どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百二十八章

 

 やや溶け気味の雪をざくざく踏みしめながら、隣に声をかける。

 

「旅館にゲームコーナーがありましたけど、あれもゲームの中でゲームですよね」

「あーまぁ……そうだけど、ああいうのは様式美だしさ。インテリアっていうか。

 ゲーム機を持ち込んだアイシャとは比較しにくいよ」

 

 はっはっは。……さいですか。

 

 すっかりこたつむりになりかかっていた姉弟を引っ張り出し、私達は宿を出て釣具店へ向かう最中である。

 

 

 

「あぁー、寒かった!」

 

 釣具店へ入って開口一番、ぶるりとひと震えするメレオロン。シームはまだ平気そうにしてるけど、彼女はホント寒そうだな。

 

「だいじょうぶか、メレオロン?

 具合悪いなら無理すんなよ。これから怪物と戦うんだし」

「へーきよ、へーき。

 こたつでぬくぬくしすぎただけだから。動けばイヤでも身体は暖まるし」

 

 つまり、やっぱり寒いのは苦手なのか。

 ウラヌスは溜め息を吐きながら店の奥へと進み、

 

「メレオロン、移動中は普段よりオーラ使っていいよ。

 『絶』だと冷えるだろ? いつでも動けるようにしといてくれ」

 

 釣具を眺めながら、ぶっきらぼうに告げるウラヌス。その背に目を向けるだけで、何も言わないメレオロン。

 先に言われちゃったよ……。ウラヌスが気にしないわけないもんな。

 

 ウラヌスは私達へ向き直り、

 

「さて、色んな釣り用品があるけど、もう買うアテは付いてるんだ。

 エサとか余分めに買って、食料もデパートで買い足していこう。

 買い物が終わったら、早速釣りをしに都市の外へ行くよ」

 

 シームはリュックを下ろし、中から水筒を取り出しながら尋ねる。

 

「なんか釣竿によって釣りやすくなったりとかあるの?」

「あるかもな。

 でも、ここって念能力者御用達のゲームだしさ。

 道具選びより、力や技でいかに釣り上げるかの方が重要かな。

 少なくとも、店売りの道具にはあんまり期待できないよ。イベントでしか入手できない釣具があれば、また別だけど」

 

 ふむ、指定ポケットにも釣り関係のアイテムはなかったしな。ウラヌスも知らないなら、わざわざ探すのは時間のムダかもね。

 

 こぽこぽと水筒からお茶を注いで、メレオロンに渡すシーム。

 

「ウラヌスは、前に釣ったことあるんだよね?」

「もちろん。このゲームでな。

 だから慣れた道具の方が俺は楽だよ」

「あー、お茶うま。

 ……釣具に神字とか書いたりしないの?」

 

 尋ねるメレオロンに、ウラヌスは肩をすくめ、

 

「釣竿には書けなくもないけど、釣糸と釣針はちょっと無理だしな」

 

 ごもっとも。おまけに消耗品だから、もったいないもんね。

 

 

 

 釣具セットを3つ購入して、予備の釣糸釣針とエサを多めに買い、釣具店を後にする。デパートで食料や雑貨を買い足し、交換店でお金を預けてフリーポケットを空けた私達は、いよいよ都市の外へ足を運んだ。

 

 都市の中と違い、降り積もって誰も踏まないままの雪の上は当然歩きにくい。シームは度々バランスを崩して、ふらふらしてる。

 

「あいたー!」

 

 遂に滑って転ぶシーム。どしーんと雪の上に盛大な尻もち。道案内のウラヌスはやや先から、

 

「気ぃつけろよー。大丈夫かー?」

「大丈夫!」

 

 恥ずかしいのか急いで立ち上がり、お尻をパンパンと払うシーム。

 

「リュック背負うのキツイなら、代わろうか?」

「大丈夫!」

 

 なかばムキになってるな。……ウラヌスに消耗されると困るから助かるけど。

 

「シーム、これも修行の一環です。がんばってくださいね」

「……ぅん」

 

 返事が弱いな。大丈夫! と元気良く返してよ。

 

 

 

 白雪都市スノーフレイの東側から出て、約30分。足元の雪が少なくなって、移動速度が普通になってきた頃合いで目的の場所が見えた。

 

