第百十六章
「んぅー…………んっ」
窓から差し込む、朝の陽射しに目を細めて、身体を伸ばす。今日も気持ちのいい朝だ。
隣の布団に目をやると、なんだかぐったりした様子で、可愛いヒトがまだ寝こけていた。
布団を抜け出して、そちらに近づく。目は……覚まさないな。眠りは浅そうだけど。
ちっちゃい鼻をきゅっと指で摘まんだ。
「……も? ふごっ!」
パチッと目を覚ますウラヌス。びっくりした顔で私を見てくる。
「……は。
はにひへんの?」
「まだ寝てたんで、起こしたんですよ? もう朝ですから」
「ひや、はな、はなひへぇ」
「はいはい」
鼻をピヨンと引っ張りつつ、離す。ウラヌスは赤くなった鼻をぐにぐにと揉み、
「ふもー……
朝っぱらから変なことしないでよぉ」
ぐずぐず言って、ごろんと寝返りを打つウラヌス。ふにゃりとして、力なさげだ。
「ふふ。元気ないみたいですけど、もしかして寝不足ですか?」
「ぅ……」
やっぱりそうか。昨晩の話がよっぽど堪えたんだろうな。
「マッサージでもしてあげましょうか?」
「へ?」
「朝なんで軽くですけどね。ばっちり目が覚めますよ」
「あ、いや。遠慮しとく……」
「遠慮なんてなさらずに」
ばさーっと掛け布団を剥ぎ取る。
「ひゃー!」
丸くなってた子猫が、慌てて乱れた衣服を整える。私はわきわきと手を伸ばし、
「ささ、りらっくすリラックス♪」
「ちょっ、アイシャまじでいいから!
もう目ぇ覚めた、充分覚めたからいいって!」
「またまたー。元気ないんですよね?
軽く揉むだけですよ」
「なんか軽くって感じじゃない! 全身マッサージしそうな勢いだから!
色々理由つけて身体触ろうとしてるようにしか見えない!」
「えぇー。シームにもよく抱きつかれてるじゃないですか」
「俺アレ困ってるんだってば!
なんでそこまでしてボディタッチしようとすんの!?」
「ただのスキンシップですよー。
サクラを撫でるのと同じです」
「俺は猫じゃないぃぃぃっ!!」
ついに起き上がって部屋の端まで逃げるウラヌス。ちぇっ、朝からプニりたかったのに。
そして、いつものジャポンな朝食。
「軽くマッサージしてあげます、って言ってるのに断るんですよ。
どう思います?」
姉弟にそう尋ねる。2人は特に寝不足といった気配はない。
「アイシャ、まだそのネタ引っ張るの……?」
「なに言ってるんですか、私は親切で言ってあげたのに。
必要ないなら、もうちょっと元気そうにしてくださいよ」
「んー……」
なんだかんだで眠そうにしてるウラヌス。何なら今からでも揉むぞ。
「ウラヌス、なんでマッサージ嫌なの?」
素朴なシームの疑問に、
「んー……」
唸るだけのウラヌス。
だんだん手慣れた感のある箸を器用に動かし、溜め息と共に私を差すメレオロン。
「そりゃアンタ、朝から美少女に揉まれるとかシャレになんないでしょうに」
「え。なんでですか?」
「やめろメレオロン。
……言っとくけど、お前でもシームでも俺はヤだからな」
「え?
ボク、朝からウラヌスぷにぷにしていいの?」
「話を聞け」
「じゃあ朝以外ならいいんだね!」
「なんでやねん」
朝からカオスである。まぁ毎度のことな気もする。
「じゃあアタシは代わりに、アイシャのおっぱいマッサージするわね」
「ほぉ。
全身の関節を外されてお風呂に沈んだ、哀れなカメレオンが見たいわけですね?」
「どうしてそんな具体的なの? 怖いからヤメテそういうの」
しらねぇよ。だったら当たり前の流れみたく言うな。
「ていうかさー。アタシにだけ厳しくない?
