改めて私がグリードアイランドの攻略に挑む場合、様々な問題が浮かびあがってくる。
長期間ゲーム内に拘束されることが確定するから、父さん母さんに許可をもらわないといけない。黙って行くなんて有り得ないし、隠し事もしたくない。
その上で……うん、リィーナ達に妨害されないよう、事が露見しない工作が必要になる。そっちは全力で隠し通させてもらう。悪く思うな。
もちろん、ウラヌスさんの募集に応募して、私が足手まといになる旨を充分伝えた上で、一緒に参加させてもらわないといけない。
どれも難しい気がするなぁ……。ま、無理だったら諦めよう。仕方ない仕方ない。
飛行場でネテロとチードルさんにお礼と別れを告げ、ハンター協会本部へ。
共有ルームとして開かれた部屋に置かれている、ハンターサイト専用PCからハンターサイトへアクセス。
仕事仲間の募集項で、最新のモノから見ていくとすぐ目当ての募集が見つかった。
────グリードアイランド協力プレイヤー募集、報酬は応相談。採用面接あり。
入力フォームに私の名前と携帯電話の番号とメアドを打ち込み、備考欄には『いつでも構いませんが、お早めにご連絡いただけると助かります』と記入して、応募を完了する。ハンターサイトにアクセスする際には、ハンターライセンスが必要になる。ライセンスが身分証明になるので、これ以上の情報はいらないだろう。
「さて、早く返事が来るといいんだけどなぁ……」
これでウラヌスさんの仲間に入れてもらったら、今度はアームストルへ帰って、自宅で許しをもらい、風間流道場に対して何らかの工作をする必要がある。少なくともゴンには、きちんと事情説明してから行こうと思ってる。誰の協力もなしに、妨害を抑えるのはまず無理だろうしな。
……ぼんやり待ってても仕方ないので、ハンターサイトのグリードアイランドに関するごく最近の情報を購入してみる。ウラヌスさんも知ってるだろうけど、自分の目でも確認しておきたい。追加情報程度で、情報料500万はちょっと痛いけど……
・バッテラ氏によってかけられていたクリア懸賞金500億は、クリア者が現れたことにより消滅。
・誰がクリアしたかは一切不明。バッテラ氏も行方が知れず、ゲームクリアしたと名乗り出る者も現在までいない。クリア者としてツェズゲラ氏が有力視されていたが、その件について彼は沈黙を貫いている為、他の誰かである可能性が高い。
・クリア後一定期間、現実世界からグリードアイランドへのログインが封鎖。
・クリア時、ゲーム内にいたプレイヤー達は、脱出しない限りはゲーム内に留まることができた。逆に帰還したくてもできないプレイヤーもいる模様。
・クリア後、全プレイヤーのバインダーから全指定ポケットカードが消滅した。変身前が指定ポケットカードであったモノも、同様に消滅した。
また、ゲインした指定ポケットカードのアイテムが、ゲイン待ちのモノも含めて同様に消滅した。フリーポケットカードも一部消滅したようだが、詳細は不明。
・ログイン封鎖期間中、指定ポケットカードの入手イベントは一切発生しなかった。
・グリードアイランドへのログインが再び可能に。
・ログイン再開時期から、指定ポケットカード入手イベントが発生するように。ただし、一部の入手イベントは仕様変更が入った模様。要調査。
・指定ポケットカードの効果には、特に仕様変更がない模様。要調査。
・一部スペルカードには、仕様変更があった模様。要調査。
・グリードアイランドのゲームソフトは、相場を乱高下させながらブラックマーケットを始めとする取引市場に多く出回っている。異様に安価なモノは、偽物か取引自体が虚偽である可能性が極めて高く、ソフト購入を検討する際には要注意。
