男は目の前の大剣を握る男にある一つの恐怖感を抱いていた。
このにやりと不気味に笑うこの青年にある種の恐怖を。
男は一度だけこの恐怖を味わっていたことを思い出す。
そうだあの時だ。戦闘まじかというこんな時に薄れていた過去の記憶が鮮明になってくる。
この記憶は昔、男がまだこの盗賊団を立ち上げる前、今の団よりはるかに規模が大きい別の盗賊団に部下として所属していた頃のことだ。
王族の馬車を襲うという大規模な計画が練られた夜。突然その盗賊団は壊滅した。
理由は簡単だ。
王族のスパイによる情報の漏れから始まり、その夜に突然の襲撃を受けたのである。
襲う側の人間がまさか襲われるとは考えておらず、突然の襲撃に虚を突かれたが大規模だけに人数は多く組織としての行動や対応も早かった。
ましてや、相手は単身で乗り込んできた。馬鹿だ。この盗賊団に所属する誰しもが思った。
だが長身を誇る男は、飛んでくる矢にも動じず、数少ないものの魔法を扱うことができるものの攻撃にさえも一歩も動じず、唯々前に進んできた。
攻撃が通じない。
男にたどり着くあともう少しの距離でなぜか粉々になってしまうのだ。それこそ粒子分解するほどの粒と化している。
盗賊達は自信の目を疑った。
だが、一瞬停止したものの、そこは熟練の盗賊団。魔導士相手にやりなれたものが相手を取り男に接近戦を持ち込んだ。だがこれも男に跳ね除けられてしまう。近づくものから一撃で次々にのせられ、曲刀の刃も拳も、皆男に届かない。男は止まらない。
そしてついに自信が守る最終ラインへと到達した長身の男。その人物を遠くから見ていたものの顔まで見てなかった男はついにその顔につく瞳をみてしまう。
「うっ…」
男はうめきその野獣に近い瞳に一歩引いた。震えた。危険だと本能が逃げろと頭に警告を出している。情けないが命あっての人生だ。男は間違いなく逃げようとした。だがすべてが遅く男は飲み込まれた。
男の殺気に。
オーラに。
攻撃に。
すべてに。
「いかすかねぇな…。一国のお嬢様をこんな屈強な男総出で襲うなんてなぁいかすかねぇ」
その言葉を最後に男は気を失い、次に目が覚めた時はアジトがぼろぼろに崩壊し、団の頭が連行された後だった。
その時の記憶が露わになった。この青年はあの時の男によく似ている。表情にはあの時と違い緊迫したものはないもの瞳に映るそれはまさに野獣。
「…っ!」
そしてこの男同じ過ちを繰り返してしまう。
そう一歩引いてしまい、逃亡を図ろうとした。やっぱりだめだ。この瞳を見てしまうと敵わない無理だ、逃げようとどうしても弱腰になってしまう。団の長になったとしてもそれは同じだった。
青年が動いた。
先ほど肩に担いでいた大剣を下段に構え、腰を低くし突撃してきたのだ。なんとも単調な動き。だが男達にとってそれは唐突であり、青年は速かった。
ーーーガスッ
自身の横にいる仲間が宙に舞っていた。
「ッ!」
横に体を向けるとその大剣を下段から振り上げた青年の姿が映った。男はすぐさま行動に移ろうとしたが体を向けた瞬間にはすでに青年はこちらの姿を捉えていた。
青年と視線がぶつかる。自分を捉える黄金の瞳に自然と男は今まで培ってきた経験と勘により青年の攻撃から身を守ろうと言わば、野生本能が赴くままに防御の姿勢をとっていた。
青年はその振り上げた重量感ある大剣を男目掛けて振り下ろした。
曲刀と大剣がぶつかり火花を散らす。
ーーーバキッ
男にとって嫌な音。それもこの場面にとって最悪ともいえる音が自身の耳へと響いた。
一瞬均衡はしていたものの振り下ろされる大剣と構える曲刀の力の差は歴然。たとえ力に自信があるこの男でも得物同士の状況によっては負けることもある。其れが今だった。
刀身半ばで折れる曲刀。勢いを殺しきれてない大剣の刃が徐々に男に近づいてきた。だめだ殺される。