ウラヌスだって、なかなか揉ませてくれないしさー」
「なんで揉むことが前提なんだこの変態」
「だぁってシームもアイシャも、アンタの身体べたべた触ってんのに、あんまり抵抗してないじゃない。ずるくない?」
「おねーちゃんはイヤらしいからダメなんだって言ってるじゃん」
「そうですよ。不純なアナタと一緒にしないでください」
「……俺には2人とメレオロンの違いがよく分かんなくなってきたけど」
なんかニャンコがにゃーにゃー訴えてるけど、しらん。
と、そうだ。2人にも話しておかないとな。嫌がることはないだろうけど。
「今朝って、お風呂に入りませんよね?」
ウラヌスがびくんと反応する。
「うん」
「そのつもりだけど?」
「スノーフレイで温泉に入りますからね。
で、4人で『混浴』しませんか?」
メレオロンが目を見開いた。シームは首を傾げる。
「アイシャ、コンヨクってなに?」
「えぇぇぇ……アイシャ本気で言ってるの?
別にアタシは全然構わないけどさ。
シーム、混浴ってアレよ。男湯女湯とか無しの、一緒に入れる温泉よ」
「えっ!? そんなトコあるの!?」
「アタシも入ったことないけど、そういうのがあるのは知ってるわ。
いやー……アイシャ、あんた大胆ねぇ」
「なんでアナタがそんなに反応するんです?
結構一緒に入ってるじゃないですか」
「アタシと一緒に入るのだって、ワリと嫌がるじゃない」
「……それはあなたが変なことするからですよ」
「アイシャ、ぼくも別にいいけど……
ああいうの? ゲームの前に3人で入ったお風呂みたいな」
「そうですそうです。
私も知らない人が入って来たら一緒になんて嫌ですけど、プレイヤーは少ないですからそうそう鉢合わせにもならないでしょうし。
だから、私達4人だけで一緒に温泉を楽しもう、と思いまして」
「うん……
ウラヌスはいいの?」
姉弟の目が、彼に集中する。まぁ一番嫌がりそうだもんな。ウラヌスは目を泳がせつつ、
「……おーけーした。
アイシャは俺の身体が心配らしくて、自分の目で『診断』したいんだって。
だから、混浴はそのついで」
「あぁーっ、そういうこと!
アンタ達、お医者さんごっこしたいんだ!」
『──ブふォォォッッッ!?』
な、なな……
「なんてこと言うんですかッッ!?」
「メレオロン、冗談でもやめろッッ!!」
「えぇぇぇ。むしろ全力で否定されると勘繰っちゃうんだけど。
いいじゃない、仲のよろしいことで。なんなら2人で入ってもいいのよ?
キャー」
「ふざけないでくださいッッ!!」
「頼むから一緒に入ってくれぇぇぇっ!!」
なんだかんだで、波乱の幕開けとなった朝食を終え。
私達はそれぞれの部屋で出立の準備をしていた。なかなかの大荷物だ。洗濯物を預けてない分、かさばるんだよな。夏服とかも入ってるし……
「向こうで冬装備も買うんですよね?」
「うん、そうだよ」
「……かさばりすぎて、リュックの許容量越えないですか?」
「全部入れようとしたらパンクするね。
冬装備を残すなら、だけど。俺は無理だと思ってる」
「処分するってことですか?
