どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

123 / 300
第百十章

 

 常日頃から秋の色に染まるオータニアを発ち、いちおう警戒して迂回コースを取りつつ、修行場にしている林の広場を目指す。なんだかんだで、修行場に向かうこの時間は好きである。アームストルで、自宅から道場へ向かう時も似たような気分だ。

 

「結局あいつらって、そんなに強くなさそうね」

 

 メレオロンがぽつりと言う。うーん。

 

「私の目から見ても、取り立てて出来る動きではなかったですね」

 

 一番の判断材料は草野球で走った時の足運びだが、筋肉のつき方諸々でも武術に長けた人間には見えなかった。ジートさんは体つきのワリにイマイチな感じ、プーハットさんは以前の件もあるからね。あの監督やってた人は動きをあまり見てないので分からないけど。無論、念がどの程度使えるかはサッパリだ。

 ということで、その辺りが得意なウラヌスへ目を向けて意見を促す。

 

「俺の目だと、あいつらの潜在オーラはまぁ……

 2000だな。特別、警戒には値しない」

 

 そんなもんか。『発』が怖いけど、それは念能力相手なら誰だって同じだしな。

 

「なんでボンヤリ2000って感じなの?」

 

 メレオロンが不思議がる。ふむ。彼ならもう少し正確に分かりそうではあるけどね。

 

「あいつらイナゴ退治やってから草野球してたんだろ?

 それなりに消耗してただろうし、俺がさっき見た時がMAXじゃないよ、多分。

 ……あと、アベンガネが自信ないんだよな」

 

「どうしてです?」

 

 彼の目でも測りきれない何かがあるんだろうか? だとすれば知っておきたいな。

 

「えっとね。

 アベンガネの生命力をオーラ量で換算すると、大体1000あったんだよ。

 でも精神力は、30000くらいあった」

 

 うわ。……めちゃくちゃバランス悪いな。

 

「ウラヌスの言う精神力30000が念能力者として少ない数値とは思えないんですけど、それでも潜在オーラの見立ては2000なんですか?」

「うーん……

 アイシャなら分かると思うけど、顕在オーラ量って生命エネルギーをどれだけ精神集中して練り上げたかで変わってくるじゃん?」

「ええ」

 

 精神的に不安定だと顕在オーラに悪影響が生じる。それは間違いない。ウラヌスの言う通り、オーラが生命力と精神力双方からなる産物なら、色々と腑に落ちることは多い。

 

「生命力が多い場合はそこまで問題じゃないんだけど、精神力だけ有り余るケースが厄介でね。

 純粋にオーラを練っても、精神エネルギーだけじゃオーラに変化しづらくて、そのまま顕在オーラとして出せないことも多いんだ。イメージとしては、やる気はあるけど身体がついていかないみたいな感じ。だからそれを絞りだすには、何かキッカケが必要だったりする」

 

 ふむ。……ということはだ。

 

「つまり『発』ですか?」

「うん。

 アレだけ極端だと、精神力に傾倒した固有能力を身につけてる可能性が高い。

 直接的な戦闘能力は低いはずだけど、発動させる能力には注意した方がいいだろうね」

 

 なるほどね……かなり特殊な能力だろうし、確かにそれは警戒した方がよさそうだ。

 

 

 

 修行場にしている広場へ到着し、いつも重しにしているベストとバンドを掘り返して、各自それを装着していく。

 さて、ウェイトをどうするかな。考えてなかったよ。

 

 ……私はこのままでいいか。250キロのベストに、両手足それぞれ50キロのリストバンド。それでも負荷が足りないなら、1つ200キロのダンベルを使えばいい。

 

 メレオロンはどうしようか。……いま合計105キロだったな。ベストを5キロくらい重くしようか。日に日に成長してるから、サボらせるわけにもいかない。

 

 シームは……難しいな。イナゴで消耗してるから、純粋なウェイトトレーニングはさせづらい。重くしても動けなくなるだけだろう。昨日と同じようにバンド4つの計40キロに慣れさせた方がいいか。

 

