どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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外伝九章

 

 口傷のおっちゃんは、やや嬉しそうに笑みを浮かべながら、

 

「悪いな、こんな時間まで留まらせちまって。

 ウラヌス、彼女が話していたご要望の占い師だ。

 ノストラードファミリーの組長を務める」

 

 へー。ずいぶん可愛らしい娘さんなのに。占い師で組長って、どういうこった?

 

「っと、名乗らなくてゴメン。

 ウラヌス=チェリー。プロハンターだ。よろしく」

「よろしく、ウラヌスさん。

 ずいぶん可愛らしい方ですね」

 

 ……え? 何で俺と感想同じなん?

 

「いや、キミの方こそ可愛いよ」

「ふふっ。ありがとうございます」

「あー、えっと。

 よかったら、そちらさん方も名前を聞かせてくれないか?」

 

 いちおう護衛にも声をかけとく。嫌かもしれないが、十老頭を前にして名乗りの機会があるのは、裏社会の人間にとってご褒美だろう。多分な。

 

「……では、私から失礼して。

 護衛団リーダーを務めるダルツォルネです。我々は全員、彼女の護衛です」

「プロハンター、センリツです。

 以後お見知りおきを」

「プロハンター、ヴェーゼです」

「……バショウ。俺もプロハンターだ」

 

 ふむ。ネオンさん以外、全員『纏』してるな。こんな状況だし、当然か。潜在オーラは──

 

 ダルツォルネ、1800。

 センリツ、5700。

 ヴェーゼ、2400。

 バショウ、8600。

 

 リーダー、よっわ。護衛団じゃ唯一プロハンじゃないしな。まぁ潜在オーラだけで判断するのも何だけど……。ちなみにネオンさんは、多分250くらい。また可愛らしい。

 

「ずいぶんとプロハンターが居るんだな。景気のいいことで。

 まぁよろしく頼む。

 さっそくだけど、ちょっと占いの結果について聞きたいことが──」

「あっ! すいません!」

 

 ネオンさんが突然声を上げ、俺の言葉を遮る。

 

「ごめんなさい……

 あたし、自分の占った結果、一切見ないんです」

「うん? 自分で占ったのに?」

「自動書記って言って、勝手に手が書いちゃうんです。だから書いた内容は分かりません。

 それに、なるべく自分が関わらない方が当たるような気がするから……」

 

 ……ふむ。未来予知なんて完全に特質系のカテゴリーだしな。自覚なしにそれが制約化してる可能性は大いにあるか。

 

「分かった。

 じゃあ、護衛団の中に彼女の占いに詳しい人は居る?」

「……私が詳細を知っています」

「それじゃ……

 ダルツォルネさんだけ、ここに残ってもらえる?

 後の人達は申し訳ないけど、この部屋から出てほしい」

 

 ダルツォルネが逡巡する。が、俺の背後の十老頭の方を見て、一礼した。

 

「承知いたしました。

 ……お嬢様、申し訳ありませんが」

「あ、うん。

 ダルツォルネさん、がんばってね」

 

 思わず苦笑する護衛団の面々。俺からは後頭部しか見えないが、ダルツォルネのツラはどんなもんやら。

 そして、リーダーを残して全員が元の部屋へと退室する。

 

「さて、ダルツォルネさん。

 まず確認したいんだけど、彼女の能力について詳細を話してもらっても問題ないか?」

 

 俺に複雑な表情を向けるダルツォルネ。まぁそうだろうな。ノストラードファミリーの生命線だろうし。けど、こっちも軽視できない状況だから、譲るわけにはいかない。

 

「聞いてたんだろ? さっきまでの話。

 ある程度秘匿したいのは分かるんだけど、このまま行けばマフィアンコミュニティーが空中分解するシナリオも充分有り得る。

 念能力者が、その能力を仔細(し さい)伝えるリスクは百も承知してるが……

 逆に言や、そこまでして功績をあげてしまえば、一気に名を売り込める絶好の機会でもある。今は十老頭の顧客は2人だけみたいだけど、ここで力を見せ付ければ、更に増えるかもしれないぜ」

「こやつ、勝手なことを……」

 

