彼女持ちJK、苦手だったクラスメイトと浮気関係になる 作:如月饅頭
高校2年の春といえば、1年の頃と比べて入学直後の緊張もなければ3年と違い受験のプレッシャーもなく、1番気楽な時期といっても過言ではないだろう。
学校によっては新年度の度にクラス替えがあるかもしれないが、うちは1年から3年までクラスが固定なためにクラス替えの楽しみもクラス内のグループ作りの手間もない。
私はクラス替えに楽しみを見出せなかった側の人間だから、3年間クラスが固定だという事実も特に感じることはない。1年の最初に自分と別のクラスメイト、もしくはクラスメイト同士で大ゲンカしたとかなら気まずい3年間になるが、そんな事はなく自分の所属グループも作れたしで山もなければ谷もない平穏な高校生活だ。
いや、嘘。
山なし谷なしだけど気に障る障害物はあった。
自分の教室へ続く廊下を歩きながら、なんで朝から自分で気分を下げているんだと自戒する。
昨日、あの金色の事は『わかんない』で結論付けたはずだ。それなのに次の日の朝にまた話を蒸し返すなんて私は頭が悪いのか? 一応テストで平均点以上は取れているけど、勉強と地頭は別の話だろうし。
10数年生きてきて初めて自分の頭の出来に疑問を持ったが、無事に自分の教室にたどり着けるだけの頭はあったみたいだ。
扉を開けるとクラスメイトは既に半数以上が登校していた。私はここを選んだ最大の理由、近所であるというメリットを存分に活かして徒歩でギリギリの登校をする毎日。私より遅く教室に入ってくるのは大きく分けて3つ、朝練のある部活に所属しているか私より近くに住んでいるか遅刻ルートかだ。
既に登校して数人の男女と会話している金髪の生徒——ちなみにうちのクラス、というかうちの高校に金髪は1人だけだ。染めてる生徒もいない——を視界に居れないようにして自分の席へと向かう。
「おはよ。昨日のデートの感想期待です、ゆいの旦那」
「おはよう、ゆいちゃん」
着席すると早速やってきた黒髪ショート女と茶髪ロング女。どちらも私のグループ所属の友人だ。
黒髪ショート女が花岡まち。悪い奴じゃないけどノリが軽いというか適当というか、所謂イマドキのJKをやっている。中学までは運動部に所属していたらしいけど、運動部特有の縦社会に嫌気がさして高校では帰宅部を選択したらしい。うちのグループで最初に発言するのは大体まちから。
茶髪ロングが佐崎あやめ。パーマもかけないで毛先がクルクルしているから、よくギャルに間違われるがうちのグループでは1歩引いたまとめ役をしてくれている。私もまちに付き合うと変なノリで会話を続けてしまうため、あやめには助かっている。ただギャルではないけど、中学の頃は少しやんちゃしていたらしい。今を知っていると信じられない。
「誰が旦那だ。ただ適当に歩いてタピオカ飲んでカラオケ行って解散よ。そっちはどうせ、昨日もゲーセンでしょ?」
「そりゃあもちろん。ゲーセン荒らしの花岡まちといえば、この私の事さ」
「そんな不名誉な二つ名なんて今すぐゴミ箱に捨てなさい」
「昨日もまちちゃん、1回のクレーンゲームで2個同時にぬいぐるみ取ってたよね」
「何それ可能なの?」
「私の中に眠る闇の力をもってすれば造作もない事よ……代償はゲーセンへの出禁」
「流石に、大きすぎる力と比例した代償ね」
「くっ、沈まれ……我が右手に宿る暗黒邪悪第六天魔王……」
「あれ? 昨日は神聖十三使徒の一・ミカエルじゃなかったっけ?」
「日によって担当者が変わるシステムです。ミカエルは今日休みなので別の者が対応します」
「けっこうしっかりしてるな!」
「ところでこれ、いつまで続くの?」
私が聞きたい。
朝からまちの変なノリに付き合ってしまった。昨日はあれから瞳と折屋香織の事を考えて寝不足……というわけでもなく、ばっちり7時間睡眠を決めているが。それでも平日朝はテンションが上がらないもので、毎日登校するときは億劫だ。
だから毎朝絡んでくる友人や、教室の各所で盛り上がっている彼ら彼女らが少し羨ましくなる。
このクラスにもグループはいくつかあるが、とりわけ教室で盛り上がっているグループは……と考え、結論付けたところには金色があった。教室に入ってから意図的に無視していたので、今日初めてそれを視認した。
折屋香織のグループは男2、女3の男女混成グループだ。
