どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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アイアイ編 2000/9/21
第百章


 

 窓から零れる、朝の陽射しの中。

 

「……うにゅ?」

 

 頭の揺れに反応して、ウラヌスが寝ぼけまなこを半開きにする。

 

 私はそれに構わず、桜色の髪を撫で撫でし続けた。

 

「……。ちょっと。

 だからどうして朝っぱらから、俺なでるのさ?」

 

「昨晩撫でそこねたんで、そのぶん朝から撫でようかと思いまして」

 

「……あのさ。

 俺、桜じゃないんだよ? 分かってる?」

 

「もちろん分かってますよ」

 

「撫で方が同じなんだけど……」

 

「ふふ。そうですよ?

 それが分かるということは、サクラの記憶はそのままアナタにもあるみたいですね」

 

「だ、だからそう言ったじゃん?

 桜が戻った時に、俺にもその記憶が全部流れ込むって」

 

「いえ? 『全部』だなんて初耳ですけど」

 

「……ぁ……

 アアアァァァァァァァッッッ!!」

 

 がばーっと布団をかぶるウラヌス。ぶはは、やっちゃいましたな。

 

「…………ぇ?

 あいしゃ、なに? そのこと気づいてたの……?

 気づいてて、その……」

 

 布団の中から、くぐもって聞こえる震え声。私はそれに自信をもって応えた。

 

「ええ、なんとなく。

 これからもそのつもりでサクラを愛でますからね♪」

 

「ひぁぁぁぁぁっ……!!」

 

 

 

 今日もメレオロンはお箸を手にして、焼き魚を相手に悪戦苦闘している。

 

「魚は難しいですよ? 無理してお箸で食べなくても」

「いいのよ。練習にはちょうどいいから」

 

 向上意欲があるのは結構なことだ。食事が不自由なのは可哀想だけどね。

 

「昨日、映画の続きって結局見たのか?」

 

 ウラヌスが尋ねる。彼は魚を綺麗に食べていた。今朝の動揺っぷりは微塵も無いな。

 

「えっと……

 途中で見るのやめちゃった。あんまり面白くなくなってきたから」

 

 シームがバツの悪そうな顔でそう答える。

 

「あー、ありがちだな。

 長い話だと冗長に感じて、途中でダレてくるもんな」

「たいした参考にならないなと思って、アタシが見るのをやめさせたのよ。

 序盤の練習してるシーンなんかは、少しくらい参考になる部分もあったけど」

 

 うん、なんだかんだで上達してる証拠だな。メレオロンは前見た時点で気づいたみたいだけど。ああいうのは技の参考にするものじゃない。見て楽しむものだ。

 

「そうだなぁ。

 見たまんま学ぶのは無理があるけど、ああいうのを見て技の着想を得ることもあるから、意味があるとしたらそういう部分だろうな」

 

 それもまた一理。ただ、それなら実際の戦いを見る方がいいだろうけどね。もっとも、映像として残る実戦となると……一番マシなのは天空闘技場かな。あそこまで行かないと手に入れづらいのが難点だけど。

 

 

 

 

 

 食事を終え、入浴中。

 

「……そろそろか。ブック」

 

 一足早く浴槽に浸かっていたシームは、髪の毛の泡を洗い流した後に突然バインダーを出したウラヌスに首を傾げる。

 

「こんなトコで何するの?」

「ベルに連絡。

 もう7時半なんだよ。風呂遅らせるわけにもいかないし、入りながら連絡するしかないとは思ってたけど」

「そういえば、なんか時間早すぎない?」

「移動スペルで直接アイアイに飛ぶつもりだったからな。

 移動時間を考慮してない分、モタリケと会う約束した時より早く指定したんだけど……それでも早すぎたかな、確かに」

 

 言って、バインダーを操作するウラヌス。

 

「ウラヌスだ」

『あらら、ちょっとタイミング悪かったわね。

 とりあえず8時に間に合うよう動いてるわよ』

「ん? 取り込み中か」

『お・ふ・ろ♪

 わたしってば、今は生まれたままの姿よん♪』

「……」

『あれ?

 なんか水の音聞こえるけど、もしかしてそっちも?』

「ボクもいるよー」

「おい、シーム……」

『あらら、2人で入ってるんだ?