 その辺りの指示を出す。メレオロンが不満そうだったけど、それだけの資質を持ってるのに甘やかす意味がないからな。みっちり鍛えてもらうぞ。ふふ。

 

 

 

 自身の肉体鍛錬を(こな)しつつ、2人の様子を眺めてるけど……

 

 メレオロンはベスト70キロ、バンド10キロ4つでも動きが鈍らないな。やはり日に日に強くなってる。というかオーラ量は充分あるんだから、本来なら余裕で熟せる潜在能力を有しているはず。だから後は、特質系が苦手とするオーラで肉体強化する技量をどれだけ養えるかだ。もちろん基礎身体能力も伸ばさないとな。

 

 シームは昨日より動きがよくなってる。おそらくイナゴ退治の消耗がやや抑えられてるからだろう。余力さえあれば修行の効率もよくなる。さすが強化系、いい傾向だ。日々の鍛練の成果は、きっとイザという時の助けになるだろう。

 

 ウラヌスは今日もやらかしたので休憩中だ。うむ、このヒトほんと修行どころじゃない。何とかならないのか。……ならないだろうな。

 

 軽くセットメニューを終え、ウラヌスの前に腰を下ろす。

 

「お疲れ。飲み物とタオルいる?」

「まだそんなに疲れてないんで、別にいいです。

 ……組手をどうしようか相談しようと思って」

「組手かぁ」

 

 ウラヌスが組手に消極的なのは百も承知だ。体力や筋力トレーニングに比べて、怪我をする確率は格段に高い。

 けれど、スタミナやパワーばかり付けても、突発的な事態に対処できないのも事実だ。他プレイヤーとの接触が増えてきたことだし、将来の話とタカを括るのは危険だろう。

 私やウラヌスはともかく、メレオロンとシームには絶対的に不足しているものでもある。2人に基本的な体術を身に付けさせないと、バトルイベントにも参加しづらい。

 

 といった話をして、ウラヌスを説得してみる。

 

「……。

 ここで俺がまだ早いって言っても、堂々巡りだからね……

 充分に気をつけて少しずつ、ってことなら賛成する」

「と言うと?」

「いずれにしても、効率を求めて慌てていっぺんにやらない方がいいと思うんだ。

 バトルイベントをしやすいように、なんてのは後でいいと思う。そういうイベントは、アイシャのオーラが復活してから本格的にやればいいんだし。

 でも他のプレイヤーに襲撃された時の防衛は……確かに軽視できないかな。

 だから、やるならまず守りに寄せた体術だね。そっちのが怪我しにくいだろうし」

「護身術ですね」

「そうだね。

 逃げることも加味しつつ、怪我しないよう立ち回ってくれれば、俺達でカバーしきれるだろうから。……ホントはアイシャも守勢に回って欲しいけど、しないだろうし」

 

 視線を逸らしておく。だって、何とかなるなら目の前の相手(の )しちゃった方が早いしさ。

 ウラヌスが小声でぼそぼそと、

 

「アイシャってお嬢様なのに、なんでそんな感じなんだろうね」

 

 ぐ、ぅ。……今それをつつかないでくれるかな。答えようもないし。

 

「ウラヌスって男の子なのに、なんでそんな感じなんですか」

 

 思わぬ反撃だったか、面食らった顔をするウラヌス。ふふ、どうだ。

 

「……。

 ごめん、俺の失言だった」

 

 え。

 ……軽口で応酬したつもりだったのに、そんな深刻に受け止められても。

 

「すいません……私も軽率でした」

 

 メレオロンに注意されたところなのに、またやっちゃったよ……このヒトまんまヘコむんだった。

 

「えっと、話戻すよ?