どこにでもあるような例に漏れず、男は運動部の主力だったり顔が良かったり。女は顔が良かったり顔が良かったりする。ただの顔の良いグループな気もするが、たぶん私が彼ら彼女らの事をよく知らないからだと思いたい。世の中顔が全てだとか知らない。
そのグループの中でも折屋香織は中心、というか折屋香織の下に残りの4人がいるイメージ。四天王を勝ち進んだ後のチャンピオンポジション的な。
「まーたゆいは折屋ちゃんの事を見てる」
「……別に、そんな事ないし」
「じゃーあ、こーんな怖い顔して誰の事見てたんだい? うん? まちちゃんに教えなさ―い!」
私の両頬がまちの両手に挟み込まれて、ぐにぐにと弄ばれる。私のほっぺたを合い挽き肉か餅にでも思っているのだろうか、この女は。
やられっぱなしは腹が立つのでまちの鼻をつまんでやった。ちょうどいいところにあるのが悪いんだ。
朝から意図せずに変顔バトルを繰り広げる私達に我関せずのスタイルを取っていたあやめが、そういえばと切り出す。
「そういえば、昨日ゲーセンに折屋さんみたいな人がいたんだ」
「あぁ、そういえばいたねぇ。折屋ちゃん似の不審者」
折屋香織似の不審者。
私の中ではどう考えてもイコールで繋がらないそれが、鼻をつままれているせいで鼻声のまちの声でリピートされる。
折屋香織といえば金髪、お嬢様、眉目秀麗、才色兼備などなど……ほんとに容姿の事しか感想にないが、不審者の要素なんて出てこない。どうせまちの適当話だろう。
「黒いつば付きのキャップに黒いサングラス、それに黒いパーカーを着た綺麗な金髪の女の子が昨日ゲーセンにいたの」
「うん、それは不審者だ。間違いない」
なんだその黒づくめの女は。高校生探偵を後ろから襲って毒薬を飲ませた奴らの仲間だったりするのか。それとも春は陽気に浮かれて不審者が発生しやすいらしいし、折屋香織も春で頭がおかしくなったのか。
「ていうかそれって本当に折屋香織だったの? 昨日は取り巻き達と遊びに行かずに、先に帰ってたじゃない」
「私達も最初見た時は信じられなかったけど、この辺であんな綺麗な金髪の人なんて折屋さんくらいしかいないと思うよ」
「まぁなんでゲーセンにいるのかとか、その服装はなんだとか、色々と謎な部分はあるけどね」
あの折屋香織が変装(?)をして1人でゲーセン通いなんてねぇ。
ちらりと、自分のグループで取り巻き達と談笑している彼女を見ても全然イメージが湧いてこない。
結局その日もいつも通り、私達は同じクラスにいても会話をするどころか視線を交わす事もなく1日が終わった。
◇
「お先失礼します」
「はーい、鈴原ちゃんおつかれさまー」
金欠学生である私は今日もバイトに勤しんでいた。
帰宅部同盟を組んでいる私達グループであるが、バイトなどで放課後が埋まる事も度々あるので集合率は高くない。なので予定があった日くらいは皆で遊びに行こうくらいの話だ。
私としてもそれくらいでちょうどいい。最優先はどうしても彼女である瞳になってしまうし、恋と友情のどちらを取るかと聞かれたら、まぁ恋を選ぶだろう。
まちとあやめは彼氏もいないみたいで、2人共にバイトが無い日は放課後によく出かけている。私も予定が空いていれば2人、ないしどちらかと遊びに出かけるが。
でもどうやら2人はある程度休みを相談して調整しているらしい。……もしかして彼氏がいる話を聞かないのは、まちとあやめが付き合っているからなのでは。と疑っている時期もあった。
それも毎回2人でゲーセンに出かけた話を聞かされる身になってみると、ただまちの遊び相手になってくれているだけのように感じる。私はまちと2人でゲーセンに行った時に、もう絶対に2人では行かないと本人に直接伝えたからあやめに甘えているだけだろう。
……元々ゲームは得意じゃないのに手加減もしないまちが悪いんだ。手加減されたらそれはそれで腹が立つけど、好きでもなく勝てもしないものにお金をかけるほど私は裕福ではない。
裕福という単語に反応して頭の隅でチラついた金色は無視することにして、さっさと家に帰ろうとした時。
先程お疲れさまと返してくれた店長が、監視カメラから送られてくる映像をじっと見ている光景がひどく気になった。
カラオケボックスのカメラなんて暇つぶしに見るくらいでいいと教えてくれた店長、その言葉通りに私は店長が真面目にカメラを見ている姿を見たことがなかった。今の、今までは。
