シームが湯船から上がり、付き添う形でメレオロンも上がり、身体を洗っている。
私も充分温まったし、そろそろ上がって身体を洗うか。
同じく湯船に浸かったままのウラヌスへと近づき、
「そろそろ身体を洗ってくださいね。
それが済んだら診断を始めますから」
「はぃ……」
まるで死刑宣告されたみたいな
逆に私は愉快な気分だよ。今日もしてやられたからな、このバカにゃんこには。とくと仕返ししてくれるわ。くっくっく……
「どおー?
アタシなんかの手で洗われても、別に気持ちよくないでしょー?」
「そんな、こと、ないよー」
シャカシャカシャカと聴こえてくるから、メレオロンがシームの髪を洗ってあげてるのだろう。仲のよろしいことで。
私も身体を洗い終えて、時間をかけて洗髪中だ。きちんと手間をかけないと全然違ってくるからな。くじら島でビスケに色々教えられて、その時はかなり面倒だと思ったけど、今となっては感謝したいよ。母さんにも褒めてもらえたからね、ふふ。
ウラヌスもようやく湯船から上がって、身体を洗ってるようだ。メレオロン達と一緒にいるから、あっちは賑やかな感じだ。……別に寂しくなんかないぞ。こっち来てほしくもないしな。
「あ、やべ。シャンプー切れてた」
ウラヌスの声が聴こえてくる。うっかり空のシャンプー容器を持ってきちゃったか。
「どうする? アンタ、こっち使う?」
「うん? うーん……」
悩む声。ふむ。……私も洗い終わったし、な。
「私のを使いますか?」
「あー……借りても大丈夫?」
「ええ、もう洗い終わりましたから」
私とウラヌスは同じシャンプーを使ってる。リンスとか諸々は違うんだけど、母さんのオススメシャンプーは持ってきた分をとっくに使い切ってしまい、ウラヌスのものを私も使わせてもらってる。まぁ少しお返しするだけだ。
メレオロンがこちらに顔を出す。
私がシャンプーを渡そうとすると、メレオロンは手の平を向けてきた。へ? 拒否?
親指で、自分が来た方を指差す。
……。この変態、なんか企んでるな。さっきの話のこともあるし……
でもまぁ……いいか。ちょっと予定を前倒しにするだけだ。
私は軽く身体を拭いてから、バスタオルを巻きつける。……軽く透けるな。仕方ない、さっき湯船に浸けちゃったからね。
入浴セット片手にウラヌスのいる方へ。近くにいたシームが私を見てビックリする。
「おーい? メレオロン、まだかー……え?」
おそらく気配を感じ取ったのだろう。軽く髪を洗って、うつむいたまま待っている彼の背中がビクンと跳ねた。
私はその背中に回りこむ。適量のシャンプーを手に乗せ、お湯で軽く泡立て、
「それじゃ洗いますねー」
「えぇぇぇぇっ!? ちょっとちょっと待って!?」
「いいから」
腕でグイっと頭を下げさせ、桜色の髪をわしゃわしゃしてあげる。
「ひゃあああああっ!?」
「じっとしててくださいねー。
……私、ヒトの髪の毛洗ったりするの初めてなんですから」
わしゃわしゃわしゃわ……。うむ、正直に言おう。コレめっちゃ楽しい。自分の髪だと余裕ないけど、他人の髪だと余裕あるからか。
これだけの髪量だと、洗ってる私もちょっと参考になるな。自分の髪を洗ってる時って、気をつけないと洗いそびれたり洗いすぎたりするから、なかなか適切に出来ない。
なによりまた触り心地いいんだ、この髪が。普段から手入れが行き届いてるんだろな。すべすべふわふわ、髪質は私と同じくらいの良さだけど、ケアでは私が一歩劣るかもな。ちぇっ。
ウラヌスの髪を洗ってる間に、シームとメレオロンが湯船に戻った。……何か仕掛けてくるかもと警戒してたけど、何もしなかったな。どうもよく分かんない。
「あ、あのさ。
初めてのワリに、なんか、上手くない?」
わしゃわしゃわしゃ。
「うーん、そうですか?
