合流し、
なんとなくウラヌス、居心地悪そうだな。あんまり集団行動を好んでしないだろうし、慣れないのかもしれない。私は前回、12人の大所帯だったから気にならないけど。
「で、ダルツォルネ。話ってなんだよ?」
不機嫌そうにウラヌス。ダルツォルネさんは気持ち尻込みしながら、
「あ、ああ……
『もしもテレビ』の話なんだが。
我々がそのアイテムを自力入手したとして、一度ゲームから出てしまうとどうなる?」
あー。そりゃあ……
「どうにもならないさ。
クリアしなきゃ現実に持ち帰れないし、カード化を解除すれば持ち帰る方法はゼロだ。
誰かがゲーム内に残らない限り、指定ポケットのアイテムは保持できない」
「やはりそうか……」
長い顎を揉みながら悩むダルツォルネさん。どうも、わざとらしいな……
そんな様子のダルツォルネさんに、ウラヌスは
「俺に聞きたいのは、何とかする方法はないかってことだろ?」
「ああ、まぁ……な。
気軽に出入りしたところで、『もしもテレビ』を簡単には利用できないんじゃないかと思ってな。案の定だったようだが」
「なに? 『もしもテレビ』が欲しいの?」
ベルさんが割り入ってくるのを、ウラヌスが手の平を向けて制する。聞かれるのは想定済みだったみたいだし、何か考えがあるんだろう。
「まず、誰かに預けでもしない限り、アイテム化した『もしもテレビ』をいつでも使えるように保持するのは不可能だ。
その上で、ゲーム再開時に『もしもテレビ』のカードを再入手する方法は3つ。
1つ、誰かに譲ってもらう。金で買おうが奪おうが、意味的にはコレと同じだな。
2つ、特定の怪物カードを指定の店で売却して、デパートで買う。
3つ、『強制予約券』を手に入れて、それを使用してデパートで買う」
「強制予約券?」
「ああ。
また偽カードだけど、現物見せるよ。ブック」
バインダーを出して、開いたページからカードを出すウラヌス。『贋作』カードって、こういうとき便利だよね。話が早くて助かる。
『29:強制予約券』
ランクA カード化限度枚数20
どんな商品でもこの券に商品名を書くと必ず手に入る
ただし市販されているものでないと効果はない
もちろん代金は支払わなければならない 1000枚入り
「ほぉう……」
手にしたカードを眺めて、感嘆の声を洩らすダルツォルネさん。横から覗き込むネオンさん、目ぇキラキラさせてる……。バショウさんは、ふぅんと言った様子。ライセンスの効力に慣れてると、あんまり魅力は感じないよね。たぶん同じことできるし。現実なら、だけど。
「『もしもテレビ』が販売されるデパートで、そいつにアイテム名を書いて提示すれば、同じように売ってくれる。結局120万ジェニーは用意しないといけないけどな。
但し怪物カードを売った場合でもそいつを使った場合でも、合わせて1人1枚までしか買えない」
ダルツォルネさんが怪訝な顔をする。それは……
「つまり、今の5人パーティーなら5回までしか買えないってこった。
そこまで頻繁に行ったり来たりするか怪しいけど、マメに利用するつもりなら考えないとな」
ウラヌスが『贋作』カードを返してもらいながらそう言うと、ダルツォルネさんは顎に手を当て、
「素人考えかもしれないが……
自力で入手するより、金を稼いでプレイヤーから直接カードを買い取った方が効率よくないか?」
「ま、そうだな。
持ってるプレイヤーは『複製』で増やせるから、足下見られなきゃ120万と言わずもっと安く買えるだろ。現実絡みの金銭売買でもいいけど、そっちは信用取引になっちまうな。
問題点は2つ。
1つ目は、買取交渉できるプレイヤーの心当たりが居ないと、どうしようもない。
2つ目は、もしカード化限度枚数が一杯になったら、金じゃ取引できない。『複製』で増やせなくなるからな」
「そうか……
カード枚数に上限があるんだったな。うぅむ……
なら、誰かをゲームに残してアイテムを預けておくのが一番無難かもしれんな」
護衛さん達が『うっ』と顔をしかめる。まぁそうだよね。1人居残りとか嫌すぎる。
「ちょっといいかしら?
