どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百五章

 

「つうかさ。俺、あのイベントちゃんと調べてないから分かんないだけど、ベルはクリアしたことあるのか?」

「ないわよ」

「おぉい」

「なによ。あんただってそうでしょうに」

「当たり前だろ、俺は挑戦すらできないんだから!

 会話パターンめちゃくちゃ多いって話だし、どうすんだよ!」

「ぎゃーぎゃー言わないの。

 あのイベント、毎回キャラは同じだけど、何のハンターかはランダムなのよね。

 共通してる部分はあるから、その辺りを探っていけば何となく分かるはずだけど」

「完全に総当たり潰しだもんな、アレ……

 ダメ元にならざるを得ないか」

 

 ……。揉めてる内容がよくない気がする。

 つまり、自力でガンバルしかないってこと? 答え教えてもらって、それ喋るだけじゃないの? あああ、やだなー……

 

 

 

 あまりアイアイの景観に似合わない、場末の酒場。

 タバコとアルコール臭が漂う、何とも男臭い場所に私達は固まって入ってきた。

 

「あいつよ。

 あの1人でボンヤリしてるお兄さんのトコへ行って、『向かいの席いいですか?』って聞いて『どうぞ』と言われてから座れば、イベントが開始するわ」

 

 ベルさんが指差す先に風船のような帽子を被った、いかにも探索ルックの男性がいる。何もせず、ただボーッとしているようだ。どことなくカイトさんに似てるような……気のせいか?

 

「ハンターの種類、ランダムって話でしたけど、何があるんですか?」

 

 いちおう尋ねておく。少しでも情報は欲しいからね。

 

「わたしが前やった時は……

 トレジャーハンター、ビーストハンター、ストーンハンター、ぐらいかな?

 4回やってストーンが2回来たから、実際そこまで種類は多くないかもしれないわね」

 

 ……ビーストハンター。なんかヤなこと思い出したよ。

 

「それじゃ順番決めましょう。

 ジャンケンでいいですよね? 負けた順に挑戦で」

 

 ネオンさんが提案。まぁ異論はない……できるだけ後の方がいいしな。とにかく初っ端だけは勘弁してほしい。

 

「最初はグー。ジャンケン──」

 

 

 

 結果、1番手はセンリツさん。2番手はヴェーゼさん。3番手ネオンさん。

 2人はネオンさんにわざと負けたな……。2回あいこが出た時、2人ともネオンさんに負ける手だったし。偶然とは考えにくい。

 いきなりネオンさんにやらせて、後々揉めるのを避ける為だろう。……大変だな、契約ハンターも。

 4番手はベルさん。5番手は私……。どうか回ってきませんように。期待するだけ無駄だろうけど。

 

 

 

 ──センリツvs遺跡ハンター──

 

 

 

「向かいの席、いいかしら?」

「……どうぞ」

 

 センリツさんが、若い男性の向かいに座った。イベント開始だ。

 事前に何ハンターか分からないのは、地味にキツイな……

 

「あれって、男のプレイヤーが声かけたらどうなるんだ?」

「……。他にいくらでも席空いてるだろって拒否られる」

 

 バショウさんの質問に、沈んだ声で答えるウラヌス。……経験者は語る、だな。

 

「こんな明るいうちから、ずいぶんお酒が進んでるみたいだけど?」

「……構わないでくれ」

「あら、気になるじゃない?

 あなたみたいな若い人が、酒場でそんな顔してたら」

「……」

 

 センリツさん、普通に口説いてる気がする。失礼ながら、あんな見た目だから先入観がなかったと言えばウソになる。うーむ……声がいいのもあるけど、なんだか色気があるな。

 

「俺達は、その辺の席に座っちゃダメなのか?」

「別に座ってもいいけど、注文聞かれるぞ」

 

 バショウさんとウラヌスのやりとりにうんうん頷く。座る場所を自由に選べる飲食店は、立ってさえいれば接客を回避できるんだよね。あんまりそういうお店ないけど……

 そうこうしてるうち、センリツさんの会話は進んでいき、

 

「へぇ。あんたもハンターなのか。

 ……俺は遺跡ハンターだ」

 

 お、聞き出すのに成功したな。遺跡ハンターは……ベルさん、首を横に振ってる。残念、知らないやつか。

 