 水の流れる音が聴こえる。そこそこ流れが速そうだな。それほど大きな川でもなさそうだけど。

 

「釣りを始めない限り怪物は襲ってこないから、まだ気を抜いてていいよ。

 もうちょいだから、がんばってね」

 

 比較的元気そうなウラヌスの声掛けに、ふーふーと息を切らせる姉弟。着いたら休憩が必要だろうな。道がかなり悪かったし、仕方ないか。

 

 

 

「とうちゃーく!」

 

 川のせせらぎが響く中、ウラヌスは足を止めて宣言した。

 

『はーっ!』

 

 リュックを下ろす間も惜しんで、川原に勢い良くしゃがみこむ姉弟。

 

「お疲れ様でした。

 ……ウラヌス、釣りを始める前に休憩しますよね?」

「そのつもり。

 俺も体力とオーラを回復させたいし」

「戦闘も控えてますから、みんなしっかり休んでくださいね」

 

 私はむしろウォームアップが足りないけどね。軽く準備運動して、冷えた身体を解すとするか。まだ『周』をかけてもらってないから、ちょっと寒いんだよな。厚着だし、この格好で問題なく戦えるか確認しておかないと。

 

「ぅわー。やる気マンマン」

 

 メレオロンが運動する私を見て、いらんことを言う。そうだよ、それの何が悪い?

 

「アイシャ。いちおう初見の怪物だと思うし、1回目は俺が戦うよ。

 同じのが来たら、俺とアイシャの手が両方空いてる場合でも、キミに任せようと思う」

「ええ、あなたはオーラを出来るだけ節約してください」

 

 当然だな。私への『周』のオーラは節約できないんだから、怪物退治のメインは私だ。ウラヌスが戦って消耗すればするほど、釣りができるタイムリミットが早く来てしまう。

 

 

 

 お茶や食料、カイロを使って休憩する私達。私は疲れてないけど、エネルギーを蓄えておきたいからね。

 カイロを揉みながらメレオロンは、

 

「この辺は雪も積もってないのに、水のそばだからか寒いわね」

「そうだな。

 この川の水自体が雪山から来てるせいで、かなり冷たいしな。

 間違っても釣りで頑張りすぎて落ちるなよ。風邪引くから」

 

 ぶるるっと震えるシーム。まぁ一番やらかしそうだもんな。

 

「そういえば、ウラヌスが釣竿に『周』するのは分かるんですけど、釣り自体は手伝うんですか?」

 

 私が尋ねると、ウラヌスは首を傾げ、

 

「状況次第かなー。

 アタリによって手応え全然変わるし、誰が釣竿握ってるかにもよるし」

「そういえばイクラが釣れるとか言ってなかったっけ?

 どんな感じで釣れるの?」

 

 あ、言われてみれば謎だな。

 

 問われたウラヌスは何とも言えない顔で、

 

「……えっとね。もそっと釣れる」

 

 ……ほう。もそっと。イクラが。

 

「よく分かんないけど……

 釣針にイクラが引っ掛かって釣れるわけ?」

「そう。

 なんつーか、ぶどうみたいに」

「それさぁ……

 釣ったらカード化するんだと思うけど……その状態でしばらく放っといて、後でゲインしたらヤバいんじゃない?」

「イベントで入手したアイテムは、そのへん大丈夫だよ。

 一度ゲインしてから、『再生』でカード化して放置するとダメみたいだけど」

 

 そういうもんなのか。まぁ大食い懸賞のガルガイダーとか、カード取って何日か経った後にゲインしたら悲惨な状態、とか嫌すぎるしな。

 

 

 

 休憩も終えたので、いよいよ釣りを始めることに。

 

 まずは釣具セット1つとエサをゲイン、釣針にエサを付けるところからウラヌスが実演。細かい作業なので、手袋を外してる。

 

「生き餌じゃないから、全然簡単だけどな」

 

 語りつつ、エサであるサンマの切り身の中央に、釣針を2回通すウラヌス。知ってれば簡単だけど、これでいいって知ってることが重要なんだよな。ゴンもその辺は詳しかった。

 

