時は再び一年前、ヨークシンからスワルダニへと幻影旅団が護送された後のお話。
外伝一章~五章と同様、基本ウラヌス視点です。
外伝六章
1999年9月8日。
なーんもやる気がせず、日がな1日ぼんやりとホテルでゴロゴロしていたところに──
携帯へ着信が来た。……ネテロか。
「んー。なにぃ?」
自分でも笑っちまうぐらい、不機嫌な第一声。ハンター協会会長に対する態度じゃないよなー。
『……お主、今どこにおる?』
「まだスワルダニにおるよー。念の為な」
曖昧すぎる記憶ではあるが、幻影旅団の連中はハンター協会本部にある一時収監施設にブチ込んだハズだ。……ハッキリと昨日のことは覚えてないし、思い出したくもないが。
『そうか、ちょうどよかったわい。
火急の用がある。今すぐ本部へ来い』
「あぁ? マジで急ぎか?」
『そうじゃ。出来るだけ急げ』
「ちっ……
わぁったよ、行きゃいいんだろ」
Pi♪ と通話を切る。電話で詳しく話せない用件なら、直接出向くしかない。
「あぁー。かったりぃ……」
頭をぐしぐし掻く。まぁ何もやる気が起きなかったし、別にいいけどな。
俺が行かないとマズい話なら、
捕まえたタクシーに揺られて、ホテルからハンター協会本部へと向かう。
「はぁ……」
疲れが抜けない。昨日は最後の最後まで、オーラ搾りつくしたからな……多分、だけど。
収監施設で神字周りの作業した記憶が少しあるから、多分そうなんだろう。幻影旅団の連中ともごちゃごちゃ話した気がする。が、さっぱり思い出せない。
協会本部は副会長の手下だらけだから、そいつらが手出しできないよう神字細工すんの、面倒なんだよな……おかげで朝ぜんぜん起きれなかった。
朝から晩までがっつり休んだから、オーラは回復してる。が、疲労感が抜け切らない。こればっかりはな。あちこち内側が痛んでるんだろう。自覚できない痛みは治療しようがない。
さっさとゲームに戻る気だったんだが、流石にこのコンディションじゃ無理だ。当分は安静にした方がいいかもな。
つっても、行った先のネテロの用件次第じゃ、そうもいかねーけど……
「……あぁぁぁ?
いまなんつったジジイー?」
協会本部の一室。
ジイさんから話を聞いた俺は、ものっそ機嫌悪く返した。
「うん?
聞こえんかったんかぃ?
「オマエに言われたかねーよ。
てめぇはいい加減耄碌しろや」
「ほぁ?
なんぞ言うとるようじゃが、聞こえんのぉ?
最近耳が遠くてなぁ。ほんに喋っとるだけでも、老いぼれにはツラくてかなわんわぃ」
「オマエのような老いぼれがいるか」
お決まりの無駄なやりとりをした後、ごほんと咳払いする。
「……聞こえてたよ。
聞き間違いであってほしいがな。
十老頭じきじきに。俺をご指名で。ヨークシンまで出頭しろ?」
「うむ、そんなところじゃな。
ゼノのやつから、ワシに連絡があってな。
十老頭が、お主に助力を求めとるそうじゃ」
「どう考えても、そういう建前の出頭命令だろうが、それは。
ちょー無視してぇ」
腕を組んでヨソを向く。窓の向こうに、夜景がチラチラと瞬いているのが目に映る。
「別に構う気がないなら、引き止めはせんがな。
建前でも、ワシを通じて助力を求めとるんじゃ。十老頭の名前まで出してな。
本当にそうかもしれんぞ?」
「……例えそうだとしても、一切合財金輪際よろしくしたくないんだけどな。
何でマフィアンコミュニティーと付き合わなきゃいけねーんだ。しかも最上級とッ!!」
ネテロも難しい顔でヒゲをさする。……どうでもいいが、こいつが真面目くさった顔で何事か考えてるのを見るのは好きだ。歳相応の含蓄を感じさせる。
「お主なら、どうとでもしよるとは思うが……
この要請を受けるかどうかは、無論自由じゃ。正式な依頼として受理できんからの。
よって、協会から金銭が支払われることはない。受け取るわけにもいかんしな。
じゃから、危険な目に遭った挙げ句、何の見返りもない可能性は大いにありうる」
嘆息する。分かってるよ、んなことは……
タイミングがタイミングだ。俺に因縁つける気なのは間違いない。幻影旅団って獲物を目の前で
まかり間違って、本気の依頼だとしても、だ。
あいつらから金受け取るとか、絶対イヤ。真っ黒すぎるわ。どんだけ汚い金だ。
「つーか、何で俺なんだよ?
