【不思議で便利な大風呂敷/ファンファンクロス】
・具現化系能力
包んだモノを小さくできる、大きな布を具現化する。
布の大きさは任意で決められる。
どんな大きなモノを包んでも、手の平サイズにまで縮小できる。
包めるモノは生物・無生物を問わない。
縮小されたことで、中にあるモノが潰れたり死ぬことはない。
小さく絞られた布の口を解くことで、元の大きさに戻すことができる。能力を解除することでも元に戻る。能力の解除は遠隔でも行える。
<制約>
大きく広げた布は、自分の手で持ち続けなければならない。自分の手から離れた瞬間、布は縮小し始める。
十老頭から梟の能力を聞いて、俺は一言、
「えっ。そんだけ?」
「ああ、そうだ。
オレが梟から聞いた能力の詳細はそれだけだ」
つまり、だ。
競売品は小さく絞った布状態で、どこかにあるってことだ。
占いで『床に臥す黒い商品がやがては目を覚ます』とあるから、現存することは間違いないだろうけど……
俺はそう書かれた占いの紙を指しながら、
「ダルツォルネ。
占いの一節に『やがては』ってあるけど、具体的にどれくらいの時間か分からないか?
今までの占いの事例と比較して、目安があれば知りたい」
しばらく考えた後、首を横に振るダルツォルネ。
「残念ながらまちまちといったところだ。
早いとも遅いともつかないケースだな」
んー、まぁそうだろうなぁ。
「これが9月2週の占いだから……
9月5日から11日のどこかで見つかるって意味なんだろうけど。
今日が9日だし、今日、明日、明後日のどこかだろうな。
けど──」
口傷のおっちゃんが険しい顔で、
「ウラヌス。
分かってるとは思うが、11日に見つかっても地下競売は開けない。
仮に発見が10日でも、4日分の競売品を全て競り切るには相応の時間がかかる」
「できれば発見は今夜中、ってことだよな。
……あんまり言いたくはないんだけど。
ふつー念能力は、能力者が死亡すると、能力が解除されるんだよ」
「ああ、そうらしいな」
「でも梟の能力は、死亡しても解除されてないんだと思う。
だから今も競売品は、小さな袋の状態で行方不明になってるはずだ。解除されてたら、なんらかの形で競売品は見つかってるだろうしな」
「ふむ……
いちおうその線も疑って探したが、現場は土砂と瓦礫で滅茶苦茶になっててな。元々はオフィス街の一角だった場所が、廃墟になるほどの有様だ。
とてもじゃないが、小さい袋なんて見つけられないかもしれない」
「仮に見つかったとしても、だ……
もしかしたら、その小さな袋の状態から元に戻せないかもしれないぞ」
俺の言葉に、ざわっとする十老頭達。
「さっき能力の説明を聞いて、引っかかった部分はここなんだ。
小さく絞られた布の口を解くことで、元の大きさに戻すことができる。
その、ほどくって行為を。
他の人間がやっても、元の大きさに戻せるのか? って話なんだよ。
だってこれ、戻す時は必ず梟本人が戻してたんだろ?」
「あ、ああ……その通りだ」
「だよな。
ダルツォルネ、占いの『床に臥す』ってフレーズは、死だけじゃなく病気を指すこともあるんだよな?」
「……そうだ。
後に『目を覚ます』と続いているから、病気を指すケースに符合する」
「……。
念能力ってのは、死後強まる念になって残ることが稀にある。
梟の念が死後に強まって残ったのなら、能力が解除されないまま競売品が元に戻らない今回想定されるケースに当てはまる。
『床に臥す』ってのが、単に土に埋もれてるとか、その程度の意味ならいいんだけどな……」
解除困難な死者の念がかかっている=床に臥す、という暗示なら非常にマズイ。
「死後強まる念とやらは、そんなに厄介なのか?
