どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百十七章

 

 雪の積もる大きな道を進んでいくと、やがて私が想像していた通りの光景が見えてきた。

 

 大小いくつもの雪像が大通りの脇に並び、賑わっている。たくさんのゲームキャラ達が集まっていた。

 動物や建物を模した雪像の立ち並ぶ大通りを、私達はきょろきょろしながら歩いていく。

 メレオロンもそれらに目を向けながら、

 

「あー……

 もしかして、これ? 今から参加するの」

「そうだよ。スノーフレイ雪祭りのメインイベント。

 大量の雪で自由に何かを作って、最高評価を得たプレイヤーだけが指定ポケットカード『手乗りザウルス』をゲットできる。

 まぁ4時間だけだから、作れる規模は知れてるけどな」

 

 ふぅむ。とは言え、参加するのは念能力者だからな。やりようによっては、原寸の建物だって作ってみせるだろう。……そんなサイズにしたら、出来栄えは悪くなりそうだけど。

 シームが不満ありげに、

 

「なぁんだ、雪合戦だと思ってたのに。

 あと雪だるま作るとか」

「……そういうイベントもあるけど、完全に遊びだしな」

 

 んー。念能力者同士の雪合戦とか、遊びの範疇に収まるんだろうか? まぁいいけど。

 

 さてさて、雪像作りか……。私が万全だったら、どうとでもするんだけどな。芸術性を競わされると自信ないけど、大きいのを作ればいいんなら……

 

「そういえば、これって審査基準あるんですか?

 どういうのだと高得点とか」

「……あるよ。

 でも、ここじゃ話せないかな」

 

 おっと、それもそうだな。もし他のプレイヤーに聞かれたら面倒なことになる。周囲に誰もいないのは分かってるけど、目立つ場所でもあるからな。念には念をいれないと。

 にしても、よくそんな情報持ってるなウラヌスも……今更だけど。

 

「まずは参加受付を済ませよう。

 雪像作りは俺がメインで動くけど、みんなも手伝ってね」

「はい」

「うん」

「りょーかい。……せめてリュックがなかったらねぇ」

「そこまで力仕事はさせないさ。

 その辺は俺がやる」

「私は別に、力仕事でも構いませんけど」

「……うにゃ、大量に雪運ぶとか流石にキツイと思う。

 1回に運ぶ量が数トンだよ?」

 

 ぅ……それは今の私じゃ無理だな。雪だから押して運べなくもないだろうけど、恐らく時間がかかりすぎる。

 

 

 

 近くの巨大な公園へ移動。そこには角砂糖のように四角く固められた雪が、大量に用意してあった。入口近くに簡単な受付があり、ウラヌスが申し込みをする。

 

「──使用する雪は、こちらの公園のものをご利用ください。

 他の参加者への直接的な攻撃は失格となりますのでご注意ください。

 本日午後0時ちょうどになる前に、完成を宣言して審査を受けるようお願いいたします。間に合わなかった場合でも、午後0時の時点で完成と見なし、審査を行います。

 代表はウラヌス様、4名様でP4にエントリーしました。指定の場所に雪像を設置していただきますよう、お願いいたします」

 

 ウラヌスは私達へ向き直り、

 

「さ。本格的に始める前に、ざっと流れを説明するよ」

 

 言って、公園の中へ入っていくウラヌス。当然、私達もついていく。

 

 大小の四角い雪が並ぶ前で立ち止まり、

 

「さっきも説明された通り、この公園から雪を運び出す。

 大通りにP4って書かれた空き地が用意されたはずだから、そこへ必要な量の雪を運ぶ。

 運び終わったら、一気に雪像を制作する。制作が終わり次第、審査を受けて終了だよ」

「ふむ。

 ……で、何を作るんです?」

「実は悩んでるんだよねー。

 このイベントの説明、躊躇ってた理由もそれなんだけど。

 どうしよっかなぁ。適当でも大丈夫だと思うけど、芸がないしな」

 

 おや、ウラヌスにしては行き当たりばったりだな。審査基準を知ってるから、余裕なのかもしれないけど。いや、でも……

 

