Re:ゼロから始める転生生活   作:夜はねこ

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白鯨攻略戦2

 戦端が開かれてから今までの戦闘経過、 その圧倒的な戦果――これ以上ない完璧に近い奇襲の成功に、白鯨は反撃すらままならない。このまま、なにも手出しさせずに被害ゼロで切り抜けられるのではあるまいか。

 

「かなり効いた感じがするぜ! このままいけるんじゃねぇか!?」

 

 スバルは未だ爆炎吹き荒れる野の中で、レムと地竜に跨り、戦況を見ていた。勿論、彼にそれを見分ける力は無くーーー何となくではあるが、勝利は近いところにあるような気がしてきた。実際、ここまで白鯨を完全に押さえ込み、少なくないダメージを与えている。以前に編成された討伐隊の実力が足りなかったか、純粋にこちらの準備が万端でこのときを迎えられたからかは不明だが、早くも勝利を目前にしているような高揚感があった。

 炎の余波が届かないところまで距離を開け、土煙を上げて停止する地竜の背中でスバルが快哉に拳を握る。

 しかしそんなスバルに対して、レムは悔しそうに未だ空に浮く鯨を見ながら言った。

 

 「いいえ。――本当なら、今ので地に落としてしまいたかった」

 

 首を振るレムが悔しげに、空に浮かぶ燃えるケダモノを睨みつける。

 彼女の言葉につられて顔を上げ、スバルは訝しげに目を細めながら白鯨を観察。白い体毛に燃え移った炎で全身を炙られ、身をよじっているが鎮火の気配はない。全身の至るところに斬撃や魔鉱石による負傷が広がっており、血を滴らせる姿は目に見えて痛々しいものがあった。しかし、

 

「高度は……下がってねぇ」

 

 依然、白鯨の肉体は見上げた空の中にある。幾つもの箇所から血を流し、放たれた炎の魔術により炙られた体は見ていて痛々しいものがある。それで尚、魔獣は高度を維持しているのだ。

 ライガーの跳躍で届かない距離ではないが、それでも単身人が挑むにははるか高み。なにより、地に引き落とさなくては次の作戦に移ることができない。

 

 

 

「あんなに攻撃ぶち込んだってのにーーー」

 

「初っ端に切れる手札はぜぇんぶ切ったった。それでも落ちんゆうなら、こら向こうのタフさが一枚上手やっちゅう話やな」

 

 大ナタを肩に担ぎ、返り血に体毛を濡らすリカードが隣にくる。

 ヒゲを震わせて白鯨を見上げながら、白鯨の防御力が予想以上だったため、リカードは不満そうに鼻を鳴らす。

 

「あのカタさは相当やねんな。岩盤叩いとる感じやな。当たって見た感じ、物理的な攻撃はワイくらいの馬鹿力かヴィルヘルムはんの剣技ーーー或いは」

 

 リカードがそこで言葉を区切ると、未だ白鯨の背で奮戦するヴィルヘルム───では無く。

 ちょうど今、白鯨に光の柱を撃ち込み、爆発を引き起こした女を見た。彼女は戦場を縦横無尽に走り回り、魔獣を狙撃していた。

 

「あの姉ちゃんがどう立ち回るか、にかかっとるな」

 

 彼女は戦場において、常に最適な位置から白鯨の体を的確に射抜いている。

 

「グラディス、そんなにすげえのか?」

「高々光の魔法であの皮膚を貫くて、馬鹿げとるわ」

 

 そもそもそれは、白鯨の硬さを考えれば異常なことであり。

 

「それに、どうやったら白鯨の上に立つワイらの事が見えんねん」

 

 彼女は討伐戦が開始してから、いくつもの光を放っている。その光は時には体を貫き、時には金色の炎を上げて肌を焦がす。

 もちろんリカードやヴィルヘルムが白鯨の背中に立っている時も同様に、だ。

 その時は即座に立ち位置を変え、魔法が貫通した先に彼らが居ないような位置に調整しながら射っていた。それが異常なのだ。その空間把握能力は、目の善し悪しという次元を超えている。

 

「あれはさすがにバケモンすぎんで、流石に」

「しかも地竜とかに乗ってるわけじゃねぇしな……」

 