そして男に刃が到達するととてつもない衝撃が左肩から足元まで響いた。
体は吹き飛ばされ、木に衝突。背中を強打し意識が徐々に薄れてゆくのがわかった。
だが自分は生きている。なぜだ。なぜ死んでいない。
その疑問が残るも男は再び、徐々に狭くなる視界に自分を吹き飛ばしたであろう青年の顔が入る。
またしても彼は不気味ににやりと笑っていた。
あぁ自分はいっぱいくわされたのだ。男は意識を手放した。
ΘΘΘΘΘ
俺は今突き飛ばした男を見やる。置き上げって来ない。
どうやら本当に意識を手放してくれたらしい。
よかったあまり食いつかれなくてと戦闘中にも関わらず俺は安堵した。
師匠の教え通りに作戦はうまくいったようだ。
『いいかグラン。絶対的強者からの殺気にはな。人間、本能的に防御の構えをとってしまう。そしたらもう戦闘なんて関係ねぇよ。そいつの防御を軽く超える攻撃で意識を刈り取ったらもうそいつは起きてこねぇ。抵抗する気持ちをそぐっていう意味でもあるがな。まぁ絶対的な力の差がねぇとできねぇことだが、魔導士以外の相手だったらまず通用するだろう覚えとくといいぞ』
とか言われていたが、今までそんな教えが必要性あることなど経験してなかったもののここぞとばかりにつかえたこの技法を教えてくれた師匠には感謝だな。相当お気楽な人だけど一応戦いに関しては凄まじい人だしな。
そう、あくまでこいつらは魔導士ではない。俺の魔法では、力を込めて魔法を使うと殺し兼ねないので、手加減はするのだが、この場は早急に収めたいものだ。エルザ達とも合流しなければならないのだ。
実際すでに二人ほど無力化したもののどうやらぞろぞろと小汚い男どもが出てくるに10人以上はいそうである。先ほど”範囲索敵”に引っかかった数が15ほどだったので残り20と言ったところか。
増えているのだが俺を襲ってこないところをみると何かに戸惑っている様子だ。顔に先ほどとはちがう驚愕に満ちた顔が張り付いている。
「か、頭がやられた…」
どうやら俺が気絶させたどちらかがこの団体の頭らしい。
ほう、それは都合がよかった。一瞬でも隙ができれば都合がいい。
俺の周りで固まった男達の腹に一閃。その場で一回転し凪った大剣《ブレード》が男達を通り過ぎ、まともに一撃を受けた奴から後方へと吹き飛んでゆく。
「あぐっ」「うがっぁ!」
木にぶつかるものも居れば、地を転がり気絶するものもいる。
手加減はしているつもりだ。殺しては後味悪いしな。
「うあぁーーーーッ!」
ようやく硬直から解け攻撃してくるものもいるが、その攻撃は単調そのもの、大剣の腹で受け止め弾いたのち斜め上段からの切り下げで地へと伏していく。
だがまだまだ予想より多くの敵が潜んでいそうだ。
ほら油断したところをサクッってのを待っているんだろう。
一々探し出して、攻撃を仕掛けるのも面倒だし、そのうちに逃げられて新手がくるのも面倒だ。仕方ない。
俺は一つ溜息をつくと、上空へと”大剣《ブレード》”を放り投げた。
ΘΘΘΘΘ
「ん?」
先ほど乗船してきた船を放置し、”妖精の尻尾”の新人、金髪の女性であり星霊魔導士という、”星霊”という生物を使役し、戦う魔法を使用するルーシィとピースと同類であり、魔法も同じ”翼”を使用するハッピーのこの度のルール違反者2名を捕獲という名の合流を果たしたエルザは、近くにある森に、馴染みのある魔力を感じた。
「グランか?」
その呟きにいち早く反応したのは、エルザに尻尾を掴まれ宙に逆さまにいる青猫ことハッピーだ。
「え?!グランもいるの?!」
「あぁ、お前達を連れ戻しにな」
「えぇーッ!んじゃおいら達これじゃぁ本当に逃げられな」
「何か言ったか?」
「ひぃなんでもありませんエルザ様!」
