湯船でばちゃばちゃ遊ぶサクラが、ふぬけたウラヌスの顔にお湯を引っ掛けたり、私の巻いてるバスタオルを引っぺがしたり、多少のトラブルはあったものの無事……まぁ無事4人混浴は終了した。
脱衣所でまた毛糸のパンツが話題になり、私も好奇心に負けてチラ見したけど、アレは可愛い。なんか手編み感のある黄色い毛糸パンツ。確かにお子様が穿くようなパンツだ。恥ずかしがる姿と相まって、これがまた……
「ちょっとッ!? なに、アイシャまで!」
「すいませーん」
ババッと両手で隠すウラヌス。覗いたことを謝り、私も着替えに戻る。変態もこっちに戻ってきた。
「やるじゃない、覗きだなんて」
「堂々と見に行くあなたに言われたくありません」
言い合いながら互いに着替える。まぁこれはこれで楽しいひとときだ。
「うわーん、アイシャにまで見られたー」
「別にいいじゃん、可愛いし」
「可愛いとか関係ねーだろ!」
「あ、可愛いのは認めるんだね」
「この……!」
ウラヌスとシームがやんや騒いでるな。あちらも楽しそうで何より。
……ん? そういえばサクラは?
「にゃん」
気づけば背後にいた。おおっと、まさかずっとここにいたのか?
あ、うん。やべ。着替えるところ見られまくってたかも……毛糸のパンツに気をとられすぎてたよ。
「にゃう?」
私の動揺を感じ取ったのか、小首を傾げるサクラ。ああ、まぁ不可抗力だし、いっかぁ……
サクラがびしょ濡れのままなので、私のタオルで拭いてあげる。私まだ、下着だけなんだけどな。いちおう浴衣借りてるし、これだけさっと着るか。
「あ、アンタも浴衣着るんだ。珍しい……というか初めて見るわね」
「ええ。たまにはいいかなと思って」
「美少女は、なに着ても絵になるわねぇー。うらやましい」
「褒めても何も出ませんよ」
まあ、褒められて悪い気はしないけどね。浴衣を着た後、改めて優しくサクラを拭いてあげる。アゴの辺りをこちょこちょこちょ。
「にゃう、にゃうん♪」
気持ち良さそうにするサクラ。こんな可愛いなら、毎日お風呂に連れていきたいくらいだよ。色んな意味でウラヌスが死にそうだから、やめとくけど。
「あれっ!? 桜、もしかしてそっちにいるっ!?」
「ええ、こっちにいますよ」
「桜、てめぇッ!! こっち来いよ、なんでそっちに居んだ!」
「にゃ」
ウラヌスの怒声に、ぷいっと顔を背けるサクラ。
「あー、別にいいですよ。
不可抗力ですし、これであなたを咎めたりもしませんから」
「ああ、もぉー……」
悲嘆に暮れるウラヌスの声。
浴衣の帯を苦労して巻いているメレオロンが不思議そうに、
「アイツ、なんであんなに慌ててんの?
別に構いやしなくない?」
「それは……
サクラの記憶は、どうもウラヌスに戻った時、共有されるらしくて」
「あっ、そうだったわね。シームも確かそんなこと言ってたわ。
ははぁ……なるほど、そういうことか」
「そういうことです」
「にゃん」
拭き終わったサクラを抱き上げる。「にゃあん♪」と甘えてくるサクラ。ぷにぷに姫をじか揉みしたからなおさら分かるんだけど、ホントそっくりなんだよね、このぷにもち感。もちろんサイズが違うから、印象は違うんだけどさ。
その様子を見ながらメレオロンは小声で、
「記憶が共有されるって分かってて、アンタそれやってんのよね?」
「……別にいいじゃないですか」
「ふにゃん」
「はぁー。
なんだかんだでアイツもアンタの身体拭く変態だし、どっちもどっちよね」
「……やめてください、そういうこと言うの。
その件については、もう許すことにしたんですから」
「へ?
