どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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外伝十二章

 

 1999年9月10日。

 

 競売の開催、及び十老頭から直々に今回の騒動についての見解を出す、とお触れが出て、ビル内の巨大なホールへと競売参加者達がぞくぞくと集まってくる。

 

 基本的にその場へ来たのは、ヨークシンに集結していたファミリーの要人達だ。それも組長や大幹部といった者がほとんど。競売に参加する気がなくても、十老頭からの指示を聞き逃すわけにはいかないのだろう。

 

 マフィアンコミュニティーとファミリーの警備が周囲をガッチガチに固める中、競売の開始予定時刻である午前10時を迎えようとしていた。

 

「皆様、十老頭と中継が繋がっておりますっ!!

 ご静粛に願いますっ!!」

 

 急激にホールが静まり返っていく。

 

 例の髪を後ろで縛った男が、モニターに向けてリモコンを操作する。

 ジ……ザザ、とモニターにノイズが走り、

 

『よォ……みんな元気か。

 まずは連絡の不備をわびよう。ずいぶん待たせてすまなかった』

 

 ノイズの中、ホールの壇上に設置されたモニター上に、もう俺は見慣れたおっちゃんの顔が映った。ホールの空気がビリッと緊張する。

 やっぱ、おっちゃんが十老頭でもリーダー格なんだろう。マフィアンコミュニティーのトップなら、いわば裏社会のドンってことだ。そりゃ緊張もするわな。

 ちなみに俺はホールの袖に控えて、競売品の箱の近くにいる。ここが一番危なっかしいからな。俺が見張ってないと流石に不安だ。俺を見張ってる連中も周りにいるが。

 ホール内を映す複数のモニターを眺めながら、話の続きに意識を戻す。

 

『大分ゴタゴタしちまったが、旅団の連中に奪われていたお宝は全て奪還に成功した』

 

 会場から『おおぉーっ!!』と歓声が上がる。旅団、全責任を押し付けられるの巻。まぁ元はと言えばアイツラが悪いんだしな。

 競売品が奪われていた事実(事実ではない)を知らない連中もいただろうが、取り返した今となってはバラしたところで問題ないだろう。都合の悪い事実(事実ではない)を正直に伝えたことで、多少の信用回復にも繋がる。

 歓声が収まった後、再びおっちゃんは重々しく口を開く。

 

『だが悪い知らせもある。

 本来、コミュニティーのメンツを傷つけた旅団どもは生かしちゃおけねぇんだが……

 あいつらが、流星街の出身であることが判明した』

 

 今度は会場内がどよめきだす。

 これは俺からの提案だった。もう強弁しちまぇと。どうせ囚われの身になった旅団が、実際流星街の出身か確認する(すべ)はない。というか、俺は全員ではなくても構成員の一部はそうだろうと確信してるしな。なら嘘は言ってない。

 

『この中には流星街のことに詳しい者も多くいるだろうが……

 旅団はプロハンターに捕らえられ、内々に処刑されるとのことだ。

 できればオレ達の手でケリをつけたいトコだが、流星街とコトを構えてまで報復を決行するには、相応の覚悟がいる。

 ……もうすでに、多くの同胞が犠牲になっている。

 これ以上、お前達に深手(ふかで )を負わせたくはない』

 

 静まり返る会場。こうやって義理人情に訴えられると、表立って声は上げにくいだろう。怒りが収まりはしないだろうけどな……

 

『つれぇだろうが、こらえて欲しい。

 オレ達十老頭から、正式にこの場で終戦宣言を出す。

 マフィアンコミュニティーは、今後一切、今回の件で幻影旅団を標的とはしない』

 

 僅かながら、会場の連中から声が洩れていた。

 複雑な感情がホール内に渦巻いている。怒気や怨嗟(えんさ )は当然としても、それ以上に安堵が伝わってきた。

 