 護身術はいいとしても、具体的に組手の内容をどうするかだね」

「あ、はい。

 それなんですけど──」

 

 

 

「シーム、メレオロン。ちょっといいか?」

 

 相談が終わり、ウラヌスが鍛錬中の2人に声をかける。

 

「ハァッ、ハァ……

 なぁに? ウラヌス」

「はぁぁー……

 アンタ達、もうデート終わり? もっとイチャついてていいのに」

 

 変態がなんか言ってるけど、スルー。

 

「重しを外して休憩して構いませんので、こちらに来てもらえます?」

「うん」

「へいへい。嫌な予感しかしないけど」

 

 メレオロン、さっきから妙に……ああ、今日も重量増やしたの根に持ってるのか。

 不機嫌そうに、リストバンドとベストをどすどす落とす彼女を見ながら、

 

「そんなに重たかったですか?」

「……何倍も重たいの着けてるアンタには敵わないわよ」

 

 ああ、うん。正面から文句言いにくそうにしてるのは、そういうことだよね。

 

「2人には今から組手をしてもらおうと思いまして」

「組手? ボクも?」

「ええ、2人ともです」

「……それって、カードを奪い合うとかそういうのじゃなく?」

「ええ。昨日あなたとやった、ああいう普通の組手です」

「……。

 もしかして、ボク達だけで組手するの?」

「よく分かりましたね。

 あまり私達を意識しすぎると動きが片寄ってしまいますから、2人で組手をしてほしいんですよ」

 

 姉弟が顔を見合わせる。

 

「……予想はしてたけど」

「思ったより早かったわね……」

 

 おや、意外。2人とも予想してたんだ。こういうことさせられるって。

 

「シームは組手の経験ありますか?」

「……普通の組手だよね?

 無いに決まってるじゃん」

「まぁ普通は無いわよねぇ。学校で武術の授業なんて無いし」

 

 奇妙そうに私を見てくるメレオロン。ぅぐ……

 

「組手は構わないけど、アンタやウラヌス相手に組手するだけじゃ不足ってこと?」

「不足とまでは言いませんが、やはり同じ相手だと思考が固定されてしまいますからね。少しでも変化をつける為に、あなた達同士でも組手をしてほしいんですよ。

 ただ問題なのは、私達が相手する時に気をつけてる『怪我しないように』って配慮が、あなた達だと難しいんじゃないかって」

「アイシャがやらせたがってて、俺は反対してるんだ。

 大怪我しないとも限らないし、もう少し後でもいいんじゃないかって」

「私としては、いくら時間があっても足りないことなので、少しでも早く始めてほしいんです」

「……つまり、アタシ達に決めろってこと?」

「俺とアイシャの意見は平行線だし、なら本人達に決めてもらおうってね。

 メリットとデメリット、並べてみようか?」

「いいわよ、別に。

 何となく分かるし」

「怪我するのはイヤだけど……

 組手もやらないと、後が怖いんだよね?」

「そうだな。

 俺とアイシャの意見がまとまらないのも、そこそこ高い怪我する確率か、低いけど死ぬかもしれない確率か、どっちも無視できないからだし」

「いくら低いと言っても、死ぬ可能性と怪我じゃ天秤に乗りませんよ」

「……

 でもアイシャは、怪我したら俺が治療するのをアテこんでるんだろ?」

「……。まぁ」

「怪我の程度によっちゃすぐには治らないし、俺の消耗も大きい。

 後遺症が長引けば、ゲーム攻略だけじゃなく今後の修行にも悪影響が出る。それだって軽視できないさ。

 ……俺は言いたくないんだよ。ほれ言わんこっちゃないって」

「でも──」

「あーもう、アンタ達だけで相談しない。平行線だったんでしょ?」

『はい……』

 

 私とウラヌスは揃って力ない返事をする。

 

「じゃあ、こっちで判断するしかないじゃない。……シーム、どうする?」

「おねーちゃんが決めていいよ。

 2人の言いたいことも分かるしさ」

「アタシだって分かってるわよ。

 そうねぇ……んー。

 ……とりあえずお試しで、本当に軽く組手するぐらいならいいんじゃない?

 問題なさそうなら、ちょっとずつ強めにしていく。どう?」

 

 軽めの組手ねぇ。……まぁ何事も慣らしは必要か。いきなり成果を求めるのもよくない。

 

「それなら俺は反対しないよ。

 アイシャは?」

「私もそれで構いません。

 2人とも、充分に気をつけてくださいね?」

「うん!」

「その前に、きっちり休憩させてもらっていいわよね?