「もしかしたら、イベントが改変されて審査基準が変わってるかもしれませんよ?」

「あー……

 無いとは言い切れないね。

 ただ、俺は変わってないんじゃないかなと思ってる」

「どうしてです?」

「月例大会と同じ理由。入手方法が分かってても全体で10日に1枚しか取れないし、他のプレイヤーと競い合うから、簡単にならないじゃん? むしろ情報が出回ったらかえってキツくなる」

「ふむ……

 そもそもどうやって調べました?」

「参加せずに、見物だけしてた。

 どういう雪像が優勝するか繰り返し見て、見当をつけた」

 

 なるほどな……。まぁ任せて大丈夫か。仮に審査基準が変わってたとしても、そこまで大きくは改変されない気がするしな。

 

「分かりました。

 で、何を作るかですね」

 

 ウラヌスが私達を小さく手招きする。周囲にプレイヤーがいないことを改めて確認し、顔を寄せる。シームとメレオロンもそれにならう。彼はマフラーを下げて口許を晒し、

 

「……大通りに、建物とか動物の雪像がもう置いてあったでしょ?

 大体プレイヤーが作ったものじゃなくて、ゲームキャラが用意したイベントの賑やかしなんだけど。

 アレって審査の点数が低くなる例なんだよ。横幅や奥行きがあるやつより、出来るだけ高く作った方がいいんだ。どうしても雪像作りの難度は上がるからね。

 だから、人を模した雪像が優勝しやすい」

「なるほど……

 やっぱり大きい方がいいんですか?」

「それはもちろん。

 大量の雪を積み上げて、見上げるくらい大きな人型の雪像を作る。これが黄金パターン。

 実在の人物を模してもいいけど、アニメのキャラとかが定番だね。モノを選べば造形も楽だし」

「じゃあキュマニャン作ろうよ」

「作るわけねーだろ俺がイヤだ。

 ……作りやすさを考えても、ロボットが妥当かな。アニメとか特撮モノの」

「ほう、ロボット。

 合体ロボットですか? もしかして変形するやつ?」

「い、いや……合体とかどう表現すんの? 変形もヤダよ。元の形状からして複雑だし、覚えてないもん。

 普通の、普通のロボット」

「そうですか……」

「アイシャ、あんた何でそんなガッカリしてんの?」

「ぃぇ……」

「とにかく、雪をがっつり運んで大きな人型ロボットを作る。

 なんか代案ある?」

「いいんじゃない、それで?」

「キュマニャンは?」

「却下」

「超巨大変形三身合体ロボ……」

「超却下。

 ……なにアイシャ。やけにこだわるけど、そういう趣味?」

 

 顔を逸らしておく。ちぇっ、つまんないの。……私だって、そんなの作れないけどさ。

 

「まぁそれでいいです。

 で、何のロボット作るんですか?」

「プラモ作ったことあるやつしか覚えてないし、まぁ……

 定番の、企業戦士『乱駄無』かなぁ」

 

 

 

 

 

 *よみとばしすいしょう*

 

 ──説明しよう!(早口)

 企業戦士『乱駄無』とは?

 一般企業に勤める更理万太郎が、ひょんなことから蓮根軍の人型秘密兵器『乱駄無』に搭乗して、お年寄りに厳しい悪の秘密結社『爺苦爺怨』と戦うロボットアニメである!

 必殺技は、Bボタンこすり連打から放たれる『魔神頑闘駆』、相手を説教しながらグーパン連打で叩きのめす荒業である!

 そして、理不尽な通勤ラッシュへの怒りが頂点に達した時のみ放たれる超必殺技『無駄無駄羅酒泡』──

 

 *よみとばしここまで*

 

 

 

 

 

「アンタ知ってる?」

「知らない」

「似たようなのに心当たりはありますが……」

「あっそう。

 俺が作るから別に知らなくていいもん」

 

 ぷんっと、そっぽ向くウラヌス。……だってねぇ。

 

「敵が乗ってる量産型『雑魚』でもいいけど、あっちは意外に造形めんどいしな。

 無難に『乱駄無』にしとくか。俺的には『雑魚Ⅲ改』の方が好みなんだけど……」

 

 まだ何か言ってる。スネて引っ張りあげたマフラー越しだから、よく聞こえないけど。あんまり聞きたくもないし。

 

 

 