『だが、それはそれとして、あの悪名高い幻影旅団が事実上壊滅した。

 オレ達もこうして地下競売を開催できる。

 中には今回の騒動で、ファミリーの立て直しが厳しい連中もいるだろうが、終戦宣言を強行させてもらう代わりに、コミュニティーからの援助を検討している。

 相談窓口うんぬんと言った細けぇことは、また追って知らせるぜ。

 溜飲が下ったとは言いがてぇだろうが、ぜひともお前らは競売を楽しんでいってほしい。

 財布と相談しながら、張り切って掘り出し物を競り落としてくれ』

 

 会場内から軽く笑いが洩れる。

 スピーチの内容は概ね予定していた通りだった。俺は強く手を叩き始める。

 俺の意図を察した、髪を縛った男が舞台上で手を叩き出す。

 会場が釣られ、一斉に拍手が沸き上がった。

 

『皆様、大変長らくお待たせいたしましたッ!!

 それではこれより、オークションを開始いたしますッ!!』

 

 拍手が強まり、会場が歓声で更に沸き上がった。

 

『早速、第一部最初の品を──』

 

「ふぅー……」

 

 拍手を止め、最初の競売品が舞台に出る手前まで運ばれていくのを眺める。入れ替わり、舞台から髪を縛った男が戻ってきて、「ふう」と息を吐いて煙を吹かしだした。

 念の為、十老頭は競売会場の様子を見物していない。中継は終了して、別の場所へ移動させている。とっくにハズれた占いの結果ではあるが、何がきっかけで暗殺に結びつくか分からないからな。

 

 しかし、4日分か……時間どんだけかかるか分かんないな。休憩挟みながらだし。

 地下競売の目録は見させてもらったけど、まーアングラアングラ……プロハンターでも取り扱うのを躊躇うような代物もチラホラ見かける。どこ需要なのかサッパリなのもあるけど。総額いくらになるんだろうな。

 

 後ろから近づいてくる気配に軽く目をやり、

 

「長丁場なんだから、座ったらどう?」

 

 センリツが椅子を俺の後ろに置き、隣にも置いた椅子へトンと座ってくる。

 ……まぁ話すぐらいならいいか。雑談程度で意識を切ったりしないしな。

 

「ありがと。なんか話したいことでもあるの?」

「ええ。

 競売が終わったら話す機会もなさそうだから、今のうちに」

 

 納得し、椅子に腰を下ろす。俺は競売が終わったら十老頭と話をして、すぐサヨナラだ。ノヴを待たせてるからな。

 彼女も競売が済んだら、護衛メンバーとして動くのだろう。お互い自由な身ではない。

 

「ネオンさんは、この競売に参加を?」

「そうよ。ボス、ずっと楽しみにしてたから。

 自分でお宝を競り落としたくて、ヨークシンまで来たんだし」

「いいのかい、そばで護衛しなくて?」

「ホールは1ファミリー3人までなのよ。競売に参加しない人も来ててギュウギュウだし。

 ボスには、リーダーとバショウが付いてるわ。

 あたしはアナタの見張り役を仰せつかってるの」

「それを俺に言ってどうする」

「バレバレだもの」

 

 まぁ俺が提案したんだしな。身の潔白を示す為に、俺の行動に見張りを付けろって。

 でも、誰が見張り役かなんて当然聞いてない。聞くまでもなく分かってるけど。

 

 会場から、「2億!」「2億5000万!」「3億!」といった景気のいい声が届く中、

 

「あなたが忠告した占いの問題点について、リーダーがずいぶん悩んでたわ。

 刀を研ぎながらね」

「ああー……

 余計なこと言ったとは思ってるよ。別に気にしなくていいんだけどな」

「本気でそう思ってるのね」

 

 センリツの顔を見下ろす。……念がかかってるな。分かってはいたけど、かなり強力な念だ。除念師の手には負えないだろう。

 彼女の耳に、相当な精神力が集まっている。会場の騒音をフィルタリングし、必要な音だけを抽出してるってトコか。

 