 加えて、彼女の移動手段は地竜やライガーでなく自らの脚だった。

 疲れを避けるためか、そもそも彼女も人の身だからなのか。地竜やライガーよりも機動力は落ちるがーーーその運動量は人外クラスだった。

 しかし広大なフィールドで、それはどれほど疲れるものなのか。そんな戦い方を続けていたら、パンクする未来はスバルでも見える。

 

「それにしてもグラディスの光が偶に爆発してるんだけど、あれって魔法なのか?」

「いえ…少なくともあれはゴーア系の魔法ではありません」

 

 先程の攻撃で燃え盛る金の炎を見た。

 レムの見解通り、彼女の扱う火炎はゴーアの延長線上には無いものだ。魔力の使い方も放出の仕方も、そして火炎の色つまり温度も何もかもが異なる。

 ーーーそれは彼女の加護と契約した精霊による魔力の暴発だ。その威力は凄まじいものだが───白鯨は未だ尚耐えきっている。

 その理由は常に鯨の背にて力闘しているヴィルヘルムや、戦場の人々をその爆発に巻き込む可能性が大きく、最大の力量を発せないためであった。故に、範囲を小さめに攻撃していたことで白鯨に致命傷には至っておらず。

 リカードは

 

「ま。姉ちゃんのことはええ!」

 

 そう言って思考を切り替えた。

 今重要なのは、彼女の魔法についての考察では無く白鯨を地に落とす戦術だ。

 

「けどな、あの姉ちゃんの一撃はどっちにしろ重要やな」

「どっちにしてもってのはどういうことだ?」

「ああ、そりゃ白鯨のタフさ考えたらわかることやな」

「さっき言ってた、物理攻撃があんまし効かないとか何とかってのと関係があるのか?」

 

 彼らの攻撃に耐え、剣が体の中まで貫いているというのに未だ地に落ちないのだから。白鯨の物理耐性は確かに埒外だろう。

 

「せやな。あの白い皮膚ごと斬ったりすんのはワイらしか無理やろうけどーーーーー」

「あ、その下の皮膚なら行けるってわけか」

 

 リカードの言葉を聞き、空を浮かぶ鯨を見ると。

 

「……確かにその通りっぽいな」

 

 彼の言う通り、白鯨の焼かれた皮膚は黒ずんでいる。

 一発目にぶち込んだレムの氷塊はあくまで物理的な攻撃の要素が強かった。魔法が関与しているのはマナからそれを生成し、発射する所まで。加えて氷は魔法で作られたものなので白鯨の皮膚では魔力を散らされ、そして氷自体は厚い皮膚に防がれる。

 一方、ジゼルが放つ金色の炎や火属性の魔法は、白鯨の肌を直接焦がす。マナを散らす白い肌を焼き飛ばし、下皮を露出させられればーーーそれが反撃の契機になりうる。

 

「リカードさんとヴィルヘルムさんじゃなくても剣が、いやそれだけじゃなく魔法も届くってことかーーー!」

「そういうこっちゃ」

「ですがそれでは、それ迄戦況は動かない。そういうことですよね」

「せやな。そんな訳やから、それまでにワイらができるだけ余力削っとかなーーー」

「ーーーー」

 

 その時、白鯨の声がこだました。それは威嚇でも威圧でもなくーーー痛みに唸る声。同時に兵員の声も、高らかに上がる。

 その声につられて見れば、

 

「おぉおお!ヴィルヘルムさん、すげぇ!!」

 

 ヴィルヘルムが白鯨の右目を抉り取っているではないか。白鯨は痛みからか巨大な体を何度も何度も畝らせていたーーーが、鬼はそれを全く意に介さず。そのまま見事に眼球を切り離し、

 

「っと、これはまずいでーーー!」

 

 鯨から取り出された黄色い球体共々、重力に従って落ちてゆくヴィルヘルム。それを白鯨の巨体が追随していた。

 このままでは、ヴィルヘルムは魔獣と激突し破壊的な衝撃を受けるか、或いはその口に収まることになってしまう。それは、何の加護も持たないヴィルヘルムにとっては十分致命傷になりうる。

 空中は足場が無く、地上よりも身動きは不自由だ。ヴィルヘルムもその例に嵌る。当然剣を構えるがそれ以外に出来ることも無く。このままでは地面に到達するより早く、白鯨と接触することとなる。

 

「助けに行ったる!」

 