この軍門に下ったハッピーは放っておくとしてルーシィにとって初めて聞く名前に当てはまる人物がおらず自然とはてなマークを浮かべてしまう。だが、目の前でこの冷徹であるエルザに声を掛けるのも怖い。だがしかし気になる。震える声を抑え、ルーシィは声を振り絞り、エルザへと声を掛けた。
「え、エルザっさ、ん?」
「なんだ?」
「あ、あのグランていう方はどのような方なの、なんでしょう」
言い直したのは本当今のエルザの顔が怖いという証拠であろう。
それに気にせず、そうだな説明も必要だなと、少し表情が和らいだエルザにルーシィはほっと安堵する。
「”グラン=ガイアウス”私達と同じ妖精の尻尾でありS級魔導士の一人だ」
「え、でもここ最近で私は見てないんだけど…」
「グランはねー、10年クエストに行ってたんだー!グランはすごいよ!エルザと同じくらい強いんだ!」
「いや、グランは間違いなく、私より上だ。奴はいつも自分を謙遜している」
「10年クエスト…?」
聞き覚えのない言葉にルーシィは再度疑問符を浮かべた。何しろそのクエスト事体彼女にとって遠いものなのだから。
「10年クエスト。お前たちが今着ているS級クエストのもう1ランク上であるSS級クエストのそのまた上。マスターにしか認められた者だけが受けられる代物だ」
「っ!」
そんな人が来ているのか、想像するだけで強面な人が来ている、屈強な人が私達を捕まえにきたんだとさらに恐怖を浮かべ、涙目になるルーシィに関係なく、エルザはルーシィを捕獲する手綱を引き、森の中を進む。
ーードン!
森の中を少し進むと一際大きな音がした。少し先を見て目を凝らしたエルザは自身が考えが間違ってなかったことに至った。自身がライバルとでももしくは目標と思える強者が細めた視界に入ったのだ。
「っふやはりな」
エルザの発した声を聴き、ルーシィも自身の目を細め木々の間から見える光景を視界に入れた後今日何度目だろう再び驚愕の表情を浮かべた。
自分達となんら変わりない歳相応容姿だが、次々に屈強な男達をすべて一撃で伸していくその姿にある種の違和感を感じていたルーシィだったが、彼が突然武器を上空へと放り投げたことにより、状況は一変した。
先ほどまで隠れていたであろう男たちがぞろぞろと彼の周りから出始めたのだ。数の利を生かし物量で押そうということなのだろう。男達は余裕な表情を浮かべ彼に近づく。
肝心の彼は、瞳をつぶり、完全に下を向いているのだ。
「え、えーッ!あの人武器放り投げちゃったよ!?た、助けに」
「心配など不要だ」
「大丈夫だよルーシィー」
その状況を見て助け出そうともしない二人から静止の声がかかった。
なんで?なんでたすけようとしないの?と。
だが続けて説明するハッピーの話の内容を聞き、その次に飛び込んでくる光景を視界にいれ彼女は納得した。
「グランの魔法はね、自身の魔力から放たれる砂から武器を生成する。つまりあの大剣もグランの魔力そのものでできている砂なんだ。それを自由に操ることもグランにとって造作もないこと」
ハッピーの声と青年の声らしきものが響く。
「”サンド・レイン”ッ!!」
ーーーーズドドドドド!!
雨のように降りしきる砂に耐えきれず青年に近づいていた男達は次々に砂に潰されてゆく。
「砂事体が武器と化す、それがグランの魔法”砂武装《サンドウェポン》”なんだ」
それに、と付け加えると今度はエルザが青年の情報を語る。
「味方にも敵にも傷一つつけず、事なきを得たことがあったらしい。そこから得た名が」
「”妖精の騎士《パラム・ナイト》”」
「妖精の騎士…」
その降りしきる砂の中に堂々と佇む彼に名づけられた二つ名だった。
妖精の騎士でなんでパラム・ナイトと読むのか…。私でもわかりません…はい…。
まぁたぶんなんとなくです!ちゃんと語訳を行えば、別の意味がでてくるのですが、まぁ雰囲気でのりこえてくだせい!w