もったいない……」
「それが一番スノーフレイの攻略を難儀にしてるんだよね。
あそこって色々イベントが仕込んであって、複数回行かないと普通ケリがつかないんだ。
その度に冬支度してたら予算がかさむし、少人数での攻略も難しい。持ち運びが厳しいのは今更だね。
だからってロクな装備も無しに挑むのは、完全な悪手。収穫ゼロで風邪引くくらいならまだマシな方で、ヘタすりゃ死ぬからね」
「それは分かりますが……
結局どうするつもりですか?」
「実際挑戦してみないことには、何ともかな……
プランはあるけど、一番いいのはイベントを全部やっちゃうことだね。やっぱり」
「イベント全部できますかね?」
「正直言って無理かも。
色々イベントあるけど収集系が厄介かな。運の要素が強くて、時間がどれだけかかるか予測しづらい。
他の場所を経由しないとイベントが終わらないのもあるし、なかなか厄介だよ」
そうこうしてるうちに、隣の部屋から2人がやってくる。私達も似たような格好だけど、姉弟はツナギの上にジャンパーを羽織っていた。メレオロンは手袋もしている。
「んー? まだかかりそうなの?」
「もうちょっとだよ。
部屋で待っててくれたら、声かけたのに」
「退屈だから、こっち来ちゃった」
「荷物まとめるのがキツかったら、アタシ達の荷物をいくらか処分してもいいわよ?」
「その辺はもう考えないとマズイだろうな。
まぁスノーフレイが片付いてからでいいよ。むしろ、まだ買ってない冬支度の方を処分する必要があるだろうしな」
ふぅむ。私も自分の荷物をまとめきれずに持ってきちゃったしな。3つ目のリュックも検討しないとダメか。そのリュックを背負うのは私になるかもな。
何とか荷物整理を終えて、宿を発つ私達。時雨紅葉の玄関前で固まって、ミーティングする。
「着いたらすぐ猛烈に寒いから、覚悟しといてね。
何を置いてもまずデパートに行くから。防寒具は基本的に大きめのサイズで。
他のプレイヤーもいるだろうし、警戒は怠らないで。不調はすぐに訴えること」
「それはあなたもですよ、ウラヌス」
「わ、わかってるよ……
メレオロン、シーム。
特に2人の身体は、俺でも体調変化が予測しづらいから、できるだけ自己管理してね」
「うん」
「わかったわ。そろそろ行きましょ」
「オッケー。
それじゃ、みんな行くよ」
私達が頷くのを見て、ウラヌスはバインダーからスペルカードを外す。
「──『同行/アカンパニー』オン。スノーフレイ」
秋の朝日の下、私達は空を飛んだ。
────真っ白な地面へと着地する。っと。
「わわっ!?」
滑って転びそうになったシームを、慌ててウラヌスがリュックごと支える。
「気をつけろよ、全然足元の感覚違うから」
「う、うん。ありがと……」
「かーっ。
しっかしコレ、寒い以上に歩きにくいわねぇ……」
身の引き締まる寒さではある。が、充分に覚悟してたので、今は震えたりしていない。私自身は数え切れないほど体験してる寒さだしな。
けど、確かにこの足下はキツイ。都市の周囲、外側は積雪に覆われているが、この入口付近から都市の内部にかけては、中途半端に雪が積もって凍りつき、明らかに滑りやすい。
私はジャンパーのポケットへ手を突っ込みながら、
「2人とも背中のリュックがありますから、充分に気をつけて歩いてくださいね」
「無理くさかったら代わりに背負うけど、いちおうこれも修行だからな」
「へいへい……」
「がんばる……」
ざくっざくっざくっと足元の固い雪を踏み鳴らし、私達は雪化粧された都市の街並みを歩いていく。道往くゲームキャラも見事に冬の格好だ。すっかり着膨れしている。私達の吐く息だけが、白く煙っている。
「なんて言うかさー。
もうちょっと薄暗いっていうの? 雪がシンシンと降ってるイメージだったんだけど、案外明るいもんね」
「まぁ今は降ってないしな。
流石に曇ってきたら、メレオロンの言う通りだけど」
「なんかピカピカしてるよね」
「むしろ夜も明るいからな。雪に太陽や街灯が反射して結構まぶしいよ。
あんまり見てると、目が焼けてくるから注意してね。雪の照り返しでも結構キツイし」
私は足下と道の先に目をやり、
「ついさっき、誰かが通った跡がありますね」
ゲームキャラではない。もちろんNPCも足跡をつけて歩いてるけど、大荷物を抱えて通ったような深い足跡が残っている。
「だろうね。何人もこの道を通ってる。間違いなく、目当ては1つだろうけど」
「10日ごとに開催されるイベントですか」
「あんまり取り逃したくはないカードだからね。
後になればなるほど、競争相手が増えそうだし」
「そもそもどんなイベントなの?」
シームが怖々と歩きながら、もっともな疑問を口にする。
「うーん。まぁ見れば分かるさ」
はて。白雪都市と呼ばれるぐらいだから、雪にまつわるイベントだと思うけど。誰かが雪像を作るイベントがあるとか言ってた気がするし、それかなと予想はしてる。
「じゃあ、まっすぐそこへ向かう気?」
「まさか。
こんな薄着じゃ凍えちゃうよ。デパートで買い物して、服屋で冬装備に着替える。
今のうちに聞いときたいんだけど、体調大丈夫か?」
「アタシ?