じゃあアンタ、この子みたいにアイツに身体拭かれるの、これからOKなんだ?」
「んにゃ?」
「ちょっ、どんな誤解してるんですか。違います。
ゲーム初日のアレは緊急事態だったから、やむなくでしょうに。
あの時だけは、私を心配してやったことだから許すって言ってるんですよ」
「……ああ。さっきのお医者さんごっこは、その禊だったわけね。
なんでウラヌスもOKしたんだか、謎だったんだけど。……アンタもやるわねぇー」
「な、なにがですか?」
「おーい、2人とも。
着替え終わったんなら、そろそろ行くよ」
脱衣所の入口からウラヌスの声。ちょっと話しこんじゃってたか。
サクラを降ろすと、そちらへ走っていった。私達も着替え諸々を持って、そちらへ歩き出す。メレオロンはそれ以上、何も言ってこない。
もやっとするなぁ……
さて、お風呂上がりの一杯だ。
珍しく4人とも浴衣姿で、それぞれ売店で好きな飲み物を買って口にする。
ウラヌスはイチゴオレ、シームはバナナオレ、メレオロンはメロンオレ(審議中)、私はカフェオレだ。紙パックからストローで美味しく飲む私達を、足元のサクラが羨ましげに見上げてくる。
なんとなく気が引けるので、4人揃って早く飲み終わり、
「おし。
水分補給もしたし、温泉の後と言えば……?」
ウラヌスが売店そばのロビーを見回しながら尋ねる。色々楽しめそうなものが目に映るけど……
「卓球!」
「マッサージ!」
「ゲーム!」
「温泉卵!」
4人の心はバラッバラだった。色々あるからねぇ。
「アンタ、ここまで来てまだゲームすんの?」
「だって、なんか古くてオモシロそうなゲームあるから、やってみたいもん。
おねーちゃんだって、マッサージとかさぁ」
「そりゃマッサージチェアでしょ、この手の宿なら。
日々の疲れを癒したいのよー」
「マッサージなら私がしましょうか?」
「い、いやー……遠慮しとこうかなー?
肩なんて揉まれたら、なんか腕ごと持ってかれそうだし?」
「しませんよ、そんなこと。
……ところで、誰か一緒に温泉卵食べません?」
「大した量じゃないし、俺も貰おうかな。
よかったらその後、卓球付き合ってよ」
「いいですよ。温泉と言えば卓球ですもんね」
「だってさ。2人が卓球してる間、アタシはのんびりマッサージされてるわ。
シーム、1人でゲームしてきたら?」
「んー……
分かった。じゃあ、桜はおねーちゃんが見ててね」
「あ。……まぁそうなるか。
この子がアタシを嫌がらなきゃ別にいいけど」
足元のサクラをメレオロンが抱え上げる。……ふむ。サクラ、大人しいな。
「アイシャやシームの時はこの子よろこんでるけど、アタシの時は大人しいのよね」
「……メレオロンが遠慮してるの、こいつも分かってるんだよ。
だから桜も遠慮してるんだろ」
サクラがそう話すウラヌスの方をちらりと見て、メレオロンの顔を見上げる。なんだかサクラの神妙な顔を眺めてると、思うところがあるな。
「ま。アタシがこの子見てるから、アンタ達は楽しんできなさいな」
言って、マッサージチェアのところまで行き、ぼすんと座るメレオロン。しかし意外な組み合わせだな。卓球の約束しなかったら、私がサクラ預かったんだけど仕方ないか。
売店近くのテーブル。ウラヌスと2人、向かい合わせに座り。
小さな器に入った、出汁醤油のかかった温泉卵をスプーンでいただく。
「あー……
いいですねぇ、この味。私好みです。ちょうど食べごろの温度ですし」
「いかにもジャポン風だよね。
ゆで卵が出てこないか、ちょっと心配だったんだけど」
「へ?
