どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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・メレオロン(♂→♀)

 原作にも出ていた巨大キメラアント元師団長。フルネームはメレオロン=ジェイル。
 おそらく原作でオスだったと思われるメレオロンの性別は、今作ではメスへと変化。
 基本的な見た目は、原作とさほど変わらず。ただし煙草は吸わない。原作メレオロンはやたら緑色の肌してますが、こちらは多少色変化してやや黄色気味。しっぽは小さめ。
 原作と違い、アイシャとウラヌスの能力で、本来見破られるはずのない【神の不在証明/パーフェクトプラン】をフルボッコにされる、可哀想なヒト。

 原作ではフルネームが公表されておらず(メレオロンとジェイルの2つを名乗っていたのみ)、人間だった頃の名前がメレオロン=ジェイルかどうかは定かではありません。が、いずれにしろ本名はもう出ないでしょう……



・シーム

 メレオロンの弟。フルネームはシーム=ジェイル。
 名前からもそれとなく分かる、原作におけるパームの立ち位置入れ替わり。ただ性格は極めてまとも。ちなみにパームは普通にいます……出てないだけで。
 見た目は12歳程度の、まだ身長が伸びきっていない少年のそれに、半獣人パームが変化していた手足鱗びっしり状態が合わさっている。金髪で、鱗のある部分の肌は青みがかり、それ以外の肌は薄い黄色。
 もっとも、変化はパームほどではなく、ツナギで隠せる程度。腕の鱗は手首から肘まで、足の鱗も足首から膝までで、ヒレもなし。
 メレオロンにとっては前世の弟に当たる。シームは死亡後に転生したわけではないので、厳密には血の繋がり──肉親の関係ではないと言える。



 皮肉なことに、双方に共通するのはともに『蟻』であるということ。







第十二章

 

「ほら、2人とも。

 能力が解けてる時はすぐ『絶』。頼むぜ」

 

 私がウラヌスさんの横に並んで座り、向かいのソファーにキメラアントの2人が並んで座っている。うん、席替えはいいんだけど。

 

「うっさいわね……

 ほら、シーム。あんたもすぐやって」

「う、うん……」

 

 何がなにやらサッパリです。

 っていうか、2人とも『絶』含めてかなりの隠形だ(おんぎょう )な。あらかじめ気配探ってたのに、化粧室に隠れてるのに気づけなかった。くそ、違和感の正体はこの2人だったか……

 

「えっと……ウラヌスさん、これって」

 

 隣のウラヌスさんが、後ろ頭をかきながら、

 

「んんー。まぁ最初から話すか。

 まず、キミに声をかけてあの話をした後……」

 

 

 

 ──少年説明中──

 

 

 

 ウラヌスさんの話をまとめると、こんな感じだ。

 

 私と話して協会の外へ出た後、道に迷って偶然このキメラアントの2人と商店街で会い。

 見破られるはずのない念能力をウラヌスさんがあっさり見破り、これは捨ておけないとキメラアントの方から接触し。

 情報交換しようにも、そもそもウラヌスさんは巨大キメラアントのことを知らず。

 当人達から説明を聞いてもイマイチ分からないので、実際にハンターサイトで調べ。

 そこで諸々の詳細と、巨大キメラアント討伐に私が関わっていたことを知ったらしい。

 

「その……

 この2人って、もしかして逃げてるキメラアントなんじゃ」

 

 私以外の3人が沈黙で返す。肯定、ですか。

 

「……」

 

 フードを下ろしているので、2人の容姿はよく分かった。女性の方は人型のカメレオン。男性の方は、ぱっと見は問題なさそうな少年の姿だけど、袖から覗く手首から腕にかけてびっしり鱗がついていた。

 

 今、現存する巨大キメラアントは2種類しかいない。

 

 ネテロに降伏して、僻地にて厳重に監視されているキメラアント。

 

 いまだ、逃亡を続けるキメラアント。

 

