明日はスノーフレイで、温泉を堪能する予定だ。
よって、着替えを確保しなければいけない。オータニアにいつ戻るか分からないので、時雨紅葉に洗濯物を預けたままにはできないからね。
なので、修行から宿に戻ってすぐお風呂に入っていた。洗濯物を回収するタイミングを考えると、この後はもうお風呂に入りづらい。次入るのは温泉になるだろう。
今日はもうこれで3回目のお風呂だけど仕方ない。汗は流したいし、この宿にシャワールームなるものはないのだから。せいぜい長風呂しないようにするだけだ。
「──で?
何であなたまで一緒に入ってるんですか?」
「なにが『で?』なのかは知らないけど、つれないこと言わないでよ。
1人で入るの、結構寂しいのよ?」
私は変態がいない方が気楽でいいです。……まぁ最近触ってくるのはしなくなったけど。
「アンタは1人で入って、寂しくないの?」
「……別に、私はそんなこと思いませんよ。
それが普通ですし」
「ふぅん。アタシは誰かと一緒の方が楽しいけどね」
「それは私もそうですけど……」
悔しいかな、それは認めざるを得ない。湯船に浸かりながら、誰かとお喋りできるのがいいんだよな。今みたいにね。
「そういえば、このゲームに入る前、3人でお風呂入ってたじゃないですか。
アレって楽しかったですか?」
「そりゃもう、最高だったわよ。……ウラヌス以外は」
あ、うん。嫁にも婿にもいけないって言ってたしな。ムゴイことを……なにがあったか知らないけども。
「どうせなら4人一緒に入りたかったけどねー」
「無茶苦茶言ってますね……」
面白そうではあったけどね。ただ小さくなかったとは言え、あの風呂に4人は狭かっただろう。
「別に冗談で言ってないわよ?
実際楽しいもんよ、知り合いで固まって入るのも。裸の付き合いって言うじゃない?」
「うぅーん」
私もリィーナやビスケと入ることはある。あの2人はやけに私の背中を流そうとしたりとか、思うところはあるけど楽しいのは認めよう。昔は母さんと入ってたけど、今はまぁ……父さんがセットで付いてきちゃうしな。父さんは当然イヤがるだろう。
シームならいいんだけどな。まだまだ子供だし、姉に似てきたとは言え、こんな変態と一緒に入るより全然マシとすら言える。
問題はウラヌスだな……彼だって私と入りたくはないだろう。裸を見られ──
ん?
ちょっと待てよ。私、一方的に見られてんだよな。で、私は……
……あー、いや。そういうことか。ようやく分かった。これで腑に落ちた。道理で納得いかなかったわけだよ。
ということは、だ。──うん、これなら納得できるな。彼も認めざるを得ないだろう。
よし、決めた!
「アイシャ?」
「へ? なんですか」
「やけにニヤニヤしてたけど、どうかしたの?」
「いいえ、何も」
「そう?
アンタ、何かスッゴイ悪巧みしてなかった?」
「まっさかー。
あなたと一緒にしないでくださいよ」
「失礼ね。
アタシはいつも正々堂々、正面突破よ」
「姿を消してセクハラする人が言うセリフじゃないです」
「えー。
じゃあ透明にもならないし、存在も消さないから、堂々と胸揉んでいい?」
「あなたの顔面が5㎝ヘコんでも良ければ。
その後、全身を揉みくちゃにします」
「……組手の時みたく、お手柔らかになんない?」
「なりません」
メレオロンと並んで女湯の暖簾を潜る。
ウラヌスの姿はない。けど、近くに気配はあった。
廊下のソファー。そちらに目をやると、2人が座ってる。
「あ」
気づいたメレオロンを背に、私は歩いていく。ウラヌスがちらりとこちらへ目を向けた。
「ふぁへ? ふぁいふぁほほふぇーふぁんふぁ」
気づいたシームがもごもご言ってくる。その手に、齧りかけのソーセージを持っていた。
「あー。いいもん食ってんじゃない」
「シームが2人を待ってる間、何か食べたいって言ってね」
「ほーほー」
「私達が上がるの、待っててくれたんですね」
当のウラヌスは何も食べてないようだ。コーヒー牛乳の空瓶が1つあるだけ。
「部屋に戻ったら遊ぶつもりだったし、戻る前に食べ物買っとこうかと思って。
ゲームとかしながらオヤツ食べたいでしょ?」
私のゲーム機を動かす前提か。いやまぁ拒否する理由はないけどね。色々言ってくれたワリに、めちゃくちゃアレで遊んでるよな……
「ご予算はいくらまで?」
「別に制限はつけないけど、食べる量は夕食に触らない程度で。
今日は修行早く上がったから、夕食は遅らせるつもりだけどね。ブック」