他の念能力者でも解除できないのか?」
あまり念に詳しくなさげな口傷のおっちゃんに、俺は難しい表情で返す。
「……仮に死後強まってなくても、他人のかけた念を解除するのは至難だ。
それができる能力者はほとんどいない。
まして、だ。
それが死後強まった念なら、解除できる能力者は世界中かき集めても十指に満たないと言われてる。……そんなの探してたら確実にタイムアップだな」
十老頭もダルツォルネも、揃って血の気が引いていた。
「だからこそ、せめて本人以外でも能力の解除が可能かどうか知りたかったんだけどな。生前の能力がそうなら、死後強まっていても性質を受け継いでる可能性が高いから。
……ま。占いにゃ『目を覚ます』って書いてあるんだし、後は首尾よくコトが運ぶのを祈りましょうか」
俺は1人肩をすくめた。
必要な情報は得たので、いよいよ競売品の捜索に取りかかる。
当たり前だが、十老頭を護衛する能力者は残ってもらわないといけない。けれど、俺がなにか小細工をしてないか見張って証明してもらう為に、何人か来てもらう必要もある。
なので、十老頭護衛メンバーの中で探知能力に優れた者を5人、戦闘能力に長けた者を5人、あとノストラードファミリーも俺に付き合ってもらう。
十老頭は無論、あの部屋で報告待ちだ。……せっかくだから、テーブルのメシちょっと摘まませてもらえばよかった。小腹すいた。ノドも渇いたし。
ぞろぞろと能力者を引き連れ、倒壊したビル跡地へ。能力者以外にも、十老頭が信頼のおける人間が十数人。……目立つなぁ。どうせ検問があるから一般人は出歩いてないけど。
歩きながらチラリと後ろを向き、
「センリツさん」
ノストラードファミリーとして付いてきていたセンリツに、小声で呼びかける。
すぐに気がつき、こちらへ小走りでやってくる。
「なにかしら?」
「悪いけど、飲み物持ってたらちょっと欲しい。
ずっと喋りっぱなしでノド渇いててさ」
何とも言えない表情で、こちらに水のペットボトルを渡すセンリツ。
「……よく分かったわね。
あたしが飲み物を持ってるって」
ぐびりと一口飲んだ後、
「ふぅ。
ちゃぽんちゃぽん聞こえてたからね」
「ずいぶん耳がいいのね」
「聴力を強化しただけさ。……あんたには敵いそうもない」
「え?」
「あんたの耳。
相当なエネルギーが集まってる。ずっと俺と十老頭の会話を聞いてただろ?」
「……
どうして、分かったの?」
ペットボトルを返しながら、
「企業秘密♪」
盗み聞きしてたのは他の護衛も同じだけど、はっきり聴き取ってたのは『彼女』くらいだろう。かなり異常体質みたいだけどな。
さて、現着したけど。
……。ひっくり返ってんなぁ。
元々相当ぐちゃぐちゃだったんだろうけど、陰獣の遺体とか競売品探しで掻き回したんだろう。建築物の残骸は
どうしよっかなぁ。闇雲に探しても見つかんないぞ、これ。ホントに街の一角を廃墟にしたんだな……ウボォーどんだけよ。これだから強化系は怖い。
範囲も広いし、よく考えないとな。もしここにないのに、時間をかけすぎたらシャレにならない。他に探すアテもないけど。
「明かりは必要か?」
黒服のマフィアが尋ねてくる。
「……いや、多少はあった方がいいかもしれないけど、目立たない方がいいだろ?
大型の投光器とかは持ってこなくていい」
ポケットから携帯を取り出す。今は……10時回ってるな。
曇ってて月明かりも弱いし、この辺にあっただろう街灯も、全部ぶっ飛んでかなり暗い。
やだなぁ。流石に服、泥まみれになりそうだ。
しばし考える。
「どうした! 探す気がないのか!」
誰かが離れたところから発破をかけてくる。能力者かな。
「考えてるんだよ!
こんなもん適当に探したって見つかりゃしないさ!」
……。目の力で、何とかなるか?
基本的にこの目の力は、オーラを見る力とは違う。生命力と精神力を視認する力だ。
よって、具現化した布がオーラを纏っていても、土中にあるそれを見ることはできない。もちろん、普通にオーラを見たり『凝』で見たりはできるけど。それは精孔を開いてれば元々見えるものだ。
そんなことで見つかるなら、他の能力者がとっくに見つけてる。
つまり具現化した布は、『凝』でオーラを視認できる範囲には無いということだ。深い土中だと、密閉状態になって完全にオーラを遮られるしな。オーラの性質にもよるが。
今回の場合、死者の念が憑いている可能性がある。
死者の念は、死者が生前増幅した精神力の塊だ。通常、オーラを供給しない限り、念は消えてしまう。だから死後、念能力は消える。
ところが死者の念が取り憑くことで、そこからオーラが供給されて、残り続ける現象が起こりうる。つまり能力者の生前に近い状態なのだ。死者の念とは。
その精神力を探知できれば、小さくなった布を見つけられるかもしれない。
……能力を披露せずに発見するなら、それしかないんだよな。そう都合よくいきゃいいけど……
周囲の地面を視界に捉えて、目に力を集める。『凝』ではない──あんな力任せの方法ではない。感覚をありったけ掻き集め、何も見落とさないような繊細さを求める。
…………。地中1メートルにはなし。2メートル…………。3メートル………………
「──ふっ」
息を吐く。っくそ、ねーな……
ウボォーのやつ、どんだけぶっ飛ばしてくれてんだ。
全然関係ないトコ行ってたら、めっちゃ困るなぁ……
いずれにしても、ここに埋まってないって確証だけでも得ておかないとな。あー、目ぇ
再び目に感覚を束ねる。
4メートル……………………ない。
5メ──あ。
「ぁー…………」
マヌケな声をあげる。何事かと俺を見る面々。
あった。多分アレだ。けど……
思いっきり邪魔なモンが上に乗っかってやがんな。
「──あそこにある重機」
瓦礫の撤去や土砂を掻き分けてたであろう、汚れた小型のショベルカーを俺は指差し。
「なんだ? あの重機を使いたいのか?」
「違う。
……その、下。そこらへんに埋まってる」
ざわつく周囲。しっかし
「どうやって分かったんだっ!?」
「聞くなよ。
まずはホントにあるか確認してからだしな」
「その重機を動かせばいいのか?