 ほんと仲いいわねー。2人とも生まれたままの姿なんだ?』

「オマエさ……

 んなことより、8時までに間に合うのか?」

『んー。

 ちょっち遅れるかも。それでも5分10分で収まるはずだけど』

「じゃあ改めて8時に連絡するよ」

『別に連絡いらないわ。『交信』がもったいないし。

 もし予定変更があったら連絡しましょ。なければ予定通り8時にアイアイで』

「まぁオマエがいいなら、それでいいよ。

 じゃあ8時に来れるようにしろよ」

『努力しまーす♪』

 

 しばしの沈黙の後、「ったく……ブック」とバインダーを消すウラヌス。ふとシームを見ると、やたらニコニコしている。

 

「……なに? ニヤニヤして」

「え?

 だって、キュマニャンの生まれたままの姿見れるの、いいなと思って」

「ぐぅぅぅ。

 オマエほんとそういうのやめてくれよ……どんどんねーちゃんに似てきてんぞ」

「それは心外かなぁ。

 早く暖まりなよ。急ぐんでしょ?」

「はぁぁ。もうやだ」

 

 

 

 

 

 入浴を終えて、洗濯物を預け。

 部屋に戻り、リュックに荷物を収めてるんだけど、

 

「やっぱり、荷物がちょっとキツイですね……」

「本とか着替えが増えてるからね。

 そろそろ使うかもって理由で残してたのを、処分していかないとマズイかな……」

「ねぇ、ウラヌス。

 モタリケさんの家に預けるとかは?」

 

 シームの提案に、かなり渋い顔をするウラヌス。

 

「……正直、そこまで関わるのはどうかと思ってる。

 あいつらはあいつらで事情があるし、俺達がモタリケの家にしょっちゅう出入りしたら、それが理由で狙われるかもしれないからな。

 そういうことを気にして通いづらい場所に荷物預けても、却って不便になりそうだし」

「それが理由?」

 

 小首を傾げるメレオロン。彼女は彼女で思うところがあるようだ。

 

「……いや。俺達があいつらを頼ると、向こうもこっちに干渉してきそうだからな。

 そうするとメレオロンやシームの素性を隠すのが難しくなってくる。今でもそうだしな。

 あいつらが犯罪者だって知ってるから、向こうがこっちの素性を知っても口止めさせることはできるだろうけど、用心するに越したことは無い」

 

 ウラヌスの言葉に、メレオロンが頷く。まぁそんなところだよね。

 シームは残念そうな顔で、

 

「でも荷物は何とかしないとだね……」

「うん。まぁそのうちな」

 

 

 

 そうこうしてるうちに、8時になった。

 

 私達は時雨紅葉をチェックアウトし、旅館の玄関前に集まっている。

 

「じゃ、行くよ。

 ──『同行/アカンパニー』オン。アイアイ」

 

 朝日の中、私達は空を飛翔する。

 

 

 

 着地。

 

 さっそく視界に飛び込んだ、都市上部の異物に目を留めた。

 

 アイーン、アイーン、とハート型の特徴的な構造体から、謎の音が響いてくる。

 

 なるほど、アイアイってそういう……。ああいうのがある街の話は聞いた覚えあるけど、実際目の当たりにするとアレだな……なんなんだ、アレ。

 

 3人を見ると、シームとメレオロンが同じものを唖然と見上げている。ウラヌスは半眼だった。

 

「ベルはまだだな。

 ……こんなトコで待つの、嫌だけど」

 

 うーん。せめてあの謎の音がなければなぁ。かなり気になる。街の中に入ったら聞こえなくなるんだろうな? イヤだぞ、ずっと聞くの。それとも慣れれば気にならないのか?

 

 

 

 そこそこ待たされた後、アイーンという謎の音を上書きする飛翔音が聞こえた。

 誰かがストンと着地する。

 

「よっと!

 お待たせ♪ 待った?」

 

 立ち上がり、なぜかクルリと一回転する、ファッショナブルに着飾ったベルさん。帽子から靴に到るまで、昨日一緒におでかけした時とは比較にならない気合いの入りっぷりだ。そりゃ時間かかるよ……

 

「遅ぇよ。15分遅刻」

「ありゃりゃ。みんなゴメンね?

