どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百三章

 

 合流し、三度(み たび)10人の顔ぶれが並ぶ。

 なんとなくウラヌス、居心地悪そうだな。あんまり集団行動を好んでしないだろうし、慣れないのかもしれない。私は前回、12人の大所帯だったから気にならないけど。

 

「で、ダルツォルネ。話ってなんだよ?」

 

 不機嫌そうにウラヌス。ダルツォルネさんは気持ち尻込みしながら、

 

「あ、ああ……

 『もしもテレビ』の話なんだが。

 我々がそのアイテムを自力入手したとして、一度ゲームから出てしまうとどうなる?」

 

 あー。そりゃあ……

 

「どうにもならないさ。

 クリアしなきゃ現実に持ち帰れないし、カード化を解除すれば持ち帰る方法はゼロだ。

 誰かがゲーム内に残らない限り、指定ポケットのアイテムは保持できない」

「やはりそうか……」

 

 長い顎を揉みながら悩むダルツォルネさん。どうも、わざとらしいな……

 そんな様子のダルツォルネさんに、ウラヌスは胡乱(う ろん)げな目を向け、

 

「俺に聞きたいのは、何とかする方法はないかってことだろ?」

「ああ、まぁ……な。

 気軽に出入りしたところで、『もしもテレビ』を簡単には利用できないんじゃないかと思ってな。案の定だったようだが」

「なに? 『もしもテレビ』が欲しいの?」

 

 ベルさんが割り入ってくるのを、ウラヌスが手の平を向けて制する。聞かれるのは想定済みだったみたいだし、何か考えがあるんだろう。

 

「まず、誰かに預けでもしない限り、アイテム化した『もしもテレビ』をいつでも使えるように保持するのは不可能だ。

 その上で、ゲーム再開時に『もしもテレビ』のカードを再入手する方法は3つ。

 1つ、誰かに譲ってもらう。金で買おうが奪おうが、意味的にはコレと同じだな。

 2つ、特定の怪物カードを指定の店で売却して、デパートで買う。

 3つ、『強制予約券』を手に入れて、それを使用してデパートで買う」

 

「強制予約券?」

「ああ。

 また偽カードだけど、現物見せるよ。ブック」

 

 バインダーを出して、開いたページからカードを出すウラヌス。『贋作』カードって、こういうとき便利だよね。話が早くて助かる。

 

 

 

『29:強制予約券』

 ランクA カード化限度枚数20

 どんな商品でもこの券に商品名を書くと必ず手に入る

 ただし市販されているものでないと効果はない

 もちろん代金は支払わなければならない 1000枚入り

 

 

 

「ほぉう……」

 

 手にしたカードを眺めて、感嘆の声を洩らすダルツォルネさん。横から覗き込むネオンさん、目ぇキラキラさせてる……。バショウさんは、ふぅんと言った様子。ライセンスの効力に慣れてると、あんまり魅力は感じないよね。たぶん同じことできるし。現実なら、だけど。

 

「『もしもテレビ』が販売されるデパートで、そいつにアイテム名を書いて提示すれば、同じように売ってくれる。結局120万ジェニーは用意しないといけないけどな。

 但し怪物カードを売った場合でもそいつを使った場合でも、合わせて1人1枚までしか買えない」

 

 ダルツォルネさんが怪訝な顔をする。それは……

 

「つまり、今の5人パーティーなら5回までしか買えないってこった。

 そこまで頻繁に行ったり来たりするか怪しいけど、マメに利用するつもりなら考えないとな」

 

 ウラヌスが『贋作』カードを返してもらいながらそう言うと、ダルツォルネさんは顎に手を当て、

 

「素人考えかもしれないが……

 自力で入手するより、金を稼いでプレイヤーから直接カードを買い取った方が効率よくないか?」

「ま、そうだな。

 持ってるプレイヤーは『複製』で増やせるから、足下見られなきゃ120万と言わずもっと安く買えるだろ。現実絡みの金銭売買でもいいけど、そっちは信用取引になっちまうな。

 問題点は2つ。

 1つ目は、買取交渉できるプレイヤーの心当たりが居ないと、どうしようもない。

 2つ目は、もしカード化限度枚数が一杯になったら、金じゃ取引できない。『複製』で増やせなくなるからな」

「そうか……

 カード枚数に上限があるんだったな。うぅむ……

 なら、誰かをゲームに残してアイテムを預けておくのが一番無難かもしれんな」

 

 護衛さん達が『うっ』と顔をしかめる。まぁそうだよね。1人居残りとか嫌すぎる。

 

「ちょっといいかしら?