ネテロも完全バレてただろ? 旅団連行してたの。
俺だけ呼び出しかかるの、すんげー不愉快なんだけど」
「じゃから、その案件ではないかもしれんじゃろうが。
……まぁアレじゃ。そっちの用なら、ワシの代理として名前を使って構わん。
交渉ごとは得意じゃろ?」
「別に得意じゃ──
は?
つぅか本気で言ってんのか? オマエの代理って……」
「構わん。
ハンター協会会長の代理として出向いた、と語ってよい。
お主もシングルを背負っとるんじゃ。プロハンターとして堂々と振る舞えぃ」
今度は説教かよ……。オマエの巻き添えだろうが、俺は。
「……。
ノヴはまだ居るのか?」
「うむ、おるぞ」
「……
受ける条件は1つだ。
ノヴが、俺を運んでスワルダニとヨークシンを行き来すること。
ヨークシンに出口を残してなかったら、移動時間がもったいないから断る」
ジジイがニヤリとする。なんだそのバッチィ笑いは。
「無論、残しとるよ。
往復する可能性は当然あったからな。
お主が危機的状況に陥っても、ちゃんとスワルダニへ避難できるようにしておくわい」
「……」
はぁー。断れねぇし……外堀埋められてんじゃねーか。
十老頭かぁ。いま一番顔合わせたくない連中だな……結局ヨークシンどうなったんだか。何が哀しくて火鉢に手を突っ込まにゃならんのだ。
「で、いつ行きゃいいんだ?」
「お主次第じゃが、連中が会合を持ちやすい時間はやはり夜じゃろうな。
今から連絡しても、明日の夜くらいが最速ではないかのぅ」
「うん、分かった。
連絡して、最速のタイミングで会う、とだけ伝えてくれ。
ノヴをあんまり拘束したくない」
「ふん。
ガキンチョが、いっちょ前に気を使いよる」
「っせぇよ。さっさと連絡しろや」
携帯を操作しだすネテロ。なんでこいつはこんな愉快そうなんだ。ったく……
世界にある六大陸十地区、その裏側を牛耳っているのがマフィアンコミュニティーだ。平たく言や、ヤーさんの連合だな。
その元締めが、十老頭と呼ばれる大組織の長達。
大物も大物だが、地下競売のあるこの時期だけ集結して重要な会合を行う。逆に言えば、最も裏の武力が一箇所に集結する時期だ。念能力者も例外ではない。
十老頭お抱えの、陰獣と呼ばれる念能力者集団がその筆頭だ。裏の世界に名が通るだけあって、かなりの武闘派だとは聞く。
ただ、彼らは幻影旅団との戦闘で全滅したようだ。その幻影旅団すら、生きたまま捕縛されてしまうのだから、世界は広い。マフィアは涙目だろうが。
ひとまず十老頭との会合が、明日9月9日午後9時(1999年だからやたら9揃い)と決まったので、様々な事態への対策を練るべく俺はノヴと会食していた。まだメシ食ってなかったし。
なんでかネテロもいるが。……ジジイまでいると、嫌なこと思い出すんだけどな。
協会本部でもメシは食えるが、ガチで副会長の影がチラついてウザイので、できるだけ遠くの高級レストランの個室で食事している。
薄暗い照明に高級感漂う店内。いつもの黒スーツと、いつも通りのワンピース、そして妖怪ジジイが同席している。
「すまんのぅ。こんなジジイが若いモンのデートを邪魔して」
「……」
ノヴが沈黙を返す。ムカツクならきっちり文句言った方がいいぞ。俺はムカつく。
「くだらねーことヌカしてんじゃねーぞ、クソジジィ。
そのシワシワのツラ、スープで洗ってこいや」
「お主もビスケみたいなこと言うのぅ……
どいつもこいつも、ワシを敬う気はないんかぃ」
「……オマエ、ビスケさんにもそんなこと言われたの?」
ダブルハンター、ビスケット=クルーガー。流石に知らんわけないわな。心源流拳法の師範で、おっそろしくエネルギー量がデカい超一流の使い手。……つっても、ネテロには負けるが。
弟子にこき下ろされる拳法家の頂点とか、ギャグにしかなってねぇだろ。