 ともあれ、気を取り直して雪を運び出すことに。

 

「この雪、ガッチリ押し固めてあるから見た目以上に重いんだよね。

 運ぶのは俺がやるけど、周りに注意してほしい。俺はパッと対処できないから」

 

 雪のサイズは2つ、50㎝と1mの立方体がある。私に運べるかなぁ……

 

「ちなみに1つどれぐらいの重さなんですかね?」

「えっと、大きい方で約500キロかな。

 小さい方は100キロちょいだね」

 

 小さい方ならイケるな。大きいのは流石に無理か。持ちづらいから、途中で形が崩れるだろうしな。

 

「……言っとくけど、アイシャに運ばせる気はないよ?

 俺が運んでる間の主戦力なんだから」

 

 マフラーの下からもごもご言ってくる。そっか……じゃあ仕方ない。

 

「ということは、アレをしてくれるんですね?」

「うん、そのつもりだった。

 今もうやっちゃうから後ろ向いて。あ、悪いけど巻いてるマフラー外してくれる?

 やった後はすぐ巻き直していいから」

「はいはい。少々お待ちを」

 

 だよね。私を戦力として勘定するなら『周』は必須だ。ヘアゴムはマフラーでちょうど隠れる位置に付けてるから、外さざるを得ない。あーサム。

 

「でもさ。プレイヤーを攻撃したら失格なんでしょ?

 気をつける必要あるの?」

 

 シームが不思議がって尋ねる。……いや、あのルールは穴があるな。

 

「確か、直接的な攻撃はダメ、でしたよね?」

「その通り。

 プレイヤーを狙わず、運んでる雪や作ってる雪像を攻撃されることがある。

 何より、エントリーしてないプレイヤーなら妨害しても問題ないわけで」

 

 あっ、そっか。仲間全員がエントリーする必要なんてないもんな。

 メレオロンは首を傾げ、

 

「でも、良かったの? アタシ達全員エントリーさせたみたいだけど。

 それって、私達の誰か1人でも直接攻撃されたら、そいつは失格になるのよね?」

「そうだよ。相手がエントリーしてればね。

 失格したプレイヤーがチームでエントリーしてたら、そのチーム全員が失格になる」

「……それさ。こっちの雪や雪像を攻撃されても、相手のプレイヤーに直接反撃できないってことじゃないの?」

 

 おん? なんだそれ。メンドくさいな。

 ウラヌスは苦笑しながら、

 

「全くもってその通り。そこまで露骨に妨害してくるヤツがいるかは知らないけど。

 迂闊に反撃したら、失格を誘う罠にハマるかもしれない。

 けれど、相手はエントリーしてなくてこっちを直接攻撃してくるかもしれない。

 どっちか見破れない以上、両方のケースを想定して対処する必要がある」

 

 話してるうちに『周』が掛かり終わり、私の身体をオーラが包み込む。ふむ、心なしか寒さも和らいだな。

 

 私はマフラーを巻き直しながら、

 

「つまり、こういうことですね。

 妨害してくるプレイヤーを、怪我させずにあしらい続ければいい」

「そういうこと。

 軽く接触するくらいなら大丈夫のはずだから、怪我させない程度にあしらえればOK。

 アイシャがエントリーしなかったら遠慮なく反撃できたわけだけど、そんなことしたら相手も分かっちゃうからね。エントリーしてないんだって。

 そしたら今度は直接攻撃される恐れがある。

 だから全員エントリーは安全面を考えてだよ。確実じゃないけど、まだマシかなって」

 

 なるほどね。……まぁ大丈夫だとは思うけど。明らかに警戒してるプレイヤーを狙ってくるとは考えにくいしな。念能力での間接的な妨害なら有り得るけどね。スペルもだけど。

 

「もちろんいざとなったら、失格覚悟で反撃してもいいからね。アイシャもそうだけど、メレオロンとシームも。特にメレオロンは、念能力への警戒は怠らないように」

「はぁー。責任重大ねぇ」

「まぁ俺も気をつけとくからさ。……さて、始めようか」

 

 ウラヌスが右手の手袋を外し、手袋をポケットに突っ込む。

 

