買い物も終わり、すっかり王都は夕闇になっていた。
強い風が吹き、ジゼルの黒い髪がたなびく。
空を見上げ、月を見る。うっすらと青白く輝く満月、その美しさはどこか妖しげな魅力をはらんでいる。
確かラインハルトもこの月を見ているのだったかと思いつつ、
「まったく、一波乱ありそうだ。」
その囁きは、彼女を見下ろす月だけにしか届かなかった。
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「ともあれ、けっきょく話はループしてイケメン探しに戻るわけだ。前にちょろっと話した感じだと、衛兵の詰め所だかで聞くのがいいってことだけど……」
初対面のときの会話をどうにか掘り出して、スバルは手掛かりになりそうな意見を提出する。が、これはこれで言っていてあまり信憑性があるとも思えない。
なにせ、詰め所にいるとなると、ラインハルトという人物が町のお巡りさんポジションで安定するということになるが――、
「あんなお巡りさんがほいほいいてたまるか。十中八九、あの野郎は非番のときに町をうろつくのが趣味なだけのちゃんとした騎士様だろうが」
高そうな拵えの剣に、大仰な『剣聖』という二つ名。おまけとばかりにあの戦闘力で一般兵などと言われれば、もはや恐くて二度と王都など歩けるものではない。
そのスバルの意見にエミリアも同感といった様子で小さく頷き、
「私も、ラインハルトが詰め所にいる可能性は低いと思う。でも、本人はいなくても顔つなぎが期待できる人くらいいるんじゃないかしら」
「だよなぁ…。あ。」
「どうしたの、スバル?」
「ああ、いや…初めて会ったときはラインハルト単独だけじゃなかったなぁ、と。」
「?」
「グラディスっていう衛兵黒髪美少女と一緒にいた!そうだ!グラディス‼︎うんうん、こんなところに手掛かりが…。」
「黒髪……ジゼルのこと?」
「エミリアたんも普通にジゼル呼びだぁ!?格差!?」
「ええと、ジゼルはその…人見知りなの。」
「いや絶対違うよね!?エミリアたん、目が超泳いでるよ!?」
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「それはそうと、ジゼルは詰め所にはいないわ。」
「?」
「ジゼルはとても忙しいから、基本的に一つの所には止まってないかも。」
「忙しい…って、え、グラディスも一般兵じゃない感じ!?いや、戦ってるところを見たことがないからなんとも言えないが…確かに言われてみれば?なんかこう…仰々しいようなオーラが…」
「うん、ジゼルは騎士団副団長の補佐と騎士団の司令官よ。」
「マジか…お偉いさんじゃねえか…。ぐ…年が近そうなのに俺とは全然違うな…。これこそが格差!」
「?ジゼルはスバルよりも歳上のはずよ。確か、25歳は超えて…」
「はぁ!?え、嘘だろ?」
「本当よ。」
「……童顔ってレベルじゃねえぞ!?」