なんとなくこんな感じかなーと思ってやってますけど」
他人の髪を洗うのは初めてだけど、自分の髪を洗われたことは数え切れないほどある。主に母さんだけどね。その時の経験も活きてるのだろう。
なによりシャンプーは、洗髪というより頭皮マッサージなんだよね。そっちはむしろ、武術にも通じる知識だからな。ビスケがかなり詳しいのもあって、色々教えてもらった。
ふむ……半分嫌がらせのつもりで始めたんだけど。もうちょっと嫌がるかと思ったのに、意外に大人しいぞ、このにゃんこ。……いいけどさ。
「あなたは、誰かにこうやって洗ってもらったことあります?」
「……
里で、姉貴によく、やってもらった」
「……。
そうですか」
わしゃわしゃわしゃ。……なんだかウラヌス、元気がなくなっちゃったな。余計なこと言っちゃったか。でも、黙ってても間が持たないしな。
「あなたの髪、ホント丁寧にお手入れが行き届いてますね。
こうして洗ってると良く分かりますよ……見事なものです」
「うん……
姉貴がね、俺の髪、色々いじって、たんだ。
里から出た後も、なんか、ちゃんとしたかった、から」
わしゃわしゃわしゃ。……色々聞けそうだけど、あんまり長くシャンプーするわけにもいかないしな。このくらいにしておこう。
「じゃ、すすぎますねー」
「えっと……もういいよ。
シャンプー終わったんなら、自分でやるってば」
「ダメです。もう診断は始まってるんです」
「えぇぇぇ……それは強引すぎるって。
どこが診断なんだよ」
黙らせるぐらいのつもりで、ダバババと桶の湯をかける。桶に次の湯を補充しつつ、
「髪の診断です。
でも、こちらは診るまでもなく素晴らしい状態でしたね。
誰かさんがアホ毛とか言ってくれた私の髪より上等ですよ、アハハ」
「あ、えっと。
……ごめん、気にしてたんだ?」
だばばば、と第2弾。今度はゆっくりと髪を揉みつつ、
「母さん譲りの自慢の髪ですからね。
……この髪が跳ねてるのは昔からなんで、どうしようもないんですよ」
「そっか。じゃあ無理に直さない方がいいね」
そう言ったっきり黙りこむ。私も話題が思いつかないので、しばし洗い流すのに専念。
「さて、次はどうします?」
尋ねると、顔を上げるウラヌス。「わっ!?」と叫んで、また顔を下げる。
あ……鏡か。私の姿がちょっと映り込むな。んー……
考えていると、ウラヌスが近くにあったタオルを手に取り、鏡にそれを貼り付けた。
「はぁ……
いちおうオーラでくっつけたから、そうそう剥がれないと思う」
「……ご丁寧にどうも」
「えっと、俺この後いつもトリートメント使うんだけど……」
「はいはい。
じゃあトリートメントした後、少し待ちになりますから診断はその時しますか」
「……やっぱり髪の診断とか嘘じゃん」
「いえ、別に出任せを言ったわけじゃないですよ? 髪はちゃんと診ました。
身体の診断はこれからです」
「……」
にしてもトリートメントか。私、時間に余裕ないと使わないんだよな。1日に2回以上入ることもあるし、毎回する必要はないと思ってるけど。
「ウラヌスは、髪のダメージ気にするんですね。
私は傷んでる感じがしないと使わないんですけど」
「あ、うん。俺は何か気になっちゃって。
ワリとすぐ機嫌そこねるんだよ、俺の髪って」
ふむ……弱体化の影響があるのかもな。なんとも大変なことだ。
「アイシャも歳とったら分かるって。
若いうちだけだよ、何もしなくても綺麗なんて」
「ああー。なんですか、分かったふうなクチきいて。
ウラヌスだって大して歳変わんないじゃないですか」
「う、うん……
でもアイシャの方が」
「私の方が、なんです?」
「いや……なんでもない」
「……なんか変な想像してません?」
「してないよ!」
話しながらも、私は手を動かしていた。ウラヌスの髪の水気を切り、彼から受け取ったトリートメントを毛先から付け始めている。
「櫛はありますかね?」
「あるよ」
自分の手元から、櫛を私へと見せるウラヌス。終わった後に必要だからね。なかったら手櫛するつもりだったけど。
トリートメントを終え、効果の浸透待ちになったので、いよいよ軽く診断を始める。
「まずは深呼吸してくださいねー」
背中に手を添える。……しかしまぁ、改めて見ると小柄なことで。衣服がないと、ここまで小さく見えるか。多分、
そして、この触り心地だ。小さいのに、こうも柔らかい。小動物かと言いたくなるほど、ふわっふわの質感だ。まるでサクラみたいだよ。あ、キュマニャンでしたね。
「ちょっとあちこち触るんで、我慢してくださいねー」
「あんまり変なトコ触らないでよ……」
「たとえば?」
「た、たとえばって……」
からかうとおかしくて仕方ないのがこのにゃんこだけど、私もちょっとこの会話するの恥ずかしいな。立場が逆な気もするんだが。
肩を軽く揉み、腋に手を差し入れ、肩甲骨をくりくりする。ぷーにぷにぷにー。
「く、くすぐったい……」
「くすぐったい? この程度で何を言ってるんですか」
脇腹に指を回し、こちょこちょこちょ。
「あははははっ! ちょ、やめやめ、それダメ!」
「ほーれほれほれ。どうだ、まいりましたか?」
「ギブギブギブ、マジでそこダメっ、あははは!」
「……なんか2人とも、すっごい楽しそうだねー」
湯船から姉弟が呆れた顔で、2人の診断(?)の様子を眺めている。
「かぁー! 混浴で遠慮なく裸でイチャついてくれちゃってさぁ。なにあのバカップル。
アレがお医者さんごっこじゃなけりゃ、なんだって言うのよ」
「……ああいうもんなの?