温泉卵注文したのに、ゆで卵が出てくるんですか?」
「温泉熱で調理した卵も、温泉卵って言うらしいよ。単なるゆで卵でもね。
これは白身がトロトロで、黄身が少し固くなってるから、俺達の知ってる温泉卵だね」
「へぇー。
あ、もう1個食べていいですか?」
「……いいけど、それで終わりにしなよ?」
「はーい」
売店に行って、温泉卵を再注文し、すぐ出てきたそれを受け取ってテーブルに戻る。
「ウラヌスはもう食べないんですか?」
「お昼にすき焼きイッパイ食べたじゃん……
さっきの温泉卵1つで充分だよ」
「なさけないですねぇ。1人で食べてたら、私が食いしん坊みたいじゃないですか」
「え?」
「え?」
直後、笑いあう。ノリいいなウラヌスも。にしても、この温泉卵ホント美味しいなぁ。
腹ごしらえも終えたところで、軽く運動。
安請け合いで卓球の相手引き受けちゃったけど、ルールが分かってる程度で特別上手いわけじゃないんだよな。卓球やりたがってたし、ウラヌスは自信ありそうだけど。
やや壁寄りの卓球台を挟み、私達はラケットを持って向かい合う。
私が気楽に構えていると、ウラヌスも気楽に喋りながらピンポン玉をぽんぽん上げ、
「そういや混浴でイベント発生しなかったね」
「あ、はい。そ──」
話してる間に、私の脇をさくっと抜けていくピンポン玉。
「……」
「拾ってくるねー」
素早く玉拾いしてウラヌスが戻り、またひょいっと玉を上げる。こちらも構えるが、
「さーっ!」
発声直後の微妙なタイミング、台の高さスレスレで放たれるサーブ。ネットぎりぎりをかすめ、台の端っこを抜けていった。
こ、こいつ……
ニコニコ顔でピンポン玉を拾ってくるウラヌス。浴衣をひらひらさせて、ウキウキしてやがる。
「アンタさぁ。
こっからでも卑怯な真似してんの分かるんだけど?」
やや震え声でメレオロン。サクラを抱えてマッサージチェアから苦言を飛ばしてくる。いいぞ、もっと言ってやれ。
「いやー。勝負に卑怯も何もないしさ」
「……ほぉ。勝負ですか。
私は卓球遊びに付き合ってあげるだけのつもりだったんですけどねぇ。
勝負ですか」
「こっから真剣にやる?」
「……いいでしょう。少し本気を出してあげます」
「いいけど力んじゃダメだよ。
カッ飛ばしたピンポン玉で何か壊さないようにね」
「……ええ。もちろん」
つまり技術で出し抜けってことだな。オーラのない私にとっては、いい修行になりそうだよ。
カッ、カッ、カカッ、カッ、カッ、カッ──、カッカン……
「ぐ……」
経験の差か、明らかに私が押されていた。6-11、7-11で2ゲーム先取された。
おそらく打つ技術には大差ないが、受ける技術面でウラヌスに分がある。威力や速度を付けようにも私はオーラがないし、ピンポン玉自体を破壊しかねないのでそこで勝負するわけにはいかない。
すると当然、私もウラヌスも打球に回転を加えて、いかに受けにくい玉を放つかという勝負になる。私なりに戦術を組み立て、それなりにスコアは取れてるけど……
とにかく彼は拾うのだ。私の掛けた回転を無効化し、自分の回転を加えて返してくる。返球される玉に私の有利な要素はなく、激しいラリーの中でじりじり不利が積み立てられ、決められる。ラリー序盤は私も彼の打球を制することはできるが、ハイスピードな展開が続くと完全には捌ききれない。やけに動きが制限され、返しそこなう。
……いや、おかしい。ほぼ純粋に打球の回転で勝負してるのに、ここまで差がつくか? 彼が手練れなのは分かるが、私の掛けた回転がここまで無力化されるのは──
ボールを拾って戻ってきたウラヌスの姿を注視すると、彼はこちらから目を逸らした。
「──っ!! あなた、目の力を使ってますね!」
「やべ、バレタッ!!」
やられた……! 純粋にオーラなしの勝負かと思ってたら、能力使ってやがった。油断してたよ……もっと早く気づくべきだった。相手を見て動きを読むまでは私もしているが、体内の力の流れまで読まれては流石に分が悪すぎる。
「おーい。もうソレ、そいつの反則負けでいーんじゃない?
