1999年9月9日。
会合の場所は知らない。
ヨークシンのとある場所に居るから、午後9時までに探し出して1人で来い、とのこと。まー、クソバカにしてくれる。
こちらに前もって知らせれば会合場所が洩れる危険があるし、プロハンターなら自力で探し当てられるだろってトコか。要は試されてるわけだ。バッカくせ、バックレようかな……。なんで俺、こんな面倒に巻き込まれてんだ……ぶつぶつ。
ノヴが出入口を仕込んでいたヨークシン郊外の雑居ビルに転移し、ノヴとは別れて移動する。基本的に、俺が助けを呼ぶまでコッチくんなと言ってある。あくまでも逃げる為の手段だ。……最悪、呼ばないまま自分のケツぐらい拭くつもりだけどな。
午後9時まであと2時間。もっと早く来るべきだったんだが、正直気乗りせずグズグズしていてこんな時間になってしまった。とりあえず地下競売が行われていたらしい、倒壊したビル跡地を目指す。おそらくそのビルか、ビルの近隣が会場だったろうしな。警備を集中させる為に、十老頭はその近隣にいる可能性がある。全く違う場所にいたら──もう知らん。
見逃しても嫌なので、ある程度ゆっくり調べ回りつつ最初に崩落したらしいセメタリービルの近くまで来たが──
「はぁぁぁ。
……ま、ブラフなら大したもんだけどな」
そんなわけがない。セメタリービルにほど近い、1つのビルにアホほど人の気配がする。周囲の建物にも相当数の人間が集まってる。
まぁ……ヨークシンに集まった、マフィアンコミュニティーありったけかな。
地下競売目当てで、こんなに来るとは思えない。多分、幻影旅団騒動が終わった後にも世界各地から集結してきたんだろう。何人いるんだ……軽く4ケタいってるぞ。崩落現場近くで一般人はいないだろうに、ありえねー人数だな。
あと30分。……しゃーない、行くか。
ここからは、徒歩で近づくことにする。警察の検問がそこら中にある。『絶』で距離を詰めた方がいいだろう。ビルの上にも人がいるようだし、屋上を渡っては行けない。
最も人が集中している高層ビル。それを見上げながら歩いていく。
このビルに忍び込むことも考えたが、敵対行動と取られても困る。これだけのマフィア相手に無事逃げ切れる気がしないしな。極力コトを構えるのは避けたい。状況によりけりだが。
能力をありったけ駆使すれば脱出も可能だが、その代価は俺の能力が知れ渡ることだ。たまったもんじゃねーな。
コワモテのおっさん方が集まった、ビルの正面玄関まで来る。
呑気に歩いてくる俺に、なんとも
「よ。
十老頭のご招待にあずかったんだけど。
約束の9時に間に合わせたいんだ」
片手を軽く上げ、気さくに尋ねてみた。……思いっきりハズした感はあるが、向こうがこちらを品定めしているのが分かる。
後ろ髪を縛った男が、俺の前に立ちはだかり、
「ガキ。どうやってここまで来た?
名前は?」
「歩いてきただけだよ。誰も呼び止めなかったし。
名前はウラヌス=チェリー。
これ、ハンターライセンス」
ポケットからヒラリとライセンスを取り出し、示す。十数人のマフィアがザワつく。
さてさて、この反応は……。こんな子供がプロハンター? こんな子供を十老頭が? 検問なにやってんだ? ──そんなトコか。
「はよ連絡してくれ。
それともここじゃないのか?」
分かりやすいノロマな動きで、銃を抜いて俺に向ける。続けて6人が同じように。
「黙れ。
少しでも妙な動きをしたらハジくぞ。……ついてこい」
わざわざご案内いただけるらしい。地獄じゃなきゃいいけど。
ホテルらしいビルの中、複数の銃口を突きつけられながらエレベーターに乗って30階へ。
エレベーターから降りて、赤絨毯の廊下を歩いてく。先頭を進む男の後頭部を見ながら、
「1個聞いていいか?」
「黙ってろと言ったのが聞こえなかったか?」
「大事なことだよ。
俺なんかを直接十老頭に会わせていいのか?
なにするか分かんないじゃないか」
「……」
返事はないが、そういう指示なんだろう。そこがよく分かんないんだよな。
俺に依頼があるとしてもだ。直接会って伝えなきゃいけない理由なんてないだろうに。十老頭はマフィアンコミュニティーの生命線たる存在だ。ヘタすりゃ鉄砲玉かもしれない相手と、なんで直接会いたがる?