誰かが残った場合でも、もしゲームクリアされたらアイテムは消えちゃうわよ」
「うん? どういうことだ」
ベルさんの言葉に反応するダルツォルネさん。あー、そういえばそうだった。
ウラヌスが苦い表情を浮かべ、
「……確かに、先に言っとくべきだったな。
半年前に一度このゲームはクリアされてるんだが、その時に指定ポケットカードとそのアイテムが全て消滅したらしい。
しかも、ゲームが再開するまで間があって、その期間はプレイヤーが現実からゲームに入ることも、中にいるプレイヤーが指定ポケットカードを入手することもできなくなる」
「えぐいルールだな……」
バショウさんが片目を閉じてつぶやく。なんだよね……。念能力者ならゲームをクリアしなくてもアイテムを利用できる、って考えてるとこういう落とし穴がある。ウラヌスが現状困らされてる理由がこれだしな。
「貴重な情報だが……
そうそうクリアする者など出ないんだろう?
仮にそうなっても、諦めるしかないしな」
サバサバとダルツォルネさん。ネオンさんがプクーっと頬を膨らませるけど気づかないフリしてる。
「そうとも言えないさ。少なくとも俺はクリア目指してるし、だらだら何年もかける気はない。
後、交渉相手に俺をアテにされても困るぞ。ずっとゲームに居るわけじゃないからな」
ウラヌスの言葉に、渋面を作るダルツォルネさん。やっぱりアテにしてたか。
「……居ない時は仕方ないが、居る時なら交渉してくれるのか?」
「そりゃ別に構わないけど。
クリア目指すのに交渉でも何でも協力してくれるなら、断る理由がない。
言うまでもなく、足を引っ張るような交渉なら断るけどな」
ダルツォルネさんは、腕を組んで考え込む。
「この場で急いで結論出さなくてもいいと思うけど。
別に『交信』使ってくれれば、後で交渉に絡む相談には乗るさ。
マサドラには1日1回は行くから、そこで直接話してもいい。質問があるなら、手短にまとめてほしいけどな。俺達も忙しいから」
ウラヌスが矢継ぎ早に言葉を放り込む。放っとくと長々考えてそうだもんな、この人。
「……うむ。
オレも少し情報を整理せんといかんな。また改めて連絡させてもらう」
「ん、分かった」
「話がまとまったところで。この後どうするの?」
ベルさんがウラヌスに尋ねる。……ネオンさん達もどうするんだろ。
「そりゃ……俺達はアイアイの攻略進めるしかないじゃん。
他に何しろってんだ」
「けっこう行き詰まってた気がするんだけどなー。
主に誰かさんのせいで」
「はぁ? 俺か? 俺のせいなのか?」
「私のせいかなー、と思ってるんですけど……」
「そうね。
あなた達2人に、積極的に攻略する気があれば、まだいくらか捗ったと思うけど」
私達がごちゃごちゃ揉めるのを横目に、ダルツォルネさんがネオンさんにこそこそと、
「お嬢様。
我々も当初の目的通り、『もしもテレビ』の入手に向かうべきかと」
「えー。つまんなーい。
ここでショッピングしたいって言ってるのにー」
「……ですが、ゲーム内のお金は『もしもテレビ』の購入資金としても必要です。
現実に持ち帰れるわけではありませんし、できれば不要な買い物はお控えいただきたいのですが……」
「やーだー!
つまんなーい!」
あっちも揉めてるな。残った5人は巻き込まれまいと距離を取ってる。くっ……そっち混ざりたい。
「俺、妙に疲れたから、攻略するにしても仕切り直したいんだけど」
「なーに言ってんのよ。
まだ朝じゃない。9時にもなってないわよ」
「うん……
なんで俺こんな疲れてるんだろ」
多分その疲労感は、ベルさんとネオンさん相手にしたダブルパンチだろうな。もっとも、ダルツォルネさんが一番ウラヌスを頼ろうとしてる気がするけど。
「アイシャは?