なら、現場責任者に問い合わせて鍵を──」
「いや、いい。
時間が惜しいから、俺がどけるよ。土砂も俺が掘り返す」
実に奇妙そうな視線が俺に集まる。……オマエラ、見た目で判断しすぎだろうが。
つっても能力なしじゃ流石にな。
こういう時にうってつけの能力がある。隠し玉じゃないから、気楽に使えるんだよな。敵対した相手がこの能力だけ警戒してくれりゃ、俺にすれば儲けモンだ。
──【巨人の籠手/ギガースグローブ】──サイズ9。
2メートル超の巨大な腕を、右腕に被せて具現化する。
念能力者のみならず、非念能力者も「おおぉ!」と声を上げる。こいつは物質の具現化だから、誰の目にも見える。そして能力者なら、これに籠められた顕在オーラも何となく分かる。だいたい1万。この場にいる能力者の、誰の潜在オーラよりも上だ。俺の身体も、推定十数トンの車体を持ち上げる為にかなり強化している。
ショベルカーの乗車部分をワシ掴み、持ち上げる。車体の下から土石がバラバラ落ちる。うっぷ、けむぃ。
離れた場所へ持ち運び、地面に置く。
ショベルカーのあった位置まで歩いて戻る。……周りの視線、なんかすごい色々複雑な感じになってんな。そんなに似合わないか。俺がパワータイプなのが。
巨大な手を
あまり大量でもやり場に困るから、ある程度の手応えで腕を上げていく。
手の上に大量の土砂を乗せたまま、地面から持ち上げる。
身体の向きを変えて、邪魔にならない場所へ手を返し、土砂を積み上げる。
これを4メートルか……ちとメンドくせーな。これぐらいの手間で済めば安いんだろうけどさ。隠れ家作った時の工事は、マジでシャレにならんかったからな……
数分かけて、相当に地面を掘り下げた。作業しやすいよう、周囲の土もいくらか掘っている。
俺の目には、もうオーラが土から滲み出るところまで近づいていた。
籠手のサイズも、作業に要する繊細さに応じて小さくしている。今はサイズ4。どけたショベルカーのすくう部分くらいな手のサイズだ。
ひとすくい。──ついに、俺の手の上に目当ての反応が乗っかった。
周囲に少し距離を置いて集まった人間に向けて、
「今、この土の中にある」
そう宣言し、その土を持ったまま移動を始める。
やや離れた場所まで移動して、ちょっとずつ地面の上に土をバラ撒いていく。
「あっ!」
他の人間が声を上げる。オーラを探知できたのだろう。僅かな反応だが、探知能力さえ高ければ『凝』で見えなくもない。
手の土を全部撒き終えて、グローブを解除する。ふぅ……
もはや見逃しようがない、そのオーラ反応まで歩み寄り、
「ん。発見」
泥まみれになった、ねじれた布包みを摘みあげた。よかったぁ、見つかって……
ちゃんと、この袋1つに競売品2日ぶん入ってんだろうな……
もう1つあるとかだったら泣くぞ。全然違うのが入ってたら、もっと泣く。
そんなことをもやもや考えながら、十老頭の待つビルまでぞろぞろと戻る。
俺の手には例のねじり袋。しっかし、きったねぇな……ほとんど泥の塊だぞ。早く手ぇ洗いたい。
ビルの前には、最初来た時と同じ面々が並んでいた。
「見つかったってのは本当か!」
髪を縛った男が、勢いこんで尋ねてくる。
「うん、多分これだと思う。この小さい布の中に詰まってるはずだ。
でも確かめようにも、広げたらもう縮められないだろうし。
競売品の中には壊れやすい物もあるだろうから、広げて確認する為に金庫とか行きたいんだけど」
その男が、俺の摘まんでる袋を相当疑わしげに見てる。非念能力者なんだろうが、全く念を知らないわけじゃないんだろう。ただ信じがたいわな。こんなのに全部入ってるとか。
「……
消えた競売品が全部収まるほどの巨大金庫は、この近くにない。
広い倉庫なら案内できるが」
「んー、まぁいっか。
