どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第九十五章

 

「邪魔するよ」

「いらっしゃーい♪

 もうじき用意できるから、座って待っててー」

 

 バインダーから聞こえていたのと同じ声が、こちらまで届く。

 

「お邪魔します」

 

 挨拶をして部屋に入る。──ほぅ、ダイニングキッチンか。隣の部屋に台所が見えて、そこから夕餉(ゆうげ )の薫りが漂ってくる。

 

 私達がいるこちらの部屋には、オシャレなテーブルクロスをかけた食卓が中央にある。部屋の隅を見ると、それより二回り小さい食卓がある。

 2人で使うには、中央の食卓は大きすぎる。たぶん部屋の隅に寄せられた食卓が、普段使っているものだろう。中央にある食卓は、今みたいな来客用かな。

 

 モタリケさんは既に中央の食卓の席に着いている。私達の背後で、部屋に入ってこないメレオロンが待機していた。

 ウラヌスはそちらを親指で差し、

 

「モタリケ。

 悪いんだけど、肌を見られたくないヤツが1人いるんだわ。

 なんとか顔を合わせずに同席させたいんだけど」

「は?

 ……ああ、なんかやけに顔隠してるのがいたな。

 あれ、でも2人いなかったか?」

「1人はこの子だよ。

 こっちも肌を見せたくないから、ちょっと隠してる」

「こんばんは……」

 

 ウラヌスに紹介され、怖々(こわごわ)挨拶するシーム。ちょっと緊張してるな……初顔合わせでもないけど、面と向かって話すのは初めてだしな。

 

「ああ、こんばんは。

 確かに子供ぐらいの身長だったヤツがいたな。

 もう1人の方は、なんでまた?」

「詮索するなよ。

 で、どうなんだ?」

「んー……」

「モリー!

 だったら仕切り、持ってきてあげれば!」

 

 キッチンから声。って、モリー?

 

「あー……面倒だなぁ」

 

 モタリケさんがぼりぼり頭をかく。

 

「いいから早く! でないとゴハン抜き!」

「勘弁してくれよ……

 分かったよ、運んでくる」

 

 億劫そうに立ち上がり、モタリケさんは私達が入ってきた部屋の扉から出て行く。

 

「モリーって……」

 

 私がぼんやりつぶやくと、ウラヌスは沈痛な表情で首を振り、

 

「……モタリケとダーリンを合わせた合成語」

 

 ぉぅ……きかなきゃよかった。

 

 

 

 しばらくすると、ガチャガチャ音を立ててモタリケさんが戻ってきた。

 ウラヌスが廊下へ顔を出し、

 

「あ、モタリケ。

 ちょっと待て、いまセッティングするから」

 

 そう言うと、中央のテーブルに触れ、少しずつ押し込んでいく。ずずずっとズレていくテーブル。ある程度ズラした後、隅っこのテーブルをやや引っ張り、何とか1人は座れるスペースを作った。そちらへ椅子を1つ置く。

 

「モタリケ、持って入ってくれ」

「おーう」

 

 ガチャガチャとポールのような器具を運んできたモタリケさん。それを部屋の中に置き、ざっと広げる。ああ、なるほど。カーテンの仕切りか。

 モタリケさんとウラヌスの2人で位置を調整し、隅っこと中央の食卓の間をカーテンで仕切る。ふむ、これならいけるか。

 

「そっち準備できたー?

 こっちはもう支度終わったけど」

 

 キッチンから再び声。

 

「いいよ。頼む」

 

 ウラヌスが応えると、盛り付けがされた皿を両手に抱えた女性が現れる。

 

 一目で、ビスケみたいな人だと思った。長い金髪をツインテールにした、小柄な体格。地味なブラウンの服に、今はエプロンを着けている。

 

 てか若いな……モタリケさんとかなり歳の差ないか? え、むしろ子供みたいな見た目なんだけど? この人、盗賊団の団長じゃなかったっけ? これって──

 

 私がウラヌスに目で尋ねると、彼は私の方から目を逸らして、

 

「……歳のことなら、念能力者の見た目は参考にならない」

 

 そんなことをぼそっと言う。え? ちょっと待て。なんで私から目を逸らした?