「それは興味深いわ。

 今までどんな遺跡へ行ったの?」

「……色々さ。

 遺跡と言っても、手垢(て あか)が付いた場所の探索がほとんどだ。

 辿り着くのも困難な未踏の遺跡や、遺跡の未踏破領域なんて挑んだこともない」

「どうして?」

「……」

 

 質問に答えず、若いハンターがテーブルの上にあったダーツを手に取り、壁にかかったボードへひゅっと投げる。トッ、と中央からやや逸れて刺さる。続けて2本手にして投げ、近しい場所に刺さる。

 センリツさんはそちらを見て、何事か考えた後、

 

「上手ね」

「……大したことないさ。やってりゃ誰でもできる。

 こんなもの、探索の役には立たない」

 

 

 

 5分ほど、そんな会話が続いた後。

 

「……悪いが用事を思い出した。

 話があるなら、機会を改めてくれ」

 

 若いハンターが立ち上がり、店の奥へと入っていく。……あれはトイレか。

 何度か席を立って、ボードからダーツを抜いたりはしてたけど、今度は帰ってこない。

 

「イベント失敗?」

「失敗ね。

 あなたが席を離れたら戻ってくるけど、座るとまた逃げちゃうから今日はどうしようもないわ」

 

 ベルさんの言葉に、溜め息を吐いて席を立つセンリツさん。

 やがて若いハンターが戻ってきて、ボードからダーツを抜いた後、元の席に着く。

 

「結局、今のは何がダメだったの?」

「話が止まるような褒め方や慰め方が多すぎたかな。

 もう少し積極的に焚きつけて、話を進展させないと」

「つかベルも、そういう助言は先にしろよ……」

「そんなこと言われても、わたしが口挟む余地なんて無かったじゃない」

「あはは、ごめんなさいね。

 会話を楽しんじゃってたわ」

 

 ベルさんがバツの悪そうな顔をし、ウラヌスが苦笑いする。センリツさん、ほんと人が良さそうだな。

 

「はいはい、3人とも。

 次は私の番なんだから」

 

 歩きながらヴェーゼさんが解散を促し、ウラヌスとセンリツさんは私達の方へと戻る。ヴェーゼさんは若いハンターに近い位置で立ち止まる。ベルさんはそのすぐそばへ。

 

「向かいの席、いい?」

「……どうぞ」

 

 ヴェーゼさんが着席する。さて、2回戦か。

 

 

 

 ──ヴェーゼvs美食ハンター──

 

 

 

 ……1分少々で撃沈した。

 若いハンターが席を立って消えた後、テーブルに突っ伏すヴェーゼさん。ワリと自信がありそうだっただけに、この結果はムゴイ。

 

「美食ハンターとか、話合うわけないでしょー……」

 

 1分とか羨ましい。ハンターの種類的にも、まだ私はそっちの方がよかったかなー。

 

「あなたは逆に叱りすぎ。たぶん早口すぎるのもマイナスだったわね」

「評価値が目に見えて下がってたからな。

 ダーツが、ボードじゃなくて壁に刺さってたし」

「だって話してたら何かイライラすんだもんアイツー。

 なんなの、男のクセにうじうじとー」

 

 不穏な気配を感じ、そちらに目を向けると、苛立ちを隠せていないダルツォルネさん。こんな状況で次はネオンさんか。どうなることやら。

 

 

 

 ──ネオンvsトレジャーハンター──

 

 

 

 あ、トレジャーハンターきた。ベルさんがネオンさんの近くへ寄って、耳打ちしてる。

 それがなくても、結構ネオンさん言葉巧みだ。さっきの2人よりスムーズにハンターの種類を聞き出してみせた。どうも占い師らしいし、その辺りの話術か。

 

「ステキじゃないですか、トレジャーハンターだなんて。

 あたしもお宝探しは大好きなんですよ」

「へぇ。あんたも宝探しが好きなのか。

 たとえば、どんな?」

「そうですねぇ。たとえば──」

 

 ……。

 彼女が語る『お宝』のラインナップに、表情が強張るのを自覚する。1つ目で方向性を察して、ソッコーでシームの耳を塞いだメレオロン。ナイスお姉さん。

 ウラヌスは知ってたんだろうけど、片目を瞑って難しい顔してる。ダルツォルネさんは……眉間を揉んでる。軽々しく口にするようなことじゃないもんね……。自慢したいのは分からなくもないけど。

 いわゆる人体収集家ってやつか。もしかすると──

 

「後は、クルタ族の眼球! これが一番のお宝ですね!」

 

 ──ッ!!