 この全身を衣服で覆っている状態には、意外な難点がある。普段は外している聖騎士の首飾りを、すぐ有効な状態にしづらいのだ。薄い布地越しなら有効になるらしいが、普段ポケットに入れていても無効なように、いま付けているような厚い手袋越しだと首飾りを握ってもダメらしい。少し手袋をめくるなりして、直接触れる必要がある。もちろん顔の一部は露出してるけど、ポケットから首飾りを取り出して顔面に触れさせるまでに時間がかかるし、直後に攻防へ発展する場合も想定するならそれではマズイ。

 

 いずれにしろ、攻撃スペルで急襲されたら対処が間に合わない可能性がある。その点も警戒する必要があった。……なのは、いいとして。そういう検証を済ませてるウラヌスがアレすぎるな。

 

 ともあれ、手袋を片方外したウラヌスが運ぶ雪を吟味している。

 

「そういえば、1回で数トン運ぶとか言ってましたが……」

 

 ドキンコするウラヌス。私は溜め息を吐きつつ腕を組み、

 

「あまり、無理しないでください、ね?

 分かっているとは思いますが」

 

 私がゆっくりそう忠告すると、ウラヌスはギギギ……とこちらを振り向き、

 

「う、うん。大丈夫大丈夫。

 まずは肩慣らしにちょっとずつ運ぶし」

「そうですか。

 ……無理をしたら『診断』が長引くことになる、と思ってくださいね?」

 

 首をぶんぶん縦に振るウラヌス。まったく……油断も隙もないな。

 なんかこっちをニヤニヤしながら見てくる姉弟が気になるけど、無視しておく。

 

「いくつにしよっかなぁ。……とりあえず8にしとくか」

 

 ウラヌスが右手を伸ばし、それを包むように巨大な籠手が具現化する。

 

「……8って、その籠手の大きさのことですよね? 一度に運ぶ個数じゃなく」

「うん、そうだよ。とりあえず雪は3個ずつ持ってく」

「3個ですか? 運びにくそうな気もしますけど」

「ま、見てて」

 

 そう言ってウラヌスは、手近な四角雪を籠手で一掴み。それを持ち上げて適当な場所に置き直す。

 他の雪を一掴み。それをさっき置いた雪の上に乗せた。

 更に他の雪を掴み、また重ね置いて三段重ねにする。

 一番下にある雪の側面を掴み、慎重に持ち上げた。当然、四角雪3つが全て持ち上がる。

 

 なるほど……そうやって運ぶつもりだったか。それなら同時にいくつも運べるな。

 

 バランスを保ちながら、ウラヌスは歩き出す。流石にかなりゆっくりだ。

 私達はウラヌスの邪魔にならないよう、かつ周囲を警戒しながら一緒に歩いていく。

 

 

 

 大通りまで戻ってくる。さっきはなかったであろう、『P4』と書かれた立て札がある空き地へと向かい、そこへウラヌスは3つ分の雪を置いた。

 

「ふぅー」

 

 息を吐いて右肩を回すウラヌス。籠手は消していない。シームが心配そうに、

 

「ウラヌス、大丈夫?」

「余裕はまだまだあるよ。

 時間かけると、オーラ消費がキツそうだけど」

「籠手は消さないんですね」

「出し入れすると、オーラをロスするからね。

 その分、身体能力の強化に回した方が安上がりだから」

 

 すたすた歩き出すウラヌス。見てる限り、あの籠手自体もかなりの重量だろう。歩き方から、重心がずいぶん変わってるのが分かる。

 放っとくのも良くないけど、そっちにばかり気を回せないしな……ちゃんと周囲を警戒しないと。私だっていつも通りじゃないんだから。

 

 後ろから付いて歩き、右腕に巨大な籠手を纏ったウラヌスを見る。

 

 にしてもだ。にしても、似合わない。冬服でもこもこした可愛らしい姿に、この無骨な籠手をぶら下げてるのはアンバランスにも程がある。

 

「それにしたってさぁ。アレ、ぜんっぜん似合わないわよねぇ」

「似合わないよね」

「まるで似合いませんね」

 

 同じことを考えてたらしい姉弟に、私も同意する。

 前を歩くウラヌスは何も反応しない。気になって、彼の左に回りこんで顔色を窺う。

 