・複数の富豪や資産家が、ゲームクリアに懸賞金をかけ始めた。これはバッテラ氏の情報封鎖が消え、クリア報酬についての情報が出回るようになった為と予想される。
・現在、公式にゲームクリア懸賞金をかけている人物は以下の────
「ふぅん……」
つまり、バッテラさんがかけてた……まぁ途中でリィーナにすりかわってたんだけど、ゲームクリアの懸賞金は、今でも少ないながら存在はしていると。
だから、前ほどじゃないにしても、クリアを競うプレイヤーはいるってことか。
ハメ組で、まだゲームから出れてない人もいるんだろうなぁ……実力的にアレだったし。
誰かがクリアしたら、全部の指定ポケットカードとアイテム消滅か……
大人数で協力しての連続クリアを阻止する為だとは思うけど、これって結局プレイヤー同士でクリアを競わざるを得ないってことか。えげつなー。
やっぱり指定ポケットカードの入手方法変更は厄介かな……ちょこっと変わってるだけならいいけど、前はゲンスルーさんが持ってた入手方法の情報にずいぶん助けられたからなぁ。
今度こそ、あのドッジボールに参加してみたいけど、んぅー……ボス属性ェェェ。
レオリオさんがいないから、私は今回も移動スペルの恩恵にはあずかれないし。
リィーナがいないから、他プレイヤーの攻撃スペルからカードを守るのが難しいし。
あと……やっぱり……
ゲーム開始直後に数時間気絶、おまけに1ヵ月間強制『絶』か……
……。
ウラヌスさん、ダメって言いそうな気がする……どんだけ足手まといだ私。。
諸々を考えただけで、座っている椅子からずりずりずりと滑り落ちそうになる。
……大丈夫か私。事前情報だけで心折れかけてますやん。
いや……いや、おおむね分かっていたことだ。それを再確認しただけだ。
こんなことで挫けてたら元ゲーマー……じゃなくてプロハンターの名がすたる。困難に立ち向かうんだ私。がんばれ私。負けるな私。
それに、あのクソ親父(ジン)の挑発に乗るみたいで嫌だけど、指輪とメモリーカードのデータの中身を少なくとも一度は確認しておかないとな。
──ブルルッ。とポケットの携帯が震えた。
確認すると、メールが入ってる。
相手は……ウラヌスさん。もう来たのか早いな。もしかしてハンターサイトにちょうどアクセスしてたんだろうか。このビルにいるなら、ここから繋いでそうなもんだけど……でもここにはいないみたいだし……うーん?
今日の夕方5時に、協会本部近くの喫茶店、か。なんでわざわざ本部の外で? まあ、いいけど。
まだちょっと時間もあるし、父さんと母さんへのおみやげ探しておこっかな。すぐ帰ることになるかもしれないし。
世界樹のおみやげはあるから、たまにはハンター協会でハンターらしい珍しいモノでも買っちゃおっか。興味もってくれるといいな。ふふん♪
約束の時間5分前くらいに、指定の喫茶店の前まで来る。入口には『CLOSED』の札が下がってる。
「んー……」
お店の中には、見た目に誰もいない。でも、外から直接見えないトコにウラヌスさんの気配とオーラは感じ取れた。他にひとけは無いかな。
「……」
なんだろ。ちょっと違和感あるんだけど……まあ、気にしても仕方ないか。
中に入ってみる。カランコロン♪ とベルのお迎えはあれど、いらっしゃいませの声はなし。
「こっちだよー」
覚えのある声が聞こえたので、お店の奥の方の席へと進んでいく。
やや奥まった一卓のソファーに、桜色の髪を撫でながら座るウラヌスさんがいた。そこまで歩いていく。
「こんばんはアイシャさん。
ずいぶん早かったね。もう身体、診てもらったの?」
「こんばんはウラヌスさん。
身体の方は、とりあえず経過観察です。やっぱり原因はオーラだったみたいで」
「そっか……
ああ、向かいに座って。無理やり貸切にしたから注文は頼めないけど」