 俺の邪魔をしてくる十老頭を一睨みし、

 

「今はそんなこと言ってる場合か。

 利用できるモノはどんどん利用しろよ。ここで話こじらせて、誰が喜ぶんだ」

 

 他の十老頭が、邪魔したヤツを冷たく一瞥。そいつは見事に動揺する。そりゃそうだ、勝手なこと言ってんのソッチだもん。俺が何の為にこんな話をしてるか、分かってんのか。

 どうせ俺の言葉は『精霊の調べ』とやらなんだろ。黙っててくれ、くそっ。

 

「まぁ決めるのはダルツォルネさんだ。

 誰かと相談したいなら、今すぐ話して決めてくれ。

 あまり時間はかけたくない」

「……では、1分だけ時間をいただきます」

 

 少し距離を開けて、即座に携帯を操作するダルツォルネ。やっぱな。本当の組長は別にいたか。

 

「…………ボス。緊急の案件です、即ご決断を。……十老頭の方々から直々(じきじき)の要請を受け、お嬢様の占いについて仔細説明せよと。ご説明してよろしいでしょうか? …………ええ、そうです。……はい。…………お待たせしていますので、お急ぎください。…………承知しました。それではのちほど。失礼します」

 

 携帯を切ったダルツォルネは、「ふぅー」と息を吐き、こちらへ戻る。

 

「ライト=ノストラード氏から、私が代理として判断する許可をいただきました。

 失礼ながら、1つだけ条件を提示させていただきたい」

「ん。なに?」

「……難しい提案だと承知していますが、今この部屋の周囲を固める護衛の方々を下げてください。極力情報が洩れるリスクは避けたいのです。

 後こちらは当然のお願いとなりますが、今から説明する占いの仔細については、決して他へ洩らさないように願います。

 この条件を呑んでいただけるのでしたら、この場で虚偽を口にしないことを誓います」

 

 当然っちゃ当然の要求だけど……えらく大事(おおごと)になっちゃったな。上手く事態が転がってくれればいいけど。ただ、占いを基準に考えるしかないんだよな……

 後ろに突っ立ったままの十老頭へ振り向き、

 

「彼の提案をどうするか、決めるのはあんた達だ。

 判断してくれ」

「……いちおう尋ねておくが、キミの意見は?」

「そりゃ……

 条件を呑まないという選択肢はない。

 付け加えるなら、護衛が離れているその間は、俺の責任であんた達を護る。

 俺が刺客に化けることを懸念するなら、もう説得の言葉はないよ」

 

 口傷のおっちゃんは、その傷を親指でこすりながら振り向き、

 

「……だ、そうだ。

 結局、同じ話に帰結するな。占いを信じるか、信じないかだ。

 長引かせても仕方ないから挙手で決めよう。

 護衛を離しても構わない者、挙手を」

 

 6人、か。まぁまぁだな。

 

「護衛を離すのに反対の者、挙手を」

 

 ……1人。あと3人は、決めかねてるか。責任を取りたくないのかもしれないが。

 

「反対の理由は?」

「言うまでもなかろう……」

 

 つまり、俺が信用できないってさ。占いがどうのじゃないよな、ツラ見る限り。

 

「どちらでもない者。理由は?」

「そんなすぐ、命に関わることを決められん」

「挙手で決めること自体を承諾していない」

「……まだ考え中だ」

 

 悠長だな。まぁ分かるけどさ。

 

 息を吐いた口傷のおっちゃんは、十老頭達を見回した後、ダルツォルネを一瞥する。

 

「悪くとも6対4だから、強行採決しても構わないがな。

 ダルツォルネ。キミの提案に対し、こちらからも問おう。

 護衛を下げた結果、キミはもちろん、この子供が刺客であった場合。または別のところから刺客が侵入して、我々の身に何か起きた場合。

 その責はキミ自身のみならず、ノストラードファミリー全てが負うことになるだろう。

 それでもいいのか?」

 

 かーっ、またイジワルだなぁ。でもまぁ責任の所在は、確かにそうなるか。

 どっちか選べだって。高い確率で情報が洩れるリスクか、低い確率でファミリーが壊滅するリスクか。しかも、首尾よくお宝が戻ってきた時の見返りは小さくないだろうしな。

 