「会長も相変わらずのようで」
くっくっ、と静かに笑うノヴ。まぁジジイの振る舞いが全ての原因だわな。自業自得だ。
「あーもう。真面目に話してんのに茶化すなジジイ。
せっかくの美味いメシも、オマエのツラで台無しだ」
「お主、そこまでヌカしよるか……」
だって。見てるだけでも目が肥えそうな美味い料理が並んでるのに。
一緒してるのが、こんなヒゲジジイじゃ目の毒だ。ビニール袋でもかぶってろ。
分厚いこんがりステーキを切り切りして、口に運び、
「もごもご……ごきゅ。はぁー……
大体、俺はお前呼んでねーだろうが。
ノヴも勝手にご一緒させてんじゃねーよ。腹立つわー」
「キミがそこまでご立腹なら、確かに呼ばない方がよかったかもな」
「おい?」
ノヴにまでぞんざいに扱われる始末。ぷぷ、いい気味だ。
ちなみにここの予約を入れたのはノヴだ。俺は一度ホテルに戻ってたしな。
ノヴから俺に連絡が来て、会って話したいから晩メシまだなら一緒に食おうぜと誘った。で、予約をとったから、この店に来いと言われて来た。
だから3人でメシ食うつもりなんて知らなかった。俺はノヴだけ誘ったつもりだったんだけどな。店の予約任せなきゃよかった……
「しっかしまぁ。
十老頭が一介のハンター捕まえて、っとに何の用なんだろうな……
考えれば考えるほど、色々思いついて対策絞りきれねーんだけど」
「連中も盗聴を警戒して、あらかじめ詳細を伝えるわけにはいかんかっただろうしの。
プロハンター同士ではないから、Qも使えん」
「バカやろ、Qなんか信用できっか。
副会長こそバリバリ盗み聞きしてそーじゃねぇか。よぅあんなん使おうと思うわ」
「……うむ。ワシもそんな気はしとる」
Qは、ハンター協会が保有する電話局を利用した暗号連絡網だ。確かに通常の盗聴から逃れることはできるだろう、が……
その手の事務方仕事は、かなりの頻度でパリストンの息がかかってそうだ。あまりにも情報網が広すぎるからな、アイツ。徹底警戒せざるを得ない。
ノヴが俺の顔色を窺うような様子で、
「しかし、キミもよくこんな依頼を受ける気になったな。
報酬も何も約束されてないんだろう?」
「むしろ受け取りたくねーよ、報酬なんて。
ヤーさんのバッチィ金なんて、1ジェニーたりともイランわ」
「お主はそう言うが、金は金じゃぞ?
綺麗も汚いもないわい」
「バカやろ、なんでもごちゃまぜにしてるオマエと一緒にすんな。
むしろマフィアの方がそういうの気にしてるわ。手間暇かけてマネーロンダリングしてまで、ピュアな金欲しがるんだぞ」
「窮屈じゃのぅ」
「オマエがフリーダムすぎんだよ。
こんな仕事仲介しやがって、清濁併せ呑むにも限度があるだろ、この疫病神が」
「そこまで言わんでもよかろうに……
わしゃゼノから、お主に伝えろと言われただけじゃぞ?」
「十老頭、ゾルディック、ハンター協会会長から俺に回ってきたとか、どこにも隙がない超クソ塗れの伝言だろうが。ふざけんなよ」
「ワシまでクソよばわり? あんまりじゃね?」
またノヴが、こらえきれないように含み笑いをしている。どうもこいつ、俺とネテロのやりとりを楽しんでるフシがあるな。
「あー……ノヴの質問に答えてなかったな。
いま出頭しとかないと、余計後腐れしそうだから、だよ。
連中、妙に急かしてるみたいだしな。
だろ? ネテロ」
「うむ。わざわざ十老頭の名を出したんじゃ。
当然連中も暇ではあるまい。ヨークシンの件が落ち着けば、それぞれのナワバリに戻るじゃろう。逆に言えば、決着がつかんうちに十老頭も解散できんわけじゃ」
うん、まぁそうだろうな。あれだけピリピリしてたんだ。マフィア側にもかなり被害が出たんだろうしな。少なくとも陰獣が全滅した時点で、相当な人的損失だろう。手練れの念能力者の価値は計り知れない。
「つーことはなにか?
