どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百二十一章

 

「シーム。これで満足か?」

 

 みかんを食べながら、静かに尋ねるウラヌス。

 

「え? え、うん。面白かった」

「……別に面白がらせる為に話してたわけじゃないぞ。

 ここが現実だって納得したか?」

「うん……」

「にしてもアンタ、悪いこと企んでたのねー。

 外から勝手に入って、アイテム盗もうとしてたんだ?」

 

 ぐ。……私もちょっと考えてたんだよな。正規の方法で入島できなかった時は……って。別にアイテム盗む為じゃなくて、入る為にだけど。

 

「だぁって。そこまでしないと現実だって確証得られないだろ? 盗みは確かにやりすぎだと思うけど……

 わざわざゲームマスターまで引っ張り出したんだ。充分すぎる収穫じゃないか」

「でも、結構時間ロスしちゃったんですよね?」

「ぅ……うん。まぁね。

 その後は真面目にゲーム攻略してたんだけど」

 

 そっか……諦めるしかないもんな。ルールに従わなかったら、どんな目に遭わされるか分からないしな。殺されたっておかしくないからね。

 

「あー、でもさ。

 もしかしてアイシャならいけたんじゃない?」

 

 メレオロンが私に尋ねてくる。ん? なにが?

 

「……俺も話しながら、そう思った。

 アイシャのボス属性って、移動スペル無効化できるんだろ? ってことは──」

「あっ!

 ホントだ、アイシャなら外から入っても追い出されないかも!」

 

 げげっ。さっき話聞いててヤバいなと思ってたのが来ちゃったよ。

 

 メレオロンはイヤらしい目で私を見て、

 

「クリアしなくても、アンタだったらアイテムどっさり手に入るんじゃないの?

 試さなくていいの?」

「そ、そんな悪いことしませんよ」

「ホントにぃ?」

 

 しつこいな、この変態は。魔が差したらどうするんだ。私は身体を揺さぶり、

 

「ぷるぷる。私、悪いアイシャじゃないよ?」

 

 ウラヌスとシームが「ぶはっ」と吹き出す。2人とも元ネタ知ってるんだろうか。私はなんだったか忘れちゃったんだけどな。

 

 笑いをかみ殺しながらウラヌスは、

 

「アイシャさ。

 確か製作者のジンから、セーブデータ受け取ったんだよね?

 それって、今の話と関係ある?」

「……」

 

 気づかれたか……。いずれ自分から話すつもりではあったけど、まさかウラヌスの方がより核心に近かったとは。しまったな。

 

「……ジンと、そのことについて話をしました。

 おそらくエリミネイトというスペルは、私には通じませんね」

「やっぱりそうか……

 ということは、クギ刺されたんだ? そういう不正行為はするなって」

 

 さぁて、どう話したものか。

 他のプレイヤーに、スタッフアカウントについて話してもいいんだろうか。話すなとは言われてないけど、話してほしいわけでもないだろう。ただ、黙ってるのも難しいもんな。

 

「……。仮に不正入島して、私が外へアイテムを持ち出そうと試みれば。

 彼らは実力行使で私を排除しようとするでしょうね。

 戦って負けるわけにはいきませんし、それで私が勝ったとしても……」

 

 私が言葉を濁すと、ウラヌスは静かな表情で眺めながら、

 

「このゲームが終わっちゃうかもしれないね。

 少なくともゲームマスターが死んだら、ゲームが止まりそうだし。俺が会ったレイザーとか、いなくなったらかなりヤバそうな感じするもん」

「そうですね……

 なので、個人的な理由でそういった不正行為をするつもりはありません。

 それに関連して、私が島の出入りに関してやむをえず不正行為に及ばないよう、セーブデータは特別な扱いにしてもらってます」

 

 メレオロンとシームが目を剥く。ウラヌスは少しだけ首を傾げ、

 

「ジンから受け取ったデータが何だったのか話さないから、秘密にしてるんだろうなとは思ってたけど……

 それ、俺達に教えていいの?」

「……内緒にしておけと言われたわけではないので。

 全て話すと長くなるので、簡潔に。

 私が島外へ出る場合、本来なら『離脱』でも港からでも、移動効果がボス属性で無効化されてしまい脱出できなかったんですが、これを裏技で港からだけ脱出できるようにしてもらいました。