「俺の何かを聞いて、判断してるんだよな?」

「あたしの何かを見て、判断してるのよね?」

 

 似た者同士か。さて……

 

「俺の目は特別でね。

 体内オーラを見ることが出来て、その流れで見極めてる」

「それはウソね。全部ではないけれど」

 

 んー、やっぱバレたか。そこまで分かるとは相当だな……

 

「あたしは、他人の心音を聴き取ることができるの。ミュージックハンターを名乗ってる。

 心音を聴けば、その人の感情が分かるわ」

 

 オーラ、生命力、精神力、身体の動き、全てに偽るような揺らぎはない。それら全てを誤魔化すことは、俺の知る限り不可能だ。ましてこの至近距離だしな。

 

「そうだな……

 俺の目はオーラだけじゃなく、命と心の動きが見える。それで相手を理解してる」

 

 言えるのはここまでだ。あまり具体的に言いたくはない。意図的に、誤解を招きそうな表現にした。

 

「肝心なことは隠してるのね」

「うん。信用してないわけじゃないけど」

「あら、信用してくれるの?」

「そりゃ、ウソ吐いたら分かるぞ、なんて不利になる情報くれてるしな」

「ふふ……どうも。

 あたしも、あなたのことは信用してるわ。

 面倒がるわりに、優しくてお節介。裏社会になんて関わりたくないのにね?」

「……」

 

 今回の件を振り返り、自分のバカさ加減に呆れ返る。ほんと、なにやってんだ俺……

 

「あなた、とても不思議な心音よ?

 十老頭と話してる時も、競売品を探してる時も、こうしてる今も。

 ほんの少し揺らいだと思っても、すぐ平常に戻る。

 こんな状況で誰よりも落ち着いてる」

 

「……買いかぶられてもな。俺は一杯一杯だよ、いつでも」

 

「そうね。

 ……あなたの落ち着きぶりは、それどころじゃないといった感情から来るものね。常に心音が少し早いから。……それに、少し弱い」

 

 俺もずいぶん弱くなったからな……仕方ないだろう。早く除念しないとな。

 

「報復されたかもしれないのに、あなたどうしてこんなところへ来たの?」

「あー……

 ゾルディック相手に、名乗っちまったからな。

 いちおう会長経由で依頼として来てるもんを無下(む げ )にして、因縁つけられても嫌だったし。

 元々は犯罪者の護送手伝っただけで、俺が狙われる筋合いねーもん」

「あなたがそう思っていても、通じないわよ? 分かってるみたいだけど」

「ヤーさんにもメンツがあるからな。

 でも、代わりがありゃ納得するだろ?

 競売品見つけてやったんだし、もう俺に報復とか言わんだろ、流石に」

「十老頭はね。でも……」

「センリツ。お前も分かってて言ってるんだろ?

 そりゃ会場のマフィアで、身内や親しい人間を殺られた連中は復讐したいだろうさ。

 でも、終戦宣言を聞いてみんなホッとしてた。

 あんなバカげた大破壊を起こせる連中、怖くて相手したくないさ。……ホントは」

「ええ……

 みんな、報復しなきゃいけないんじゃないかって不安がってたわ。

 陰獣でもダメだったのに」

 

 ぶるり、と身を震わせるセンリツ。

 

「……居合わせたんだな。アンタも」

「ええ。

 あんなの、絶対に戦いたくないわ」

「ちなみにどっち?

 セメタリービルか、クレーターか」

「クレーターの方よ。大男が1人。

 陰獣達が何もできずに殺されていくのを、あたし達は見ていることしかできなかった」

「うん……

 やっぱウボォーギンか。占いに出てたしな」

「知ってるの?」

「ああ、護送してる時に全員と話した。

 確かに例外なくかなりの使い手だったみたいだ。ウボォーは特級に強そうだったけど」

「……彼、どうなったの?」

「捕まってたよ。腹部を異常に壊されて。

 ずいぶん弱ってた」

「…………」

「あんた、心当たりあるんじゃないか?

