彼女持ちJK、苦手だったクラスメイトと浮気関係になる   作:如月饅頭

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私の嫌いなもの、好きなもの

 そこまで嫌いじゃなかったものでも、自分が嫌いな相手と関係のある物だと知った瞬間に嫌いになってしまう事があると思う。

 私にとっての『それ』は『金髪』だ。

 他にも『それ』になり得る物はいくらでもありそうだったが、いつも最初に視界に入ってくる金髪の印象が強くていつの間にかイコールで結ばれていた。

 私の嫌いなクラスメイトである、折屋香織(おりやかおり)のトレードマークとして。

 

 

 

「それじゃあ皆さん、さようなら。また明日ね」

 

 

 

 そう自分のグループに告げて、私達のグループの前を通り過ぎていく金色。

 腰まで流れるその金色だけでなく、柔らかい印象を与える垂れ目も、高校2年生にしては少し低めの身長も、折屋香織を形作っている全ての要素が私の世界を侵略してくる。

 私以外の全てのクラスメイトは、その特別に見惚れているみたいだが……私にとっては綺麗とか可愛い以前に、彼女に対する苦手意識が先行して顔をしかめてしまう。

 

 

 

「……」

「おーい、ゆいー? 顔が怖くなってるよー?」

「え、あぁ……ごめん」

「相変わらず、ゆいちゃんは折屋さん苦手なんだね」

「苦手……なのかしら?」

「そりゃあこんな公立の名ばかり進学校に居るような子じゃないからねぇ。ゆいが嫉妬する気持ちもわかるよ。折屋ちゃんがいなければ、鈴原ゆいがカーストトップだったろうし」

 

 

 

 別にカーストなんて興味ないし、嫉妬とかいう話じゃないとは思う……のだけど。

 確かに折屋香織は100人に聞いて100人が美少女に分類するレベルだと思うが、私も負けないレベルの容姿は持っていると自負している。私は茶髪のボブカットに釣り目とジャンルが違うから一概には言えないが。

 じゃあこんな普通の高校にまず入ってこないようなイイトコのお嬢様らしい、という話が気に食わないのかと言われると……それも違う気がする。

 

 今日もいつもの取り巻きグループと別れて放課後を過ごすらしい。

 取り巻き達はこれから街へ遊びに繰り出すらしいが、折屋香織は1人でさっさと帰ってしまった。以前に少し耳にした話だと、放課後は家から決められた習い事で忙しいらしい。

 グループの中心である折屋香織が抜けたのに遊びに繰り出すなんて、随分と仲の良い事だ。最初の頃は取り巻きの男連中の気持ちが露骨に萎えているのが見て分かったが、今では残っている女連中とペラペラ喋りながら教室から出て行った。

 男連中の態度を見て不満気な顔をしていた女連中もケラケラ笑っているし、実は折屋香織がいなくてもあのグループは問題ない……それどころか、いなくなってからの方が本来の姿のような空気すら感じる。

 

 

 

「……ま、いっか。私達も帰りましょう?」

「はーい。……と言っても、今日はゆい都合悪いんだよね?」

「うん。だから一緒なのは校門までになるわね」

「別の高校に行っちゃったお友達と予定があるんだっけ? 私も何人かそういう子いるけど、全然会えなくなっちゃうよね」

「そうなのよねぇ……中学までは毎日遊んでたのに、高校で別れてからは休日しか時間取れなくなっちゃって。こうして平日に遊ぶのなんて久しぶり」

「休日には毎週遊んでるの……? それだけでも相当だと思うよ?」

 

 

 

 そんな事を話していると、あっという間に校門まで来てしまった。

 帰宅部同盟を組んでいる2人はイマドキのJKらしく、これから街を目的もなく歩き回るらしい。

 私は目的地まで歩きで行くつもりだが、2人はバスで街まで移動するのでここでお別れだ。

 高校前に備え付けてあるバス停で後数分の予定時間を潰す2人と軽く別れの挨拶をして、徒歩15分ほどの目的地へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで嫌いじゃなかったものでも、自分が嫌いな相手と関係のある物だと知った瞬間に嫌いになってしまう事があると思う。

 私にとっての『それ』は『金髪』だ。

 

 それと同じように、そこまで好きじゃなかったものでも、自分が好きな相手と関係のある物だと知った瞬間に好きになってしまう事もあると思う。

 私にとっての『それ』は……『黒髪』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、瞳」

「ううん。こっちこそごめんね、わざわざこっちまで来てもらって」

「歩いて15分しないくらいだし、へーきへーき」

 