じゃあ、そこまで案内頼む。あと十老頭もご足労だけど呼んでくれ。絶対にこれだって確証はないから、確認作業に居合わせてほしい。
もう1つ、競売品を鑑定できる人間も呼んでくれ。
後でアレは偽物だったとか、因縁をつけられても困る」
「……分かった。倉庫案内と鑑定人は手配する。
だが、十老頭へ伝えはするが、来てくださるかは保証しないぞ」
「うん。来なけりゃ別にいいよ。
いちおう呼びはしたって事実があればいい」
ビル内。照明が点いた、ただ広いだけで何もない地下倉庫。
予想はしていたが、十老頭は1人たりとも欠けることなく来た。
そりゃそうだわな。見つかったかもしれないなら絶対自分の目で確認したいだろうし、死者の念で解除できないかもしれないからな。
それについては、なるようにしかならん。見たところ、そこまでガッチリしてるような感じじゃないんだけど。あっさり解けそうな気はしてる。死者の念だろうが何だろうが、能力の解除条件さえ満たせば外れるのは当たり前だしな。
なんやかやで40~50人は集まった中。俺を中心に、部屋の周囲へ散らばって、こちらを見守っている。
はぁー……解けますように。これが2日ぶんの競売品でありますように、と。
意を決し、布の結び目に指をかける。
しゅるりと、ほどけかけ。慌てて地面に置き、俺は飛び退いた。
次の瞬間。
──ばさぁっ!! と音を立てて布が広がり、その上に大量の箱が現れた。役目を終えたからか、広がった布はオーラに戻って霧散する。
『おおおぉぉぉぉぉっ……!!』
その光景に、場に居合わせた人間が一斉にどよめく。
うへぇー……
めっちゃくちゃあるな。箱が積みあがってないから、やたら場所をくってる。
ただこの量と、箱に書かれた競売品132とか215といった数字を見る限り、捜し求めた物と判断していいだろう。
ただ、こいつが1日ぶんなのか、2日ぶんなのか、全て欠品なく揃ってるかは分からんけど……あの占い結果があるとはいえ、そう都合よく解決したのか不安で仕方ない。
周囲の人間も、突然出現した大量の箱に、どよどよと騒ぎ続けてる。
っと、まだ第一関門突破しただけだ。こっからミスれないぞ。
パンパンッ! と手を叩き、注意を引く。
「今から、現物確認を鑑定人にしてもらう!
それ以外の人間は、絶対に近づかないでくれ!
もし偽物が確認された場合、ヘタに近づいたヤツは疑いがかかるからな!」
分かりやすいぐらい、周囲の連中が離れていく。そうそう、賢明で助かる。
こっから鑑定完了まで時間がかかるだろう。近づかないでくれると、監視が楽だ。
「ウラヌス」
口傷のおっちゃんが、堂々とした足取りで俺へ歩いてくる。
がしっと、俺の手を取って力強く握手してきた。おぉう。
「見事な手腕だった。精霊の調べと称されるだけのことはある。
最初はお前のナリに戸惑ったもんだが……
星を持つハンターの実力、伊達ではなかったな」
「あ、うん……
でも、まだちゃんと全部競売品があるかとか、問題ないかとか終わってないからさ。
こういうのは、ケリついてからにしよう。気が抜けちまう……」
「ぬかりがないな。ますます気にいったぜ。
オレ達も明日すぐ、地下競売を開催する手筈を整えないといけない。
報酬の話もしたいが、明日競売が無事終わったらじっくり話す時間をくれ」
「……わかった」
俺の泥だらけの手を離し、また堂々と歩いていくおっちゃん。
んー……あんまり気に入られてもなぁ。やっぱり裏社会に関わりたくはないし。
ただ話はしておいた方がいいんだろう。きっちり報酬を断っておかないと、しつこそうだからな。
何より、まだすべきことはある。地下競売がしっかり開催され、滞りなく終わるところまでは付き合うつもりだった。
つか報酬より、報復どうすんだろ。……最悪、俺ターゲットにされっから、丸く収まんなかったら涙目なんだが。ああぁ、不安多い。