのことだからなんにも言えねえ!」
スバルの心ににクリティカルヒット!
あのネコミミあとで覚えてろよ!と心で決める。
「私、クルシュ・カルステン様の庭師、ジゼルと申します。お気軽に・・・・『ジゼル様』と呼ぶことを許そう!」
「何キャラ!?」
「本当は嫌ですが、ナツキさんは、クルシュ様のお客様ですので特別に・・・・とくべーつに!『ジゼル』と呼んでも構いませんよ、ふふん」
少女はえっへんと胸を張る。
「威張るとこあった!?」
この少女の情緒不安定さにツッコミがだんだん追いつかなくなってきたし、疲れてきたが、こういうノリは久しぶりのことだった。
「ところで、ナツキさん、迷子ですか?」
「あー、いや。色々あってさ・・・・。」
そう。色々。
なにが悪かったのだろう、とスバルは考える時間があればそう考えてしまうのだ。
嫌だ嫌だと思いながらも、思考はあの日の夕暮に辿り着き、銀色の髪の少女がこちらに背を向けて遠ざかる光景を幾度も回想させる。
なにが悪かったのだろう、とスバルはそれが浮かぶたびに考える。
言葉が過ぎたことはスバル自身も認めるところだ。
畳みかけるような彼女の言葉に追い詰められ、それ以前に肉体が打ちのめされていた影響もあっただろう。本当に口にしたかったこととは乖離した内容が飛び出し、結果的にそれは己と彼女との間を別つ結果を生み出した。
とっさに出てしまった言葉なのだから、その場限りの出任せなのだろうか。
とっさに出てしまったからこそ、心中でいつもたゆたっていた思いなのだろうか。
自分の本心があの場面でどこにあったのか、それはもうわからない。
あの決別の直後に呆然自失となったスバルにとって、次に記憶が再開するのは王城の控えの間からレムに連れられて退室し、クルシュの邸宅へ向かう竜車に同乗させられていた時点まで飛ぶからだ。
自失しているスバルを余所に、クルシュとフェリスがレムと対話していたのがわかった。内容は頭に入ってこなかったが、話している間もレムがこちらの手を握ってくれていたことだけが救いだった。
その温もりを感じられただけで、最後の糸が切れていないことだけは実感することができたから。
「気づいたらここにいて・・・・。まぁ迷子といったら迷子かも、人生の。」
「気持ち悪っ。」
「ひどくね!?」
シリアスに考えてたのに、バッサリと言い切られてちょっと涙目になる。でも確かに人生に酔った人間のポエミーな言い方だったかもしれない。
「・・・・このお花、私が育てたんです。」
「ん?」
「私、ここは何かを思案する時に訪れる場所としては最高の場所だと思います」
「んん?」
「お花、好きですか?あっ、やっぱりなしで、あなたとはこの話、したくないです。」
「えーと、よくわかんないけど、慰めてる?」
「えっ、自意識過剰・・・・。」
なんかこう、冒頭から全て撤回したくなってきた。
「ナツキさん、後でここのお花でお茶を入れて差し上げます。少しはスッキリするかもしれませんよ」
「花で?」
「クルシュ様のお墨付きです。」
後から考えれば、やはりこれが彼女なりの励ましなんだと思った。
ーーーーーーーーーーーー
白鯨を討つ――。
事前交渉が終わり、その討伐の二文字が具体性を帯びてくれば、その後の関係者の動きは素早い。
「こんばんは、ナツキさん」
ふいに声をかけられる。見れば、すぐ近くまで歩み寄ったジゼルが、真剣な眼差しでスバルを見ている。
「あまり言いたくありませんが、ナツキさんにはちょっぴり感謝しています。」
相変わらず、スバルを嫌っているのか、からかっているのかわからないような態度だ。いつもなら大声でリズムよく否定するのだが、ジゼルの言葉には背筋を正される感覚があった。それは先程のヴィルヘルムに似ていてーーー
「敬愛するおじい様に、仇打ちの機会を与えてくださったことを感謝いたします」
「えっと、その……え?」
「改めて。私、ジゼル・アストレアは先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアとヴィルヘルム・ヴァン・アストレアの孫娘にあたります。おばあ様を奪った憎き魔獣を討つ機を、おじい様に与えてくださる温情に感謝を・・・・と、まぁおじい様がすでに言ったことですが。私には戦場に立つ資格がありませんので。・・・・ナツキさん?聞いてます?」
「マジ?」
「はい?」
「本当に!?孫娘ェ!?」
「私、おばあ様似らしいですよ。」
ーーーーーーーー
余談
「ヴィルヘルムさん的に、奥さんと孫娘どっちが可愛いんすか?そっくりなんでしょ?」
「無論、妻です。」
「本人の前でも言っちゃうのか・・・・」
「ナツキさん、私とおばあ様では比べ物になりませんよ。」