 

 

 私の通っている進学校を自称しているだけの普通の公立高校とは違い、勉強と部活動の両方に力を入れている地元でも有名な私立女子高校。

 そこが私の今日の目的地で、そこには黒髪ロングの美少女がいた。

 

 

 

「こうして平日に並んで歩くのなんて久しぶりだね」

「そうね……高校が別になったのがやっぱり大きいなぁ」

「私が部活に忙しいのもあるけど、やっぱりそこだよねぇ」

「部活は中学からやってたもんね。でも私じゃあ瞳のとこには入れなかったしなぁ……瞳みたいに部活で推薦とかもないし、頭もそこまでだし、何より私立なんて入らせてくれないし」

 

 

 

 桜井瞳(さくらいひとみ)……私の幼馴染み。

 家が隣で同い年の娘がという縁から、昔から家族ぐるみの付き合いだった。

 私達にとっては物心ついてからずっと近くにいた存在で、実の姉妹のように育ってきた。

 昔から腰まで届く綺麗な黒髪と真珠のようにキラキラとした目が可愛い子だったが、最近は顔立ちも大人びてきたのとすらりとした身長も相まって近所でも評判の美人さんだ。

 姉妹の片割れである私はというと、瞳には劣るけど……くらいの評価は頂いている。私としても不満も反論もないので甘んじて受け入れている。

 

 まぁそんな近所で噂の2人で通っていた私達は小学校中学校と共に連れ添って来たわけだけど、高校で初めて別々の道に進むことになった。

 瞳は中学から始めた音楽の才能を認められて、この辺で1番どころか全国にも出場したことがある有名校から推薦を貰っていた。

 対する私は特に他人に誇れるような特技もなく、近場の高校に入学しようと思っていたわけで……そこで初めて瞳と顔を合わせない期間があった。

 それまでにもちょっとしたケンカみたいな事はあったけど、家は隣同士だし学校どころかクラスまで一緒だったから嫌でも顔を合わせることになった。

 ただその時は卒業直前というのもあって進学先が決まって自由登校だった私達は、卒業式までの2週間弱をお互いの姿を見ることなく過ごした。

 

 

 

「今日はどうする? 瞳から誘ってくれたけど、何か行きたいとこあったりとかする?」

「えっとね、駅前にできたっていうタピオカ屋さんに行きたいかな。他は明日も学校あるし、あんまり長く歩けないから……ゆいちゃんに任せるよ」

「りょーかい。じゃあまずは瞳の目的地から行こっか」

 

 

 

 右を歩く瞳の左手を握る。

 昔から何度もしてきた行為だけど、この年齢になってもまだやっている人達はそんなにいないと思う。女同士とか関係なく。

 とはいえ私達にとっては大事なことだ。1年と少し前に比べると会う機会が減ったから、というのもあるが、私達の関係を考えればこれくらい普通だと思う。

 いや、私達の関係を出して考えると、昔から何度もしてきた行為というのは嘘かもしれない。

 ただの幼馴染みから変化した1年と少し前……女同士でも恋人になった中学の卒業式。

 

 顔を合わせないまま迎えた中学の卒業式。

 特に何もなく終えたそれは、私にとってそれ程思い出に残るものではなかった。

 なぜなら中学を卒業するという人生に1度のイベントなんかよりも、もっと大事なイベントがあったから。

 私の幼馴染みが、私の恋人になった日だから。

 

 

 

「……私とゆいちゃん、どういう風に見られてるのかな」

「仲の良い友達でしょ。近所の人だけじゃなくて、小中で一緒だった奴らならそう言うと思うよ」

「ははは、確かにべったりだったもんねぇ。クラスも9年一緒だったし」

「そうそう。それに周り見ると、手どころか腕まで組んでる女子高生いるし。私達なんてまだまだよ」

「腕を組んで歩いてる子達が全員付き合っているわけじゃないだろうし、ただの友達同士でそこまでできるなんて凄いなぁ……私なんて最近やっと手を繋ぐのに慣れてきたのに」

「ははっ、私も。今まで何回も手なんて繋いできたのにね。こうして付き合ってみると全然意味が違うや」

 

 

 

 そう頬を赤らめて笑う瞳は、自分の彼女とかいう贔屓目を抜きにしても魅力的に映った。今でも惚れているが、今ので3回くらい惚れ直したかもしれない。

 笑う時に垂れ気味の目を猫みたいに細めるのも、形の良い眉毛を少し困ったように寄せるのも、手で上品に口元を隠して笑うのも全て絵になるのは顔が良い女の特権だろう。

 顔が良い女……そこで頭に思い浮かんだ金色のせいで、私は顔を顰めることになった。

 