 ただでさえ彫りの深いダルツォルネの顔が、めっちゃシワシワになってる。

 

 ……ま、ちょっと助け舟出すか。元はと言えば俺のせいだしな。

 

「ダルツォルネさん。

 俺を信用するかどうかで悩んでるんだよな?」

「……ああ、その通りだ」

「その腰に下げてる剣。貸してくれるか?」

「……」

「それぐらいは勇気振り絞ってくれよ。

 周りの護衛もまだいるんだしさ」

「……なんてガキだ」

 

 耐え切れずに毒づきながら、鞘から抜いた剣の柄を俺へと向けるダルツォルネ。

 

「ありがとう。預かるよ」

 

 その剣をじっくりと検分する。

 刃渡り1メートルに満たない、僅かに反った刀剣。……刃の切れ味はイマイチそうだな。尖端はしっかり研がれてる。

 特筆すべきは、刀の腹に刻まれた神字か。所有者に自動で強力な『周』をさせるタイプだな。

 

 はぁ……素人くさい。嫌なこと言わなきゃいけないな。

 

「ずいぶんとナマクラだな」

「なにぃッ!」

「アンタ、強化系だろ?

 この刀を強化して戦うんだろうけど」

 

 それだけ言ってやると、腹立たしげにこちらを見てはいるが、内心動揺する気配。

 刀の腹をトントンと指差し、

 

「刀身のこの部分。……芯が折れかけてる。

 ずいぶん雑な使い方してきただろ? そのうちこの部分がポッキリいくぞ?」

「なっ──」

「刃がまともに研がれてない。そのワリに尖端は研いである。

 つまりアンタの攻撃は、斬撃じゃなく刺突がメインなんだろ?」

「……っ、だったらどうした!」

「ったく……

 力任せに刀身を強化して、刺突を繰り返した結果、刀の芯が折れかけてるんだ。

 この刀はな。斬撃を目的とした神字を刻んである。アンタ、用法を間違えてるんだよ。

 心当たりはないか?」

 

 心臓回りの生命力が激しく脈打ってるのが、手に取るように分かる。

 

「あるんだろ?」

 

「…………

 ……最初は、よく斬れる刀だったんだ。入手したての頃は。

 だが、年々斬れなくなっていって……今はほとんど斬れ味がない。刃を研いでもだ」

 

「理由は簡単だ。

 神字の効果が切れかけてるんだよ。神字は永遠無限に効果を維持できない。

 あくまでも、長持ちさせるだけなんだ」

 

「……なぜ、そんなことが分かる?」

 

「神字ハンターだからだ。

 俺はそれでシングルの星を得ている」

 

「なにぃっ──シングルハンターだとぉッ!?」

 

 思わず十老頭へ目を向けるダルツォルネ。

 背後の十老頭達に、揺らぐ気配はない。つまりシングルハンターであることは知ってたわけだ。そりゃ事前調査しとくわな。

 つか、仲間のプロハンターは教えてくれなかったのか……多分誰かは知ってたぞ。信用ないな、お前。

 

「お前、一体いくつなんだ……?」

「歳か? 16だけど」

 

 ダルツォルネ、めっちゃ動揺しまくってる。お前こそ、いくつなんだよ……

 

「カタギじゃないんだから、そうビクビクするなよ。

 この刀、元通り斬れるようにしてやろうか?」

「──できるのか、そんなことがッ!?」

「まあね。

 元々の効果があるうちは上手くいかないんだけど、もうほとんど残ってないしな。

 付け足しで神字を描いてやるよ。……そうだな。とりあえず5年くらいでいいか?」

 

 俺の提案を聞いて、やや冷静さを取り戻すダルツォルネ。

 

「……なぜ、そんなことをする。

 信用を得る為か?」

「それはその通りだけど。

 パッと見で、神字の効果が切れかけてるのが分かったから検分させてもらったんだが、思ったよりヒドい状態だったんでね。

 護衛団のリーダーを務めるヤツの得物が、いつポッキリ折れるか分からないような代物じゃちょっとアレだろ?