 

 そう、か。思い出した……

 

 父さんが、レオリオさん経由でクラピカに伝えた、緋の眼の在り処。

 私も気になって、そのメモの内容を見せてもらったんだけど、その中に『ノストラードファミリー』の名前が確かにあった! 見覚えはソレだったか。

 一番のお宝かぁ。あっちゃー……これはクラピカ、交渉難航しそうだぞ。

 

 

 

 ベルさんの助言もあって、なかなか好調に進むネオンさんと若いハンターの会話。

 ところが10分ほど会話したところで、急に雲行きが怪しくなってくる。

 噛み合わなくなった歯車の修正もままならず、若いハンターは席から立ち去った。

 

「あらら。失敗しちゃいました」

「あー……

 ダメかぁ。ワリといいトコまで行ってたみたいなんだけどねぇ」

 

 ネオンさんが立ち上がり、ベルさんと一緒に首を傾げながら戻ってくる。

 

「お嬢様、ご苦労様でした」

「ううん。結構楽しかったです。

 感触は良かったんですけど、なんで急におかしくなったんですかね?」

 

 ダルツォルネさんの労いに応じながら、不思議そうな顔をウラヌスへ向けるネオンさん。ウラヌスはベルさんへ目を向け、

 

「多分、あのダーツだな」

「それは分かるんだけど。

 あれって、感情の良し悪しを示すもんじゃないの?」

 

 うん、私もそう思ってた。ヴェーゼさんの時、大外ししてたしな。

 

「それだけじゃないんだろ。

 多分、ダーツの当たり具合でランダムに心境が変化するんだ。

 だから突然、話が合わなくなったんだと思う」

「えぇー……

 なにそれ? なんか微妙なトコに刺さってたし、分かんないんだけど」

 

 ウラヌスがダーツの刺さったボードを見る。しばらくして戻ってきた若いハンターが、ダーツを抜き取る。

 

「……

 おそらく、ゼロワンのイレブン・オー・ワン」

 

 んん? なんだろ、それ。ダーツのルール?

 

「……ああ、そういうことか。

 言われて気づいたぜ。あいつ、ちゃんと点数計算して投げてたんだな」

 

 バショウさんが得心したように顎を擦る。

 

「ダーツの公式ルールの1つ。1101点からダーツを当てた分の点数を減らしていって、最終的に0点にするゲーム。まぁ細かいルールはあるけど割愛。

 点数具合によって、心境の揺れが変化するんだと思う」

 

 えっと……つまりダーツのルールまで把握して、こっちで点数を見積もって心情を読み取れ、と? なんだそりゃ。

 

「ウラヌス、流石にわたしも点数どうこうまで見てらんないから」

「分かった。そっちは俺が見とくよ」

 

 言ってウラヌスは、ベルさんと一緒に席へ向かう。

 次が本番だな。これでダメだったら、もう無理だろう。私がトリを務めてクリアできるわけないもん。ていうかプレッシャーかけられたくないし、期待するなって予め言っとこ。

 

 

 

 ──ベルvs秘境ハンター──

 

 

 

 ハンターの種類を聞いて、ベルさんとウラヌスが渋い表情をちらりと見せる。

 あ痛……6種類目が来ちゃったか。ここに来てまだ新しいのが来るとか、流石ランクAイベント、手強いな。簡単にパターンを探らせてもくれない。

 ……えぇぇ。つまり、ほぼ私の番が来るってことじゃないか。そんなぁ。

 正念場であることは理解しているようで、2人ともかなり真剣な様子が窺える。上手くいってほしいけど、大抵こういう場合は──

 

「興味本位で聞くけど、今までにどんな秘境へ行ったの?」

「……色々さ。

 秘境と言っても、ほとんど誰かが調べ終わった場所の再調査がほとんどだ。

 辿り着くのも困難な秘境や、前人未踏の秘境なんて目指したこともない」

「前人未到の秘境なんてオモシロそうなのに、どうして行こうとしないの?」

「……」

 