 同様に、ボス属性に無効化されない方法でグリードアイランドへ入島できるようにしてもらいました。……私は現実世界のどこからでも、グリードアイランドのシソの木へ移動できます」

 

 目の前の3人から『おおおぉー』と感嘆の声。

 

 そうだよね……やっぱりコレ、かなりの特別扱いだよな。

 

「ただし、私がいま使ってるセーブデータに関しては、ですが。

 もし別のセーブデータを使えば、この恩恵は受けられないそうです。

 いま使ってるセーブデータは、スタッフアカウントという扱いらしいんですが」

 

 ウラヌスがうんうん頷く。

 

「なんかそれらしいこと、シャルナークと話してたもんね。

 にしても良かったね。出入りに不自由しないなら、かなり大きな悩みが消えたじゃん」

「その通りですね。

 出入りが難しいと、ゲーム攻略にも悪影響が出てしまいますから。

 ……万が一、私の仲間が妨害に来てしまったら、問題が解決するまで私だけゲーム外へ出ることも考えています」

「あー、それはまたその時の話かな。

 ところで、移動スペルが無効化されるのって結局どうしようもないんだよね?」

「……

 現状では。スタッフアカウントでもそこまで対処されませんでしたし」

「そっか。

 じゃあ楽に動ける今のうちに、観光しちゃった方がいいね」

 

 なんだよなぁ。私のオーラが復活すれば、移動スペルが無効化されるジレンマがある。せめてレオリオさんだけでもいればなぁ……。でもレオリオさんは、私が性転換で男性になるのスゴイ嫌がってたもんな。協力はしてくれないだろう……。悲しいなぁ。ぷるぷる。

 

 メレオロンが2つ目のみかんに手を出しながら、

 

「そういえば、紙幣で現実かどうか判断したって言ってたけどさ。

 シリアルだっけ? あの番号で、偽札かどうか分かるもんなんだ?」

 

 ウラヌスは少し考える素振りを見せ、

 

「いや。ほぼ無理」

「へ?

 じゃあなんで、現実で流通してる紙幣だなんて分かったの?

 あの番号がダブってたら偽札って分かるんじゃないの?」

「そいつは厳しいかなぁ。

 だって、どこにどの番号の札があるか確認できないしさ。

 銀行で保管されてるならともかく、流通してる紙幣の番号がダブついてたって、分かるわけないだろ?」

 

 ふむ……そりゃそうか。発行されてない有り得ない番号だったならともかく、仮に10枚20枚同じ番号の紙幣が流通しても、それが1ヵ所に2枚以上集まる可能性はほとんどないしな。銀行に来てようやくだろう。少なくともウラヌスが即興の調査に用いるのは無理がある。

 

「ありゃ、身代金とか犯罪に絡む紙幣の番号を予めメモる為だよ。

 もちろん紙幣偽造抑止を意図してはいるだろうけど。

 大体、仮に同じ番号の紙幣が2枚あったとして、どっちかは本物かもしれないわけだろ。そんなの、どうやって見分ける?」

 

 う。……番号だけじゃどうしようもないな、それ。

 

「いや、それは分かるけどさ。

 じゃあアンタ、どうやって判断したのよ?」

「シリアルナンバーで紙幣の発行時期が分かる。

 あと、偽造防止技術の進歩で度々製法を変えてて、どの時期に刷ったか絞り込める。

 紙幣自体は脆いから、経年劣化の程度でも判断できる。

 ……お札って、意外に情報多いんだぜ? 実際に流通してる紙幣かどうか、調べようと思えば調べられる。シリアルナンバーだけじゃなく、複合的な情報でな。

 だから1000ジェニー札を100枚ほど現実に持ち帰って、全部調べてみたのさ。

 ま、銀行に行って犯罪捜査と称して、ハンターライセンス使ったんだけどな」

 

 なる、ほど。……そこまでするかぁ?