 思えば、折屋香織と瞳はどこか似ている気がする。

 髪の色は金と黒、身長は目測だが15cm以上離れている気がするし見た目の共通点はそこまで多いわけではないが……身に纏っている上品さとか、目に見えないところが似ている気がしてきた。

 本来なら私のところより、瞳の通っている高校にでも通っていた方がよっぽど『ぽい』からか。

 私はなんでここまで折屋香織の事が気に食わないのかと思って入学から1年と少し過ごしてきたわけだが、今やっと悩みが解決した気がする。

 

 

 

「ゆいちゃん? 急に怖い顔してどうしたの……? 私、何かやっちゃった?」

「あ、ううん。瞳は何も悪くないよ。ただちょっと、あんま仲良くないクラスメイトの事を思い出してただけで」

「……ふーん。ゆいちゃんは彼女といるのに、違う人のこと考えるんだ」

「え、いやちょっと待って!? 仲良くないクラスメイトだよ? しかもその子、女なんだけど……それでも?」

「私を見て違う子を連想したって時点でアウトだよ。罰としてゆいちゃんにはキス1回を要求します」

「いやいや、ここ街中。手にはタピオカ。ていうかキスが罰扱いでいいのか!?」

「急なラップで誤魔化そうとしても駄目だよ。……とりあえず、そこのカラオケボックスに入ろ?」

 

 

 

 瞳に手を引かれて近くにあったカラオケ店に連行される……さっきまでと違って、手を繋いでても嬉しくない。

 ていうかここ、私のバイト先なんだけど。なんでバイト休みの日までバイト先に来ないといけないの。

 

 

 

「瞳さん? せめておうちまで待てませんこと?」

「待てませんこと。ほら、早く早く」

「ここってカメラ付いてるって知ってた? ほら、家だと誰も見てないし家の方がいいよ?」

「前に、カメラなんて付いてても何か起きない限り見ないんだよねー、って言ってたの忘れてないからね」

 

 

 

 その後、私は嫉妬する瞳に唇を吸われ続けた。

 意外と嫉妬深いらしい瞳の新たな一面が見れて嬉しいけど、2時間もキスし続けるのは口元がベタベタになるし唇が腫れた気がするしでもう勘弁してほしい。

 関係ないけど、このせいでタピオカがちょっと苦手になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったよ。久しぶりにゆいちゃんと外で遊べて嬉しかった」

「私も楽しかった。あと瞳の嫉妬が怖いのもわかった」

「浮気するゆいちゃんが悪いんですー」

 

 

 

 口を尖らせながら、いわれのない罪で私を責める瞳と互いの家の前で別れる。

 桜井家の玄関の向こうに消える瞳を見送り、私も鈴原家に帰る。

 帰りの挨拶に返事をする母親の声を後ろに、自室のある2階へと階段をのぼった。

 

 

 

「瞳と折屋香織が似てる、かぁ」

 

 

 

 制服のままベッドにダイブすると、さっきまで意図的に避けていた話題が私の中に再び浮かび上がった。

 自分の彼女に似ているから苦手でした、というのも意味が分からない。だけどたぶん関係ない話じゃあないと思う。

 そもそも私は折屋香織の事をよく知らない。1年以上クラスメイトをやってきたわけだが、あの子が同じグループで話している姿もあまり思い出せないくらいだ。

 放課後は確かに別行動をしているが、彼女がグループで浮いているようには見えない。私が所属しているグループではないから、確かな話はわからないが。それでも私の見える範囲と噂で聞く範囲では、そんな様子はない。

 

 ていうか、彼女は喜ぶのだろうか? 怒るのだろうか? 泣くのだろうか? 笑うのだろうか?

 折屋香織はロボットだ、という話は聞かないから感情はあるはずだが……ただのクラスメイトという関係では、それすら確かではない。

 

 

 

「わっかんない……折屋香織がわっかんない……」

 

 

 

 なんでただのクラスメイト、というか苦手にしていた相手の事をここまで考えているのだろう。

 先程までは瞳から濡れ衣を着せられたと思っていたが、これだと本当に浮気みたいだ。

 

 

 

「うん、この話終わり。私にとって良い事なんてない」

 

 

 

 ——この時の私はまだ、前日に彼女と2時間キスした場所で泣いている折屋香織とエンカウントする事になるとは夢にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

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