 言葉を返さず、ダーツを投げる若いハンター。その結果を見て、ベルさんに耳打ちするウラヌス。

 

「調子よさそうね」

「……どうも」

 

 

 

 会話は10分を越え、場に緊張感が漂う。話す内容がかなり説得めいてきた。

 

「勇気を出して、挑戦する気概を持たなきゃ」

「……勇気なんて気軽に言うなよ。

 向こう見ずな真似をして帰ってこなかった連中を大勢見てきたんだ」

「それは考えなしに突っ込んでいくからよ。

 逆に戻ってきて成功した人も見てきたんでしょ? その人達とあなたの違いは何?」

「……」

 

 もう何度目かも分からないくらい、ダーツをまた放つ若いハンター。3本目のダーツが刺さった瞬間、「あ……」と声を出すウラヌス。

 

「……調子悪そうね」

「見ての通りさ……

 俺は肝心なところでダメなんだ……成功の経験がないから、いつまで経ってもグズグズしてる。なにかしらキッカケさえあれば、俺だって」

「足りないのはキッカケじゃないわよ。

 必要なのは、一歩踏み出す勇気。失敗を恐れる限り、いつまでも成功したりしないわ」

「また気軽に言ってくれる……」

 

 席を立って、ダーツを回収する若いハンター。席に座ると、すぐさま放つ。結果を見て、首を横に振るウラヌス。

 

「なかなか上手くいかないものね」

「現実なんてこんなもんさ」

 

 ……あ。会話が途切れた。ベルさんが言葉を探してるけど、パッと思いつかないようだ。ウラヌスがすぐさま耳打ちする。

 

「……

 どうして、秘境ハンターになりたいって思ったの?」

「そんなこと、聞いてどうする?

 ……別に何でもいいのさ。俺は成功したくて、ガムシャラにやってきただけだ。秘境にこだわってるわけじゃない。

 ……用事を思い出した。じゃあな」

 

 席を立って、トイレへ向かう若いハンター。あああぁぁぁ……

 一同に落胆の気配が漂った後、私へと視線が集中する。う、うわぁ。ちょっと待てぇ。

 

「アイシャ、あと頼んだわよ」

「ま、待ってください。私、その……」

「ちゃんと俺達がサポートするよ。

 ベルが今までにやったことあるハンターの種類が引ければ、もしかしたらクリアできるかもしれないし」

 

 希望を繋ぐように、私へ何か託そうとする2人。やべぇ、マジか。無理って、こんなの。ていうかイヤだイヤだ、やりたくない。恥ずい!

 

「無理ですって。私、全然自信ありません……!」

「いいからいいから。失敗したって、あなたのせいじゃないわよ。

 さっさとやりなさい」

 

 ベルさんが私の手を取って、ずりずり引っ張っていく。ぎゃあああ! ヤダって!

 抵抗する私の背を、誰かが押す。……シーム! なにしてんだっ!?

 

「ほら、アイシャ。みんな待ってるんだから。

 ……自分だけやらないなんてズルイよ」

「わ、わたしだけじゃ……

 メレオロンだってやってないじゃないですか」

「……おねーちゃんは仕方ないよ。

 ほらほら、相手はゲームキャラなんだし気楽にやろうよ」

「アイシャー。

 やんなかったら、罰として昼メシ抜きだからね」

 

 ウラヌスの無慈悲な宣告。な、なにぃぃぃ!? オニかッ!!

 

「攻略に協力してくれないと、みんな困るからさぁ。

 ハイハイハイハイ。

 アイシャの、ちょっといいトコ──」

 

「ソレやめてくださいッッ!!」

 

 ……やりゃいいんだろ、やりゃあッ!! クソッ覚えてろよッ!!