 

「はぁー……あっきれた。

 アンタって、昔はワリとヤンチャだったのね」

「……なんだよソレ」

 

 ぶすっとして、お茶を口にするウラヌス。……いや、メレオロンの言う通りかもな。

 

「以前、あなたがアクティブだったのは分かりましたけど。

 今は身体が弱ってるんですから、同じ感覚でムチャしてはいけませんよ」

「ぅ……」

 

 やっぱりな。どうりで、時々体力に見合わないムチャをするわけだ。

 

 なにやら不思議そうな顔でシームは左右に揺れながら、

 

「でもさ。お金って、このゲームにいっぱいあるんだよね?

 どうやって、そんなにたくさん持ってきたんだろ?」

「ん? そりゃアンタ。

 えーと……そういえば、このゲームって元々いくらだっけ?」

「最初の売り出しか? 定価58億ジェニーだな。

 ちなみに、現金一括払いのみだったらしい」

 

 げっ。……現金一括だけって。どんな売り方してんだ。

 

「うひゃー。そんなの買う物好きいるのねー」

「って思うだろ?

 ところが限定100本なのに、購入の申し込み2万件オーバーだったらしいぞ?」

 

 は? ……いや、それは流石に眉唾だと思うけど。

 だって、58億の現金だよ? それが2万件って。もう国家予算規模じゃないか。

 

「まぁ、ものスゴイことは分かったけどさ。

 要はその現金を、ゲームのお金にしたんじゃないの? って思ったんだけど」

 

 ふーむ。メレオロンの言うことも分からなくはないけどね。でも実際どうなんだ?

 

「いやぁ、どうかなぁ?

 ぶっちゃけ、グリードアイランドで動いてる経済規模なんて、たかが知れてるだろ? しかも基本はカードでやりとりしてて、カード化解除なんて滅多にしないだろうし。

 プレイヤーしか金動かさないんだし、58億どころか全部の紙幣と硬貨を込みにしても、数億もありゃ充分だろ。

 どっちかっつうと、手間の方が深刻だな」

「手間って?」

「ゲインでアイテム化される可能性がある以上、流通してるカードと店の預金分ぐらいは常に確保しとかないといけないわな。

 極端な話、100万ジェニーを両替で10ジェニー硬貨にしてゲインしまくったら、10万枚は出せるわけだ。簡単にできる嫌がらせだけど。

 そんなの、まともに用意してられないだろ?」

 

 あー、そっか。お金カードって限度枚数も無いし、やろうと思えば出来ちゃうな。

 

 それを聞いて難しい顔をするメレオロン。

 

「そりゃ……

 こんなゲーム作るぐらいだし、念能力でどうにかしてるんじゃないの?」

「念能力なのは当然だけど、どうにかって部分を具体的に考えないと。

 他にも物資の流通も管理しなきゃいけないし、まともにやってたら破綻するよ、絶対」

 

 うーん、それもそうだな。……どうやってんだろ。ウラヌスは分かってるみたいだけど。

 

 姉弟がしばらく『うーん?』と唸っているが、答えの出る気配は無い。

 

「種明かししようか?

 別にそんな難しい話じゃないんだ。ブック」

 

 ウラヌスがバインダーを出し、開いたページから1枚のカードを出す。

 狙ったのか何なのか、出して示したカードは『幸福通帳』。

 

「グリードアイランドのカードは。

 アイテムを封じ込めたり、アイテムに変身したりしてるわけじゃなく。

 カード化した時、ゲインした時に、アイテムを『移動』させてるだけなんだ。

 まぁコイツは贋作だけどな」

「へ? どういうことよ?」

 

 ……あー。なるほど、そっか! そういう理屈か。確かにそれなら説明できるな。

 

「私から説明してもいいですか?」

「うん、いいよ」

「つまり、こういうことですよね?

 アイテムを入手した時にカード化するのは、アイテムとカードがある場所を入れ替えただけ。

 カードをゲインした時アイテムになるのも、カードとアイテムを移動させて入れ替えただけなんですね?」

「イエス、その通り。

 グリードアイランドに入る時も、種を明かせば移動だっただろ? 同じ理屈なんだよ。

 カードとアイテムのある場所がそれぞれマーカーになってて、カードに書かれた神字の念能力で互いの居場所を交換してるだけ。

 グリードアイランドは基本、この卓抜した移動能力で管理されてるんだ。

 そう考えると、ゲーム内の流通がどうなってるかも簡単に説明がつく」

 

 シームが感心したように頷く。が、メレオロンは首を傾げたまま。

 

「んー? でもさ。

 このゲームって、その辺の石コロでもカード化できるわけでしょ?