 見事にほっぺたをふくらませ、不機嫌になってる小動物。マフラーごしに、ふくらんだほっぺを指先でツンツコする。びくんっと反応し、

 

「ちょっ。なにすんの、アイシャ?」

「なんでもありませんよ」

「ぇー……だったら意味もなくつっつかないでよ」

 

 可愛い小動物を愛でるのに理由なんか要りませんよ、とは言わないでおく。

 

「そうやってみんな、俺がこれ振り回してるの変な目で見るんだよな……」

「似合わないですもん」

「なんでさ?」

「可愛い子が振り回すにはパワフルすぎますもん」

「……アイシャがそれ言う?」

「あー。それ、どういう意味です?」

「さぁねぇ。知ーらなぃ」

 

 言いながら、籠手の指先をわきわき動かすウラヌス。背後の姉弟が「プークスクス」と笑ってる。むぅ……

 

 

 

 何度も往復し、空き地に四角い雪の固まりがドサドサと積まれていく。3回目まで3個ずつ運んでいたが、時間がかかりすぎるのと右腕だけが痛むのを避ける為、両腕に籠手を具現化して6個ずつ運び出していた。運搬する速度も上がっている。

 

 1m雪を33個。それだけの数を空き地に運んだウラヌスは、

 

「ふぅー……こんなもんかな。

 それじゃ今から組み立て始めるよ」

 

 組み立てねぇ……。完全にプラモ感覚だな。

 

「アンタさぁ。

 こんなに雪持ってきたのはいいけど、一体どんなデカブツ作る気なの?」

 

 メレオロンが呆れ顔で尋ねる。確かに……こんなに要るのか?

 

「あー、違う違う。

 必要なのは間違いないけど、この雪全部を雪像にするわけじゃないよ。

 半分以上は足場用。足場がないと高い部分を成形できないからね」

 

 ウラヌスの説明にひとまず納得する。足場か……まぁ当然いるよね。雪の足場っていうのが不安だけど、4時間もないのにまともな足場なんて用意できないしな。ウラヌスなら空を駆け上がった能力を足場代わりに出来そうだけど、長丁場には向かないのかも。

 

 

 

 一息吐いた後、ウラヌスはすぐ雪像と足場の設置にかかる。

 

 まずは空き地中央に、雪ブロック2個を横並びに置く。メレオロンのバインダーから、水のペットボトルを出してもらい、その雪ブロック2つをくっつけた部分に水をかける。

 

「それ、なにしてんの?」

「この部分を雪像にするから、水で雪同士をくっつけてるんだよ。

 こうしないと、作ってる最中に真ん中から壊れるかもしれないから」

 

 メレオロンと話しながら両手の籠手で、両サイドから雪ブロックを押し固めるウラヌス。なるほどね。もし雪像を作り終える前に中央が割れて真っ二つになったら、笑うしかないもんな。

 

 そうして雪像の雪ブロックを設置しつつ、四方を囲むように足場代わりの雪ブロックも設置していく。

 雪ブロックの置き方を工夫し、立ち位置を確保しながら順々に高く積み上げるウラヌス。まるでゲームだな……いや、ゲームだけどさ。

 

 

 

 中央に雪像として加工する雪を2列6段積み上げ、更に中央へ1個雪ブロックを置く。

 

 

 という感じで積み終え、四方に5段の雪ブロック足場も築き終える。……よくこんなの積めたな。両手に重い籠手ぶら下げてるのに。

 何も持たずにならまだしも、500キロの雪ブロックを掴んだまま僅かな足場を頼りに軽々登っていく姿を見せられると、簡単に出来るんじゃないかと錯覚しそうになるけど……

 

 そんなわけがない。彼の重心を制御する技量は、常軌を逸している。

 

 一体どうやって、これほどの技術を身につけたんだ……。無論できないとは言わない。こういう力を要する軽業(かるわざ)は、晩年のネテロが得意とするところだしな。けど年齢がね……

 

 私が訝しんでる間に、ウラヌスは下に降りて休憩していた。

 

 流石に息が上がっている。両手の籠手は消さないまま地面に寝かせ、自身も座り込んでいる。その肩をもみもみするシーム。……あ、マッサージ役とられた。

 

「ウラヌス、大丈夫?」

「んー……

 ちょっと腕がくたびれたな。どうしよっかなぁ……

 【巨人の籠手】はもう要らないか」

 

 籠手を消すウラヌス。手袋を外したままの両手を地に落とす。肩を揉まれながら、積み上げた雪を見上げている。

 

「お疲れ様です、ウラヌス。

 ここから手伝えそうなことってありますか?」

「んー?