卑怯すぎるでしょ」
まったりマッサージチェアから声をかけてくるメレオロン。その腹の上でしっぽを振り、すっかりくつろぎモードのサクラ。
ウラヌスは、まいったという表情で軽く両手を上げ、
「あーうん。
俺の反則負けかな。まさかこれでもここまで粘るなんて──」
「ナニほざいてますかねぇ……
イカサマ暴いたんですから、今からソレなしで私と真剣勝負するんですよね?
まさか断りませんよね?」
「あ、えっと。
俺ワリと疲れてきたんだけどなー……」
「ご心配なく。スコアは引き続きで構いませんよ?
このゲームが取れなかったら、私の負けで結構です」
3ゲーム目で、今は1-3だ。……私も上達してる自覚はあるからね。目にモノ見せてくれる。
「お、お手柔らかにー……」
見ると、確かに疲労してる気配はあるな。多分スタミナ切れを起こす前に勝負を決める腹だったんだろう。
「……私が勝ったら、あなたを全身マッサージしますからね」
「えっ!?」
カカンッ!
私の放ったサーブが、ウラヌスの脇を抜ける。ボールを拾いに行くスレ違いざまに、
「……あなたが勝ったら、私を全身マッサージしていいですよ」
「エッ!?
──いや、なんかおかしくないっ!? 逆じゃない、普通!?」
普通は逆かもね。でも逆にしたら、わざと負けるかもしれないじゃないか。それは困る。この場合は、揉まれる側が罰ゲームという認識で合ってるはずだ。うん。
遠目に卓球勝負を眺めるメレオロンは、お腹に乗せた桜の背を撫でながら、振動に身を任せていた。実を言うと、ちょっとキメラアントの関節と相性がよくないのだが、ガマンできる範囲だ。ある程度は慣れだと割り切ってる。
急激に動きがよくなり、それに伴い胸をぷるんぷるんさせてるアイシャの姿を、眼福とばかりにガン見するメレオロン。
桜だけに聴こえるよう小声で、
「アレは卑怯よねー。
だってあんなにおっぱい揺らされたら、どうしたって見ちゃうもんねー」
「にゃん」
ウラヌスは、目に見えて動きが悪化していた。不利な要素が重なりすぎたせいだろう。負けるのも時間の問題だった。
かんっ! かんかん……
「あー……」
膝を折って、台にもたれかかるウラヌス。
はぁー、勝った勝った! ちょっと物足りないけど、圧勝したからいいや! 3ゲーム連続奪取、最後は完封!
「ふふーん。約束、覚えてますね?」
「そ、その……
覚えてるけどさ」
「疲れてるでしょうし、今すぐ始めましょうか?」
「あああ、いい、いい、いい!
ほら、マッサージチェアあるじゃん! 俺、アレで休むからさ!」
ちっ、往生際の悪いニャンコめ……。まぁいい。
「では、今晩。ということで」
ゲームを決めたボールを拾いに行く途中、耳元にそう吹き込んだ。震え上がるウラヌス。くくく、たっぷり時間をかけて揉んでほしいなんて、殊勝な心がけだよ。ついでに診断の続きもさせてもらうとしようか。その身体の秘密、とくと暴いてくれる。
へろへろになりながら、宣言通りマッサージチェアへと向かうウラヌス。メレオロンの横にある席へドサーっと座り、
「お疲れさん。間近で拝んだおっぱいぷるるんどうだった?
浴衣越しなんて、新鮮よねー」
「オマエ……」
なんかメレオロンとウラヌスがぼそぼそ話してるな。ピンポン玉を台の上に戻し、私もそちらへ歩いていく。
「なに話してるんです?」
「いい勝負だった、って話してただけよ。
アイシャって、オーラなしでも全然強いわよね」
「そりゃ、オーラなしって取り決めならそうですけど……」
「正直、バレる前に決め切れなかったのが敗因だったよ……
アイシャ、卓球得意なの?」
「そう見えました?」
「うーん……
どんどん上手くなっていったから、元々はそこまでだったのかなって思うけど。
信じらんないよ……」
ちょっとムキになりすぎたか。また変に勘繰られる要因を作っちゃったかもしれないな。