 クタクタの状態じゃ、それこそ怪我しそうだし」

 

 む。……やむをえないか。サボる口実を与えた気もするけど、組手はしてほしいしな。

 

「いいでしょう、15分休憩してください。水分と栄養補給もしてもらって構いません。

 その代わり、休憩が終わったら──」

「分かってるって。

 あー、つかれたぁー」

 

 地面にゴロつくメレオロン。苦笑いするシーム。……まあいいか。2人が休んでる間に、私は自分の修行に集中しよう。どうもこの面々だと私も修行がスローペースな気がする。私は私のペースで鍛えないとな。

 

 

 

 休憩していた姉弟が立ち上がり、広場中央へと歩き出す。

 入れ替わるように私はウラヌスの元へ歩き、腰を下ろした。

 

「お疲れ。タオルと水」

「ありがとうございます。

 ……さて、いよいよですね」

「組手の内容、指示出すんだよね?」

「ええ、もちろん。

 あなたからは何かあります?」

「護身術的な組手をさせるんなら、今のところ俺からは何も」

「では、私の方から基本指示します」

 

 向き合うメレオロンとシーム。2人が私に視線を向ける。私はすぐ腰を上げ、

 

「まずは軽く、ということでしたね。

 では攻守を決めて、交代制でいきましょうか。

 1人はひたすら攻撃する。1人はひたすら防御する。オーラは有りで」

 

 そう伝えると、メレオロンが首を傾げ、

 

「防御するの?

 避けるとかせずに?」

「ええ。相手から距離を取らず、攻撃を受けてください。

 避けるのは戦いにおいて重要な技術ですが、避けそこなえば怪我をしやすいですから。あなた達は移動中に荷物を背負ってますし、素早い攻撃はおそらく避けられないでしょう。

 まずは相手の攻撃を無傷で受け止めることに注力してください。互いに適切なオーラを籠めていれば、怪我をすることもさせることもないはずです」

「なんか、こうすればってある?」

 

 助言を求めるシーム。それを考えるのも修行だけど、渋って怪我させてもよくないので、今回は教えることにする。

 

「まずは、攻撃される時に目をつぶらないことです。

 相手の攻撃を見る。相手の動きを見る。とにかく観察することに慣れてください。

 それと、最後まで気を抜かずに。『纏』が乱れれば防御力は大きく下がります。身体の力を抜いてもです。怪我をするのはそういう時ですから」

 

 言葉を切る。ひとまずそれくらいか。後は2人の組手を見てみないとな。

 

「では、始めてください。1分で攻守交替です。

 どちらから攻撃します?」

 

 姉弟が顔を見合わせる。

 

「ジャンケンする?」

「いやよ、負けるの分かりきってるじゃない。縁起悪い。

 アンタから攻撃してきなさい」

「うん、分かった」

 

 互いにそれっぽい構えを取る2人。

 

 シームは──動かない。

 両の拳を握りしめたまま、脚が固まっている。

 

「……。

 シーム。あんたが本気でやったって、ちゃんと防いであげるから。

 遠慮しないで来なさい」

「うん……」

 

 実際、2人のオーラ量の差は歴然である。如何に特質系と強化系であっても、2人ほど差があれば技術なんて全くなくても防げるだろう。

 

 ためらい続けたシームが、踏み込んだ。

 まっすぐに打ち込んだ拳を、メレオロンが腕で正面から受け止める。

 

「シーム、どんどん打ちなさい」

「う、うん!」

 

 シームが恐々と、拳を続けて打ち出す。それを丁寧に止めるメレオロン。

 この程度の速さでは、組手とは到底言えない。上半身、それも腕だけで攻撃してるしな。威力のない手打ちになってしまっている。それでも圧倒的に練度が足りない2人にとって、この攻防は意味があるだろう。スピードは徐々に上げればいい。

 その動きを反復しているうちに1分ほどが経つ。

 

「2人とも1分経ったよ。交代して」

 