 でもウラヌス、こういうデートの決まり文句は『待ってない。いま来たところ』よ♪」

「……」

 

 誰もフォローしない。アレがなければ、15分くらいどうってことないんだけど。ずっと一定のリズムでアイーンなんて聞かされてたら耳に残りそうだ。

 こちらの反応なんてどこ吹く風とばかりに、ベルさんは腰に手を当て、

 

「それにしても……

 せっかく恋愛都市へ来たのに、あなた達のその服装なぁに?」

 

 ベルさんが苦言を呈してる、ようだ。いや、普段通りですよ? 特別着飾る理由が無い。無いったら無い。

 私はいつもの運動着。メレオロンもツナギで、フードを目深に。今日はシームもツナギ姿だ。フードはかぶってないけど。

 しいて言えばウラヌスくらいか……。いつもと同じだけど可愛らしいワンピース。まぁ男性だけどね。ぷぷ。

 

「……なんかアイシャの目に悪意を感じる」

「ええ? そんなつもり全然ないですよ」

「アンタに男らしい服装とか、まったくイメージできないもんね♪」

 

 カラカラ笑うベルさん。ぶすーっと不機嫌に頬をふくらませるウラヌス。またそういう顔して……

 

「いいから、さっさと行こうぜ。

 こんな都市、少しでも長居したくねーよ」

「あらら、ずいぶんね?

 楽しめる人にとっては、全然退屈しない場所なんだけど」

「俺は、すっげぇイヤ」

 

 これは一悶着どころか、何悶着でもありそうだな……

 

 

 

 都市の中へ入っていく。ごく普通の石造りな街並みだ。これといって目新しい景色でもない。……ゲームキャラを除いては。

 

 めっちゃ、カップルだらけ。目に映る範囲で10組以上。手を繋いだり、腕を組んだり、向かい合って語りあったりしてる。あ……これはイラっとくる。

 見ると、ウラヌスもご機嫌斜めな目つきしてる。

 メレオロンとシームは明らかに気後(き おく)れしていた。ベルさんは、なんかニヤニヤしてるな。

 

「きゃん!」

 

 女の子が見てる前でコケて、「メガネメガネ」と探してる。えーと、ブラ見えてるよー……

 そばに落ちてたメガネを拾い、渡してあげる。

 

「危ないですから、あわてて走っちゃダメですよ」

「あっ。ありがとうございます!

 それじゃ、私はこれで」

 

 すったかたー。と走ってくゲームキャラの女の子。うん? イベントは?

 

「あー。

 アイシャ、あれは男が拾わないといけないのよ」

「へ?」

 

 ベルさんは真面目な顔で腰に手を当て、

 

「だって恋愛都市のイベントよ?

 異性との出会いがメインなのに、同性と接触してどうすんのよ?」

 

 えぇぇ。そういうことは先に言ってよ。

 ていうか、こんなつまんないことで『男じゃない』って否定された……。傷つくなぁ。とほほー……

 

「ほら、落ち込まずに。

 次こそ好みの男性ゲットよ♪」

 

 思わずうるせぇと言いたくなる。そんなもんいるか!

 

 その場でぐずぐずしてると、さっきの女の子がまた走ってきて、

 

「きゃん!」

 

 とコケて、「メガネメガネ」やってる。もうブラとか見えても、どうでもいいです……

 

「ほら、ウラヌス。

 なんでメガネ拾ってあげないの?」

 

 ベルさんの冷やかす声に、氷点下の眼差しを返すウラヌス。

 

「そのキャラは、イベントクリアしてもロクなもんくれねぇよ」

「あれ、知ってたんだ?」

「いちおうな……

 入口付近のイベントだし。試しに何度か挑戦してクリアしたら、コンタクトにするからもうメガネいらねって、そのぐるぐるメガネくれるだけだろ」

 

 あ……うん。あの渦巻いてるメガネか。いらないな。

 

「別にいいじゃない、やってみても。

 そこそこのお金にはなるでしょ?」

「成否問わず1日1回しかできないし、もうクリアパターン覚えてねぇよ……

 3万かそこらだろ? あれ売っても」

 

 うーん? 売れるだけなのか。しかも微妙な額だし。

 肩をすくめてベルさんは、

 

「もったいないわねぇ」

「そういうのに抵抗ないなら、ここはわりかし安全に稼げるいい街だけどな。

 抵抗がある人間にとって、こんなうざい場所もない」

「別に抵抗なんか感じなくたって。

 相手はゲームキャラなんだし、恋人ごっこを楽しめばいいだけよ?