 エサを付けた釣針を、釣竿から伸びた釣糸に結ぶウラヌス。器用にくるくる巻いている。釣竿製作に挑戦したから分かるけど、色々細かいんだよな、こういうの。知らなきゃ無理だよ……結局あの時は釣竿すら完成しなかった。それに釣針と釣糸なんてどう調達すればよかったのか……

 

 準備を終えた釣竿を手に、川へ向かって立つウラヌス。私達は彼の両サイドに分かれる。

 

「釣りを始めると、敵の出現判定が常にあるみたいだから気を付けてね。

 で、キャスティング。針の投げ込みは、慣れないうちは難しく感じるかもしれないけど、遠くを狙わなくても釣れるし、ほどほどの距離に落とせば充分だよ。

 むしろ、後ろにうっかり飛ばして仲間を釣らないように。

 じゃ、行くよ」

 

 竿を振りかぶり、びゅんっとしならせるウラヌス。気持ち遠い場所へ、トポンと釣針が落ちた。くいっくいっと竿を動かしつつ、

 

「キャスティングしたら、後は釣れるまで待ち。

 アタリが来たら見逃さないように気を払いつつ、怪物の襲撃にも備える。いずれにしろ焦らずに」

 

 怪物は突然出てくるからな。遠くから近づいてくる気配や潜んでる気配を探れないのが一番怖いところだ。

 辺りには大きな岩もゴロゴロしてるし、岩陰から来るだろうことは予想がつく。ここはまだマシなポイントだ。多分ウラヌスは、以前もここで釣りをしたんだろう。

 

 シームは、ウラヌスの手にする釣具の先を見ながら、

 

「アタリはどれくらいで来るの?」

「平均時間で言えば、確か30秒くらいだったかな。大して待たなくてもいい。

 みんな、怪物はそんなしょっちゅう来ないけど、だからって油断しないでね」

 

 そう告げるウラヌス自身は、リラックスしているように見える。実際『絶』を使用している。

 

「ウラヌス、その『絶』って回復以外の目的で使ってます?」

 

 気になったので尋ねる。もし釣りを成功させる為に気配を絶つ必要があった場合、私に『周』を掛けられてしまうと、何も釣れなくなるからな。

 

「あー。別に釣る為とか、そういうわけじゃないよ。

 こうやって釣糸垂らしてれば、ゲームのイベントとして処理されてそのうち掛かるから。それとアイシャに『周』を掛けるのは、俺が一度戦った後ね。分かってると思うけど」

「ええ、まぁ」

 

 『周』をしてくれないなと思ってたけど、やっぱり時間制限を気にしてか。ウラヌスが最初戦うまでは、私の出番はないからな。

 

「あ、でも1個だけ。

 『絶』状態だと、アタリが来た時に察知はしやすい。

 俺やアイシャはともかく、メレオロンとシームは『絶』でアタリを待ってもいいかも」

「はいはい」

「わかった」

「もちろん魚が掛かったらすぐ──っと! 言ってたら来た」

 

 グングンと竿の尖端がしなる。きゅっとウラヌスが合わせた。途端、釣針が沈む水面にバシャバシャバシャと水しぶきが起こる。

 

「手応えが軽いな。よっと」

 

 竿を強引に引き上げ、速攻で釣り上げるウラヌス。そこそこ大きい魚が川面から現れた。

 魚に直接触れず、釣針近くの糸を手元に寄せて掴み取るウラヌス。

 ボンッ! と魚がカード化した。

 

 

『7619:サーモン』

 ランクG カード化限度枚数720

 遡上(そじょう)してきたサーモン あまり体力がない

 

 

「雑魚も雑魚だなー。

 いちおう取っとくけど。ブック」

 

 カードをバインダーに収めるウラヌス。「ブック」でバインダーを消し、釣針にエサを付け始める。

 エサを付け終えたウラヌスは、手にした竿をこちらに差し出し、

 

「じゃ、次メレオロン」

「へっ!? アタシ!?」

「なに驚いてんだよ、もう手本見せただろ?」

「いやその、あらかじめ次なら次って言ってよ」

「それは悪かったけど、練習しなきゃ上手くならないし、実際やってみるのが一番だよ。

 ほら」

「えー……」

 

 渋々といった様子で釣竿を受け取るメレオロン。釣糸を摘まんで、針に刺さったエサをじっと見る。

 