うーん……みんな秘密守る為に色々苦労してるなぁ。多分ハンターライセンスを使ったんだろうけど。便利だよね、ホント。
私が向かいのソファーに座ると、ウラヌスさんが空いたグラスにポットから水を注いで、私の前に置く。
「どうも。
……ウラヌスさん、私の他に応募してきた人っています?」
「うーん。今までにっていう話なら、何人か。
ただ、無名のルーキーとか、金にガメついヤツとか、あんまりいい噂聞かないヤツとか、そんなのしか来てなくて。面接もせずに断らせてもらってるけど」
「なるほど……
ウラヌスさんはプロハンターを求めてるんだと思うんですけど、どういう人が必要なんですか?」
場合によっては、ゴン達のうちの誰かに声をかけないといけないからな。今回協力してもらうのは難しいだろうから、したくないけど……
「そりゃまぁ……
最低でも中堅以上の戦闘能力か、ゲーム攻略に適した念能力持ちだね。
グリードアイランド経験者はもちろん優遇するし、あと……信用できるかどうかかな」
「……。
そうですか」
「ま、キミの場合は……
俺の方から手を組むのを断る理由があるとすれば、足手まといになるって言ってたのがどの程度のものか、っていう一点だと思う。できれば、この場で話してほしい」
「えっと……
お話するのは構わないですけど、私の場合まだ他にも問題があって」
「いいよいいよ。聞かせてくれるなら、そっちも一緒に。
なんせ俺もアテがなくて、ほんとに困ってて」
「はい……
それじゃあ、まず──」
──少女説明中(両親編)──
「──なので、あまり長期には空けられなくて……」
「うん……
まあ、両親の了解が得られなかったら難しいのは分かったよ。
それで?」
──少女説明中(仲間編)──
「──今回もそうなっちゃうんじゃないかなって。
それはもう、嫌なんですよね……」
「そっか……
もし大人数でゲーム攻略を妨害されたら、相当キツイね……
他プレイヤーとの争いは、ある程度仕方ないんだけどさ」
「できるだけそうならないように、説得はしてみますが」
「その時はお願いするよ。俺も協力する」
「すいません……」
うん。ここまではいい。ウラヌスさんもそれを理由に、私を拒絶しないだろうと予想はしてた。
問題は、次だ……
──少女説明中(ボス属性編)──
「…………」
テーブルに両肘をついて、完全に考え込んでしまうウラヌスさん。
うん……ですよね。
私だってそうなります。知った時の虚脱感たるや。
「移動スペル無効て……
……それ……
あまりにハードモードすぎると思うんだけど……」
「……ですよねー」
【ボス属性】
・特質系能力
自身に作用する念能力による状態異常・特殊能力を無効化する。自分自身の念能力は、無効化の対象にならない。
<制約>
①この念能力は常時発動する。オーラが枯渇しない限り、発動を止めることはできない。
②無効化する念能力を任意選択できない。治癒・支援の念能力であっても無効化の対象となる。
③この念能力によってオーラ枯渇に至った場合、枯渇に至らせた念能力は無効化できない。
④死者の念による状態異常・特殊効果を無効化することはできない。
⑤無効化中、オーラを消費する。消費するオーラ量は、無効化対象の念能力に込められたオーラ量×自身にかかるはずだった影響の強度。
<誓約>
①この念能力によってオーラ枯渇に至った場合、即座に気絶する。
②この念能力によってオーラ枯渇に至った場合、30日間強制『絶』になる。この間はこの念能力による無効化も発動しない。
……ぐぉぉぉ。なんで私はこんなアホな能力を作っちゃったんだぁ……!!
改めて身もだえする思いだ。せめて……せめてON/OFFできるように、制約と誓約調整すべきだった……!