 ……いや、最後まで俺のターンだね。ここからロボットに成形し終えるまで、引き続き警戒よろしく」

「ええ、それは構いませんけど……」

 

 警戒するも何も、少し前から他のプレイヤー達が遠巻きにこちらを眺めている。

 

 おそらくは参加した──もしくは参加するつもりだったプレイヤーだと思うけど……。こちらの大掛かりな仕込みで理解したのだろう。勝ち目がないと。色んな意味で。

 だから制作も妨害もせず、見物するだけに留まっている。もし勝つつもりだとしても、私達の雪像を見てからそれを上回るモノを作ろうとするだろう。審査基準を知らなければ、そうそう作れはしないだろうけどね。

 

 ともあれ、見物するプレイヤー達から意識を切らなければ、問題はないはず。念能力は警戒しようがないしな。そっちはメレオロンに任せよう。

 

 にこにこしながら、おそらくモフモフぷにぷにの肩を揉み続けるシーム。

 

「……シーム、もういいよ」

「えー。もうちょっとぉ」

「なんで肩揉んでるお前がねだるんだ」

 

 立ち上がるウラヌス、名残惜しげなシーム。それに苦笑しつつ、

 

「少ししか休憩してませんけど、大丈夫ですか?」

「平気平気。

 籠手に回してたオーラを戻したし、そんなに消耗してないよ。

 あと10分か15分で片付くと思う」

 

 私達が受付に行ってから40分が過ぎている。ウラヌスの言う通りなら、9時半ぐらいに決着だな。お昼にならないと優勝するかどうかは分からないだろうけど。

 

「じゃ、もう少し待っててね。

 よっと」

 

 身軽に飛び上がり、5mの足場の1つに着地するウラヌス。上から顔を出し、

 

「3人とも!

 言い忘れたけど、今から雪削って落としてくから離れた方がいいよ!」

 

 ああ、そりゃそうだ。削った雪もそうだけど、万一崩れて来たらシャレにならないしな。私やメレオロンはまだしも、シームはね。

 

 指示通り距離を置く私達。角度を変えて、ウラヌスの様子を見上げる。

 

 ウラヌスが手先を伸ばし、それを中央の雪像に向ける。

 足場と雪像用の雪は、相応に離れている。足場に立つ彼の手も、雪像まで届いていない。

 が、彼の手の動きに合わせ、中央の雪がボロボロと削れ出した。

 

「あー、そういうことね。

 道具も無しにどうやるんだろとは思ってたけど」

 

 メレオロンが感心したように言う。シームは特に何も言わない。

 

 今の私には見えないけど、概ね察した。手先からオーラを伸ばして、雪像加工の道具に変化させてるのか。具現化ではなく、あくまで形状のみを。

 重心制御の技量もそうだけど、オーラを操る技量も突き抜けてるな……

 

 

 

 削り、(なら)しを繰り返して、徐々に形を成す雪像。早々にロボットの頭部が出来上がり、今は肩辺りを成形しているウラヌス。

 私達もすっかり見物モードだ。この速さだと見てて退屈しないしな。

 

「乱ー駄無ー、乱駄無♪」

 

 ……なんか上から美声で謎の歌が聴こえてくるけど、きこえないキコエナイ。

 

 

 

 雪像の加工位置に合わせて足場の雪も削ぎ落としつつ、ドンドン成形は進んでいき。

 今は急ピッチで仕上げにかかっているウラヌス。白い息を絶えず吐いて、休まず手先を動かしている。

 雪像は、もうほとんどロボットの姿になっていた。ロボットの手にしてる物が、通勤用カバンと傘なのが気になるけど……なんなんだこのロボットアニメ。

 

 

 

 雪像は、ほぼ完成していた。大量に溜まった不要な雪を、ウラヌス以外の3人でヨソに除けている。そろそろ私の纏う『周』も弱まり出したので、急ぎ退かしていく。

 