これは思ったよりも調べられてるかもしれないな、俺の素性を。……そっちの線も警戒しとくか。
大きな扉の前に立つ。おっほ、めっちゃ念能力者いるぞ。えーと、30は下らないな。
「……客人を連れてきました。……はい」
髪を縛った男が通話を切り、
「入れ」
案内はここまでらしい。ま、餅屋は餅屋だしな。念能力者の相手は、同業に任せた方が確実って判断か。
意を決し、両開きの扉を押し開く。──暗い部屋。更に向こうの壁に扉がある。
1人奥へ進んでいくと、後ろの扉が閉まり、真っ暗になった。
競売最高責任者を務めるビーンという名の男は、ここまで送ってきた子供を大きな扉の向こうへ見送り、息を吐いた。
──あんな小娘の占いをアテにして、本当に大丈夫なのか──
もしあの子供が失敗に終われば、おそらく自分は責任を取らされる。命だけで済むかも怪しい。つくづくバカらしいが、今はワラにもすがらざるを得なかった。
「……」
暗闇の中、足を止めずに奥の扉まで進む。扉の向こうに10人、非念能力者が揃ってる。扉の向こうから明かりが洩れていた。
コンコンコン、とノックする。
「失礼するよ」
「……入れ」
こちらが律儀に確認すると、向こうも律儀に返してきた。いかにもドスの利いた顔役の声だ。
じわりと扉を開ける。
広く、そこそこ明るい豪華な部屋。
食事が並んだ中央の円卓に、10人が席へ着いていた。
この部屋は、いくつも扉があるようだ。その向こうからエネルギーの高ぶりが目に映る。数人は臨戦態勢だな。
俺が何かしようとしたら、1秒経たずに飛び込んでくるだろう。
円卓に向かって歩いていく。テーブルに着いた10人は、みな俺の方へ視線を向けている。海千山千の裏社会の猛者どもが、俺を威圧的に値踏みする。
5メートル手前で立ち止まった。これ以上近づくと、制止されそうだからな。
「よく来てくれた。
突然の呼び出しに応じてくれたこと、礼を言うぜ」
口許に傷のある壮年の男が、俺に声をかける。円卓に着いてるから、おそらく十老頭に優劣はないって建前なんだろうが、多分こいつが実質のリーダーか。
……ま、気負うまい。なるようになんだろ。
「いちおう確認するが、あんた達が十老頭か?」
「ああ、そうだ」
息を吐く。なんつーか、ろくに名乗り合いも無しか。
「何事かと驚いたよ。
ゾルディックとハンター協会を通して、十老頭が俺をご指名だからな。
俺みたいな一介のハンターに、何の依頼だ?」
「驚かせて済まなかったな。……オレ達も、本当に子供が来て驚いたところだ。
よくここを見つけられたな」
えー。マジで言ってんの? お世辞だよな? ブラフを疑ったレベルなんだが……
「いや、そんなことより依頼は?
別に
「正直なヤツだ」
ハハハ、と数人が笑う。っせーよ。オマエラはいいだろうけど、俺は命懸けなんだぞ。
「分かった。依頼の話を始めよう。
──突然だが、お前は占いを信じるか?」
「信じねぇな」
「即答か。なぜだ?」
「当たり障りのない意味深なこと言っときゃ、拡大解釈して当たったことにできるからな。
要は話術の一種だろ」
そう言うと、数人がこちらに面白げな目を向ける。完全に楽しんでるな、コイツラ……俺は娯楽提供しに来たんじゃねーんだぞ。
「そうか。
なら、占いを信じないお前にこいつを見てもらいたい」
男が手を伸ばし、紙切れを差し出してくる。はぁ……そこまで近づけってか。
慎重に歩を進めて、男から1メートル足らずまで近づいて紙を受け取る。周りの気配、すっごい濃密なんだけど。あんまコッチ殺気向けんな。分かってるよ。
ピリピリしながらも、紙に書かれた文章を一読する。
何もかもが値上がりする地下室
そこがあなたの寝床となってしまう
上がっていない階段を降りてはいけない
他人と数字を競ってもいけない
……。
占いの内容なんだろう。流れ的には。
ただ……具体的だな。大体読み取れる内容だ。
「これは?」
「占いだ。百発百中当たると評判のな。
オレはこの占い師のファンでな。
と言っても、こいつはオレの占い結果じゃないんだが」
そう告げて、俺を間近から試すような目付きで見てくる。
百発百中の占い……
──アレか。確かマフィアに未来予知が出来る能力者がいるって噂があったな。そいつのか。
改めて紙面に目を落とす。
値上がりする地下室……まんま地下競売のことだな。
あなたの寝床……よく分からん。そんなトコで寝るな。
上がっていない階段を降りてはいけない……分かりにくいが、地下への階段を降りるなってことか。つまり地下競売に行くな。……単に地下へ行くな、かもしれないけど、普通エレベーターとかあるしな。
他人と数字を競ってもいけない……これも競売に参加するなって意味か。
じゃあ寝床は……やや遠回しだが、前後の文から読み取れるのは……
「地下競売に参加したら死ぬ──ってところか?