 どうせアンタ、みんなが見てる前じゃ恥ずかしいんでしょ?」

「うっせぇよ……」

 

 てかベルさん、人妻なのに抵抗ないってどうなのさ。モタリケさん泣くよ?

 

「シーム君はどう? このイベント、やってみない?」

「ぼくもヤダ。

 ……よく分かんないんだけど、これってどういうイベント?」

「ああ、単なる会話イベントだよ。話すだけで終わり。

 恋愛ゲームとかやったことないか?」

「……うん、ない」

「じゃあ分からんわな。

 問いかけに対して正解となる答えを選ぶと、イベントが進行して、最後まで正解すればクリア。要はクイズゲームなんだよ。大体ここのイベントはそんな感じ」

 

 ベルさんが苦笑しながら、

 

「恋愛をクイズにたとえる?」

「ゲームだからな」

 

 ドライだなぁ。多分人目さえなければ、そこまで抵抗ないんじゃないか? ウラヌスも。

 

「いいから、さっさと行こうぜ。

 指定ポケット集める気がないなら、ここにいたくねぇよ」

 

 行って歩き出すウラヌス。私達もそれについていって、

 

「あ、その建物の曲がり角注意。

 ゲームキャラがぶつかってくる」

 

 ウラヌスが指差した建物から距離を置きつつ歩いていき、その曲がり角の先を見る。

 あ、女の子いるな。……なんか口にパンくわえて、スタンバってる。イヤなものを見た。

 

「彼女もイベントですか?」

「だよ。いちおう指定ポケットカードくれるんだけど……」

「ちょっとウラヌス。よく知ってるじゃない。なんでしないのよ?」

 

 ベルさんの抗議に、ウラヌスは眉根をひそめつつ、

 

「指定ポケットのイベントだからに決まってるだろ。

 アレ、選択行動多いわ分かりにくいわ、滅茶苦茶面倒なんだぞ。さっきのメガネメガネのが10倍楽だ」

「そんなこと言ってたら、カードが集まらないわよ?」

「……前にやって、こんなもんワリに合うかってのが俺の感想だよ。

 成否問わず1日1回、第一印象最悪のところから徐々に仲良くなる系で、やたらと選択行動を要求されるわ、時々意味不なタイミングで選択出すわ、斜め上の回答しないと突破できない時もあるからな」

「大体はあるあるじゃないの?」

「妥当な回答してけばクリアできるなら苦労しねぇよ。

 結局選択肢総当たりだったぞ。

 何が哀しくて全エンディング制覇しなきゃいけないんだ」

 

 ……したのか、エンディング制覇。律儀だなー。

 

「ちなみに何のカードですか?」

「……ランクAの『幸福通帳』。

 トレードショップであいつが持ってることは教えてくれるけど、攻略のヒント聞いたら『あいつはツンデレだから、ツンとデレの切り替わりに気をつけろ』だよ? 何のヒントにもなってねー」

「あははは」

 

 確かに。それを聞いたところで、何をどう気をつければいいんだ。

 

 

 

 しばらく歩いていくと、こっちから話さなくても話しかけてくるゲームキャラもいた。

 

「彼女達、お茶しない?」

「HEY! アナタハンサムネー? ワターシトペラペーラ──」

「すいません、そこの女性! ぜひ俺の絵のモデルに! 謝礼は弾みます!」

「アンケートにご協力お願いしまーす」

「ねーねー、おにーちゃん。私のおかーさん知らない?」

「突然申し訳ありません。あなたの幸福を祈らせていただけませんか? お時間は──」

「オラオラ道を開けな! お、ねーちゃんなかなかの上玉だな。どうだぃ俺とブベラッ」

「も、もしよかったら付き合っていただけませんか!?」

 

 ……うぜぇよ。

 

 歩いてるだけでこれか。無視するだけでもストレスフルだよ。思わずイライラしすぎて、裏拳一発いれちゃったよ。なんか建物の壁に当たってカード化してるけど知らん。

 

「あははは♪

 人数多いから、色んなキャラに引っかかっちゃうわね」

「……俺が1人で調べてた時も、ここまでうるさくはなかったよ。

 マジでキツイな」

「アイシャ……

 気持ちは分かるけど、いきなり手を出すのはよくないよ?」

「すいません。

 触れられそうだったんで、つい」

 