ぼくが知ってるのと何か違うんだけど」
「アレはそこそこ大人のお医者さんごっこよ。
更にレベルが上がると、アンタにはまだ早い展開になるわ」
「……なに言ってるの、おねーちゃん?」
「アンタはまだ知らなくてもいいの」
「ちょっと、アイシャ! やるならちゃんと診断してよ!」
「してますよ。
触診で、異常がないかどうかちゃんと調べてます」
「じゃあ良いか悪いか言ってよ!」
「慌てないでください。
総合的に判断しますから、もうじきお伝えしますよ」
「……」
多分に疑わしげなウラヌス。当然か。私も好き勝手に弄くり回してるだけだしな。もう少し真面目にやろ。
全身に傷はない。綺麗な肌だ。肌の質感は、子供のようなツヤと張りがある。
骨格にも、ゆがみは見られない。あの重心制御だ。僅かでもズレが生じれば、おそらくあの水準は再現できないだろう。この辺りも健康体か。
筋肉……気になるのは、この異常なまでのプニプニ感だな。触り心地は大変結構だけど。
私も脱力による防御時は極力筋肉を弛緩させるが、ウラヌスのこれは異常と言わざるを得ない。力を温存する為に脱力してるのは分かるけど、今にも溶けて落ちそうなほど力が入ってない。
つまり、それだけ体力が衰えているということか。筋力もそうだろうけど、おそらくは内臓とか体内機能のたぐいが満遍なく低下してるのかもな。
逆に言えば、だ。弱体化し続けて、なおこの状態を保っているということだ。いったい元々はどれほどの身体能力を有していたのか。……とは言っても、念をかけられる前だし10歳前後じゃ大したことなかったんだろうか?
思い返してみれば、ウラヌスは知恵こそ利かせるものの、行動自体は意外にパワフルなことが多い。更にアクティブでもある。明らかに膂力体力に優れた人間の運動志向だ。
潜在オーラのような順当な弱体化ではなかったのかもしれないが、周りから見れば無理してるように見えても、本人は昔やれたことをやってるだけのつもりなんだろう。
まるで老衰のようだ。……つらいだろうな。
「アイシャ?」
「あ、はい」
気がつけば、彼の背に手を触れたまま動きが止まっていた。いったん手を離す。
けど、どうしようかな……私が診た限り、異常らしい異常は今のところ見つからない。何かあったとしても、私の知識では気づけないんだろう。
何か指摘して、無理をさせないようにしたいんだけど……せめてオーラが見えればなぁ。
「本当は身体の正面から診断したいんですけど……」
「アイシャ? それだけはダメだからね?
俺、すぐ逃げるからね。そんなことしたら」
震え声で返答するウラヌス。私だってイヤだよ。自分の身体、バスタオル越しとはいえジロジロ至近距離で見られるなんて。でもなぁ……確認したい主要な臓器は正面側に集中してるし、背中からじゃほとんど分からない。
ま、医者じゃないしな。憶測でいい加減なことは言うまい。
「……。
具体的にこう、という悪いところは見つかりませんが。
全身の筋肉から慢性疲労のような脱力感が窺えます。
連日の無理が
「過労ねぇ……
でも、いま無理しなきゃいつするの? って思うけど」
「……別にいいんですよ?