 ウラヌスは、いよいよ仕上げにかかっていた。雪像の足下をしっかりした土台にして、その土台部分に名前を刻んでいる。

 

「ザコとは違うのだよ、ザコとは」

 

 と言いつつ、『ラ・ン・ダ・ム』と刻んでる。うぅむ……

 

 

 

 4人が並び、雪像を下から眺める。

 

 まー、立派なモンだ。つい1時間前まで、ここに何もなかったとは思えない。

 

 (そび)え立つ巨大ロボットの雪像。遠巻きに眺めてるプレイヤー達も、近づいてはこない。ただ、この場を離れようともしない。

 

 ウラヌスが白い息を吐いて、すぅっと大きく吸った後、

 

「かんせーいッッ!!」

 

 どこかへ向かって大声を張り上げた。──それほど間を置かず、審査員と思しきゲームキャラが大通りを走ってくる。

 

 すぐ近くまで来て立ち止まり、

 

「それではP4の審査を行います」

 

 クリップボードを手に、雪像を見上げては何かをカリカリ書き込んでる。

 不思議に思い、ウラヌスに尋ねてみる。

 

「あれって、何を書いてるんです?」

「何も。ただのポーズだよ。

 前に『円』で確かめたけど、書いてるフリしてるだけだった」

 

 だよねぇ。盗み見られたら審査基準バレちゃうもんな。ウラヌスもしっかりやってるし。

 

 そんなことを話してるうちに、審査のフリが終わる。

 

「ただいまP4の審査を終了いたしました。

 午後0時すぎに本大会の優勝者を発表いたしますので、この大通りにお越しください」

 

 審査員が背を向けて去っていく。それに合わせて、見物していた他のプレイヤー達も、どこかへ動き始めた。

 

 私達は顔を見合わせる。ウラヌスは苦笑し、

 

「はぁー。……みんな、お疲れ様」

「こらこら。お疲れはアンタでしょうが」

「ウラヌス、それはないってー」

「そうですよ。労わ(ねぎら )れるのはあなたの方じゃないですか」

 

 一斉に抗議されるウラヌス。ますます苦笑の色を濃くする。

 

 私も手袋を外し、彼が手袋を外したままにしている両手をとって、

 

「ほら、まっかっかにして。

 すっかり冷えちゃってるじゃないですか」

 

 親指で手の平を揉みこむ。うっは、ぷにぷに。揉んでるこっちが気持ちいいよ。肉球か。

 

「あーうん……

 でも大して疲れちゃいないよ。

 オーラ消費はそれなりだけど、そのぶん身体に疲労を溜め込まないようにしたからさ」

 

 まーた、このにゃんこは理論武装して。身体かオーラか、どっちかに負担いってるだけじゃないか。もみもみ。

 

「分かりましたから、あんまり無理しないでくださいね。

 時間もできましたし、早速温泉いきます?」

「うーん……

 流石に早すぎるよ。まだ朝だしさ。

 できれば結果を確認してから、ゆっくりお昼と温泉楽しみたいじゃん?」

 

 そう言われたら、納得せざるを得ないか。さて……もみもみ。

 

「他に何かイベントのアテはあるんですか?」

「うん。

 これ以外にも今日発生するイベントがあるから、時間つぶしにそっちも……

 ……その、アイシャ? もういいよ、手は充分温まったから」

「まだまだ」

「いや、まだまだじゃなくて」

 

 ひゅっと手を抜くウラヌス。くっ、まだぷにぷにしたりないというのに。

 

 揉む手の動きをやめない私を警戒してるのか、手袋を素早く付けつつ、

 

「もひとつ、規模は小さいけど氷像を作るイベントがあるんだ。

 サラッとそっちも摘まもうかなって」

「……本当に大丈夫ですか?

 ついさっきまで、こんなの作って消耗してるのに」

「いけるいける。

 ここまで大きいの作るわけじゃないから」

 

 改めて巨大ロボットの雪像を見上げる私達。うーん……すごいんだけど、アホというか。何とも言えない気分だな。いやまぁ、すごいんだけどね。これに注ぎ込んだ技術は。技術だけは……

 

 

 

 

 

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