「つくづく……

 NGLでアンタと出会わなくてよかったわ。さっさと逃げて正解だった」

 

 女性カメレオンのキメラアントが、そう息を吐く。

 

「そうですね。

 ……もし、私が討伐に向かっていた時に出会っていれば、迷わず殺していたでしょう」

 

 沈みがちに告げる。

 ……やっぱりいたんだ。人間みたいな考えのキメラアントも。

 

「迷わず、ね。

 そのワリには、ずいぶんツラそうに言ってるけど」

「……」

 

 多分、ゴン達がいなかったら、仮に生き延びても私は精神を病んでいたんじゃないかと思う。それぐらい、後味の悪い戦いだった。どれだけの命を刈り取ったか。もちろん私が殺さなかったら……もっと多くの人が殺されていたんだけど……

 

「……ま、アンタがその気になったらどの道終わりだろうし、正直に白状しとくわ。

 アタシは元師団長のメレオロン。……前世、人間だった頃の記憶を取り戻してる」

 

 師団長。さっきの顕在オーラ量を見た感じ、確かにそれくらいは……いや、それ以上の強さに見受けられた。元人間……であることを思い出した、か。

 

「……。そちらの人は?」

「シーム、私の弟よ。

 と言っても、この子は純粋なキメラアントじゃないけどね。

 念能力に強制的に目覚めさせられ、無理やりキメラアントと合成された半獣人よ」

「……!」

 

 遠い記憶に何か掠めるものはあった。……が、思い出せない。

 

「……なんですか、半獣人って」

「いま説明した通りよ。護衛軍が試験的に作った……

 この子自身は戦う意思がなかったから、ハンターに降伏したのはいいんだけども……

 人間の実験施設に回されてて、やっとの思いで私が連れ出したのよ」

 

 ……誰だ、そんなことをしてるのは……

 

 ふつふつと悪感情が湧いてくる。巨大キメラアントを討伐、監視、隔離──は分かる。実験とは、なんだ。いったい何の為に。悪い想像しか出てこない。

 

「……よく救出できましたね」

「これがあるからね」

 

 メレオロンという名のキメラアントがクチを噤む。……私のオーラ減少が始まった。

 

「……すいません。

 息を止めて、何かしてるのは分かるんですけど、私には効かない能力なんで──」

「……はぁー。やっぱりか……

 まぁアンタにもソッチにも効かないのはよく分かったわ」

 

 私はウラヌスさんの方を見る。彼は「んー」という顔で、

 

「どうも息を止めてる間は、相手に自分を認識させなくする能力らしい。

 俺の方は生命力精神力を見る力で認識できるようになっちまうみたいで、何してるのか見た目に分からん」

「私もです」

「アンタ達、やめてください……アタシこれすっごい自慢の能力なのに……」

 

 メレオロンさん、ぺちゃーとテーブルに突っ伏した。ああ、もうコレ、自信喪失してる……

 

 ……なるほどね。能力発動中、誰にも認識できないようにできるなら、追っ手から逃げつつ、弟さんの救出も不可能じゃないか。監視カメラとかには、引っかかってそうな気もするけど。まさか機械からも隠し通せるのかな……

 

「でも、弟さんの方はどうやって隠れるんですか?」

「……【神の共犯者】。

 私が【神の不在証明/パーフェクトプラン】を発動中に手で触れた相手も、同じ状態にできる。離れるか、私が息をすると効果がなくなる」

 

 ほぉ。うまくやれば、かなり強力な能力じゃないかな。……なぁんか初めて聞いた気がしないんだけども。

 

「で、どうするのアンタは? 私達をハントするの?」

「……」

 

 もちろんハントする気は、ない。人に害をなす感じはしないし、どこかへ行ってしまうなら追う気はない。けど……

 

「……ウラヌスさん。

 この2人も、グリードアイランド攻略に?」

「そのつもり。

 逃亡を成功させる為に、整形手術で見た目を何とかしたいらしくて。でも普通に考えて、やってくれる医者が見つかるどころか、足がつく方が早いだろうし。

 なんとかならないかって泣きつかれたから……」

「……『マッド博士の整形マシーン』、ですね」

「しかないわなぁって」

「んー」

 

 ……これ、すっごい逃走幇助っていう犯罪だと思うんだけどなー。

 

 でも、まぁ……背に腹は代えられないか。うーん。いや、いいのか……?