「……これを川に投げ込めばいいのよね?」

「うん。あんまり川岸に近くなければ大丈夫。

 アタリが来た時の手応えを見落とさないように。すぐに竿を引くんじゃなくて、エサをくわえたタイミングを狙って。早いと釣れないし、遅いとエサだけ盗られる」

「そんなこと言われても、よく分かんないわよ」

「だから練習」

 

 溜め息を吐いて、釣竿をひょいっと動かすメレオロン。釣針は変な軌道で空中を泳ぎ、彼女の顔に返ってきた。ぺちゃっと生っぽい音。

 

「うわっ!?」

「おぉい、悪い方に精度いいな。顔面釣ってないだろうな?」

「釣ってないわよ、もう! あっぶな……」

「だから言ったろ、釣針は危ないって」

「そんなこと言ったって、よく分かんないわよ!」

「釣糸を手放すタイミングが遅いし、釣竿の動きも中途半端。

 もっと思い切ってやらないと」

「かーっ! 気楽に言ってくれるわー」

 

 まぁド素人ならこんなもんだろう。キャスティングでつまずくのは仕方ない。

 

「だいたい指3本だとやりにくいんだってば……」

 

 ぐちぐち言いつつ、再チャレンジするメレオロン。また投げた釣針がブンと戻ってきて、慌てたメレオロンの身体に釣糸がくるくる絡まった。

 

『あー……』

「ムキィー!」

 

 こりゃ手こずりそうだ。

 

 

 

 メレオロンが繰り返し挑戦し、色んな失敗パターンを見せつける。ようやく釣針を水に沈めたと思ったら、そこからまた失敗の連続だった。もうエサを4つも盗られてる。

 なんというか……ハントされない技量は達人並みなのに、ハントする側に回るとホント素人だな。

 

「あぁー、くそっ!」

 

 毒づきながらキャスティングするメレオロン。流石にそれは慣れたもので、失敗せずに釣針は川へ吸い込まれた。

 直後くいっくいっと竿がしなる。慌てて竿を引くメレオロン。

 バシャバシャと水しぶきが起こった。

 

「わっ!? 来た!」

 

 言うや否やの瞬間、竿に片手を触れるウラヌス。釣具を『周』で強化したんだろう。

 

「んー……ちょいと手応えあるな。

 無理に引き上げず、竿を寝かしたり起こしたりして、ちょっと泳がせた方がいい」

「え、なになにっ!?

 寝かすとか起こすって!」

「竿を引っ張らせたり、魚を引っ張ったりする。

 まぁやってみせようか。これが寝かし」

 

 空いた手で、メレオロンの手を掴むウラヌス。ぐぅっと竿の尖端を下げさせる。水面の水しぶきがやや収まる。数秒待ち、

 

「これが起こし」

 

 竿の尖端を引っ張りあげ、水しぶきが派手になった。

 

「これを適度に繰り返して、魚の体力を削るんだよ。

 普通は糸が切れる心配とかしなきゃいけないんだけど、オーラで強化してるからそれは気にしなくていい」

「わ、わかったけど、いつまでやんの?」

「手応えが弱くなるまで。

 まぁこの相手なら無理やり釣れなくもないけどな。今は練習がてら」

 

 別に口を挟む気はないけど、めちゃくちゃ強引な釣り方だな……正しい釣り方を教えてメレオロンが出来るか怪しいもんだけどね。彼女のオーラ量なら、これでいい気もするし。

 

「──おっけ、思いっきり引き上げろ!」

「おっしゃあああーっ!」

 

 豪快すぎる声を上げ、メレオロンが魚を釣り上げた。

 竿を起こしすぎて勢いよくこちらへ飛んでくる魚に、ウラヌスが正確に釣り糸へ触れて止めた。ボンッ! とカード化する。

 

 

『289:高級サーモン』

 ランクF カード化限度枚数248

 遡上してもまだ体力を残す 良質のサーモン

 美味なため乱獲されやすい

 

 

 釣竿と交換でカードを受け取るメレオロン。そのカードをまじまじと見た後、

 

「おいくら?」

「んーとな。サーモンの3倍だから、2400。

 流石にそのクラスだとなかなかイケるけど、どうせ食うならもっと上等なのがいいな」

「料理する気なんですか?」

 

 確かにサーモンは食べたいけども、料理となるとね。調理場がないし、焼くぐらいしか出来なさそうだ。手間をかければ別だけど。

 ウラヌスは少し考えた後、

 

「……カードを売って、食いに行った方が早いかな。

 スノーフレイで美味しい鮭鍋を出す店なら知ってるよ」

 

 はいキタ! 今日の夕飯それに決定!