バインダーを出したウラヌスは、メレオロンに1万ジェニーを渡す。気分よさげに鼻で歌いながら売店へ向かうメレオロン。
「アイシャも行ってきなよ」
「ええ。
今日ってこの後、まだ出かけるんですよね?」
「うん。夕食は外だからね。
後、移動スペルを補充したいから、メシのついでにマサドラにも行くよ」
ふむふむ。『再来』を結構交換に使ってたから、それだな。……あの話はまた後にしておこう。多分サクラのいる時が狙い目だろうし。
「私達だけじゃなくて、あなた達もオヤツ買うんですよね?」
「うん、買う買う。よいしょっと。
ウラヌス行こ♪」
「う、うん」
ソーセージを完食したシームがソファーから立ち上がり、手を伸ばしてウラヌスを促す。うむ、こうやって誘わないと間食もまともにしないからな、このヒト。
シームが伸ばす手を握り返し、ウラヌスも立ち上がった。
おやつを『どっさり』買いこんで、ゲーム機を繋げたTVの前に固まる私達。いちおうビデオを借りて映画鑑賞という選択肢もあったのだが、4人とも楽しめる可能性はゲームより低いので却下と相成った。
「そういえば、この島に映画館とかあるの?」
「あるよ」
メレオロンの質問に答えるウラヌス。ほぅ、それは初耳だな。
「俺の知る限りだと、ブンゼンとリーメイロにあるよ。
ブンゼンは古めかしい芸術作品とか文化財的なやつだけど、よくある普通の大衆映画はリーメイロで観れる。わざわざ映画館で観たいヒト向けだね」
『へー』
思わず3人で唱和する。ウラヌスは目をぱちくりさせつつ、
「ちなみにリーメイロで映画50種視聴してアンケートに答えると、取れるカードもあるよ。
結構レアだけど、指定ポケットじゃないんだよね」
「どんなカードなんですか?」
「オールシネマって名前のアイテム。
過去に上映されたどんな映画でも見れる劇場、なんだけど御利用はお1人様のみ」
ふーん。つまりホームシネマとか、そういう類の豪華版か。1人専用ってのがアレだな。
「映画50回って大変すぎない?」
首を傾げるシームに、苦笑するウラヌス。
「そりゃカード目的なら面倒だわな。それだけで数週間はかかるし、金もかかる。
けど、映画好きでもなけりゃ要らないアイテムだし、逆に映画好きなら50回くらい苦にならないんじゃない?」
ふぅむ、まぁそうかもね。……あれ? 私が最後に映画館行ったのって、一体いつだ? もしかしてこの世界じゃ一度も行ったことないんじゃ……おぉぅ。
それはさておき、私の一押し格ゲーKO○'96でゲームスタートする。
「これさぁー。
やったことあるけど、コマンド覚えられないんだけど?」
聞く耳持ちません。私だけでなく、ウラヌスもシームも無視している。そもそも多数のキャラを操作することが前提のゲームで、技コマンド覚えられないとか論外である。
とりあえず慣らそうということで、ストーリーのあるモードで開始。1チーム3キャラだから、1キャラ1人が操作を担当する。
「シーム、お前うまいな」
「まあねー。何度もクリアしたことあるもん」
「レベルは?」
「8だよ」
「……最高レベルですね」
「こいつ、ハメばっか使うけどねー」
「ハメすら出来ないねーちゃんに言われたくありませんー」
うむ。格ゲーしてるシームは口が悪くなるな。私の友達も、ゲーム中やけに口汚くなる傾向があるけど。
「お、削り切られたか。次は俺だな」
「……
…………
ウラヌス、めちゃくちゃ上手くない? そのキャラ、使いにくいと思うんだけど」
「下手だなんて言った覚えはない」
「あなた、このゲームもやりこんでますね?」
「そりゃ押さえとくでしょ、いちおう」
「でもさ、アンタ。
これシリーズで何作も出てたと思うけど、たまたまやりこんでたの?」
「何作目かにもよるけど、同じキャラならそこまでコマンド変わらないしな。
だから、よく使うキャラなら大体覚えてる」
ん? ちょっと待て。
「まさかウラヌス、このシリーズ──」
「全部やってるよ。
やりこみ度は流石にバラつきあるけど」
「ぅわー」
「うわあじゃあねぇよ。
同じシリーズの格ゲーやってるのが、そんなにおかしいか」
「アタシはおかしいと思う」
「私はそこまで思いませんけど……」
「ほい、勝った。
順番変えて、次アイシャからね」
「はーい」
「もう、やる前からどんな動きするか分かるんだけど」
「奇遇だな。俺もだ」
「なんか失礼なこと言ってません?」
「アタシこのキャラよく知らないけど、予想はつくわね」