 

 

 

 ──アイシャvsビーストハンター──

 

 

 

 とりあえずテンプレ通りに喋っていって、引いたのがビーストハンター……もうやだー。スゴイやめたいー。。

 今までにやったことあるのが来て、ベルさんが軽く拳を握ってる。私にとっては最悪のクジ運だけど……。昔のことが頭をチラついて、台本通り喋るのに集中できない。ダメだ、棒読みでもいいからちゃんと言わないと。

 

 

 

「──逃すまいと死に物狂いで追いかけて、やっと苦労して捕まえたと思ったら、どこにでもいる動物だ。世にも珍しい獣なんて影も形もない。

 いつの間にか違うのを追ってたみたいでな……そのうち他のヤツが捕まえたって大喜びしてやがった。格好のつかないマヌケな話さ」

 

「そういうこともありますよ。次はきっと上手くいきます」

 

「何度そう思ったか分からないし、何度も裏切られてきたんだ。

 もうウンザリだよ……」

 

 語り、ダーツを放つ若いハンター。

 ベルさんの囁き通りに話し続けてるけど、定まらない会話の内容にすごくもやもやする。……なんだろ、もうちょっとハッキリ言ってやりたい。

 

「どうせ俺に、ビーストハンターの才能なんてないのさ……」

 

「じゃあ、ビーストハンターなんてヤメちゃえばいいんですよ」

 

 場の空気が『ぎょっ』とする。あ、しまった。うっかり本音出た。

 

 若いハンターが立ち上がり──

 ダーツを回収する。……あれ? ゲームオーバーじゃない。

 どかっと椅子へ座り込み、

 

「……。

 ハンターなんてやめろ、か。

 不思議なもんだな。そう言われると、すんなりやめたくなくなる」

 

 あれ? 話そっちに進むの? ベルさんを見ると、両手を上げて首を振ってる。やっば、ここからアドリブでやるしかないのか。

 どうしよ、どうしよ……そもそも誰か口説くなんて、前世から今まで一度もやったことないんだ。こんな付け焼き刃で上手くいくはずないのに。ええと……

 

「本当は、ビーストハンターなんてやりたくないんじゃないですか?」

「……どうしてそう思う?」

「それは……

 ……

 獣に対するこだわりが感じられなくて。ハンターとしての名声が得られるなら、何でもいいのかなって」

「……」

 

 ダーツを放ち出す若いハンター。私が何となく見ても分かるくらい、明らかにスコアが悪い。動揺しまくってるな。……私もだけど。思いつきを適当に喋ってるだけだ。

 

「……ハンターとして活動するのはいいと思いますが、無理に何々ハンターなんて決める必要はないんじゃないかなって」

「だけど、名のあるハンターは皆なにかしら名乗ってる」

「幅広い活動をしているハンターもいます。

 それはプロもアマも変わりませんよ」

 

 これは実際そうだ。特にアマチュアハンターは、彼のように何かしらで成功すればと、多くを求めて活動するらしい。だからプロの呼びかけに、一も二も無く飛びついたりする。……まぁ誰かから聞いた話だけどね。クラピカだったかな?

 立ち上がり、回収したダーツをまた放つ若いハンター。スコアは低いようだ。

 

「……

 どうして、ハンターになりたかったんですか?」

 

「……ハンターになりたかった理由、か。

 オトコなら一度は夢見るもんさ。

 ハンターとして名を上げ、腕を認められ、歴史に名を残すような人間になりたいって。

 子供の頃から、何かを追うのは好きだった。……そうだな、今でもそうだ」

 

「なら、もう夢は叶ってるじゃないですか」

 

「……ハンターとしては成功していない。

 何をやっても、上手くいかないんだ」

 

「それは誰だってそうですよ。

 私も、どうしてこうなった? と何度思ったことか。

 思い通りに行くことなんてほとんどありません」

 

「……

 成功もしないのに、ずっと続けることなんてできないだろう」

 

「……いえ。

 成功を求めて、努力するんじゃないんですよ。

 度重なる失敗にも心折れず、努力を続けられた人間が、いつかそれが実って成功を掴むんです。

 あなたは若いんですから、まだまだチャンスはたくさん訪れます。

 何もしない人は、絶対に成功しませんよ?」

 

 若いハンターは、言葉を返さずに立ち上がる。

 またダーツを回収し、それを投げている。2本刺さったところで手を止め、やや狙いをつけて投げ放つ。外側の狭い部分にトン、と刺さった。

 

「あ」

 

 ウラヌスが声を出す。何か聞こうとする前に、若いハンターが尋ねてきた。

 