 目の色を変えて身を乗り出す私達に、身を仰け反らせるウラヌス。

 

「ちょ、ちょっ……もー、分かったよ。

 今日の晩はそこにするから。とりあえずメレオロン、早くカードしまえ」

「はいはい。ブック」

 

 メレオロンがバインダーにカードを収めるかたわら、ウラヌスは手早くエサを針に通し、

 

「じゃあ次、シーム」

「うん」

 

 釣竿を渡そうとするウラヌスに、すぐに応えて受け取るシーム。心構えはできてた感じだな。

 

「やり方、分かるか?」

「おねーちゃんの見てたから、なんとなく」

 

 シームが釣竿持ってると、どうしてもゴンのイメージが重なっちゃうな。まぁ野生児なゴンと都会っ子なシームじゃ、元々の印象が違いすぎるけど。

 

 シームは釣針を手にしたまま、釣竿を振ってキャスティング練習している。うん、私もそれが正しいと思う。いきなり上手くやろうとしたメレオロンとは違うな。

 

 素振りを繰り返した後、ひゅっと釣針を手放す。一発でやや離れた水面に着水させた。

 

「おー、やるなぁ」

「そりゃ見てたもん♪」

「腹立つわー」

 

 姉の罵声もどこ吹く風と、鼻歌混じりに釣糸を垂らすシーム。

 釣りに興じる様子をウラヌスが神妙な顔で見つめているので、私も気になってシームの隣へ行き、観察する。

 

 ……なんだろ。シームの視線が妙な感じだ。忙しなく水面のあちらこちらへ向けられ、目で追っているような──

 

 一瞬シームの身体が硬直。直後、釣竿がグイグイとしなる。シームは引っ張られる方と逆に竿を引き、合わせる。起こる水しぶき。

 ウラヌスが釣竿に手を触れるのにも頓着せず、魚の逃げ泳ぐ方へ釣竿を向けるシーム。……上手いな。ここまで1つもミスがない。

 

 勢いよく釣りあげるシーム。これまた器用に釣糸を手で掴み、魚をカード化した。

 

 

『7953:トラウト』

 ランクH カード化限度枚数780

 普通のマス 川魚としては美味い

 

 

「シーム、アンタ釣りしたことないとかウソでしょ!

 なにサラッと釣ってんのよ!」

「ゲームの釣りなら結構やったけど、本物の釣りは初めてだよ。

 おねーちゃんがヘタクソすぎるだけー」

「くっそムカつくわー。

 フン。どーせ、またアタシの1人負けなんでしょ?」

 

 ジロリと私を睨むメレオロン。おおぃ、それは逆恨みだろう。

 

「まだ始めてもいないのに、そんな目で見ないでくださいよ。

 私だってすぐ釣れるとは限らないんですから」

「ちなみにシームが釣ったのは一番雑魚だけどな。

 釣果の売却額で競うなら、今シームが最下位だぞ。600だし」

「挑戦回数も掛かった時間も違いすぎるでしょうが、もう!」

 

 メレオロン、ぷりぷり怒ってるな。歳の離れた弟にこうもボロ負けしたら腹も立つか。負けず嫌いなのはいいけど、ドカ○ンの恐怖再びは勘弁願いたい。

 

「ん。アイシャどうぞ」

 

 エサを付けた釣具を差し出してくるウラヌス。

 

「あ、はい。

 ……それにしても、怪物出てきませんね」

「それが怖いんだけどね。

 油断してる時に来るかもしれないから」

 

 確かにね。たまにしか出てこない怪物に対して、4人とも油断せず緊張感を保ち続けるのはなかなか難しいだろう。主に姉弟のことだけど。

 

 ともあれ、受け取った釣竿の具合を確かめ、手でしならせて強度を確認。

 ふむ。くじら島で借りた竿と大差ないな。これならいけるだろう。

 