 

「危ない橋になりそうだし、無理して渡らなくていいよ。

 一応この2人を仲間として迎え入れるのは、キミを迎える条件の一つにしとく」

「んー……

 ちょっと待ってくださいね……」

 

 私は額を揉んで、考え込む。

 

 心配事があるとすれば、ボス属性について知られることだ。ウラヌスさんはまだいい。彼も自分の命に関わることを私に教えてくれてる。私だけ話さないのはフェアじゃないし、そもそもグリードアイランドに入る以上、伝えないわけにはいかない。

 問題はこの2人だ。ボス属性の致命的な弱点を知られるのは……そこまで信用していいのか? 嘘は吐いてなさそうだけど……特にメレオロンさんは、自分の能力について詳細まで明かしてるしな……

 

 …………

 

「ウラヌスさん。

 どうしてあなたは、彼らを信用してるんですか?」

「ん?

 んー……」

「アタシはもう、アンタ達に任せるわ。

 ……見破る人間が複数いるって時点で、逃げ続けられないって分かっちゃったし。

 煮るなり焼くなりご自由に」

 

 メレオロンさんは、脱力気味にそう言ってくる。

 

「えっと……シームくんでしたっけ。

 あなたは?」

「おねーちゃんに任せます……」

 

 私がウラヌスさんを見ると、彼も見返してきた。何となく困った顔で。多分、私も同じ顔してるな……

 

「その……

 ここで私が、あなた達を信用しますと答えたとしても。

 別れた後に私が通報して、あなた達が捕まることだって……」

 

「好きにしてちょうだい。

 私はコイツなら信用できると思って、そこのウラヌスに洗いざらい全部喋った。

 で、そのウラヌスがアンタなら信用できると思って、私達に引き合わせた。

 見立て違いだったなら、諦めるわよ……」

 

 んー……

 

 少なくとも巨大キメラアントは、その危険性を考慮すれば監視・隔離すべき生物だろう。その認識に間違いはないはず。まぁこれだけ人間性を示されて、前世の記憶もあるなんて言われたら、討伐しろと言われたって私にはできないけどね。シームくんの方は、現在に到った経緯を考えれば尚更だ。

 

 でも……討伐しないなら2人を協会へ引き渡すべきかと聞かれると、素直には頷けない。

 

 さっき聞いた実験施設の問題だ。なぜ降伏したはずの彼がそんなところに居た? その疑問が解消されないうちは、たとえハンター協会が相手でも引き渡すわけにはいかない。実験施設とやらが何なのか判明するまでは、自分達で保護した方が遥かにマシだ。

 

 ……選択の余地はないか。今の時点では。

 

 もし犯罪者扱いされそうになったら、ネテロやリィーナに泣きつこう。そもそも私達は既に、グリードアイランドでゲンスルーさん達という殺人者を取り込んでしまっている。あの島の懐深さにひとまず期待したい。

 今後この2人をどうするか、まずは近くで様子を見たいしな。

 

 ということは……

 

「ウラヌスさん。

 これで私が了承したら、とりあえず暫定メンバーは決定ですか?」

「ああ、これで4人になるからね。

 全員の利害も一致した。

 ────『魔女の若返り薬』『ホルモンクッキー』『マッド博士の整形マシーン』。

 この3つのクリア報酬を目指す」

 

 ……うん。善は急げか。何が善か知らないけど。

 

「分かりました。

 私はあなた達と同行することに異存ありません。

 メレオロンさん、シームくん。よろしくお願いします」

「……アナタの名前、教えてもらえる?