 誰かが残った場合でも、もしゲームクリアされたらアイテムは消えちゃうわよ」

「うん? どういうことだ」

 

 ベルさんの言葉に反応するダルツォルネさん。あー、そういえばそうだった。

 ウラヌスが苦い表情を浮かべ、

 

「……確かに、先に言っとくべきだったな。

 半年前に一度このゲームはクリアされてるんだが、その時に指定ポケットカードとそのアイテムが全て消滅したらしい。

 しかも、ゲームが再開するまで間があって、その期間はプレイヤーが現実からゲームに入ることも、中にいるプレイヤーが指定ポケットカードを入手することもできなくなる」

「えぐいルールだな……」

 

 バショウさんが片目を閉じてつぶやく。なんだよね……。念能力者ならゲームをクリアしなくてもアイテムを利用できる、って考えてるとこういう落とし穴がある。ウラヌスが現状困らされてる理由がこれだしな。

 

「貴重な情報だが……

 そうそうクリアする者など出ないんだろう?

 仮にそうなっても、諦めるしかないしな」

 

 サバサバとダルツォルネさん。ネオンさんがプクーっと頬を膨らませるけど気づかないフリしてる。

 

「そうとも言えないさ。少なくとも俺はクリア目指してるし、だらだら何年もかける気はない。

 後、交渉相手に俺をアテにされても困るぞ。ずっとゲームに居るわけじゃないからな」

 

 ウラヌスの言葉に、渋面を作るダルツォルネさん。やっぱりアテにしてたか。

 

「……居ない時は仕方ないが、居る時なら交渉してくれるのか?」

「そりゃ別に構わないけど。

 クリア目指すのに交渉でも何でも協力してくれるなら、断る理由がない。

 言うまでもなく、足を引っ張るような交渉なら断るけどな」

 

 ダルツォルネさんは、腕を組んで考え込む。

 

「この場で急いで結論出さなくてもいいと思うけど。

 別に『交信』使ってくれれば、後で交渉に絡む相談には乗るさ。

 マサドラには1日1回は行くから、そこで直接話してもいい。質問があるなら、手短にまとめてほしいけどな。俺達も忙しいから」

 

 ウラヌスが矢継ぎ早に言葉を放り込む。放っとくと長々考えてそうだもんな、この人。

 

「……うむ。

 オレも少し情報を整理せんといかんな。また改めて連絡させてもらう」

「ん、分かった」

「話がまとまったところで。この後どうするの?」

 

 ベルさんがウラヌスに尋ねる。……ネオンさん達もどうするんだろ。

 

「そりゃ……俺達はアイアイの攻略進めるしかないじゃん。

 他に何しろってんだ」

「けっこう行き詰まってた気がするんだけどなー。

 主に誰かさんのせいで」

「はぁ? 俺か? 俺のせいなのか?」

「私のせいかなー、と思ってるんですけど……」

「そうね。

 あなた達2人に、積極的に攻略する気があれば、まだいくらか捗ったと思うけど」

 

 私達がごちゃごちゃ揉めるのを横目に、ダルツォルネさんがネオンさんにこそこそと、

 

「お嬢様。

 我々も当初の目的通り、『もしもテレビ』の入手に向かうべきかと」

「えー。つまんなーい。

 ここでショッピングしたいって言ってるのにー」

「……ですが、ゲーム内のお金は『もしもテレビ』の購入資金としても必要です。

 現実に持ち帰れるわけではありませんし、できれば不要な買い物はお控えいただきたいのですが……」

「やーだー!

 つまんなーい!」

 

 あっちも揉めてるな。残った5人は巻き込まれまいと距離を取ってる。くっ……そっち混ざりたい。

 

「俺、妙に疲れたから、攻略するにしても仕切り直したいんだけど」

「なーに言ってんのよ。

 まだ朝じゃない。9時にもなってないわよ」

「うん……

 なんで俺こんな疲れてるんだろ」

 

 多分その疲労感は、ベルさんとネオンさん相手にしたダブルパンチだろうな。もっとも、ダルツォルネさんが一番ウラヌスを頼ろうとしてる気がするけど。

 

「アイシャは?