未来予知できる念能力者が、占いの形で示したんだと思うけど」
「おぉー……」
感心したような顔で、パチパチパチと10人のうち8人が拍手する。い、いや……そんな持ち上げるようなことか?
「では次にこいつを見てくれ。
これはオレの占い結果だ」
テーブルに伏せていた紙を手に取り、俺へと渡す。なんなんだこのクイズゲーム……
えっと?
黒い
高みの見物を決め込んではいけない
暗い波間に身を潜めれば
音もなくあなたは寝床に就く
「……」
さっきより分かりにくいな。えっと……
黒い宴……まぁ地下競売だよな。それを見物するなと。
暗い波間……なんだろうな。ヨークシンの沖に離れ小島がいくつかあったはずだけど、この文面から予想できる場所で、ここから一番近いのがそこか。身を潜めてる感じっぽいしな。
音もなく寝床に……まぁそのまんまだな。
「1個聞いていいか?」
「なんだ」
「あんた達は、競売に参加しないのか?」
「……しないな。
オレ達は競売を仕切る側だ。競りに参加すれば、公平性を欠く」
そりゃそうだ。競り値を自由に吊り上げられるもんな。常識的にそんな競売信用されるわけがない。
「じゃあ、こんなトコか。
十老頭のアンタは、参加もしない地下競売を見物してはいけない。
ヨークシンの離れ小島に身を隠していると、暗殺される。
……だと思う」
今度こそ10人全員拍手しやがった。うぜぇ。
「話が早くて助かるぜ。
こいつは今月の占いで、初週を占ったものだ。つまり先週だな。
何か嫌な予感がして占ってもらった結果がそれで、無理を言って今年の会合はこの条件から外してもらった。で、幻影旅団の襲撃だ。正直キモを冷やしたよ。
最初に渡した占いも初週分で、オレのところにその報告が来て、やはり嫌な予感がしたんでな。陰獣を
その上で、子飼いの陰獣に命じて、出品予定だった競売品を移動させたんだ」
なんか話が込み入ってきたな……まだ何をさせたいのか、よく分からんし。
「ここからが本題だ。
その陰獣が、幻影旅団の1人に殺られた」
ふむ。全滅したんなら、そうだろうな。
「──競売品を持ったまま、な」
ん?
「競売品がどこに行ったか、分からなくてな」
めっちゃ怖い顔で、全員が俺を凝視してくる。
……ああ。ああ、そういうこと?
「アレか。その陰獣が殺されたなら、競売品は旅団に奪われたはずで。
その旅団をハンターが捕まえたってことは、俺達が競売品をネコババしたんじゃないかってことか?」
沈黙が返ってくる。……息が詰まるな、流石に。そりゃモノがモノだろうしなぁ……
「言っとくが知らないぞ? そんな目立つモン、どう捌きゃいいんだ。アングラ品だってバレバレじゃないか、地下競売の品なんて。肝心のモノが何かは知らんけど」
「捌かずとも、押収するぐらいは有り得るだろう。
モノがモノだからな」
言いたいことは分かるけど。
「つっても、知らんモンは知らんし……
旅団が隠し持ってた可能性もなくはないけど、おそらくアイツラは持ってなかったな。
どうせ徹底的に身体検査するし、隠してたらまず分かる。後で見つかったら返却するよ。
ただ、旅団が持ってなかったとすると……」
「……そっちの危惧の方が重大でな。
つまり陰獣が隠し持ったまま殺されて、人知れず行方不明になっているケースだ。
陰獣が殺害された現場は捜索したが、未だ発見できていない。あまりに大規模な破壊があったせいで、徹底的な捜索をしようにも手がつけづらい」
「厄介なことになってるのは分かるんだが……
それと俺がどう結びつくんだ。さっきも言ったが、俺達は心当たりないぞ」
「こいつを見てくれ。
これはオレ以外の十老頭の1人を占ってもらったもので、2週目の占い結果だ」
用紙を受け取る。またクイズかよ……
時期外れに乱れ咲いた
桜の精霊が沈み
精霊の
……
をい。精霊て誰やねん。