 

「ん? なんで歳の話なんかしてんの?」

 

 皿を置いた後、腰に手を当て、不機嫌そうに尋ねてくる女性。ええっと……

 

「いえ、その……

 モタリケさんのお嫁さんにしては、その、若いなぁって」

 

 女性が目をぱちくりさせるのと対照的に、視界の端のモタリケさんがなんとも言えない顔でそっぽ向く。

 

「あー。なるほど、そっかー。

 残念ながら見たまんまの年齢じゃないのよねー」

 

 何だか機嫌よさそうにキッチンへ引き返す女性。食卓には、彼女の置いていった料理がある。

 よくある家庭料理の類だ。でも、こういうのもちょっと食べたかったんだよね。お店で提供される料理と違って、盛り付けの雰囲気が柔らかい。てか、おなかすいたなぁ。焼肉おいしそう。

 

「モリー、料理運ぶの手伝ってよぉ」

「はいはい」

 

 モタリケさんもキッチンへ消える。

 何となく気まずくて、誰も食卓に座らない。ウラヌスは料理を眺めながら、

 

「メレオロン、もうちょっと待っててくれ。

 料理が揃ったら、皿に取り分けて手前の小さい食卓に置くよ。

 用意できたら呼ぶから、その食卓で食べてくれ。窮屈だろうけど」

「……分かったわ」

「ウラヌス。

 ぼくも、おねーちゃんと一緒に食べちゃダメ?」

「うーん……

 様子見てからかな。どっちが都合いいか、現時点で判断つかないし。

 とりあえずシームも俺達に付き合ってくれ」

「うん……」

 

 ふーむ。せめて食事が終わればいいんだけど、食べてる時だけは隠しようがないからな……

 

 

 

 そうこうしてるうちにどんどん料理が運ばれて、ウラヌスはそれを皿に取り分けて隅の食卓にも並べていく。

 呼ばれたメレオロンはこそこそとダイニングに入り、カーテン向こうの食卓へ移動した。

 

 料理が食卓に並び、ようやく準備が整った。……とは言っても、全員立ったままで席に着いてなかったりする。

 

 エプロンを後ろ手に外した女性は、パンと手を叩き、

 

「さ、自己紹介くらいしておきましょうか。

 わたしはベル。モタリケの嫁やってまーす♪」

 

 うん……改めて言われると違和感ものすごい。よくもまぁ……いや、何も言うまい。

 

 ベルさんは隣に立つモタリケさんを肘でつつき、

 

「ほら、モリーも」

「おまえ、いまオレの名前一緒に言ったじゃないか……

 ……モタリケだよ。これでいいか?」

「もちろん。

 で、そちらもよければ聞かせてくれる?」

「ん? 俺は関係ないよな。

 2人とも知ってるだろ」

「ノリが悪い。ちゃんと付き合いなさい」

「んだよ、それ……

 ウラヌスだよ。これでいいよな?」

 

 完全にベルさんのペースっすわ。こういう押しの強いヒト苦手なんだろうな、ウラヌス。

 

「えっと、アイシャです。お2人ともよろしく」

「シームです」

「……メレオロンよ」

 

 カーテンの向こうからきっちり名乗るメレオロン。

 満足気にベルさんはうんうん頷き、

 

「アイシャ、シーム、メレオロンね。

 3人ともよろしく♪」

「おい、俺は仲間はずれかよ」

「えー、そんなわけないでしょ。

 あんたはもう、わたしとよろしくしてんじゃん♪」

 

 額をかくウラヌス。あはは……ほんと苦手そうだ。

 

「じゃあみんな、席に着いて。冷めないうちに召し上がれ♪」

 

 

 

 ベルさんの手料理は、見た目はところどころ野趣なのに味は絶妙だった。料理をマメにしてる人のそれだ。私みたいに、たまにしか料理しないと味が濃くなりやすいんだよね。久しぶりだと加減が分からなくなる。家で料理しようとすると、母さんが『花嫁修業?』とかつっついてきて、父さんもそれに反応するからやりづらいんだよな……

 

「お料理上手ですね」

「そう?