 あなたはアイアイの攻略、参加する気ある?」

「え? えーと……

 私はこういう場所、正直苦手かなと」

「やっぱりそうよね……

 どうしよっかなぁ。手ぶらで帰らせるのはわたしもイヤだし」

 

 ベルさんを付き合わせて1枚も指定ポケットカードが取れないんじゃ、先行き暗いのは確かなんだよな。でも、嫌なものは嫌だし。こういう街、ゴンなら得意そうだなぁ……

 

「……ですが、ここに留まったところで、買い物をする為の予算確保もままなりません。

 スペルカードも確保できないほど浪費すると身動きが取りづらくなりますし、一度資金稼ぎにマサドラへ戻るべきかと」

「えー。せめてここで稼げないの?

 怪物退治待ってるだけとか、つまんないもん。またここに戻ってくるのも面倒よ」

「……ゲームのイベントで稼ぐには、おそらく相応の知識が必要です。

 我々はこの街の情報が不足しておりますので、一朝一夕に稼げるとは思えません」

「ねぇ、あなた達」

 

 ベルさんが、揉めてる2人にクチバシ突っ込む。よくやるなぁ……

 

「ここで金稼ぎしたいの?」

「ええ。お買い物したいですし、何もせず待ちたくもないです」

「で、ですがお嬢様……」

 

 こちらをチラ見して、ニヤリとするベルさん。あ、これは……

 

「あなた達。

 せっかく人数いるんだし、この街のイベント攻略してみない?」

 

 ……新たな生贄を見つけたようだ。うわぁ。うわぁ。

 

「ベル、お前──」

「やる気がないなら黙ってなさい」

 

 ピシャリと封殺されるウラヌス。これは手厳しい。誰も口挟めないぞ……

 

「この街のイベントって、危険なイベントが少ない代わりに、1日1回しか挑戦できないのが多くて。仲間が少ないと、結構日数食っちゃうのよ。性別指定とかあったりするし。

 安全にお金稼ぎたいって思うなら、ここは良い街よ? 首尾よく指定ポケットカードが取れたら、ごそっと儲かるし。

 どう? やってみない?」

 

 互いに顔を見合わせるネオンさん達。ダルツォルネさんはウラヌスを見てるけど、当のウラヌスは肩をすくめるばかり。お手上げだもんな。

 ……でも、私達にとっては追い風かもしれない。うまくいったら、私達じゃ取りづらいここのカード、代わりに入手してくれるかも。ひとまず様子を見るか。

 

「ふむ……

 悪くない提案だと思うが、指定ポケットカードがそう易々と取れるのか?」

「もちろん、そっちはかなり難しいかもね。

 でも、換金アイテムを入手するイベントは難度もそれなりよ。

 まずはそれで小手調べしてみて、いけそうなら挑戦してみればいいんじゃない?」

「実際いくらか傾向はあるし、何度も繰り返せば意外にクリアできるよ。

 試すだけ試してもいいんじゃないか?」

 

 ウラヌスもアシストする。……やりたくないんだろうな。私と同じく、代わりに取ってくれないかなという一心だろう。

 

「……詳しく話を聞かせてもらおう」

 

 あー。ダルツォルネさん、乗っかっちゃった。ベルさんの口車に。

 でもこれ、なし崩しに私達も巻き込まれないだろうな……不安になってきたぞ。

 後少しで取れそうってなったら、頭数に入れられそうな悪寒がする。うぅ。

 

 

 

 ベルさんとウラヌス2人で、この街のイベントについて説明を始める。ちなみに『要は恋愛ゲームだよ』というウラヌスの発言には、誰も反応しなかった。奇しくも恋愛ゲーム経験者がウラヌスしか居ない件。多分私も、前世込みで無い。ミルキの部屋にそれっぽいゲームはあったけど、一人用だからってやらせてくれなかった。

 

「なるほど……

 要するに、正しい答えを最後まで選べばクリアか」

「そうよ。

 まぁ実際やってみて理解するのが一番でしょうけど。とりあえず移動しましょうか」

 

 ベルさんがさっさと歩き出す。……そっちは街の入口だな。ダルツォルネさんが後ろに付き、私達もぞろぞろと歩いていく。

 

「なぁ……これ、俺達もやらされんのか?」

「リーダーに命令されたら断れないわね……」

 

 バショウさんとセンリツさんが消沈しながら話す。ヴェーゼさんは、私の方をちらちら意識してる。ネオンさんは楽しそうに付いていってる。カオスだなー。

 

「ボク達もしないとダメかな?」

「……アタシは絶対断るけど」

 

 メレオロンは仕方ない。なんせ手先を見せただけで一発アウトだし。……なんか上手い具合に隠せる手袋とか無いもんかな。シームの手足はカバーで何とかなってるんだけど。

 

 

 

 恋愛都市の入口付近まで戻ってきた。あ、ちょっとアイーン、アイーンて聴こえてきた。あれって入口だけで聴こえる仕組みなのか。全く、無駄な(こ )りようだな。

 