 もう知ってはいるけど、自己紹介をしてもらってないから」

「これは失礼。

 ハンターのアイシャ=コーザです」

「アイシャ、ね。

 私のことはメレオロンでいいわ。

 シームのことは好きに呼んでちょうだい」

「分かりました。

 メレオロン、シーム。よろしくです」

「こちらこそよろしく、アイシャ」

「よろしくお願いしますアイシャさん……」

「なんか俺置いてけぼりで信頼関係結んでるね。いいけどさ……」

 

 ウラヌスさん、ちょっと横でいじけてる。

 

「まぁ本当にいいや。

 じゃ、そろそろ行こうか。

 メレオロン達は隠れつつ、飛行船発着場まで来てくれ。渡した携帯に地図が入ってる。

 ……アイシャさん、キミは俺に付いてきてほしい。

 早いうちに、力量を確認しておきたいから」

「分かりました。

 それでは行きましょうか」

 

 

 

 再び私は飛行船に乗り、またもあの岩場へ。ここ、意外に人気スポット? まぁ今回は高台ではなく、普通に下の岩場だけど……

 

 空は暗さを増し、そろそろ夜に差し掛かろうとしている。おなかすいたなー。

 

 私とウラヌスさんが、ある程度の距離を開けて相対する。

 少し離れたところで、メレオロンとシームがこちらを見守っている。

 

 彼の桜色の長い髪と、白いワンピースの裾がふわりふわりと風で揺れていた。

 なんというか、ホント雰囲気は戦えそうな感じの人じゃないんだよねぇ……念能力者を見た目で判断しちゃ、もちろんいけないんだけども。弱いわけないだろうし。

 

「メレオロンは、さっき言ってた能力の他に、身体を透明化する能力。

 シームは、これといって能力を持たないらしい。せいぜい『練』が限界だそうだ」

「……ウラヌスさん。

 私に能力を見せてくれるって解釈でいいですか?」

「ん?

 そのつもりだけど、キミは見せないつもり?」

「その……

 私はもう見せてるんですよ。さっき話した無効化と、オーラを隠す能力。

 戦闘用の能力は、それ以外にないですから」

「うーん……

 分かった。

 俺は戦闘用の能力があるから、それは見せるけど。

 その前に、手合わせしようか」

 

 やっぱりそのつもりだったか……

 

「ケガしても面白くないから──」

「オーラは無しで、ですよね」

「うん。互いに『絶』で。

 特にキミの場合、一ヵ月間どの程度守る必要があるか確認させてもらわないとね」

「……分かりました」

 

 私は、すっと風間流の構えを取る。

 

「ほぉー。

 ……なにか武術を修めてる感じはしてたけど、心源流拳法……じゃないな。構えを見る限り。

 キミのそれは、ほぼ受けの姿勢だ。『絶』の静けさといい、相当に使えるね」

「……」

「これは真剣にやった方がよさそうだ。

 ……武闘家として、手合わせ願いたい」

「いいでしょう」

「では」

 

 

 

 構えもなく、彼がゆるりと歩き始めた瞬間。

 

 

 

 ────私は急激に距離を取った。嫌な感じに押され。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 ────今の一歩目で見抜くか。これは尋常じゃないな……

 

 内心、驚くウラヌス。彼女は今の足運び、重心移動で、既に間合いのうちだったことを悟った。

 

 俺もまだクンフーが足りないな……あと少し我慢すべきだった。

 

 

 

 余分に距離を取ったアイシャは、今のウラヌスの動きにヒヤリとしていた。今の今まで、これほどの技量を欺瞞していたのか。

 

 明らかに距離を詰める為の動きではなかった。間合いを狂わせる歩き方だ。歩速、歩幅のみで、後の先を崩す高等技術。受けに対する立ち回りを、高い水準で解していなければできないほどの。