まぁ来て早々、寒くて凍えそうなんてことはないけど。むしろ気持ちいいぐらいよ」
ふむ……メレオロンは純粋なキメラアントだからな。冷気に対する耐性がどの程度か、ちょっと予測しづらい。秋の町オータニアでは全然平気そうだったけれど。
「そっか。
具合よさそうなら、今日のうちに雪山登山することも有り得るからな。
調子が悪くなったら、さっさと言えよ」
「げーほげほげほっ!
ああぁぁなんだかねつっぽぃわぁぁぁ」
「……俺の目に、そういうの通じると思うなよ」
うむ。私でも今の仮病は見破れるしな。にしても雪山か……大丈夫かな。
デパートに辿り着き、私達は日用品のコーナーへ。
カードを眺めて考えるウラヌスに、不思議そうな顔をするシーム。
「ここで服買わないの?」
「買わないよ。売ってはいるけど、更衣室がないし簡素な防寒具しかない。
本格的なのは専門店で買うとして、ここで欲しいのはそれ以外の防寒対策だよ。食料品とかも当然いるしな」
どういうイベントか、どう攻略するかはウラヌスの頭の中だからな。買い物も彼に一任するしかないんだけど、いちおう疑問はぶつけないと。彼も完璧じゃないんだから。
「食料品って要ります?
必要になってから調達しても遅くないと思いますけど」
「んー……
確かに、大量には要らないかな。イベント1つ2つやったら温泉行くつもりだし、その後でもいいか」
「そうすると、昼食は温泉宿ですかね?」
「かもしれないし、別のトコかも。
……どうせみんな、昼間っからぐつぐつ温かいモノ食べたいんだろ?」
そりゃもう、みんなめっちゃ頷きましたとさ。
保温水筒やカイロ、少しの食料を購入してデパートを後にし。
冬着を専門に扱う大きな服屋を訪れる私達。
「さて。
アンタ達の着る物、コーディネートしましょうか」
「待てやコラ。
着せ替え人形にする気だろ」
「見た目じゃなくて機能性を最重視しますからね。
あなたのコーディネートなんて、い・り・ま・せ・ん」
「えぇー……」
「おねーちゃん、いい加減にしなよ」
危ない危ない……ソルロンドの二の舞になるところだ。今回は暖かく、かつ動きやすくだからな。水着みたいに恥ずかしいとか考えなくていいし、変態の世話になる必要なんてカケラもない。
「つうかな。
参加するつもりのイベントはもう始まってるんだよ。あんまり時間かけてたらマズイ」
あ、そっか。他プレイヤー参加型だから、そうなるのか。月例大会と同じかな。
「イベントが始まってから、参加ってできるんですか?」
「うん。この後のやつは飛び入り参加オッケ。
午前8時から12時までやってる」
……今は8時を少し回ったところか。
「のんびりしてて大丈夫なんですか?」
「そこまで急がなくていいよ。
ゆっくりやっても2時間、急げば1時間で片付くから」
「じゃあ、充分コーディネートする時間あるわね」
「いらねぇっつってんだろ」
どんだけ着せ替えしたいんだコイツは。あぁぁ、色々もやもや思い出す……
「それはいいけど、予算はどれぐらいの見積もりなの?」
「うん? まぁ使い捨てにするしな……
ケチる気はないけど、あんまり高級品買っても無駄になるし、ほどほどで」
「そう。もったいないわね」
メレオロンもそう思うか。仕方ないとは言え、なんだかねぇ。
「つっても、持ち運ぶのはもっと効率悪いしな。
これ以上荷物増やすのもバカらしいだろ?」
「……ねぇ。
あの2人のところに預ける気って、やっぱりないの?」
シームの質問に、表情を曇らせるウラヌス。あの2人のところとは、モタリケさん達の家のことだろう。
「……。
前にも言った通りさ。あいつらの世話になるのは、リスクが小さくない。
確かに、荷物を預けられたら助かるんだけどな……」
「私から無理は言えませんが、それなりのリスクも背負わないと攻略が進みませんよ」
「そうよ。アタシもそれが言いたいのよ」
片目を瞑り、痛そうな顔をするウラヌス。
「……でもさ」
「もしかしたら、私達が荷物を預けることでお2人を危険な目に遭わせるかもしれない、ですよね? 気にしてるのは」
「…………そうだけど」
「そんなこと言ったら、お2人がアントキバで生活してるのだって安全とは言えませんよ。
ウラヌスとしては、できればあの夫婦を島の外に出したいんですよね?」
「……うん」
「だったら、積極的に関わって説得しないと。
荷物を預ける相談なんて、いいキッカケじゃないですか」
「うーん……
メレオロンは嫌じゃないのか?