だから気になったのであって、決してカメラから送られている映像の中で主張する黒い人型の影と、影の周りをチラチラと輝く金色が眩しいそれが気になるわけではない。
「店長、どうしたんですか。真面目にカメラなんて見ちゃって」
「えぇ、ちょっとね……この子、部屋に入ってから注文もしなければ歌いもしないでこのままなのよ。服装も黒づくめで変な子だなぁって思ってたんだけど、ちょっと怖いわね……私にしか見えない幽霊だったりする?」
「私にも見えるので店長しか見えないわけではないですね。幽霊ってとこは否定できませんけど」
軽い冗談のつもりだったのだが、店長は顔色を変えて除霊に詳しい知り合いに連絡するとか言い出した。なんだその胡散臭い知り合いは。
しかしこのカメラから送られてくる映像の女、今朝あやめから聞いた折屋香織似の不審者と特徴が一致するのが困った。
黒いつば付きのキャップに黒いサングラス、それに黒いフード付きパーカーを着た綺麗な金髪……うん、見事に。ソファの上に体育座りをして膝に顔を埋めているからわかりづらいけど。
これが本当に折屋香織なのかはわからないし、仮に本物だとしてもどうすればいいのか。
今日も彼女は取り巻き達を置いて1人でさっさと帰ったし、なんでこんなところにいるのかと私が問うのもおかしな話だ。私と折屋香織はクラスでも会話をしないどころか、目すらまともに合わせない関係なのに。今更どんな顔をして彼女に干渉すればいいのか、教えてくれる人は誰もいなくて。
それよりも店長がありもしない心霊現象を作り上げて(この表現をかっこいいと思ってしまうのは、私の中にある厨二心のせいだろうか)胡散臭い知り合いに連絡を付ける前に、私が例の部屋に赴いて真実を確かめるべきだろう。幽霊騒ぎでこのバイト先のイメージが悪くなられても困る。
「店長、もしかしたらここに映ってるの私の知り合いかもしれません」
「えっ!? 鈴原ちゃんって幽霊の知り合いがいるの!?」
「そんなわけないでしょう!? ……クラスメイト似ている気がするんで、実際に部屋に行ってみます」
「ほ、本当に……? 気を付けてね、幽霊だったらすぐよんで!」
「ありえない話だと思いますが、その時はお願いします」
◇
ノックなんてせずにドアノブを回して部屋に入った。今の私は隣の部屋に間違えて入った客の気持ちだ。バイト上がりなのでもう制服に着替えているし、店員として入ったわけでもない。
急に空いた扉に驚き、こちらを見る不審者(仮名:折屋香織)。こちらを見ると言っても、その顔には真っ黒いサングラスがかけられているわけで、視線が合う事はない……いや、改めて何このファッション。なんで私、バイト先のカラオケボックスで全身黒づくめの女と向かい合ってるわけ? しかもプライベートで。
「す、鈴原さん……?」
こちらの名前を知っている。
この時点でこの不審者(仮名:折屋香織)は折屋香織(不審者の姿)で確定だろう。
「ち、違うのこれは!」
「何が?」
何が違うのだろうか?
自分のグループと別れて1人でここにいる事が? その不審者丸出しな黒づくめの事が? それとも私は折屋香織じゃないですって事? 最後のはマジで店長が暴走してしまうので、私としてはその意味不明な服装の事であってほしい。
「何がって、それは……」
「うん」
「そ、それは……」
「うん」
「それは……ぐすっ」
「うん……うん?」
「ぐすっ、ぐすぅ」
ちょっと待って。急に泣き出すの待って。
泣いた女の子の相手なんて瞳の相手くらいしかしたことないけど、そういう時は私がいつも悪かったから私が謝って終わりだった。
でもなんで折屋香織が泣き出したの? 私悪い事してなくない?
ただちょっと雰囲気悪いクラスメイトが、急に自分の入ってた部屋に入ってきて、腕組みしながらちょっと(上から)問いかけただけじゃん。
……うん、私が悪いね。
「待って、折屋さん待って。泣くのやめて」
「うん……ぐすっ。ごめんね、ずびっ。目の前で泣かれても、ぐすぐすっ。不快だよね、ずびずびっ」
「私が悪者みたいな言い方やめて!?」
「ふえぇぇぇん!」
「あぁ、違くて! 私が悪いんだけど! とりあえず泣き止んで!」
この後すぐに、私を心配してカメラで様子を見ていた店長が入ってきたことで一旦場は収まったけど。
店を出た私は、サングラスを外したことで泣き腫らした目を晒している折屋香織を置いてさよならするわけにもいかず。どうすればいいのかと途方に暮れることになった。