1ヵ月にこだわって、無理しなくても。
私が力を取り戻し、あなたが自力で除念できれば、心置きなくゲーム攻略を進められるじゃないですか」
「違うよ。
……アイシャが移動スペルを使えなくなったら、今みたいに楽しく一緒に観光できないだろ?
安全も保障しなきゃいけないし、1ヵ月ぐらい耐えてみせるさ」
……。
「また、あなたはそうやって」
ぺたり、と。彼の背に手を当てる。
「ヒトのことばっかり……」
「……アイシャ?」
このヒトは何度言っても。自分のことを優先しない……
「それで無理して、あなたが身体を壊したら。
……誰が喜ぶんですか。私を守るって約束はどうなるんですか」
「アイシャ……」
自分でも何を言いたいのか分からない。心がぐちゃぐちゃで、考えがまとまらない。
一つだけ思うのは──このヒトのこういうところはキライだ。受け入れられない……
「あなたは私達の生命線なんです。
メレオロンもシームも、あなたのことを心配しています。
……なのに、あなた自身が自分のことをおろそかにしてどうするんですか」
「うん……」
「うんじゃありません。分かったフリをしてもダメです。
私がなぜここまで無茶をして診断しているか、本当にあなたは分かってるんですか」
「……」
何も言葉を返さないウラヌス。
「……櫛を貸してください」
「あ、うん」
ウラヌスの手から櫛を受け取り、彼の髪を梳き始める。
「せめてこの髪ぐらいに、自分のことを気遣ってください。
あなたが少しでも無理をしてると思ったら、私は何度でも止めますからね」
「……やさしいね、アイシャは」
正直に言いたかった。……あなたには言われたくない、と。
母さんの教えを思い出す。
────自分に出来る範囲で助けられる人がいたら助けてあげなさい。
その点は、私も彼も変わらないだろう。
……けれど、母さんはこうも言っていた。
自分を第一に考えて、それでも余裕があるなら他の人に手を差し出してあげなさい。
彼は……
自分が一番余裕がないくせに、それでも他人を助けたがる。それも反射的に。
「……私の友達が言ってましたよ。
自分がピンチなのに他人を助けるなんて、お人好しじゃなくて馬鹿のすることだって」
「あいたー……たたた。
んー、それ否定できないなぁ」
ホントに。……本当に、このヒトは馬鹿だ。
「私が付いて来なかったら、もっとスムーズに攻略を進められたんじゃないですか?」
「そんなことないよ。
アイシャ、結構色々カード取ってくれてるじゃん。
俺、当分観光か調査だけするつもりだったのに、こんなに攻略進むとは思ってなかったしさ」
「……あなたに大きな負担をかけながら、ですけどね。
シームも気にしてましたよ。自分が足手まといなんじゃないかって」
「どうしてさ?
みんな居なくて俺1人でやってたら、多分またクリア逃してるよ」
「……でもあなたは、元々仲間を探してたじゃないですか。
今回に関しては、始めから1人でプレイする気なんてなかったんですよね?」
「……」
「ヘタな嘘は吐かないでください。
あなたなら、ゲーム内でも仲間にしたいってヒトはそれなりにいたでしょうに。
前回はソロにこだわっていたのかもしれませんが、今回は違ったはずです。
私達を無理に連れてこなければ……
あなた1人、キツイ思いをすることなんてなかったんじゃないですか?」
沈黙したままのウラヌスに櫛を返し、桶の湯でトリートメントを洗い流す。
「……俺は、アイシャ達と一緒で楽しいよ」
「……。
それは私も否定しませんが。
あなたの負担が大きすぎるのは別の問題です」
「いや、そうじゃなくてさ。
俺がいま負担を背負えるのは、アイシャ達と一緒だからこそだよ。
他の連中と一緒なら、俺はここまでがんばってないさ。信用できない相手と一緒じゃ、油断も隙もないもん。心が休まらないよ」
「……ホントですか?」
「まぁ……
相手によるかな」
はあー……。正直に答えただけマシか。
「次、リンスですよね? 貸してください」
「うん……
どうせ自分でやりたいって言っても、やらせてくれないだろ?」
「当然です。
ここまで来たら私が1人で全部しますよ」
「アイシャもそうやって、結構自分1人でやりたがるじゃん」
お、そんな反撃をしてくるか。……否定はしないけどさ。
「積極的にあなたの作業を奪わないと、あなたは負荷分散しようとしませんからね。
まぁ下心もありますけど」
「え。下心ってなに?」
「またまたー。
なにか忘れてません?」
「うぅん?