会う度に、モタリケやベルに隠し通さなきゃいけないんだぞ」
「……
必要ならバラしてもいいわよ。アタシ達の秘密。
こっちだって、アイツラの弱み握ってるわけでしょ?」
「……まぁな。
んー……
いや、とにかく話は後にしよう。今は時間がもったいない。
あいつらが荷物預かってくれる保証なんてないし、今回は節約で」
ま、それは仕方ないな。
自分で言い出しといてなんだけど、2人を外に出すつもりなら、安全を保障することも検討しないといけないかも。そうするとリィーナ頼みか……うーん。
「みんな、渡してある金でそれぞれ自分に必要なモノを見繕ってくれ。
決めにくいことがあったら、相談でもなんでも。
これなら雪山でも大丈夫ってくらいに、ちゃんと全身を覆う感じで。
綿素材はダメだぞ。濡れると冷えるからな。肌着は着替え用に2つ買うように。
あと、滑り止めの靴。ぜったい買い忘れるなよ」
「おねーちゃん、ボクのもお願いしていい?」
「まぁアンタはそうね。いいわよ」
「ウラヌスは、買う物のアテあるんですか?」
「適当だよ。できるだけ動きを阻害しない範囲で、暖かければいいわけだし」
「……まぁ、私も同じですね」
さて、選ぶとするか。どれからいこうかな。普段と違ってオーラに頼れないから、寒さからもキッチリ身を守らないといけない。ちゃんと考えないと。
店内を1人で見て回る。広いお店ではあるけど、ワンルームだからみんながどの辺りにいるかは気配で分かる。
定番のダウンか、暖かそうなインナーか、それとも靴か……予算もせいぜい3万くらいしかないからな。悩むなぁ。
──うん。こんなもんかな。予算内に収まったし、充分温かい。お会計を済ませ、すぐ近くにいる姉弟の方へ向かう。
「あ、アイシャだ」
「おっほ。色はアレだけど、なかなかのもんじゃない」
「色なんてどうでもいいじゃないですか。
あなただって、ヒトのこと言えませんよ?」
メレオロンは緑系で固めていた。多分、地肌の色を分かりにくくする為だろう。フード付きのダウンを着込み、靴も分厚いモノを履いている。ご丁寧にマフラーも緑色だ。
シームは水色系で、私に近い。実にお子様らしく可愛い冬の出で立ちだ。毛糸の帽子にダウンの上下、スパイクの付いた靴、マフラーをくるりと巻いている。
私も似たような感じだ。いつも着てる運動着のような青色系でまとめ、フードの付いたダウンを選んだ。黒にしようか悩んだけど、こっちにしておいた。
私とシームは普通の手袋で、メレオロンは昨日から付けてるミトンの手袋だ。
「さて、えらそうに言ってたあの子はどうなったかしらね」
言って、更衣室の1つを見るメレオロン。そこからウラヌスの気配がする。
「結構悩んでたみたいだけど」
「そうなんですか? 適当に、って言ってたんですけどね」
シームの言葉に、私は首を傾げる。……まぁ悩むか。ウラヌスだもんな。私達みたいにスッとは選べないだろう。
しばらくして、更衣室からウラヌスが出てきた。
……。
彼はこちらに目を向けないようにして、会計へ向かう。
支払いを終え、遠目にも分かる溜め息を吐いて、こちらへ歩いてきた。
全体的に、うっすいピンク色だ。桜色の髪に合わせたらそうなるよな。その髪の上にはシームと同じく、ぽふんと毛糸の帽子が乗っている。
でもまぁ……うん。完全に女の子だなコリャ。
