「はじめまして、賢人会の皆々様、ご機嫌麗しゅう。この度は、大変なご迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳なく思い候!」
腰を落とし、右手を背中へ、左手を掌を上にして前へ出し、古式的な礼法に則る。日本古来に伝わる礼儀作法「お控えなすって」の異世界仕様だ。
誰からの注意も入らないのをしばし沈黙を作って確認し、それからスバルはファーストコンタクトの成立を確信、そのまま流れるような動きで手足を動かす。
足のスタンスを広げ、腰の角度を傾け、左手は傾けた腰に、右手は高く天井を指差すようにして華麗にポージング。
そして、
「俺の名前はナツキ・スバル! ロズワール邸の下男にして、こちらにおわす王候補――エミリア様の一の騎士!」
叫び、それから掲げていた右手を下ろして指を鳴らし、歯を光らせてウィンクを決めながら、
「どうぞ、お見知りおきをば、よしなに」
己の立ち位置をはっきりとさせるために、場違いなスバルの参戦が始まる。
空気は先ほどのパックの出現のときを越えて、急速に冷え込んでいくのを感じる。
それは同時に、無表情を貫いていたジゼルが一瞬、盛大に顔をしかめた瞬間でもあったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「報告いたします。広間での会談の終了後、騎士ユリウスが練兵場の使用を申請。受諾した現在、練兵場にて騎士ユリウスと……」
ちらと、報告の最中に衛兵の視線が部屋の隅――そこに所在なさげに立つ、エミリアの方へと向けられた。
その視線を受け、エミリアはふいに話を振られたような唐突感に目を瞬かせる。
そんな彼女の驚きが疑問に変わり、それが明確な言葉となって意味を結ぶ前に、正しい情報が衛兵によってもたらされる。
「――エミリア様の従者である、ナツキ・スバル殿が木剣にて模擬戦を行っております」
「……へぇ」
背筋を伸ばし切り、衛兵は今まさに見てきたばかりの内容をここにぶちまける。
それを聞き、顎に手を当てて感嘆の吐息を漏らすのはアルだった。他のものも多かれ少なかれ、困惑以外の感情を瞳に、あるいは表情に浮かべている。そしてまた、ジゼルも自分の意思ではどうしようもない感情を抱いていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
ナツキ・スバルとユリウスの戦い…いや、最早戦いと呼べるものではないーーーを見たとき、私は嫌悪しか抱かなかった。地面に伏せたナツキ・スバルを見て、
「愚か者が。」
と呟く。
それは誰の耳にも入ることはなかった。