 そういうのまでカードを全部用意しておいて、どっかに置いてあんの?」

 

 う? えっと、どうなんだろ。その場合は……

 助けを求めるように目を向けると、思案顔をしているウラヌス。

 

「俺は製作者じゃないから、こういう理由だなんて断言できないけど……

 予想であれば言えるかな。

 多分、予めゲームのシステムに登録してるんだよ。この島の中にある物は可能な限り、ゲームのアイテムとして。

 そういうアイテムをプレイヤーが入手すると、設定しておいたカードを念能力で具現化する仕組みなんだと思う。

 カード化したアイテムの方は、専用の倉庫かどっかに放りこんでるんだろ。

 ま、アイシャの説明が正しいかもしれないし、俺が今した予想が正しいかもしれない。両方違うかもしれないし、両方を適宜使ってるのかもな。

 そこまでは確認しようがないよ」

 

 確かにね……あくまで推測の域は出ないか。

 

「いずれにしても、このグリードアイランド内は特殊なフィールドなんだろうね。

 で、物資なんかも外から直接移動させて仕入れてるんだろ。ゴミは外に放り出したり。いちいち島の内外を、物持って行ったり来たりするはずないしな。

 コレは断言してもいいけど、絶対ゲーム外に運営協力者がいるはずだ」

「そうですね……

 ゲームマスターは、必ずしもゲーム内にずっと留まっているわけではないようですし。

 ジンなんか、外にいる私と直接接触してきたわけですから。……ゲームのことで」

「そういうことだね。

 思ったよりこの世界は外とやりとりしてて、運営管理されてるってことだ」

 

 メレオロンが「はぁー……」と嘆息する。

 

「なんとなく分かったわ……

 このゲームを成立させる為に、水面下で結構ジタバタやってるのね」

「だな。

 ついでに、カード化してる飲み物食い物がぬるくなっちまうのも同じ理屈だな。

 別に冷蔵したり保温したりせずにまんま移動させてるだけだから、時間が経てばダメになるわけだ」

「サービス悪いわよねぇ」

「しゃあないんじゃね? 飲食物だけ別個に管理してられないってのは分かるし。

 運営コストを下げる為って言われたら、俺は納得するけどな」

 

 うーむ……生身の人間が管理する姿を、私は垣間(かいま )見ちゃったからなぁ。ウラヌスも直接ゲームマスターの手で追い出されたわけだし。やっぱり大変なんだろうな。

 

 

 

 こたつでぬくぬくしながら雑談を続ける私達。

 

「さぁて……と。そろそろ動かなきゃいけない時間か」

 

 ウラヌスが伸びをしながら告げる。……11時50分。じき結果発表か。

 

「えー。もうちょっとぉ」

「アンタ達だけでいってらっしゃーい」

「おいコラ、おまえら」

「コタツが気持ちいいのは分かりますけど、あんまりぬくぬくしすぎると寝ちゃいますよ。

 お昼も食べるんですから、2人とも早く」

 

 渋る2人を焚きつけ、手早く身支度を済ませて部屋を出る。

 

 廊下を進み、まだ慣れない靴を苦労して履く。ガラガラと玄関を開けたところで、

 

「さぁっぶ!?」

「ひぃー!」

 

 吹き込んだ冷たい空気に、姉弟が震え上がる。そりゃ寒いだろう。私だって口にしないだけで、寒いんだから。

 

「動いて暖まれば少しはマシだよ。急ぐぞ」

 

 1人でザクザク進んでいくウラヌス。なんだかんだで、彼は寒さには強いのか。普段は薄着だしな。

 

 その後ろ姿に、白い息を重ね。

 

 ……無茶させないようにしないとな。

 

 雪を踏みしめ、なびく桜色の後を追った。

 

 

 

 

 

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