いちおう診断終わったんだよね? まだ何か──」
「サ・ク・ラ。
お忘れじゃありませんか?」
「あ。
……いや、ちょっと待ってアイシャ。いま俺に負担かけないって話じゃなかった?
このタイミングで桜呼んだら、確実に俺の負担増すんだけど?」
「それとこれとは話が別です。
約束は守りましょう」
「ぎゃふん!」
ぎゃふんと言わせたところで、彼の頭を傾け、垂れる髪にリンスを付けていく。
流石にこの状態では話しにくいので、リンスを終えるのに専念する。
リンスを流し終え、サラサラヘアなウラヌス。顔を見なくても、上機嫌なのが伝わってくる。
「ありがと、アイシャ。
思ってたより、ずっといい感じだよ」
「お礼なんていいですから、早く約束のサクラ」
「えぇぇ……」
「当たり前じゃないですか。
混浴に4人で入って、診断してサクラを呼ぶところまでで1セットです。
約束しましたよね?」
「したけど……
もう。分かったよ」
観念したウラヌスが、水の滴る右手を持ち上げ、
「
唱えて、濡れた指先をなめらかに躍らせる。
「──【日向猫/バステト】──」
もにゅん。とサクラがウラヌスの頭上に乗っかった。のも、つかの間──
ずりずりずり、と後ろ髪に沿ってズリ落ちていくサクラ。
「アイタタタタッッ!?
はなせはなせ、引ッ張んなぁっ!!」
痛みでジタバタもがくウラヌス。振り向けないせいで、上手くサクラを掴めない。言うことを聞かず、ぶらんぶらん後ろ髪にしがみつくサクラ。これは酷い。
私が慌てて両手でサクラを掴むと、あっさりとサクラは髪を離した。
胸元に抱き寄せると「にゃあん♥」と甘えた声で鳴くサクラ。
ウラヌスは、引っ張られた頭皮を痛そうに揉みながら、
「いーちちち……
ちょっとー。そいつ疫病神にもほどがあるんだけどー」
「にゃん!」
「疫病神なんて言っちゃダメですよ。
こんなに可愛いのに」
「みゃうー……」
相変わらずぷにぷにしてて最高だな。もう1匹のにゃんこはプリプリ怒ってるけど。
「さーくらー♥」
気づいたシームが嬉しそうに声をあげる。ん? こっちずっと見てたのか?
胸元のにゃんこがもぞもぞしてるので、やや惜しみながらも石床の上に置いてあげる。
私を一度見上げた後、ぴゅうっと湯船へ走っていくサクラ。
見ていると、ドボンとサクラは湯船に飛びこんだ。すぐに浮き上がり、じゃばじゃばと猫かきっぽい動きで泳ぎながらシームへと近づく。
「あはははっ。泳ぐの上手だね♪」
「にゃあん♪」
笑いながらサクラを迎えるシーム。
「……よかったの? もう桜離して?」
ウラヌスがこちらを見ないまま、尋ねてくる。
「サクラがあっちに行きたそうでしたからね。
もちろん、これから私も愛でに行きますが」
「さいですか。
はぁー……どっと疲れたよ」
「ふふ、お疲れ様です。
これからもよろしくお願いしますね」
告げて、私も湯船へと向かう。
私が湯船へと身体を沈めた後、ようやくウラヌスも立ち上がり、湯船へと歩いてきた。
「……ちょっとアイシャ。じろじろ見ないでよ」
ない胸を隠しながら抗議するウラヌス。ちなみに腰のタオルは、ずっと巻いたままだ。かなり透け気味だけど。ぷぷ。……私も気をつけよ。
「今さらじゃないですか。
ぷにぷに姫の身体、堪能させていただきましたよ」
「どお?
なかなかのモンだったでしょ?」
「そうですね。ちょっとお目にかかれない代物でしたよ」
変態がノッてきたので、私も応える。顔を押さえてぷるぷる震えるにゃんこ。
「あはははっ」
「にゃんにゃーん♪」
水音を立てて、私達の後ろではしゃぐお子様と猫。
……うん、楽しいなぁ。何度もってのはアレだけど、また4人で一緒に入りたいもんだ。