「……
…………やっぱり。めちゃくちゃ投げてる」
「投げしかしてないな」
「いいじゃないですか、別に。勝ってるんだから」
「ブレないわねー、アンタ」
そしてラスボス戦。
「あー! ダメだ!」
「ハメそこねたな」
「ちょっとミスると、ダメージごっそり食らうんだもん」
「勝負急いだから、結構回復されちゃいましたね」
「ま、これくらいなら……」
「……
…………あ、あ。きっちりハメてる」
「つか覚えちまってるしな。
そうするとコイツ弱すぎるけど」
「……パーフェクト勝ち。つまんないわよ、あんた」
「さっきもウラヌス、似たような勝ち方だったもんね」
「っせーな。勝ちゃいいんだよ、勝ちゃあ」
くっ。ラスボス戦、私まで回ってこなかった……
慣らしが終わったので、対戦モードに移行。
参加キャラ数の都合で全然参戦してなかったメレオロンがパッドを持つ。
「えぇと……」
「お前、その2キャラしか使えないのか」
「だからコマンド覚えてないんだってば」
「私もちゃんとは覚えてませんよ。やりながら思い出してますし」
「後が詰まってるんだから、早く選びなよ」
「ぐぅぅぅ。分かったわよ、てきとーに……」
おい。待てコラ。
「なんで適当に選んだキャラが
「きたない。さすがねーちゃんきたない」
「勝ちゃいいのよ、勝ちゃあ」
「お前な。なんで隠しキャラ出すコマンドだけ覚えてる。
……はっ、どうせお前が使ったってボーナスステージになるだけだよ」
私、苦手なんだけどな。そいつ……
フタをあけてみれば、1人目だけで3タテだった。CPUじゃなかったら牧師弱いなー。
「ぐぉぉぉっ……!」
「オールパーフェクト負けとか、ねーちゃん弱すぎ。かっちょわる」
「うるさぁぁぁぁいっ!! もうヤダぁ!」
「そりゃ露骨にコマンド練習してたら、邪魔されて仕舞いだわな。
オール投げられぷぎゃー」
「キィィィ!
ちょっとぐらい、ちょっとぐらい……!」
うるさいな。勝てばいいと言ったのは自分じゃないか。
「ほら、負けたら交代ですよ」
「くそっ! ヤケ食いしてやる!」
ぽいっと放り出したパッドを、シームが素早く奪い取る。
「メレオロン、ムチャすんなよ?
特に酒はダメな。晩にまた出かけんだから」
「えー。今日はもう動きたくなーい」
「ダメだ。
晩は外で食う」
「いーじゃない、別にここでも。それともここって、晩は食事出ないの?」
「出るよ。有料だけどな。
元々ここは一泊一食だからな。朝食を指定してるだけで、夕食に変えることもできる。
そしたら明日の朝食が、ナシか有料になるけど」
「それなら夕食ここにして、朝食は冬の町に行ってからでもいいじゃない」
「……ダメだ。
ここのメシは量が少ない。朝食も夕食も同じくらいだしな。そんな夕食じゃ物足りないだろ」
「ええ、足りませんね」
「かーっ! 食い意地張った子のせいで!」
「ちょっと、何ですかソレ」
「アイシャのせいにしてんじゃねーよ。
じゃなくても『再来』が3枚しかないから、マサドラで補充しないといけないんだぞ」
「えええ。
アタシ留守番したーい。3枚なら3人で行けばちょうどいいじゃない」
「バカやろ。
1人で残ってたら危なっかしいだろが」
「じゃあ、もう1人一緒に留守番してよー」
「バカたれ!
スペルカード持つのに少しでもフリー枠要んのに、2人も留守番させる余裕あるか!」
「ねーちゃん、諦めなって」
「そうですよ。
意味なく危ないことしないでください」
「あーもうー。
分かったわよ!」
ちなみに、対戦はとっくに始めてる。思いっきり投げ警戒されて、やりづらいな。
「'96は飛び道具あんま飛ばないから、投げキャラ相手はキツイよな」
「だよねー。バッタするぐらいしかないし」
「そうなんですか?」
「'96はかなり投げ技強いよ。まぁ一部キャラはだけど」
言ってる間に、こっちは3人目まで出させられてる。手前2人はイマイチなんだよな。
「あぁー。やっぱり本命そいつなんだ。吸い込みすごいなー」
「動き違いすぎるよな」
「メインで使ってますからね。練習量が違いますよ」
そしてROUND5。開始した途端、シームがメチャクチャ飛び回りだした。
「くっ、やりますね」
「シーム、ガチバッタ戦法だな。容赦ねー」
「当たり前じゃん。そういうキャラだし」
「こいつがソレ使ってる時、アタシ勝ったことないのよね」
「汚い動きしてるもんな。アイシャの使ってるキャラも大概だけど」
「──わっ!