吹き出さないように堪えながら、彼が私達のそばまで来るのを待つ。
「……なに? なんか言いたいことある?」
不機嫌そうに尋ねてくるウラヌス。そりゃ、ねぇ。
「とっても可愛らしいですよ。よく似合ってます」
「アンタの性別、なんだっけ?」
「もこもこしてるウラヌス、めっちゃ可愛い♪」
普段が細身なのもあって、もこもこした姿を見るのは何だか新鮮だ。いつもワンピース1枚だからなぁ。
格好自体は私達とそう変わらないんだけど、口許を隠したマフラーの破壊力が尋常じゃない。しっかり下も穿いてるし、文句のつけようもない。……女の子として見れば。一番格好が近いのはシームだけどな。
「ようやく穿いたみたいね。
……まさか直穿きしてないわよね?」
「してねぇよ。うっせぇな」
メチャメチャ機嫌悪い。落ち着かないんだろうか。いや、それが普通のはずなんだけど。どっち穿いたんだろ……
「ウラヌスもアイシャも、マフラーすっごい可愛いね」
ん? シームが私まで褒めてくる。別に普通だと思うんだけどな。
「アイシャ、あんた髪の毛ごとマフラー巻くのね」
「ええ、まぁ。
じゃないと収まりが悪くて」
私は寒風に後ろ髪を晒したくないし、フードとも相性が悪いのでダウンの中に後ろ髪を収めてる。静電気が気になるけど、この街にいる間は仕方ない。
「全く、あんた達の女子力には嫉妬するわー。
ウラヌス、急がなくてもいいの? もうイベント始まってるんでしょ」
「女子力いうな。
……急ぐ必要はないけど、のんびりするのもな。
それじゃイベント会場へ行くか」
服屋を出て、私達は大通りを歩く。
うーん、全然寒さを感じないな。ガチガチに冬装備で固めたけど、温かくて気持ちいいぐらいだ。ちょっと新品の靴が馴染まないんだけど、これは歩きながら調整するか。
「ウラヌス、抱っこしていい?」
「お前、いい加減にしろよ……」
シームとウラヌスがジャレてる。……にしてもウラヌス、すっごい機嫌悪いな。自分で選んだ服なのに、そこまで気に入らなかったんだろうか。
「そのカッコ、嫌なんですか? ホントに良く似合ってますよ」
「……
前も同じ服だったんだよ。今回は違うのにしようかと思ったんだけど……
結局、着慣れた服が一番マシかなって」
なるほど、経験を選んだわけだ。一番アクティブに動くのはウラヌスだろうし、選択の余地は無かったかもな。にしては、ずいぶん可愛らしい見た目だけど。ぷぷ。
私が笑う気配を察したか、一瞥をくれるウラヌス。その隙をつき、シームが抱きついた。
「ばふぅ。もっこもこー♪」
「おおぃ、マジでやめてって……」
「イチャイチャするのはいいけど、転んじゃダメよ」
「はーい」
「おぉぉ、じゃなくてやめさせろ。
歩きにくいだろうが」
「せっかくだから、手でも繋いで歩いたら?」
「あぁー、もう!
シーム、ねーちゃんと手ぇ繋いで歩け!」
言われると存外素直に離れ、シームはメレオロンと手を繋いで歩き出す。おやまぁ。
「ふふ、仲いいですね。
私達も手を繋ぎましょうか?」
「いやいやいや、そういうのいいから!
さっさと行くよ」
ザッザッザッ、と先導するウラヌス。歩調を速めて追いつき、隣から顔を覗き見る。
ウラヌスは顔を赤くして、口許を隠すマフラーを更に上げていた。
結局アレかな。こんなに不機嫌な理由は、褒められてテレてたからか。恥ずかしがり屋だな、ホント。