あなたはアイアイの攻略、参加する気ある?」
「え? えーと……
私はこういう場所、正直苦手かなと」
「やっぱりそうよね……
どうしよっかなぁ。手ぶらで帰らせるのはわたしもイヤだし」
ベルさんを付き合わせて1枚も指定ポケットカードが取れないんじゃ、先行き暗いのは確かなんだよな。でも、嫌なものは嫌だし。こういう街、ゴンなら得意そうだなぁ……
「……ですが、ここに留まったところで、買い物をする為の予算確保もままなりません。
スペルカードも確保できないほど浪費すると身動きが取りづらくなりますし、一度資金稼ぎにマサドラへ戻るべきかと」
「えー。せめてここで稼げないの?
怪物退治待ってるだけとか、つまんないもん。またここに戻ってくるのも面倒よ」
「……ゲームのイベントで稼ぐには、おそらく相応の知識が必要です。
我々はこの街の情報が不足しておりますので、一朝一夕に稼げるとは思えません」
「ねぇ、あなた達」
ベルさんが、揉めてる2人にクチバシ突っ込む。よくやるなぁ……
「ここで金稼ぎしたいの?」
「ええ。お買い物したいですし、何もせず待ちたくもないです」
「で、ですがお嬢様……」
こちらをチラ見して、ニヤリとするベルさん。あ、これは……
「あなた達。
せっかく人数いるんだし、この街のイベント攻略してみない?」
……新たな生贄を見つけたようだ。うわぁ。うわぁ。
「ベル、お前──」
「やる気がないなら黙ってなさい」
ピシャリと封殺されるウラヌス。これは手厳しい。誰も口挟めないぞ……
「この街のイベントって、危険なイベントが少ない代わりに、1日1回しか挑戦できないのが多くて。仲間が少ないと、結構日数食っちゃうのよ。性別指定とかあったりするし。
安全にお金稼ぎたいって思うなら、ここは良い街よ? 首尾よく指定ポケットカードが取れたら、ごそっと儲かるし。
どう? やってみない?」
互いに顔を見合わせるネオンさん達。ダルツォルネさんはウラヌスを見てるけど、当のウラヌスは肩をすくめるばかり。お手上げだもんな。
……でも、私達にとっては追い風かもしれない。うまくいったら、私達じゃ取りづらいここのカード、代わりに入手してくれるかも。ひとまず様子を見るか。
「ふむ……
悪くない提案だと思うが、指定ポケットカードがそう易々と取れるのか?」
「もちろん、そっちはかなり難しいかもね。
でも、換金アイテムを入手するイベントは難度もそれなりよ。
まずはそれで小手調べしてみて、いけそうなら挑戦してみればいいんじゃない?」
「実際いくらか傾向はあるし、何度も繰り返せば意外にクリアできるよ。
試すだけ試してもいいんじゃないか?」
ウラヌスもアシストする。……やりたくないんだろうな。私と同じく、代わりに取ってくれないかなという一心だろう。
「……詳しく話を聞かせてもらおう」
あー。ダルツォルネさん、乗っかっちゃった。ベルさんの口車に。
でもこれ、なし崩しに私達も巻き込まれないだろうな……不安になってきたぞ。
後少しで取れそうってなったら、頭数に入れられそうな悪寒がする。うぅ。
ベルさんとウラヌス2人で、この街のイベントについて説明を始める。ちなみに『要は恋愛ゲームだよ』というウラヌスの発言には、誰も反応しなかった。奇しくも恋愛ゲーム経験者がウラヌスしか居ない件。多分私も、前世込みで無い。ミルキの部屋にそれっぽいゲームはあったけど、一人用だからってやらせてくれなかった。
「なるほど……
要するに、正しい答えを最後まで選べばクリアか」
「そうよ。
まぁ実際やってみて理解するのが一番でしょうけど。とりあえず移動しましょうか」
ベルさんがさっさと歩き出す。……そっちは街の入口だな。ダルツォルネさんが後ろに付き、私達もぞろぞろと歩いていく。
「なぁ……これ、俺達もやらされんのか?」
「リーダーに命令されたら断れないわね……」
バショウさんとセンリツさんが消沈しながら話す。ヴェーゼさんは、私の方をちらちら意識してる。ネオンさんは楽しそうに付いていってる。カオスだなー。
「ボク達もしないとダメかな?」
「……アタシは絶対断るけど」