 俺も気づいちまったし、いま見て見ぬフリしてアンタやネオンさんに何かあったと後で聞かされたら、俺の寝覚めも悪くなるよ。……気の毒だしな。

 だから俺個人のお願いとして、こいつを直させてくれ」

「……。

 本当に大丈夫なのか?」

「どうせ今でも、大して斬れないんだろ?

 ダメ元でいいじゃん。上手くいったら儲けモンだよ」

「……」

 

 返事を待たず、独断で始める。指先を神字の刻印に当て、刀身内に新たな神字を刻んでいく。

 

「ちなみに普段なら、1500万は貰うからなー。今はタダでやるけど」

「な……」

「言っとくけど、さして高くないからな?

 他のヤツにやらせたら、俺より効果低くて短くても3000万じゃやってくれないぞ」

 

 武器だからな。普通の神字よりめっちゃキッチリしたヤツだし。そうこうしてるうちに刻印を終える。

 

「終わったよ。

 ついでに芯の折れかけてた部分は、ひとまず補強しといた。突きを多用さえしなけりゃ、そうそう折れないと思う。

 あと誤解のないよう言っとくけど、普通は専門家に依頼してもすぐにはやってくれないからな。

 今やったのと同程度の効果だと、速いヤツでも1時間以上かかる」

 

 ヒュッと、柄をダルツォルネへと差し出す。受け取りを躊躇っている。

 

「さっさと持ってってくれ。

 当然まだ刃を研いでないから、斬りたくても斬れないぞ。

 今すぐ神字の効能を確かめたいなら、オーラを籠めて尖端でどっか突いてみな」

 

「……」

 

 受け取るダルツォルネ。『練』をすると、オーラが刀身へと移る。

 

「おぉぉ……」

 

 手応えに声をあげるダルツォルネ。そりゃピカピカ新品の神字だからな。自動『周』は最大限に効果を発揮してるよ。

 

「……

 この部屋にある家具、傷つけてもよろしいでしょうか?」

「好きにするといい」

 

 今まで黙って見ていた口傷のおっちゃんが許可する。

 ダルツォルネは一礼し、やや小さいテーブルへ刀を向ける。

 

「では失礼して……────はぁッッ!!」

 

 刺突一閃。頑丈そうな鉱石で出来たテーブルが、抵抗なく真っ二つに裂けた。滑らかな断面を覗かせるテーブルの残骸。

 

「……っ、……!」

 

 ブルッと身震いするダルツォルネ。あー、これアレかな。多分、元より強くなってんな。

 その可能性はちょっとだけ考えてた。ダルツォルネ、弱体化した中古品買ってたんだわ。だから思ったより早く弱まっていったんだろう。

 

 ……そもそもだ。それ、初心者用なんだよな。念の。

 

 刻んであったのは、自力で『周』できない人間を補助する為の神字だ。勝手に『周』をされれば、言うまでもなく肉体へのオーラは減るし、『凝』の妨げにもなる。刀の尖端で突きたいのなら、漠然と刀身を『周』するより、刀の尖端に『凝』をすべきだ。突く瞬間だけ。

 ちなみに尖端へ『硬』はNG。刀身も強化しないと反動で折れることがある。

 

 そんな初等武器に頼ってる限り、念能力者としての成長は望めんわな。

 

 ただ、まぁ。プロハンターでもない裏社会の人間に、そこまで親切に教えてあげません。仲間のプロハンターが教えてやらんのも当然だ。

 

「ダルツォルネさん。

 いい加減、俺を信用するかしないか、結論を出してくれ」

 

「あ、はい。

 ……ありがとうございました」

「ん、どういたしまして。

 ……いやいや、じゃなくて」

「あぁぁぁ、すいませんでした!

 信用いたします!」

 

 なんだよ、その投げやりなの……。別にいいけどさ。

 

 腰を折って頭を下げるダルツォルネを無視して、十老頭へと向き直り、

 

「どうにも茶番じみてたけど、OKだって。

 で、そちらさん方の結論は?」

「反対の者、挙手」

 

 口傷のおっちゃんの問いかけに、誰1人ぴくりとも手を動かさなかった。

 

 

 

 

 

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