ウラヌスさんは少し顔を上げ、
「……いちおう聞くけど、グリードアイランドに入る時は?」
気づいたか。ぐ……なんで私は気づかなかったんだ。
「えっと……それも例外ではなくて。
ゲーム内に移動する効果も消しちゃうんで……
その……
オーラが枯渇するまで、全力で『練』して無理やり入ります」
「ぅわお。ムチャするなぁ。
……ゲームから出る時も?」
「ええ。多分……」
「ということは、出る時も問題だけど、入って1ヵ月間も『絶』かぁ……
で、それが治ったら、今度は移動スペル全部無効、と。
……。
俺、ぜっんぜんイメージできないんだけどさ。
どうやってクリアしたの?」
どうやったっけ? うーん、と。……私、ゲーム攻略にほとんど貢献してない気がするんだよな。うん……
……。
あかん……正直に言おう……
「……
仲間の努力の賜物です」
「…………」
あ。また顔沈んだ。
「ワケがわからないよ……」
……ダメですよねぇ。やっぱり。
その体勢で固まっていたウラヌスさんは、顔を上げてソファーに深くもたれかかった。
「……うん。まあ、分かった。
そりゃキミも足手まといだなんだと気にするよな」
「その……
ダメ、ですよね?」
ウラヌスさんの顔とオーラを見る限り、すんごい悩んでる感じが伝わってくる。
「……別にいいよ」
「え?」
「それで構わない。……それが分かってても、キミは行きたいんだろ?」
「……はい」
「じゃあ連れてく。
移動スペルが効かないっていうのも、全くメリットがないわけじゃないしな。
たとえば『離脱』でゲーム外へ飛ばされたり、『同行』でどっか連れ去られたりしなくなるから」
「デ、デメリットの方が大き過ぎないですか?」
「……キミには相当走ってもらうことになると思うけど、足には自信ある?」
「あ、それは大丈夫です。前回はそうしてました」
ソファーから背を浮かせ、頭をかくウラヌスさん。
「なら、いい。
役割分担を考えれば、まだいくらかやりようはある。
……ゲームへ入った時に気絶するっていうのは、回復に時間かかるの?」
「えっと、前は6時間かかりました」
「長いな……まぁ気をつければ何とかなるか?
それって本当に、気絶と強制『絶』だけ?
他になんか悪いこと起きない?」
「多分……
誓約で無理やりそうなるだけなんで、他には何も」
「……キミがそう言うなら、俺から言うことはないかな」
ウラヌスさんの難しがってる顔を見て、私は言葉を悩んだ。
「本当に、いいんですか?」
「……いいさ、いいさ。
何だかんだで、キミは仲間とクリアしたんだろ?
俺もそれにあやかろうじゃないか」
「でもウラヌスさん、命が懸かって……」
「いいって!」
突然怒鳴られ、軽くビクついてしまった。ウラヌスさんは沈痛な面持ちで、
「怒鳴ってゴメン……
……それが分かってても、キミが俺と組むって言うならね。
キミのエネルギー量なら大丈夫だろうけど、練を見せてもらえれば納得するよ」
「あ、はい。
それは構いません」
「……俺も偉そうなことは言ってるけど、キミと組むに相応しいかどうか練を見せなきゃとは思ってたし。……この後移動するから、少し待ってて。
ああ、もちろん両親にダメって言われたら、俺も組むのは諦めるから」
「……説得します」
「……。うん」
言ってウラヌスさんは携帯を操作する。操作し終えた後、そのままじっとしている。
ず……
突然、オーラが減り始めた。
私の視界に──店内の化粧室から、茶色いツナギを着た2人連れが出てきた。
店内をこちらへ向かって歩いてくる。減り続けるオーラ。【ボス属性】が発動し続けている。
強烈な違和感。
私はその2人から目を離せない。特に片方は、放つオーラもさることながら、歩き方が人間のそれではない。骨格もおかしい。
ウラヌスさんは座ったまま、じっとしている。
その奇妙な2人が、そばまで来て──立ち止まった。
私の顔をじっと見る。私も見返す。その、人ならざる目を。
……まさか……こんなところで。
「キメラ、アント……」
「──ぷはっ!」
片方が息を大きく吐き出した。私のオーラ減少が止まる。
「……なんなのよ、アンタ達……」
息を吐き出した方が、私の方をワナワナと震えながら睨んでくる。息が荒い。ウラヌスさんが、明らかに何の動揺もなくそちらを見やる。
「アイシャさん。
キミの能力を聞いて、多分こうなると思ってた」
「……。どういうことです?」
「それは、こっちのセリフよっ!!」
バン! とテーブルを叩くキメラアントの1人。……ん? なんかやけに人間っぽいな。
「なんで、アンタまで!
──アタシの【神の不在証明/パーフェクトプラン】が効かないのよっ!!」
ウラヌスさんは、彼女? に、やや同情めいた顔を見せ、
「……しょせん、念能力さ。絶対はない」
わなわな身体を震わせるキメラアントの女性に、もう1人のツナギ姿が背に手を当てている。
「おねーちゃん……」
えっと、超展開すぎて私ワケわかめなんですけど……
困った顔を私に向けるウラヌスさん。
「この2人も行きたいんだってさ。グリードアイランドに」