 何でシームに注意されなきゃいけないんだ。いや、うん。ちょっと砂糖漬けのこの街の空気は、今の私には毒なんだ……

 あのメレオロンですら、時折り「はぁ……」とやるせない息吐いてるしな。

 

「あのー。

 今オレ、カットモデル探してるんだけど」

 

 イケメンのにーちゃんが、明らかに私へ向かって話しかけてくる。

 

「髪型を変える気はありません」

 

 すっぱり断る。残念そうに「あ、そう? でも気が変わったら……」とか言ってるのを聞き流す。変わりません。

 

「あー。仕方ないと言えば仕方ないけど。

 今のは指定ポケットのイベントだったのにね」

 

 ……その為に髪を切られろって? 嫌に決まってるじゃないか。

 

「ちなみに何のカードですか?」

「なんだっけ、ウラヌス?」

「オマエ、指定ポケットのイベントとしか覚えてねーのかよ。

 俺はあのイベントできないんだぞ、女性専用だし……

 ランクBの『コネクッション』だよ。ちなみに気をつけないと、あいつ髪いじりながらセクハラしてくるらしいからな」

 

 ますますゴメンこうむる!

 

「ここって、まともなイベントはないんですか?」

「なくもないんだけど、そういうのは大したクリア報酬もらえないかな……俺の経験上」

「そうねぇ。

 普通に喋ってクリアできるタイプは、わたしもあまりいいもの貰えた記憶ないわ」

 

 なるほどね……恋愛都市だもんな。そういうのは難度が低い部類に含まれるわけか。

 恋愛経験ゼロの私には、あまりにあまりなハードルだよ、ここ……

 

「やめて下さい!」

 

 女の子の甲高い声。あーもう、矢継ぎ早に来るな……

 建物の角に、筋肉質な男達3人に囲まれた少女。腕を掴まれてる。

 

「いーじゃねーかよ。つきあえよ」

「放して!! 大声出すわよ!!」

「へっへっへっへ」

「出すなら出せよ。誰も助けちゃくれないぜ」

「この街にはオレ達ダンダ団に逆らう奴なんていねーのさ!!」

 

 私は視線をウラヌスに向け、

 

「だそうですよ。

 助けないんですか?」

「……。

 まぁちょっと見ててごらんよ」

 

 ぶすっとした顔でウラヌスがそう返す。ほぅ、アレに続きがあるのか。

 

「へっへっへっ。いーじゃねーか」

「やめて下さいっ」

「いーじゃねーかよ。つきあえよ」

「放して!! 大声出すわよ!!」

「へっへっへっへ」

「出すなら出せよ。誰も助けちゃくれないぜ」

「この街にはオレ達ダンダ団に逆らう奴なんていねーのさ!!」

 

 ……。

 

「どう思う?」

「……延々この繰り返しですか?」

「うん。誰かが割って入るまで。

 助ける気になる?」

 

 なんだこのコントは……

 

「ちなみにこんなことしてる理由は、実際イベントやると分かる仕組み。

 クリア報酬は、指定ポケットカード『小悪魔のウインク』。クリア難度は、ランクAのカードってことからお察し」

「……ということは、クリアしたんですね?」

「いちおうね……」

「ちょっとウラヌス、いい加減どれかやらないの?」

 

 ベルさんがつっついてくる。この街にウラヌスが来たがらなかった理由は良く分かった。確かに一通りカード入手したら、もう二度と近づきたくないな。

 

 うろうろすると向こうからイベントがやってくるので、ダンダン団か何か知らないけど、それから少し離れた場所、建物の陰に入って私達は立ち話する。

 

「だって、やりたくねぇんだもん……

 オマエだって1つもやらないじゃないか」

「あなた達が何かやるのを見物したかったんだもん」

「高みの見物したいとか、いいご身分だな。

 攻略の手伝いするとか言ってた建前、どこいったんだ」

「い、いやさ。

 レクチャーしてあげたくても、何もしないんじゃどうしようもないじゃない。そういう話だったでしょ?」

「……まぁな」

「ここって結構指定ポケットカードあるの?」

 

 シームが尋ねる。言われてみれば、さっきからポンポンそういうイベントが出てきてるもんね。そこそこあるんだろうか。

 