 ウラヌスが声をかけると、シームが手を止め、「ふー」と息を吐く。

 対し、メレオロンは顔を強張らせる。

 怪我の心配をするなら、シームがメレオロンを傷つける可能性は低いだろう。オーラはもちろん、技術にも差がある。

 だからあるとすれば、メレオロンがシームを傷つけるケースだ。……さて。

 

「……シーム。両腕を上げて、しっかり身を守りなさい」

「うん」

 

 メレオロンがそう指示する。少し考える素振りを見せ、

 

「腰が引けすぎてるわよ。

 もうちょっと前に構えて。そのままじゃ、攻撃を受けた後に姿勢が崩れるから」

「う、うん」

 

 シームが言われた通りに構えを修正する。

 

「……じゃ、いくわよ」

 

 メレオロンは、拳を解いた。

 そのまま手の平で、パンッとシームの腕を叩く。繰り返し、張り手を打つメレオロン。

 ゆっくりとだが、それでも力は籠もっている。シームが踏ん張らないと、後ろに倒れてしまう程度には。

 何度も受けているうちに、シームの体勢が崩れた。メレオロンが手を止める。

 体勢を整え直すのを見てから、再び手を伸ばしてシームの腕を叩く。

 

「──1分経った。2人とも一息いれて」

 

 ウラヌスが声をかける。メレオロンが、ほっとした様子で距離を置く。

 

『ふー』

 

 私とウラヌスが溜め息を吐いた後、顔を見合わせる。全く、見てるこっちが緊張するな。

 

「……アンタ達、いっつもこんな難しいことやってたのね」

 

 メレオロンが私達を見て、しみじみとそんなことを言ってくる。

 彼女にも理解できたのだろう。相手を怪我させないよう配慮して組手をするのが、どれだけ難しいか。

 怪我だけ注意するなら、そこまで大変じゃない。けど効果的な組手にならないんだよな、それだと。今の2人のやりとりじゃ、有効な組手だったとは言い難い。

 

「メレオロンのオーラ量だと、『纏』だけでシームの『堅』を上回るからな。

 力加減で調整しないといけないし、やりづらいわな」

「そうなのよね……」

 

 ウラヌスの困った顔に、首を垂れるメレオロン。

 いかにシームが強化系でも、全く修行が足りない今の状態では、強化率100%には程遠いだろう。まして潜在オーラの猶予も差がありすぎて、顕在オーラも普段より差があるはず。

 

「んー……やっぱり早くない?

 シームのオーラ量が、2人で組手するのに適正なレベルに達してないよ。

 せめてあと一週間ぐらいは先延ばしした方がいいと思うけど」

 

 眉をひそめて指摘してくるウラヌスに、私も答えかねる。うぅん……

 

「……。

 現状で足りないなら、どうやって不足を補うか考えるのも修行の一環ですよ。

 危機に陥った時、オーラ量が充分に残ってるとは限らないわけで」

「それは分かるけどさ。

 あれじゃ工夫したって、オーラも身体も技術も鍛えられないよ?

 肝心な部分が鍛えられないんじゃ、非効率すぎないかな」

「……かもしれませんけど、すぐには結論を出さず、もう少しだけ様子を見ましょう。

 まだ2人とも続ける気ですし」

「うーん……」

 

 姉弟は姉弟で、何か相談している。続けて効果があるかは分からないが、無意味ということもないだろう。ただ非効率な気配は、私も感じてるけど。

 

 

 

 何度目かの、メレオロンの攻撃手番。お互い慣れてきたおかげで、攻撃の威力も速度もそれなりになっている。

 破けないようツナギの袖をめくり、鱗の生えた腕で攻撃を受けるシーム。

 ずるり、と。

 鱗と汗でヌメったか、メレオロンの攻撃が腕で止まらず──

 

 がつッ!