メレオロンは仕方ない。なんせ手先を見せただけで一発アウトだし。……なんか上手い具合に隠せる手袋とか無いもんかな。シームの手足はカバーで何とかなってるんだけど。
恋愛都市の入口付近まで戻ってきた。あ、ちょっとアイーン、アイーンて聴こえてきた。あれって入口だけで聴こえる仕組みなのか。全く、無駄な
例の女の子が走ってきて、
「きゃん!」
とコケて、「メガネメガネ」。一同、それを黙って見守る。
「さて、手始めはこの子を攻略よ。
男性陣、トップバッターを決めてちょうだい」
ベルさんが声をかけると、男性陣が一斉に身を引く。ま、嫌だよね。とんだ恥さらしになりかねない。しかも一番手とか嫌すぎるだろう。
男性陣は……ウラヌス、ダルツォルネさん、バショウさん、シームか。遅かれ早かれ、男性陣はみんな駆り出されそうだな。なむなむ。
「……。公平にジャンケンで決めよう」
あ。ウラヌス、きったない。シームが笑うのを我慢してるのが見える。
「最初はグー。ジャンケン──」
ウラヌスが無理やり勝負に持ち込み、4人が一斉に手を出した。
……ダルツォルネさん、グーの1人負け。ぶるぶる打ち震える。……イ㌔。
「ハイハイハイハイ。
ダルツォルネの、ちょっといいトコ見てみたいー♪」
「やめないか、ウラヌス!」
ウラヌスひっでぇ。ファミリーの面々も、吹き出すのをこらえてる。
「ぐっ……なぜオレがこんな生き恥を……
……。
で、これはどうすればいいんだ?」
屈辱半分、諦め半分な表情のダルツォルネさん。「メガネメガネ」やってる女の子を、指差して尋ねてる。
「そのメガネを拾って、渡してやればイベントスタートさ。
お礼に喫茶店へ誘われるから、付いていって喋ればいい」
ウラヌスがそう返す。当然ダルツォルネさんは不満顔。
「……
何をどう話せばいいんだ。口説けばいいのか?」
「確かにそうなんだけど、微妙に違う。
このイベントは、その子にメガネを手放させるのがテーマなんだ。いま転んでるのも、メガネの度が合ってないからなんだよ。
だからそのメガネをかけてたら危ないとか、外した方が美人とか、そういう方向に話を持っていく」
あ、なるほど。それであの渦巻きメガネがこのイベントの報酬になるんだ。そういえばコンタクトうんぬん言ってたしな。
……知らなかったら難しいな。普通に口説いてもダメってことだろうし。
「このイベントって、いわゆる恋愛パートがないから気持ち楽な方よね」
「初っ端に軽くデートして終わりだからな。場所移動も1回で済むし」
男性しかできないイベントなのに、ベルさんやけに詳しい気が。さてはモタリケさんに無理やりやらせたな?
「……まぁいいだろう。物は試しだ。
おい、メガネはここだ」
ポケットに片手を突っ込んだまま、拾ったメガネを乱暴に差し出すダルツォルネさん。
「あ、ありがとうございます……!
助かっちゃいました!」
「……」
女の子がメガネをかけ、立ち上がる。……うぅん、確かにグルグルメガネはいかんな。面白い顔になっとる。
「あの!
お礼がしたいんで、もしよかったらそこの喫茶店に行きませんか?」
「……どこかへ急いでるんじゃなかったのか?」
「いえ! 全然大丈夫です!
私に付いて来てください!」
どことなく頼りない足取りで歩いてく女の子。なるほど、これもヒントなわけか。
溜め息を吐き、ポケットに手を入れたまま後に続くダルツォルネさん。私達もぞろぞろ付いていく。
「ねぇウラヌス。
今の、ゲームキャラはどうやって反応したの?」
「ん?
今のって、『どこか急いでる』に対して、『いえ全然大丈夫』って返したヤツか?」
「うん。
普通のゲームキャラって、ああいうふうに反応できるの?」
シームの素朴な疑問に、嬉しそうな笑みを見せるウラヌス。
「いや、この街のイベントキャラが特別なんだ。
多めに単語登録されてるみたいで、多少ズレたりするのは仕方ないけど、かなりの会話パターンが用意してある。
今の場合なら『どこか』『急いで』、この2単語に反応したんだ。『いえ、全然大丈夫』ってセリフは、心配してくれた相手への返しとして汎用的に使えるからね」
うん……
ウラヌスの話聞いてると、もう自分でゲーム作れよって気がするな。お前は製作者か。