「スバルきゅん、ヴィル爺も奥さん大好きだけど、ジゼルちゃんもおばあ様大好きだからそこらへんつついても意味にゃいよ〜」
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プロフィール
名前 ジゼル・アストレア
性別 女性
年齢 17歳
身長 165cm
体重 内緒です
趣味 花の手入れ
能力 光の加護
苦手なもの 救済
その他 実は剣の才があるが、ヴィルヘルムが望まないので剣をふるうことはない。本来の性格も封印し、祖父の望む孫娘として振る舞っている。
人物像
黒である髪色を除けば祖母のテレシアに酷似している。王都で『聖女』と噂の美少女。
実はリゼロの世界に転生した転生者。
このIFでは主人公ナツキ・スバルからも名前で呼ばれている。主人公という生き物が嫌いなのは変わらないが、ネコをかぶっているのでかなりマイルド。もはや誰だコイツレベル。下記のラインハルトのこともあり、人間らしくてマシだと思っている。
戦いを好まない優しい性格を演じているが、実際には傍観者でいたい偽善者。彼女の擬態はスバルの前以外では完璧であり、スバルと関わると少しくずれてしまうので、あまり関わらないように自粛している。
普段は庭師として仕事をしているが草花で薬を作ったり、お茶を作ったり、裏庭で育つ草花を売ったりもしている。花に関しての知識、商売根性は凄まじく、その点においてはアナスタシアからも好ましく思われており、もしかしたらジゼル引き抜き&ユリウスとくっつくルートが発生するかもしれない。
ヴィルヘルムが過去の白鯨討伐戦で妻を亡くし、息子や孫のラインハルトとの関係が破綻した際、ヴィルヘルムはジゼルだけを連れてアストレア家を出奔した。
紆余曲折あってジゼルはクルシュ家の庭師となる。
人間関係
ラインハルト
化け物かな?
一応、兄。しかしヴィルヘルムと兄が折り合いが非常に悪いことから、ぶっちゃけ関わりたくない。なんなら、どこぞの『王は人の心がわからない』ぐらいに思ってるので、この世界線ではあまり好きではない。
ヴィルヘルム
流石です、おじい様。略して、さすおじ。
仲は良好。転生する前から好きなキャラクターであり、妻への愛情深さも敬愛している。祖父の祖母への惚気をよく楽しく聞いている。
ジゼル自身はテレシアに似た戦いを好まない優しい性格を演じているが、ヴィルヘルムはテレシアとジゼルを重ね合わせて見ているわけではない。
面倒なので、ジゼルは家族関係を取り持つことはしない。
ハインケル・アストレア
赤毛に無精髭を生やしたおっさん。
父親なにそれ美味しいの?可哀想な人だとは思っている。
ユリウス
さいゆうのきし。
ジゼルにとってユリウスは、花売りの最初のお客さん。
ユリウスにとってジゼルは、初恋の人であり、今もなお…
『聖人』
親友の話をしようマン
ヴィルヘルムの親友。故人。
特に名前は決まっていない。黒髪。テレシアとは幼なじみ。エリキサに一目惚れ。生涯愛した。
この世界線では、生まれた娘は体が弱く、若くして死んでしまったため娘の旦那はおろか孫も存在していない。ここで彼の家系は区切りを迎えた。
誘精の加護と光の加護を持っている。
エリキサ
わたしの契約精霊。
『聖人』の妻。光を司る人工精霊。ただし、誰に作られたものなのかは不明。金色の髪に金色の瞳。名前は『黄金』という意味。
本来、精霊との間に子供が生まれることはない。宿ったとして、かなりの確率で子供は死に至る。娘が奇跡的に死ぬことなく生まれたが、若くして死んでしまう。『聖人』と愛する娘亡き後、世界を彷徨っていたが、紆余曲折あってジゼルと契約する。しかし、他人に姿を見せることはない。
ジゼルのことを『我が愛し子』として、可愛がっている一方で、ラインハルトの性質から、ラインハルトのことは毛嫌いしている。
また、ジゼルに近づく不当な輩(主に男)には厳しい目を向けているが、ユリウスのことはジゼル愛好家としてなんだかんだ認めている模様。
用語
光の加護
『聖人』のみが持っていた加護。おそらく、エリキサの影響であり、現在ジゼルにはこの加護がある。
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おまけ
サーヴァント化
本編ジゼルがアーチャー
ゼロカラアヤマツイセカイセイカツ路線のジゼルがセイバー
この話のジゼルはキャスター
A 誰だコレ?レベルの人間に育ちます。育つ環境って大事だよネ!
リゼロ3期、めっちゃ良。
ジゼルは基本的に傍観者で関わりたくないので、白鯨戦以降は物語に出てこないんですよね。でも花を愛でてる方のジゼルさんなら…?