やっ、やばっ……きゃーっ!」
「シーム、アウトー。ひゃっひゃ、イイ気味ー」
「ねーちゃん、うっさい!」
あっぶな。ギリギリ動き見切れたから何とかなったけど、思ったよりシーム手強かった。
ウラヌスに手渡されるパッド。うぅ、ずっと見られてる感じしてたんだよな。勝てる気しないんだけど。
「あー。ウラヌス、キャラ選択エゲツなくない?」
「そうなの?」
「露骨にアイシャ対策してる」
なんだ、アイシャ対策って。いや分かってるけどさ。なんでリアルでもゲームでも同じように対策されなくちゃいけないんだ。……はい、私の戦い方が片寄ってるからですね。しってた。
「だって、キャラ変えずにそのまま出してるしさ」
「……」
「それ以外、使えないんでしょ?」
「……使えないわけじゃないですが、対戦で勝てるレベルじゃないんで」
言ってる間にROUND1が始まる。
「う、わっ、ちょっ……!」
「ひっどー。ウラヌス容赦ない」
「容赦してたら負けるしな」
「ちょっとは手加げ、わっ! 外さ……れ!」
「ぃよっと」
「アイシャ、あんたいいトコなかったわねー」
「だって!」
ROUND2も続けてフルボッコ。お、おのれ。
そしてROUND3。
「……ウラヌス、あんた手ぇ抜いてない?」
「うん? 知らないねぇ」
確かに動きが悪くなったように見える。さっきまで先手必勝だったのに、今は明らかに攻めてこない。私の得意キャラだから攻めあぐねてる?
……いや、違うな。手こずってるのでも手抜きでもなく、こっちの手札を探ってるんだ。なんと厄介な。
なんとか手の内を隠しつつ、ROUND5までもつれ込む。
「……
…………ぅわ! なんですか今の!」
「えっ? 今の、バグ?」
「
「はぁぁぁっ!? なんですかソレッ!」
「まぁ実はバグ技だけどね。
前ダッシュモーションで、バックダッシュできんの」
「うひゃー。アンタらしいわー」
まったくだよ。……あーもう、負けた! なんだそのふざけた技は!
ここからウラヌスの不敗伝説が始まる! ──といったことはなく、普通に負けてたりする。見てる感じ、わざと負けてるというより、疲れてきたら無理しないといった様子だ。まぁゲームで疲労溜められても困るしな。
「まぐまぐ……
メレオロン、もうひょっとヒンケンにやっへふださいほ」
「ポップコーンとコーラで見物モードのアンタに言われたくないわよ!」
「アイシャ、ぼりぼり食べてるけどボクの分も取っといてよね」
「指先鍛えられるから、実際メレオロンは真面目にやっといた方がいいぞ」
「あーハイ、分かりましたわよ!」
「ねーちゃん、言葉使いおかしい」
「うっさいなぁ! ウラヌス、ポップコーン追加!」
「はぁっ!? 俺にパシれってか!」
「そっちの子は動く気配ないでしょうが!」
「キュマニャン、買ってきてくれると嬉しいな♪」
「シームてめぇ」
「もぐもぐ。おかわりお願いしまふ」
「アイシャッ!?
完食する気な上に、自分で行く気ゼロッ!?」
だぁって。ウラヌス文句言いたいだけで、行ってくれるつもりなの見てたら分かるもん。あー、ん。はぐはぐ。
「多分、この部屋の冷蔵庫だとコーラ足んないから追加よろしくー」
「メ、レ、オ、ロ……」
「ねーちゃんに一票。あ、負けた」
「っしゃー!」
「ちぇっ。アイシャ、またパス?」
「2人で続けていいですよ。私はもう少し見物してます。
ごきゅ……ごきゅ……ぷはーっ」
恨みがましい目を私に向けてくるウラヌス。うん、あなたの番までパスしたのはわざとだよ。
胡坐から立ち上がり、「はぁー」と溜め息を吐きながら売店に向かうウラヌス。
「ついでに焼き鳥もヨロー」
「キュマニャン、ボクもほしい♪」
「むぐむぐ……ごくん。
あっ、もちろん私の分も忘れないでくださいね?」
「ウルセェェェェェッッ!!」
ちなみに焼き鳥もちゃんと買ってきてくれた。