 

 シームの顔に、掌底がクリーンヒットした。ガタついた足腰が持つはずもなく、腰から崩れるシーム。

 悲鳴をあげてシームの上半身を抱き起こすメレオロン。ウラヌスも迅速に歩み寄る。

 

「大丈夫っ!?」

「あいたぁー……

 え? え? いま、どうなったの?」

「汗で滑っちまったな。

 ……まぁそのうちこうなるとは思ってたよ」

 

 私も3人へと歩き近づくが、誰もこちらに目を向けてこない。

 

「……ウラヌス。治療しますか?」

「もちろん。

 怪我したのを放っておいたりしないよ。

 今から治療するけど、この後シームは組手中止。激しい運動もなしで」

「そんなにヒドイの……?」

 

 不安そうに尋ねるメレオロン。

 

「念の為だよ。

 ヘタに動くと傷が悪化するかもしれないし、いちおう頭部だから。

 アイシャもいいね?」

「……。はい」

 

 そう言われれば、反論の余地もない。正直、怪我する可能性があるくらいじゃないと、組手の効果も期待できなかったしな。問題は今後どうするかだけど……

 

 メレオロンに抱えられたシームの容態を診るウラヌス。私も傍で立ち止まり、触れないままシームを診る。

 打たれた顔は、やや赤く腫れている。多少の鼻血、鼻と頬に打撲と擦過傷がある。首を痛めたかどうかは分からない。倒れた際に手や足腰を痛めては……いないな。少なくとも骨や筋肉に異常はなさそうだ。

 

「メレオロン、動かさないでね。シームもじっとして」

 

 言って、ウラヌスはシームの顔に指を走らせた。

 シームの顔から鼻血が消える。走らせた指先をタオルで拭うウラヌス。

 

「たいしたことなくて良かったよ……

 完治に30分かな。それまでシームは休憩。メレオロン、代わって」

「は、はい」

 

 シームを抱いていた役を、ウラヌスに委ねるメレオロン。そのままお姫様抱っこで持ち上げるウラヌス。

 

「わ、わっ」

 

 抱えられて慌てた様子のシームに、ウラヌスは何も言わず、広場の端へ運び歩いていく。

 シームを地面に横たえるウラヌス。首筋に負担をかけないよう気をつけながら、改めてシームを膝枕で寝かせた。

 

「わーい♪」

「コラ、じっとしてろ。

 暴れるなら地面に寝かすぞ」

「はーい」

 

 顔を見合わせる私とメレオロン。

 

「……そんな顔しないでよ。アタシが悪いんだから」

「え?

 そんな顔ってなんですか?」

「……

 あんた、いま自分がなんて顔してるか分かんないの?」

「……」

 

 頭の中がごちゃごちゃしてて、正直よく分からない……。あの、膝枕とか。うん。

 

「あんたが悩まなくたって、次やる時はアタシがもうちょっと注意すればいいだけよ。

 あの子達が許してくれれば、だけど」

「……いえ。私がきちんと指導していれば──」

「あのね。アイシャ」

 

 メレオロンが私の耳元に口を寄せ、

 

「怪我をすることが問題なんじゃないの。シームだって痛いのにはそれなりに慣れてるし。

 ……アタシが気にしてるのは。

 こういうことが積み重なって嫌な雰囲気にならないかってこと。せっかく居心地いいんだから、必要以上に考えすぎないで。……ウラヌスもだけど」

 

 身を翻し、シーム達のところへ歩いていくメレオロン。

 

 はぁ……。考えすぎ、か。

 それはウラヌスの方だろう。私はどちらかと言うと、彼に考えさせられてる側だよ。

 ただ修行のことになると、どうしても彼と意見の相違が出て、いつも以上に悩まされるのも事実だ。私が本調子に程遠いから、仕方ないんだけど……

 

 修行に関する見解が衝突するのは避けようがない。私と彼では重視してる部分のズレが大きいからな。今のところ譲歩しあって、何とかすり合わせできてるけど。

 ひとまず、現状のまま続けていくしかないとは思うんだけどね。……でもメレオロンの言いたいことも分かるんだ。私達はどこか危うい綱渡りをしてる雰囲気がある。このままだと、誰かがパンクしてしまうかもしれない。

 だから……問題のケアを逐一していくしかないんだろう。

 

 ようやく考えがまとまり、私はシームに謝罪するべく、そちらへ歩いていった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。