「……オレはどうしたらいい?」

 

 つかの間、考え。……想いをそのまま口にした。

 

「何かを追うのが好きなら、それをすればいいんですよ。

 成功することも、名を残すことも、本当は必要なくて。

 ……そうですね。夢を追い続ければいいんじゃないですか?」

 

 なんだな。あまり上手くまとまらなかった。……仕方ない、こういうのは苦手だからな。

 

 若いハンターは黙り込んでいる。立ち上がるかと思ったが、それもしない。

 

「……

 子供の頃。

 俺が珍しい虫を追ってうっかり危険な森の奥まで行き、獰猛な獣に襲われたところを、助けてくれたハンターがいたんだ。

 その人は色んな話を聞かせてくれたよ。財宝や珍獣を発見した。遺跡や秘境を踏破した。希少な宝石、食物、不思議な出来事……

 夢のような話を聞かされて以来、俺はハンター以外の将来を見出せなくなった。

 ……だが、現実は厳しかった。

 プロにはなれず、アマで色んな活動をしても、ロクな功績を上げられず。……色々追うことが楽しくないと言えば嘘になる。けど、名もない一介のハンターでいるのは耐えられなかった。

 でも、考えてみれば……

 俺を助けてくれた、目標にしていたハンターだって、何ハンターかは名乗らなかった。……もしかしたら今の俺と同じように、右往左往していたのかもしれない」

 

 長く続く一人語り。これって、もしかして──

 

 若いハンターが席を立ち、渋面で固まっていた表情をようやくニコリとさせる。

 

「ありがとう。ようやく一歩踏み出す勇気が湧いた。

 俺はまた、何かを追うことにするよ。

 ……これは助けてくれたハンターが譲ってくれた物だ。俺にはもう必要ない。ぜひ受け取ってくれ」

 

 そう言って、懐から出した物をテーブルに置く。カメラ、か? 変わった形だけど。

 

 手に取ると、ボンッ! とカード化した。

 

 

 

『97:3Dカメラ』

 ランクA カード化限度枚数20

 撮影したものを立体のまま現像できるカメラ

 サイズも調節可能で質感もそのまま再現できる

 

 

 

 ……お。おぉぉぉぉぉッ! 取れたぁー! クリアしちゃったよ! なんでだっ!?

 

「今度会ったら、あんたの話も聞かせてくれ。またな」

 

 笑顔で別れを告げて、酒場から出て行くハンター。あわわわ、マジで終わったのか。

 

 私は動揺が収まらぬまま、みんなの方を振り向くと、

 

「──ヒュウーッ! コングラチュレーションッ!!」

 

 口笛とともに、聞き覚えのあるフレーズを叫んで手を叩くバショウさん。

 いきなり湧き上がる拍手喝采。うおぉい! やめてよ!

 

「やるじゃない、アイシャ!

 奥手だと思ってたのに、なかなかどうして! この惚れさせ上手!」

 

 なんかベルさん、どさくさに紛れて妙なこと言ってるぞ……

 私が手にしたカードを見る為か、座ってる私に皆が寄ってくる。

 

「アイシャ、まずバインダーに入れて」

「あ、はい。ブック」

 

 あっぶね。ウラヌスに言われなきゃ、やらかすトコだったよ。

 バインダーにカードを収め、そのページを広げてテーブルに置く。ぞろぞろと何人かが覗き込む。……よかったよ、『浮遊石』が手前のページで。明らかに本物っぽいランクSカードがポツンと1枚入ってるのを見せるわけにはいかない。これは独占カードだしな。フリーポケットに入れ直さなきゃいけないトコだった。

 

「へぇー。これが本物の指定ポケットカードなんですねー。

 ……これって人も撮れるんですかね?」

「あたし見えないんだけど……」

「シームは見ないの?」

「後で見せてもらうよ。『複製』で増やすだろうし」

「……取れると思ってなかったから、予め『名簿』で調べてなかったな。

 うっかりしてた」

「これは報酬配分を真剣に考え直さないといけないな……」

 

 みんな好き勝手に色々言う。……ウラヌスが気になること言ってるな。これでカード化限度枚数いっぱいとかだったら、本気でどうしてこうなったと叫んでたよ。

 

 

 

 

 

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