 例の女の子が走ってきて、

 

「きゃん!」

 

 とコケて、「メガネメガネ」。一同、それを黙って見守る。

 

「さて、手始めはこの子を攻略よ。

 男性陣、トップバッターを決めてちょうだい」

 

 ベルさんが声をかけると、男性陣が一斉に身を引く。ま、嫌だよね。とんだ恥さらしになりかねない。しかも一番手とか嫌すぎるだろう。

 

 男性陣は……ウラヌス、ダルツォルネさん、バショウさん、シームか。遅かれ早かれ、男性陣はみんな駆り出されそうだな。なむなむ。

 

「……。公平にジャンケンで決めよう」

 

 あ。ウラヌス、きったない。シームが笑うのを我慢してるのが見える。

 

「最初はグー。ジャンケン──」

 

 ウラヌスが無理やり勝負に持ち込み、4人が一斉に手を出した。

 

 ……ダルツォルネさん、グーの1人負け。ぶるぶる打ち震える。……イ㌔。

 

「ハイハイハイハイ。

 ダルツォルネの、ちょっといいトコ見てみたいー♪」

「やめないか、ウラヌス!」

 

 ウラヌスひっでぇ。ファミリーの面々も、吹き出すのをこらえてる。

 

「ぐっ……なぜオレがこんな生き恥を……

 ……。

 で、これはどうすればいいんだ?」

 

 屈辱半分、諦め半分な表情のダルツォルネさん。「メガネメガネ」やってる女の子を、指差して尋ねてる。

 

「そのメガネを拾って、渡してやればイベントスタートさ。

 お礼に喫茶店へ誘われるから、付いていって喋ればいい」

 

 ウラヌスがそう返す。当然ダルツォルネさんは不満顔。

 

「……

 何をどう話せばいいんだ。口説けばいいのか?」

「確かにそうなんだけど、微妙に違う。

 このイベントは、その子にメガネを手放させるのがテーマなんだ。いま転んでるのも、メガネの度が合ってないからなんだよ。

 だからそのメガネをかけてたら危ないとか、外した方が美人とか、そういう方向に話を持っていく」

 

 あ、なるほど。それであの渦巻きメガネがこのイベントの報酬になるんだ。そういえばコンタクトうんぬん言ってたしな。

 ……知らなかったら難しいな。普通に口説いてもダメってことだろうし。

 

「このイベントって、いわゆる恋愛パートがないから気持ち楽な方よね」

「初っ端に軽くデートして終わりだからな。場所移動も1回で済むし」

 

 男性しかできないイベントなのに、ベルさんやけに詳しい気が。さてはモタリケさんに無理やりやらせたな?

 

「……まぁいいだろう。物は試しだ。

 おい、メガネはここだ」

 

 ポケットに片手を突っ込んだまま、拾ったメガネを乱暴に差し出すダルツォルネさん。

 

「あ、ありがとうございます……!

 助かっちゃいました!」

「……」

 

 女の子がメガネをかけ、立ち上がる。……うぅん、確かにグルグルメガネはいかんな。面白い顔になっとる。

 

「あの!

 お礼がしたいんで、もしよかったらそこの喫茶店に行きませんか?」

「……どこかへ急いでるんじゃなかったのか?」

「いえ! 全然大丈夫です!

 私に付いて来てください!」

 

 どことなく頼りない足取りで歩いてく女の子。なるほど、これもヒントなわけか。

 溜め息を吐き、ポケットに手を入れたまま後に続くダルツォルネさん。私達もぞろぞろ付いていく。

 

「ねぇウラヌス。

 今の、ゲームキャラはどうやって反応したの?」

「ん?

 今のって、『どこか急いでる』に対して、『いえ全然大丈夫』って返したヤツか?」

「うん。

 普通のゲームキャラって、ああいうふうに反応できるの?」

 

 シームの素朴な疑問に、嬉しそうな笑みを見せるウラヌス。

 

「いや、この街のイベントキャラが特別なんだ。

 多めに単語登録されてるみたいで、多少ズレたりするのは仕方ないけど、かなりの会話パターンが用意してある。

 今の場合なら『どこか』『急いで』、この2単語に反応したんだ。『いえ、全然大丈夫』ってセリフは、心配してくれた相手への返しとして汎用的に使えるからね」

 

 

 

 うん……

 ウラヌスの話聞いてると、もう自分でゲーム作れよって気がするな。お前は製作者か。

 

 

 

 

 

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