俺の首でも取って、こいつが幻影旅団を逃亡させた首謀者でござい、とかするのか?
これにて一件落着まで持ってくには微妙な気もするんだが」
「それは無理じゃろうな。
どう考えても蜘蛛を直接狙うべきじゃろう」
「けどさ。
ゾルディックへの旅団暗殺依頼はキャンセルしたんだろ?
つーことは、旅団の構成員が流星街出身って調べて分かったんじゃねーの?
なら『手は出さず』で決着しそうなもんだけど」
ヘタに流星街とコトを構えれば、貴重な裏の人材を確保できる取引相手を失ってしまう。挙げ句に報復祭りだ。マフィアは基本商売人だからな。メンツにこだわりたくても限度があるだろう。
「だからこそ、かもしれないな。
何かを吊るし上げないと、それこそ混乱を収められないのかもしれない」
ノヴがメガネを軽く上げながら、そう言ってくる。……にしたってなぁ。
「何が気にいらないって、俺だけご指名っていう。
ノヴはコソコソしてたから知られてなくて当然としても、ネテロも絡めろよ」
「お主もしつこいのぅ。
呼びかけたところで、ワシが応じないことくらい向こうも分かっとるんじゃろ」
「俺だって律儀に行く理由がねーよ。……ハタから見りゃな。
くそっ、ゼノのジイさんに名乗んなきゃよかった」
「それはキミが迂闊すぎる」
「アホじゃの」
ぐ、ぐぅ。言い返せない……
「しかし、モノは考えようじゃろ。
これがもし十老頭から額面通りの依頼じゃったら、お主はマフィアンコミュニティーに貸しを作れるんじゃぞ? 貸しの程度は、依頼内容にもよるがな。
それだけ見れば悪い話ではないと思うがの」
「都合よく考えすぎだ。
アイツラは基本持ちつ持たれつを好むだろうが。
俺は、裏の世界にしがらみなんて作りたくねーの。だいめいわく」
「そうそう清廉潔白に生きられはせんぞ?
プロハンターなんてやっとると、特にの」
「俺を潔癖症みたいに言うなよ。
……分かってるよ、そんなことは」
眉をひそめながら、コーンスープを啜る。うん……うめぇ。ノヴ、いい店教えてくれた。ネテロ呼びやがったから、これで差し引きゼロな。
「いずれにしろ、出向かなければ分からないな」
「ふぅー……
ノヴさ。その通りではあるんだけど、いちおう俺の命かかってんだからさ。
出たトコ勝負みたいなこと言わんといてくれる?」
「あ、いや。
別におざなりにしているつもりはない。誤解だ。
だがキミも言った通り、不明な点が多すぎて対策を絞りきれないだろう、これでは」
「あー……わかったわかった。言い訳とかいいから。
オマエだって今回無報酬かもしれないのに付き合ってくれんだろ? 文句はないって」
黙り込むノヴ。やっぱな。俺が無報酬なのに、運ぶノヴにも報酬なんてあるわけがない。
「コトと次第によっては、ワシの財布から出さんでもないがの」
「もしそうするなら、ノヴの方だけな。
俺はいい」
「キミはまたそういうことを……」
「俺はもう貰いすぎてんだよ。
アフターケアぐらいやっとくさ」
ネテロとノヴが顔を見合わせ、肩をすくめる。え、なに? なんかムカつく。