「――皆様方、お揃いになられました。これより、賢人会の方々が入場されます」
スバルとエミリアの話し合いを遮るように、王座の間の扉が開かれる。
音に振り向くスバル。正面、大扉を開いて最初に入ってきたのは、入場前に横柄な少女と会話を交わした騎士――マーコスと呼ばれていただろうか。
頑健さを感じさせる表を被り直した兜の下に隠し、堂々たる態度で歩を進める。その姿はまさにお伽噺で見る騎士そのものであり、自然と背筋を正されてしまうような威圧感をスバルすらも受けるほどだ。
そうして歩く彼の背後に、数名の老齢の団体が続いている。
全員が場と身分に則した装いに身を包んでおり、振舞いと物腰からかなり位の高い人物たちなのだろうと察せられる。どの顔にも長く重い経験が深い皺となって刻まれており、威厳ある佇まいが端々から感じられた。
その団体の中でも一際目を引くのが、集団の真ん中を歩く白髪の老人であった。
腰は曲がっていない様子だが、背丈はスバルより頭ひとつほど低い。真っ白に色の抜け落ちた白髪が長く伸ばされ、その髪と長さを競うようにヒゲもまた長く長く整えられている。身長の低さもあって危うく引きずりそうなハラハラ感があるが、そんな印象を切り捨てるかのような『刃』の切れ味を思わせる眼光の持ち主。
「あの方が賢人会の代表――つまり、王不在の現在のルグニカにおいて、最大の発言力を持つ人物。マイクロトフ様ってわーぁけ」
思わず声を失うスバルに対し、隣に並ぶロズワールが密やかな声で注釈する。
その内容になるほど、とスバルは納得。ただものでないのが一目でわかる人物は、やはり現実ただものではなかったらしい。
王不在のルグニカの代表、そして賢人会という団体の名前にも聞いた覚えがある。
「確か王様に代わって国の運営とかしてる機関、だったっけか」
「名目上は補佐なんだーぁけどね。今は実際の運営も賢人会頼み……とはいえ、王家が存命のときからそのあたりはあんまり変わっちゃいないんだけどさ」
呟きに対して肩をすくめるロズワールの応答。ようは国を動かす能力に欠けた先王の時代から、賢人会がほぼ運営を任されてきたという実績があるらしい。
それが事実なのかもしれないが、それをほぼ部外者のスバルにさらっとこぼすことも、ましてや王座の間でそれをやらかすのも豪胆としかいいようがない。
その後ろから少し遅れて見知った顔が通り過ぎた。漆黒の美しい髪に金色の瞳の少女。いや、確か少女という年齢ではないのだったか。『聖女』レイラ・ジゼル・グラディスである。彼女は騎士団の制服を着ていない。スバルはそれを怪訝な目で見つめる。
「グラディス…?」
「あのね、スバル。彼女は賢人会の一人でもあるの。」
「役職持ちすぎじゃない、グラディスさん!?社畜魂すごいな!?……つまり、今日は騎士団の一人としてじゃなくて賢人会の一人としてここにいる訳か…。」
あの老人達の中に一人だけいる美女…とくだらないことを考える。
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「では本来の議題――王選のことについて、候補者の皆様を交えて、賢人会の開催をここに提言いたします」
威厳に満ちたマイクロトフの宣言があり、広間に緊迫感が張り詰める。
ここまでも弛緩したやり取りをしていたわけではないが、国の頂点である賢人会を蔑にして話を進めていたのは事実。ここへきて、ふいにその存在感を増してみせるマイクロトフに、自然と王座の間の全員の注視が集まる。
それを受け、マイクロトフは動じることなくヒゲを撫でながら、
「賢人会の開催の提言にあたり、まず他の同志に賛同をいただきたく」
壇上に並ぶ十の席、その中央で周囲の老人たちを見渡すマイクロトフ。その彼の言葉に、これまで言葉もなく存在感がほぼ消えていた老人たちも首肯。
「マイクロトフ殿の提言に、同じく賢人会の権限をもって賛同します」
「同じく」
「同じく賛同しましょう」
「私も賛同する」
最後に答えたのはジゼル。完全に表情が抜け落ち、その顔は無に等しい。
老人たちの同意にマイクロトフが顎を引く。
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「それにしても、グラディスが賢人会の一人だったとは驚いたぜ。って、様付けしたほうが良いのか?」
「いや…ジゼル様がそう呼べと言ったのだからそのままでいいと思うよ、スバル。」
「おぉ。ん?ラインハルトは様付け?」
「あの日は、休日なのだから様付けも敬語もやめてくれと命令されていたからね。」
「ふむふむ。」
「それにー、ジゼル様ならスバルきゅんが様付けすると気持ち悪いぐらい言うかも。」
話を戻し、揶揄うように言ったフェリスからは悪意しか感じなかった。
「辛辣!流石にそれは…いや、言うかも。うん、何故か俺だけ名前で呼ぶの許されてないしな…。」
「それは……珍しい。」
今まで会話に混じらなかったユリウスでさえも、驚きを隠せなかったようだ。
「俺何かしたかな……。」
初対面のことを振り返ってみても何も思い出せない。というか何もしていない、はずだ。最初から何故か睨まれていたし、これは彼女に直接聞くしかなさそうである。