「この街だけで5枚あるよ。

 ……ちなみに『ホルモンクッキー』もここ」

 

 お、おぅぅ……

 

 そうか……まぁそれっぽい場所だもんな。ゲンスルーさんに取り方聞いたはずなのに、全然ちゃんと覚えてないし。えっと……あれランクSじゃなかったか? やべぇ、自力で取れる気しねぇ。

 

「その、取り方は?」

 

 私が尋ねると、ウラヌスはこれ以上ないくらい苦笑いを浮かべて、

 

「あの謎のハート型があるのって、お城のてっぺんなんだけど。その城にいる王子様だかお姫様のイベントをクリアすると入手できる。

 ただし、この街の恋愛イベントを3種類クリアしたプレイヤーじゃないとイベント発生しない」

 

 はい、消えた!

 私には無理でーす。……ていうかゲンスルーさん! イベント3種クリアが必要なんて言ってませんでしたよねッ!? 肝心な情報が抜けてるじゃないか!

 あ、うん……。ゲンスルーさんだって全部自力で取ったわけじゃないだろうし、そりゃ抜け落ちもあるか。どっちにしたって私も忘れてたしな。

 

「アレさぁ……

 わたしも一度挑戦したのよ。王子様とのデート目指して。

 そしたら狼藉者扱いされて、1日牢屋にぶち込まれたんだけど」

 

 ひどいな……なんだそれ。

 

「どうせ、よっぽど何かやらかしたんだろ。

 俺の時はお姫様だったけど、何度失敗してもまた来てねになるだけだったよ」

「えぇー……ブック」

 

 2人とも結構がんばってたんだな……。そして何故かバインダーを出すベルさん。

 

「あなた達もバインダー出してくれる? 全員」

 

 シームとメレオロンが不思議に思いながらも「ブック」を唱える。

 私とウラヌスも「ブック」でバインダーを出すが、心当たり自体はあった。

 

「……あなた達、気づいてたの?」

「ええ。少し前から」

「他プレイヤーだろ。ぞろぞろ固まって動いてる」

「5人いますね」

「うん。こっちに近づいてきてるな」

「ひゃー……

 あなた達、すごいわねぇ。

 ウラヌスが凄腕なのは知ってたけどさ。

 アイシャ、あなた『絶』でそこまで分かるの凄すぎない?」

 

 ぅ……そういえばそうだった。『円』で分かるのは普通だけど、『絶』で分かるのは達人とか野生の勘の類だもんな……

 

「わたし、誰かが近づいてきた時は基本バインダー出したままにしてるのよ。

 20メートル半径でバインダー出すと、相手によっては宣戦布告と見なされるから」

 

 うーん、そうだな。そんな至近距離で『ブック』唱えたら、攻撃スペル使う予備動作と取られるかもな。

 

「ベルさんがバインダーを出すのは、逃げる為ですか?」

「そうよ。

 何かあったら移動スペルで逃げられるように。近距離の相手にバインダー出してページ開けてカード取りだして唱えて、なんてしてたら逃げ損なうもの」

 

 なるほど、とても賢明だ。即時逃走手段だけは常に確保、流石は元盗賊団リーダーか。私達ほどの精度ではないけど、気配を察知することには長けてるみたいだしな。

 

 ウラヌスがバインダーを開いて、フリーポケットの最後のページを確認してる。

 

「全員何かあったら、思い思いに自分の移動スペルで逃げてくれ。場所は決めない。後で俺が拾って回る。

 ……まぁ、そんなことにはならないだろうけど」

「どうしてそう思うんです?」

 

 なにか思索してるウラヌスに尋ねる。なかば予想は付くんだけどね。

 

「多分知ってる連中だから」

 

 私も見知った相手のオーラなら、判別できることが多い。ウラヌスの場合は、おそらく目の力で同じことが出来るんだろう。

 

 私達は固まったまま、向こうが近づいてくるのを静かに待つ。

 

 ウラヌスは表情を変えず、

 

「とっくに向こうも、こっちには気づいてる。その上で近づいてきてるな。

 ……20メートルに入った。プレイヤーは5人。

 

 バショウ。センリツ。ヴェーゼ。ダルツォルネ。──ネオン」

 

 そう告げて、私とベルさんを思わしげに見るウラヌス。

 

 

 

「……ノストラードファミリーだ」

 

 

 

 

 

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