 ひゅんとキャスティング、狙い通りの場所に釣針が落ちる。

 

「あ。もう絶対プロだわ」

 

 メレオロンが余計なこと言うのも気にせず、川面に意識をやる。

 

 うーん……チラチラ気配はあるけど、水面近くに来てるのしか分からないな。さすがに川底付近の気配は察知できない。

 釣糸の先に、どことなく小さな気配が近づいてきたので、スススと移動させて遠ざかる。隣のウラヌスがちらりと私を見てくる。

 いくつか感じる気配の中で、一際大きな気配を察知したので、そちらへ釣竿を動かす。

 

 しばらく待つこと10秒。ぐぅんと強く竿がしなった。

 合わせ、水しぶきが起きる。ウラヌスの手が触れるのを待ち、釣竿のグリップを締め、魚の動きをコントロールする。私自身がオーラで強化されてないから、なかなか手強い。機を見据え、一気に引き上げた。

 

 お、なかなかの大きさだな。釣糸に手を触れ、魚がカード化した。外す手間がないからスゴイ楽だよ。

 

 

『288:キングサーモン』

 ランクF カード化限度枚数172

 大きな魚体を駆使して遡上した 立派なサーモン

 味も絶品

 

 

「ホラあっさり釣りやがったこの美少女釣り師!

 ていうか、めちゃめちゃ良さげなんだけど。アタシのより絶対大物でしょ、コレ?」

「よく釣れる中では一番の大物だな。売り値は4800だったと思う。

 目的の白銀サーモンと比べても1個手前のランクだよ」

「アイシャ、釣りもすっごい上手だね」

「ふふ、ありがとうございます。

 シームも初めてとは思えないくらい上手でしたよ」

「ほんとっ!?」

「ええ。多分ですけど、水中の魚が見えてますよね?」

「うん、大体見えてるよ。

 あんまり遠かったり、水の流れが速いところは分かんないけど」

 

 私がバインダーにカードを収めながらウラヌスに目配せすると、彼も瞬き数回で応える。シームの念能力開発において無視できない要素だな、この水との相性は。『凝』も使ってないのに、水中視認能力が異常に高い。

 

 ウラヌスはアゴを揉みながら、

 

「気にはしてたけど、シームの鱗って魚のだよな?」

「うーん……

 実験してた人達は、ボクのこと半魚人とか言ってた」

 

 半魚人! こんな可愛い男の子捕まえて、なんて言い草だ。

 

「半魚人なぁ。

 どっちかっつーと人魚じゃね? ほとんど人間だし」

「えっ!?」

 

 人魚か。そういえば指定ポケットカードにそんなのあったな。イメージ的にも合うね。

 

「ぷぎゃーはっはっは!

 シームの人魚姫キタコレ! あひゃひゃひゃひゃッ!!」

「ぉお……

 おねーちゃんッッッ!!」

 

 腹を叩いて爆笑するメレオロン、震えて激怒するシーム。

 そ、そこまで笑っちゃ悪いと思うよ。メレオロンは笑う資格あるかもしれないけど……

 軽く半笑いの表情でウラヌスは、

 

「おいおいメレオロン……笑いすぎだぞ」

「あっひゃっひゃっひゃ!

 にゃんこ姫もセットでどうぞ? ぶひゃひゃひゃ!」

「メレオロンてめぇ、延焼させんじゃねぇッ!!」

 

 思わず「ブフゥッ!」と噴き出す。にゃんこ姫ッ!? これはヒドイ。

 

「シ、シームの横で、あの衣装着て踊ってみたらどうです?」

「アイシャッ!!」

「ぎゃははははッ!

 姫ユニット結成ッ!! 人魚とにゃんこの奇跡の競演!!」

「おねーちゃん、やめてよっ!!」

「にゃんこに釣られた人魚姫、運命の出会いが織りなす禁断の愛の物語ッ!!

 チケット好評発売中ッ! フヒヒヒ」

「ぶぅッッ殺す!!」

 

 流石に耐えきれず私が爆笑する中、2人にボッコボコにされるメレオロン。しゃーない、そりゃ2人ともキレるよ。でもゴメン、想像したら面白すぎる……

 

 

 

 

 

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