 

 2人とも動かない。

 

 …………

 

「ずるくないですか?」

 

「あ、やべ。バレた」

 

 アイシャの問いかけに、一歩目を踏み出した姿勢のまま、ウラヌスはさらっと答えた。ハタから見ている2人には、何を言ってるのかさっぱり分からない。

 

 ウラヌスの目が生命力精神力の流動を読み取っている為、アイシャはさっきからやけに読まれてる気配を感じて動きづらかったのだ。やりにくいなと思ったらズルされてた。

 

 無論『絶』状態で戦うのは間違いないので、約束を破ってはいない。が、そういう問題ではない。それでは素の技量による手合わせにならない。

 

「あぁ、うん。ごめん。

 目には頼らないようにするよ」

「私はあなたのオーラを見てないのに、ズルすぎますよ……

 その目の力って、ON/OFFできるんですか?」

「いちおうね。

 あんまりたくさん人を見ると疲れるし」

「まったく……

 武闘家なら武闘家らしく、普通に動きを読み取ってください」

「へーい」

 

 諦めたようにウラヌスは歩を進めた。詰まる距離。

 

 アイシャが一瞬ぴくっと指を動かし、ウラヌスが上下前後左右に重心を微移動。互いに間合いとタイミングを取り合う。

 

 今度はアイシャから距離を詰める。慎重に半歩弱を寄せ、ウラヌスの衣服を取りにいく。大きめに一瞬下がり、即座にさっきより接近するウラヌス。アイシャの指に布地が複雑に絡み、投げを封じてくる。

 

 急激に(たい)を下げ、短く突進するウラヌス。いなすアイシャ。無防備な背へ向けた腕刀の叩き込みを、ウラヌスが胴を(かし)ぐ勢いで弾く。アイシャが引く足の跡に、ウラヌスの踏み付けが空振った。

 その踏み付けの勢いを見逃さず、返す足で柔を仕掛けるアイシャ。──動かない。既に勢いが殺されている。

 

 2人の動きが、止まった。

 

「……

 もういいよ。俺の負け」

 

「……。そうですか」

 

 互いに姿勢を直し、ふーと息を吐く。

 

「無理無理無理。あんだけ崩しに行ってるのに、立て直し早すぎる」

「どんな重心移動させてるんですか、あなたは……」

「防御で精一杯。攻撃できる隙なさすぎだって。無理して攻めたら案の定だったし」

「……シーム、今の分かった?」

「わかんない」

「アタシもよ」

 

 オーラなしの手合わせでこの有様である。しかも互いにケガさせないよう気遣って、だ。

 ウラヌスは2人の方をちらりと見て、

 

「彼女の方が少なくとも数段上だよ。

 俺はかろうじて、歩法で対抗できてただけ」

「……

 どことなく、上半身と下半身の動きが食い違ってる感じがしたんですが」

「そりゃそうだよ。

 目の力、念能力と組み合わせた体術として身につけてんだもん。

 ぶっちゃけ、オーラなしだと上半身の攻め手はゼロ。

 始めから徒手空拳の武術として、動きを最適化させる気がないからね」

「ちゃんと武術としても修めた方が……」

「時間ない。独学だしな。

 ほっときゃ俺、弱って死ぬんよ?」

「……そうでしたね」

 

 アイシャは、もったいない……という思いでいっぱいだった。これも武人のサガか。

 

 ウラヌスは「んー」と身体を伸ばした後、

 

「まー。今の感じだと、ありありルールじゃもっと勝てそうにないけどなー。

 オーラ量にとんでもない差がありそうだし……

 とりあえず能力見せるけど、いい?」

「ええ。練を見せてもらいましょう」

 

 互いに距離を取り直す。すでに『絶』は行っていない。

 

「では、右手をご覧ください」

 

