Re:ゼロから始める転生生活   作:夜はねこ

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同盟交渉/前哨

「――スバル殿」

 

 レムと喜びを交換するスバルに、ふいに声がかけられた。

 見れば、すぐ近くまで歩み寄ったヴィルヘルムが、真剣な眼差しでスバルを見ている。自然、背筋を正される感覚にスバルが彼を見上げると、老人は一呼吸の間を置いて、

 

「感謝を」

 

 と、短く告げて、その場に膝をついて礼の形を取った。

 その突然の振舞いに、スバルは驚きを隠せない。が、その反応をするのはスバルだけであり、他の面々はそれぞれがヴィルヘルムの行いに一定の理解を示した顔をしていた。レムですら、アナスタシアですらだ。

 

「我が主君、クルシュ様へのものと同等の感謝を。この至らぬ我が身に、仇打ちの機会を与えてくださったことを感謝いたします」

 

「えっと、その……え?」

 

「すでに賢明なスバル殿は見抜いておいででしょうが、改めて」

 

 ヴィルヘルムはスバルの戸惑いを無視し、腰から剣を鞘ごと外す。

 そして剣を床に置き、その上に手を添える最敬礼の形を取ると、

 

「以前に名乗ったトリアスは、昔の家名です。先代の剣聖、テレシア・ヴァン・アストレアを妻に娶り、剣聖の家系の末席を汚した身――それが私、ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアです」

 

 息を継ぎ、ヴィルヘルムはその双眸に覇気に満ちた輝きを宿し、

 

「妻と友人を奪った憎き魔獣を討つ機を、この老体に与えてくださる温情に感謝を。」

 

 深く深く、沁み入るようなヴィルヘルムの言葉。

 その言葉に室内の全員が聞き入り、ただスバルの応じる答えを皆が待つ。

 

 その期待に背中押されて、スバルは小さく息を吸うと、

 

「あ、ああ。も、もちろん知ってたけど。当然、それ込みでクルシュさんが白鯨討伐に乗っかってくるって思ってたわけで――」

 

「ナツキ・スバル」

 

 微妙に噛みながらの答えにクルシュが割り込む。

 彼女はたじろぐスバルを見据えて、いまだ手を取り合った姿勢のまま小声で、

 

「嘘の風が吹いているぞ、卿から」

 

 と、初めて繕い切れなかったスバルの嘘を見抜いて、『風見の加護』の効力を証明してみせたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なぁ、そういや奥さんの敵だっていうのはわかったけど。友人って?」

 

「……スバル殿は、ジゼル様……。『聖女』のことをご存知ですか。」

 

 スバルは、思ってもみなかった名前を出されて返答に詰まった。以前のループにて散々なことを言われたのを思い出す。今の次元で言われたことではないが、嫌われているのは間違いないのだ。何の因果かアレ以来、彼女はここに現れることはなかった。

 

「ああ、知ってるよ。グラディスだろ。」

 

「はい。ジゼル様の祖父、『聖人』は私の親友とも呼べる存在でした。」

 

「だから仲が良いのか。」

 

「?」

 

「いや、えーっと、グラディスは奥さんの話とか聞くの好きそうだなって話。」

 

「ええ。妻を尊敬していると。彼女は妻と同じく、花を愛でるのが好きな女性です。」

 

「そ…れは、意外だった。」

 

「騎士団の敷地内や自分の家の敷地に自ら花を植えているそうです。」

 

ーーーーーーーーー

 

庭園に次々と関係者が集まり始める。

 

 先頭を切り、姿を見せたのは戦着に衣を変えたヴィルヘルムだ。

 軽装備の老剣士は急所のみを守る最低限の防具だけを身につけ、腰には左右に計六本の細身の剣を携えての姿。

 後ろに続くフェリスは女性用と思しき曲線型の騎士甲冑に身を包み、武装はといえば短剣が腰に備えつけてあるのみ。自身の能力を鑑みて、後方支援に徹すると割り切っているからこその姿勢といえる。

 

 遅れて入ってきたのはくすんだ金髪の持ち主、ラッセルである。徹夜明けの表情には疲労があるが、双眸だけが爛々と輝いていて意気込みの程がうかがえよう。

 すでに先んじて庭園に到着していたアナスタシアとラッセルが合流し、なにがしかの会話を始めるのを横目に、巨躯を揺らすリカードが獰猛に口を歪めて笑う。

 

 主要の人物たちが揃い始めると、続々と続くのはスバルが名前を知らない歴戦の兵たちだ。クルシュが編成した討伐隊のメンバーなのだろう。主だった面子だけがここに呼び出されたのか、その人数は十名ほどとかなり少ない。それも、

 

「なんかずいぶん、若さの足りないメンバーに見えるな」

 

 ぼそり、と思い浮かんだ感想をそのまま口にするスバル。

 目の前、討伐隊のメンバーがずらりとヴィルヘルムの後ろに列を為しているのだが、その彼らの平均年齢がだいぶ高めに思えるのだ。筆頭のヴィルヘルムをして六十を越えているのだが、付き従う騎士たちも五十代を下回ってはいまい。

 ヴィルヘルムの強さを身を持って知る身として、彼の老剣士の技量への不安はないつもりだが、他の面々まではどうなのか――。

 

「全員、白鯨に縁のある方々だそうですよ」

 

「レムか」

 

「はい。スバルくんのレムです」

 

 言いながら、ふいに湧くように隣に舞い戻ったレムにスバルは視線を向ける。

 常と同じ無表情、戦に出向くというのに変わらない格好はメイド服のままで、朝の合流時にその点を指摘してみれば、

 

「この給仕服はロズワール様の手製で、防護の加護がある戦闘用メイド服です。ですからなんの心配もありませんよ」

 

 とのことだ。余所行き用、炊事用、雑務用、遊興用に戦闘用と幅広い。なのに選択肢はメイド服一択なのだから、ロズワールの性癖はさもありなん。

 ともあれ、

 

「白鯨に縁ってことは……過去の討伐隊の関係者とか、そのへんか」

 

「一戦を退いている方が多いようですけど、ヴィルヘルム様の呼びかけに従って集まられたとか。錬度も士気も、十分以上に感じられます」

 

「復讐に燃える老兵たちってシチュエーションか……燃えるな」

 

 そう口にする反面で、過去に白鯨との因縁を持つ彼らが今回の討伐隊に加わっていることも、昨夜のフェリスが口にしたクルシュの『優しさ』なのだろうか。

 それで作戦自体の雲行きが危うくなるなら本末転倒だろうが、そのあたりの部分に関して妥協するような性格ではあるまい。ヴィルヘルムの執念もまた、足手まといを軽々しく戦場に連れ出すような生易しいものではないはずだ。

 場合によっては戦場に辿り着く前に、余計な足枷は間引くぐらいしかねない。

 

 その中でふと、黒髪が見えた。ジゼルだ。彼女もここに来てたのか、と思い目を逸らす。ヴィルヘルムから彼女の祖父のことを聞いた。彼女も白鯨との因縁がある一人なのだ。しかし、彼女の嫌いだという宣言はスバルにとってかなりダメージがあったようで彼女のことをまともにみることが出来なかった。

 

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