 戦ってたプロハンターに」

「……。

 ウソを吐く気はないけど、プロハンターかどうかは知らないわ。

 でも、変な人達は見た。多分マフィアじゃない人達」

「特徴おぼえてるか?」

「子供2人と、若い男1人よ。

 仲間と合流するか戦うかで揉めてたみたい。その後どうなったかまでは……」

「なるほど……

 マフィアや一般人じゃないだろうし、子供ってのが気になるけどプロハンターだろうな。

 けど、子供のプロハンターなんて、あんた知ってるか?」

「知らないわ。だから自信がないのよ。

 子供みたいな人なら居なくもないけど、その子達は正真正銘十代前半くらいだったし」

「……流石にその年齢は俺も知らないな。アマチュアの可能性もあるけど、どっちにしろ普通じゃないか……

 何が起こってたんだろうな、その日は……」

 

 センリツは力なく首を振り、

 

「居合わせた私達にも、よく分からないわ。

 ものすごいオーラを感じたり、ビルが崩れたり、突然静かになったりで。

 あの日感じた大勢の心音は、今でも思い出したくないわ」

 

「跡だけ見ても、まるで怪獣が暴れたみたいだもんな。

 そのくせ、旅団全員生きてるからなぁ……」

 

「……聞いてもいいかしら?

 捕まってた彼ら、どんな感じだった?」

 

「……。フルボッコにされてたよ。程度の差はかなりあるけど。

 ただ……怯えてた。内心な」

 

「とても信じられないわ……」

 

「俺もだよ」

 

 

 

 競売は滞りなく進んでいき、

 

『では、次の品ですっ!!

 金字塔考古学博物館から紛失し、行方不明になっていたコルコ王女の全身ミイラッ!!

 欠損もなく、今でも表情すら分かるほど完璧に保存された美しい──』

 

「……」

 

 それこそ考古学者なら欲しがるかもしれんが、個人で持つには悪趣味すぎると思うけど。

 

『それでは2000万からスタートっ!!』

 

「2500万!!」「3000万!!」「3200万!!」「3500万!!」

 

 ふぅん。……ふぅん。なんにでも需要はあるもんだ。ミイラがどうと言うより、王族の遺体ってところに価値を見出すのかねぇ。よく分からん世界だ。

 

「4000万!!」「5000万っ!!」

 

 聞き覚えのある甲高い声。隣のセンリツも反応する。ネオンさんか。……え?

 

『ハイ5000万ッ!! もう一声ッ!!』

 

「5200万!!」「6000万っ!!」

 

 センリツの方を見ると、俺に苦笑いしてみせる。ああ、もしかして彼女そういう趣味? 今までのヤツには参加しなかったのに、ここに来てあの前のめり具合だもんな。ふぅん、変わってらっしゃる。

 すると、もしかしたら緋の眼も欲しいのかな……あれって相場5億とかだぞ。うひー、もったいねぇ。

 

「6500万!!」「7000万っっ!!」「7300万!!」「7500万!!」「7800万!!」「8000万っっ!!」

 

『8000万が出ましたっ!! さぁー、後ないですかっ!?』

 

「8100万!!」「1億っっっ!!」

 

 会場内が「おぉぉ」とドヨめく。どっちかっつうと、ンなもんにそんだけ出すのかって驚きだな。もちろん1億コールはネオンさんの声だ。ああ、こんな子がってのもあるか。

 

『1億ッ!! 1億入りましたッ!! さぁーもうありませんかッ!?

 …………はいッ!! それではコルコ王女の全身ミイラ、1億で落札でーすッ!!』

 

 会場がそこそこの拍手で沸く中、センリツに向かって、

 

「……ちなみに予算いくら?」

「ないわよ? いくら使ってもいいって」

「うひゃー。おっかねぇ」

 

 センリツが変な目で俺を見た。うん?

 

 

 

 

 

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