 言ってウラヌスは、肘を曲げたまま右手を上に差し向ける。

 その右手に、黄土色の無骨な拳が出現した。拳と言うより、籠手か。ウラヌスのさほど大きくない手を一回り大きく(よろ)っている。

 透けて見えるウラヌスの右手が閉じて開いてすると、それに合わせて大きな拳も閉じて開いてする。

 

「能力名は【巨人の籠手/ギガースグローブ】。

 出し入れ自由で、具現化する時に10段階までサイズを決められる。これで小さい方から2番目。

 大きいほどオーラ量が増大し、ついでに重量が増す。引っ込めれば、八割がたオーラは還元される。

 頑強だから攻撃にも防御にも向いてる。重けりゃ相手に合わせるのは難しいけどね。

 出すのは右手でも左手でもいける。両手同時は……やれなくはないけど、デメリットが大きすぎるな。消費オーラもさることながら、両手が重いと重心移動に悪影響が出る」

 

「なるほど……

 基本的に体術なんですね」

 

 念能力の高重量を前提とした足捌き、重心移動だったわけだ。あの技量も頷ける。

 

「うん。

 後、これの足版もある。そっちは両足同時が基本だし、あんま使わない。

 で、逆に高速機動する能力もあるけど、そっちはオーラ消費がもっとシャレにならないから、切り札にしてる。

 ……そんなもんかなー」

 

 ウラヌスは念能力の拳を消す。直後、巨大な拳を再具現化した。籠手のサイズは、成人男性の身長並みだ。

 

「これで8番目の大きさ。威力は大体こんなもん。

 ……破片飛んでくかも知れないから、念の為オーラで防御しといて」

 

 高台の岩壁に向かって歩いていき、無造作にゆっくり振りかぶる。

 

 ゴシャッ!!

 

 発泡スチロールのように、あっさり岩壁を削り砕いた。ついでに岩盤まで大きく抉れている。

 

「全然勢い乗せてないのに、それですか……」

 

 砕くだけなら念を籠めた拳でもできる。けど、岩壁と岩盤をまとめて一薙ぎで削り取るほどの威力は生半可じゃない。

 

「ま、重いからね。動く相手にそうそう勢いつけて当てられないよ。

 たとえばキミ相手に戦うなら、俺はこんなの使わない方がマシだと思うね」

「……」

 

 うーん。でも動かない相手への攻撃としては、凶悪すぎる威力だと思うんだけどな。

 

 ウラヌスさんは籠手を消し、こちらへ戻ってくる。

 

「……ありがとうございます、ウラヌスさん。

 少なくとも私の方からは、あなたの実力に疑いはありません」

「どうも。

 じゃあ、こっちからリクエストしてもいいかな?」

 

 ……予想はしてた。

 

「なんでしょう?」

「分かってるだろ?

 ──キミの『練』を見せてもらおうか」

「まぁ……

 そうですよね」

「俺はこの目である程度の見立てはついてるけど、そっちの2人には分からないし。

 そもそもオーラをどこまで制御できてるかで、全然変わってくるからね」

「ええ。

 ……その前に、今も使用しているオーラを隠す能力について説明しておきます。

 能力名は【天使のヴェール】。

 使用中、私のオーラは一般人のような垂れ流し状態としか感知されなくなります。

 これは、私がどんなオーラの状態であったとしても同じです」

 

「……ん? んん?」

 

 ウラヌスさんが、なんかすごい不思議がってる。うーん。

 

「その……

 俺はまだ、この目でいくらか対抗できそうな気がするけど……

 戦う相手のオーラが見えないとか、普通どうしようもなくね?」

「元々、その為に作ったわけではなかったんですけどね。

 私の場合、オーラの質に問題があって、『絶』や『隠』で隠し続けるのもちょっとアレだったんで」

「……反則って言われない?」

「よく言われます」

「ひゃー……。あの体術に加えてソレか。

 まいったな……勝てる気しない」

「ただし、使用中はオーラの消費が跳ね上がりますけどね」

「……どんぐらい?」

 