 ありがとうー。お世辞でも嬉し♪」

「いえ、ホントに美味しいですよ」

「それそれ♪

 モリーってば、毎日美味しい料理ふるまってるのに、お礼の1つも言わなくてさー」

「お前も、働いてるオレに礼なんか言わないだろ……」

 

 嫌そうにモタリケさん。何となくこういう時の顔に、人生の墓場感が漂う。

 

「……つうかさ。

 俺らも暇じゃないんだから、用件あるなら言ってくれよ。

 別に本気でメシ招待したかったわけじゃないだろ?」

 

 ウラヌスが疑わしげに尋ねると、フォークをくわえたベルさんが、

 

「うん?

 いや、ご馳走したかったのは本当よ。

 ほらほら、アレ。モリーになんか、お金いっぱいくれたでしょ?

 あの時のせめてものお礼に」

「はぁ?

 お前が言ったんだろ、稼ぎが悪いとかモタリケのやつに」

「それよ、それ。

 夫婦なんだから、その手の喧嘩なんてしょっちゅうしてるに決まってるじゃない。

 そんでモリーが真に受けて、まさかあんたに金の無心するなんて思わなかったからさ。知ってたらヤメさせたわよ」

「……モタリケ。

 お前、俺からの依頼だって言わなかったんだな」

 

 モタリケさんは、自分の皿に取り分けたレタスをフォークで刺しつつ、

 

「……。

 お前からだって言ったら、金受け取るなって騒ぐの分かってたからな」

「あったりまえでしょ!

 なんでよりによってウラヌスなのよ!」

「こいつぐらいしか、金を融通してくれそうなお人好し居ねーよ……」

「オッマエ、俺さんざん嫌がったじゃねぇか。

 むかつくなー」

 

 可愛い2人にフルボッコにされるモタリケさん。……むしろ、この状況を恐れてたから言わなかったんじゃなかろうか。

 

「まあまあ、2人とも……

 実際には仕事の報酬としてお渡ししたものですし、もういいじゃないですか」

「にしたって、額が多すぎるかなー。

 あんたも妥当な額にしとけばいいのに」

「だから、お前が……

 モタリケがちょっと贅沢できるぐらい欲しいっつったからだよ」

「それは聞いたけど。

 ゲーム攻略にお金いるんでしょ? なんでそんな余計なことしてくれるの」

「……

 真実の剣ソッコーで売ったから、いくらか余裕あんだよ。

 だからモタリケのアホが、恵んでくれって声かけてきたんじゃねーか……

 じゃなかったら、流石にくれてやらねーよ」

「あっきれた。相変わらず。

 そんなことしてるから、クリア逃しちゃうんでしょうが」

「うっせーな。

 俺がどうこうってのと、クリアできなかったのは直接関係ねーよ。どうせ無理だったさ、そこまでクリア乗り気じゃなかったんだし」

 

 あ、やっぱりそうなんだ。もし前回本気でクリアする気だったら、私達とどこかで接点あっただろうしな。

 

 ……いや、ホントに接点ないのか? 私が動いてたわけじゃないから分からないけど、もしかして私達のうちの誰かと接触あったんじゃないだろうか。

 

「メシぐらい、静かに食ってくれよ……」

 

 うんざりそうにモタリケさん。あー、それは言わない方が……

 

「っせーよ。

 暇じゃねーから、メシ食いながら話してんだろが」

「モリーが変に隠し事するから、こうやって機会作ってるのに!