 ヴィルヘルムが今いる高さは地竜では到底届かない。しかしライガーなら或いは。

 こうしている間も白鯨は自身の一部を持って行かれた怒りから、グングン速度を増してヴィルヘルムを追う。

 リカードは急いでライガーを一度唸らせ、駆け出すーーーその瞬間。

 

「ーーーー」

 

 白鯨の横腹に絶大な金色の炎が吹き荒れ、魔獣は弾かれたように上空へ逃げた。

 

「ーーーうおっ、すげぇ!」

 

 その爆炎は今までのそれより数段上の威力であり。鉄壁を誇っていた白鯨すらも思わず引いてしまうほどだった。

 その跡には皮膚すら残らず。傷から覗いていた肉が、その威力を物語っていた。その一撃は、ゴーア系最高魔法よりも凄まじい焼け跡を残した。

 

「こら、姉ちゃん頼りになる!」

 

 それを放ったのはジゼルだ。見れば、天高い所へ逃げる白鯨を真っ直ぐ見ていた。

 

「ーーーさてと。続き、やってくるわ。とりあえずヴィルヘルムさんらと連携してどうにか余力削るわ」

 

 ジゼルの強力な一撃にリカードは獣らしく獰猛に笑って見せ、今度こそライガーを白鯨の元へ向かわせた。

 現状、白鯨に物理攻撃をたたき込めるのは四人のみ。ヴィルヘルム、リカード、ジゼル。そしてここにいるレムも可能だろう。鉄球でゴリ押しすれば、表皮を削れるはずだ。

 

「…現状だと火力が集中してっから、近づいてくと逆に俺らが邪魔になるな。レム、魔法はぶち込めねぇのか?」

 

「さっきと同規模だと詠唱に時間がかかるのと……やっぱり、マナが散らされてレムの魔法ではダメージが通りません。あれ以下の威力ではそもそも火力不足ですから」

 

「くそ…レムの魔法だと相性が悪いのか」

 

 スバルが歯ぎしりをして白鯨を見るとーー

 

「お、おい。レム……見えるか?」

「はい。あれは…白鯨が……震えている?」

 

 ジゼルの攻撃を喰らった白鯨は空高くに逃げ、そのまま降りてこなかった。まさかこの猛攻撃に尻込みでもして、このまま退散でもするのだろうか。

 

 

 

 ーーーそんな考えは当然甘かった。

 

 

 

「ーーーー総員、警戒せよッッ!!」

 

 

 

 そんなことあるはずもない。

 風を浴び、急加速に振られる体を慌てて固定し、スバルは激しい揺れの上で白鯨の姿を目に焼き付ける。――その変化、その変貌、それは。

 

「――――!!」

 

 咆哮を上げ、片目を抉られた怒りに残る隻眼が真っ赤に染まる。

 血色に染まった目で眼下を睥睨し、その狂態に慌てて距離を取り始める討伐隊の方へと体を傾ける白鯨。そして、白鯨の肉体に変化が生まれる。

 

 ――最初にそれが生じた瞬間、スバルは言葉にし難い嫌悪感を堪え切れなかった。

 

 白鯨の口が開いたのだ。

 否、その言葉は正しいようで正しくない。事実を正確に告げるなら、こうだ。

 

 ――白鯨の全身から無数の口が生じ、それが一斉に歯を剥き出して開いたのだ。

 

「――――ッ!!」

「……っ。……レムにしっかりと捕まっていてください」

 

 金切り声のような咆哮が平原の大気を高く震動させ、その声の届くものの精神を直接爪で掻き毟るような不快感を与える。

 その咆哮に人間はもちろん、地竜やライガーといった動物たちまでも背筋を震わせる。本能に呼びかけるそれは足をすくませ、自然、無防備をさらす獲物へと変える。

 

 そして、

 

「――――ぁ」

 

 

 白鯨の全身の口という口から、世界を白に染め上げる『霧』が放出される。

 それは瞬く間に見渡す限りの平原に降り注ぎ、確保したはずの光を世界から奪い、真っ白に塗り潰していく。

 

 

 ――『霧』の魔獣の咆哮が上がり、討伐戦の難易度が跳ね上がる。

 

 同時に始まる、白鯨討伐第二ラウンド。ーーーーーーー難易度は飛躍的に、上がる。

 

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