 言っていいんだろうか。……言わなくてもバレそうなんだよな。あの目で見られると。

 

「……。

 10倍以上です」

 

 メレオロンとシームがギョッとし、ウラヌスさんが「ぶぅーッッ!?」と吹き出した。

 ですよねー。やっぱ言わなきゃよかったかな。

 

「げほっ、げほっ……

 ……マ、ジ、か。

 キミは、そんな燃費の悪さで戦うのか。

 …………いや。なるほど、それでそんなエネルギー量なのか。

 うまいことできてるわー……」

 

 ご納得いただけたらしい。

 

「いや、つったって限度あるだろ。

 そんなんじゃ普通、戦って数分でぶっ倒れると思うけど。

 もちろんキミはそうじゃないんだろうけどさ……」

「流石に全力で長時間戦闘は無理がありますね。

 その時は解除するだけです」

「……うん。そりゃそうだ」

 

 ウラヌスさんが「はー」と息を吐く。

 

「……。では」

 

 私は【天使のヴェール】を解除した。

 

 解き放たれたオーラが禍々しい妖気となって、薄暗くなった空気を(くら)く染める。

 

 予想はしていたけど、メレオロンとシームが総毛だったように顔色を変えた。

 おそらく私のオーラをその目で予想していたはずのウラヌスさんも、表情を強張らせた。

 

「それ……は」

 

「その……色々ありまして。

 私のオーラの質は、生まれてきた時からこうなんです」

 

 更に一段、ウラヌスさんの表情にシワが寄る。

 こちらへ歩み寄り、私が自然と漂わせるオーラへ軽く掌を触れさせる。

 

「……キミの生命力と、真逆の性質だな」

 

「え?」

 

「いや……なんだろう。

 キミの生命力と精神力には、こういった禍々しさは全く感じられない。

 だから、まるで何かのフィルターを通したように、オーラの質が激変している」

 

「……」

 

 やはり、私が転生した時に死者の念として、オーラを引き継いでしまったのが原因なんだろうか。最早、調べようもないことではあるけど。

 掌を触れさせていたウラヌスさんが、つらそうな表情を浮かべた。

 

「そういう、ことか……」

 

「……

 なにか、分かったんですか?」

 

 もしこのオーラについて分かったことがあるなら、ぜひ知りたいな。危険を冒してまで見せた甲斐があった。

 

「いや、その……

 オーラの質が変化してる理由は、俺にもよく分からない。

 近くで浴びてるだけで、ものすごく奇妙な気分にさせられるんだけど……」

 

「あの……

 私以外の人が、このオーラを浴び続けるのは心身にもよくないですから。

 ご気分よくないようでしたら、もうこれで」

 

「……違う」

 

「?」

 

 ウラヌスさんが沈痛な表情を見せる理由が、私には分からない。

 私の目を、じっと見てくる。

 

「こういうオーラは……負の感情を伴った思念だ。

 普通、感情を向ける相手がいる。

 あいつが疎ましい、憎い、殺したい……いわゆる、未練を強めた怨念のたぐい」

 

「あの……」

 

 なんだろう。嫌な予感がする。

 

「多分……自覚はしていないと、思う。

 言うべきか、悩んだけど……放っておくのは正直、気の毒だ」

 

「ぅ……」

 

 ウラヌスさんの瞳が、こわい。背筋に冷たいものが走る。

 

 ……いや。分からないけど、言わないでほしい……

 

 彼の拳がきゅっと握られ、私のオーラがその隙間からすり抜けていく。

 

 

 

「……ごめん。

 

 キミを傷つけることを言う。

 

 

 

 この、悪しき思念は……他の誰にも向けられていない。

 

 

 

 ────キミ自身に向いている」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 何を……言ってるんだろう。

 

 

 

「…………。

 

 

 

 キミは、自分自身を、…………憎悪している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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