 ゴハン食べながらのお喋り、邪魔しないで!」

 

 そうそう。女性は結構食べながらお喋りするの好きなんだよ。なぜか私の知り合いには、あまりそういう方はいらっしゃいませんが……やたら静かだったり食いまくったり。ミトさんや母さんはよく喋ってたけど。

 

「あーもう、好きに喋っててくれ……」

「モリー。先に食べ終わっても、席立たないでね。

 お話しする為にみんな呼んでるんだから」

 

 モタリケさん、機先を制されるの巻。完全に思考読まれてるな。尻に敷かれた典型です。

 

「で、本題はなんだよ?」

 

 プチトマトを頬張りつつ尋ねるウラヌス。

 

「本当はお金返したいけど、あれでしょ?

 ぜったい受け取らないでしょ」

「よく分かってんじゃねーか。

 一度くれてやったからな。仕事の対価でもあるし、返されても困る」

「だから♪

 なんか協力してあげたいわけよ」

 

 あーなるほど、そういうことか。この人はこの人で借りを返したいんだ。

 それを聞いたウラヌスは困り顔で、

 

「協力っつってもなぁ。

 俺達もバタバタしてるから、なんか協力したいとか言われてもやりづらいんだけど」

「もちろん邪魔してまで、協力の押し売りなんてしないわよ。

 お金の援助はまぁ、モリーの稼ぎじゃキツイけど」

「いや、お前も稼げばいいだろ」

「イヤよ!

 わたしはモリーのお嫁さんになったんだから、ぬくぬく家で嫁生活したいのよ!」

「ぬくぬくって言いやがったよ……」

「ずっと憧れだったの!

 別に好きで団長なんてやってないわよ!

 お母さんの跡継ぎがわたししか居なかったから、仕方なく!

 姉も妹もお嫁に行っちゃったから、わたしだけ!」

 

 世襲制の盗賊団長って……なんかよく分からん世界だ。

 ウラヌスは額を痛そうに揉みつつ、

 

「だからってお前、いくら行き遅れが怖いっつっても、モタリケはないだろ……」

「それは流石に聞き捨てならないぞ」

「行き遅れとか言うなぁぁッ!!

 別にモリーと無理やり結婚したわけじゃないんだからね!」

 

 う、うん……ちょっとゴハン食べづらいな。食卓バラけた、メレオロンがうらやましい。

 

「わーったよ、俺が悪かった。ごめん。

 ……でも、そこそこ年齢いってて焦りがあったのも事実じゃないのか?」

 

 指摘され「ぐぐっ」と呻くベルさん。実際、何歳なんだろ。

 

「そ、そんなことないし」

「へぇ。今、おいくつでしたっけ?」

 

 ウラヌスのダイレクトな問いかけに、ベルさんの目が泳ぐ。

 

「……

 に、二十代よ」

「へぇ。アラサー?」

「……」

 

 あらさーってなんだろ……。時々耳にするけど、何となく不穏な単語ではある。

 

「……そんな話、どうでもいいじゃない。

 で、協力よ、協力。なんかない?」

「俺に聞くのか?

 別に思いつかないよ。今ンとこ順調だしな」

「ホントに?

 モリーにバインダー空けてほしいとか頼んでたじゃない」

「まあ、あの時はな。

 んー……」

「ウラヌス! バインダーのプレイヤー」

 

 メレオロンが、カーテンの向こうから声をかける。あ、そっか。忘れてた。ウラヌスも明らかにいま気づいた顔で、

 

「思い出した。

 モタリケ、バインダーに登録されてるプレイヤーを見たいんだけど」

「あ?

 そんなの、どうするんだ?」

「探してるプレイヤーがいるんだ。

 そいつと接触したことがあるか調べさせてほしい」

「ああ、そういうことか。

 別に構わないけど、今すぐがいいのか?」

「後でいいよ。

 別に急ぎじゃないけど、忘れないうちに確認はしたい」

 

 よかった、よかった。これで丸く収まりそうだな。遠慮なく食事を続けさせてもらおう。分厚いベーコンをナイフで切り分け、レタスと一緒に口へ運ぶ。もぐもぐ。

 

 

 

 

 

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