どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

142 / 300
第百二十九章

 

 川原に打ち上げられた魚のごとく横たわる変態。仕方ないね、悪は滅ぶもの。

 

 散々ケリをくれてたウラヌスが、据わった目で私を睨んでくる。

 

「アイシャも何か言ってなかったっけ……?」

「え? いえいえ、私は何も」

「そうだっけ……?」

 

 手を振って誤魔化しておく。元はと言えばメレオロンが悪いのだ、うむ。

 

「そもそも、ウラヌスが人魚だなんて言うからですよ」

「えー……」

 

 シームが顔を赤くして、そっぽ向いてる。照れちゃって、可愛いなぁ。

 

 とりあえず変態が痙攣してるけど、どうしたものか。順番的には次コレなんだけどな。メレオロンも【神の不在証明】使ってまで抵抗したけど、ウラヌス相手には全く意味ない。見事なまでに天敵だよ。

 

「もうおねーちゃんなんかほっといて、釣りしようよ」

「気持ちは分からんでもないが、釣りしてたら怪物がそのうち来るからな。

 死んだフリが通用するか知らんが、とりあえず邪魔だろ。このアホ」

「おねーちゃん、さっさと起きてよ!」

 

 弟に怒鳴られ、もぞもぞする変態。自業自得とはいえ、なんだな。

 

「ぉぃちち……遠慮なくボコっといてそりゃなくない?

 しかも男2人で、女1人をよ?」

「おねーちゃん、ヒトのこと散々姫とか言ったじゃん!」

「オマエ、オーラでガッチリ守ってたくせに何言ってんだ。

 そもそも本気で攻撃してねーよ」

 

 どうだかなぁ。本気で怒ってはいたみたいだけど。

 

 よいしょと立ち上がって、パンパンと汚れを払いながらメレオロンは、

 

「で、なに?

 一巡したけど、こっからは2人ずつ釣るの?」

「……いや、1人ヘッタクソがいるからな。

 そいつがまともに釣れるようになるまで練習させてから、2人1組に切り替える」

「へったくそで悪ぅござんしたね!

 アンタ達が上手(う ま )すぎんのよ!」

「うーん……

 アイシャは釣り出来るって聞いてたけど、シームがすぐ釣れるようになったのは予想外だったな」

「おねーちゃんがヘタクソすぎるだけだってば」

「うっせ!」

「まあまあ。

 初心者なら、メレオロンぐらいが普通ですよ」

 

 私が入れたフォローに、メレオロンが意味ありげな視線を向ける。2人敵に回してるし、私がフォロー入れないと孤立しちゃうからな。同性のよしみだ、うむ。面白かったし。

 

 

 

 2人にあーだこーだ言われながら、釣りの練習をするメレオロン。それを傍目に、私は怪物を警戒しておく。全然来る気配ないけど……

 

「うわっ」

 

 メレオロンの声。あまり手応えなさげな釣糸の先には、ぶどうのようなイクラの粒々がブラブラと。もそっとしてるなぁ……

 

「俺もこれはどうかと思うんだけどな」

「これ見て、食べたいとは思わないよね」

「おいくら?」

 

 絶対言うと思ったメレオロンの質問に、ウラヌスはなんとも言えない顔で、

 

「……1500。エサは付いたままだから、続けてどうぞ」

 

 

『8750:イクラ』

 ランクG カード化限度枚数580

 普通のイクラ サーモンの泳ぐ河で獲れる

 

 

 カードをバインダーに収め、不服げにキャスティングするメレオロン。

 

「で、アタシはいつまで練習すればいいの?」

「怪物が来ても即時対応できるくらい、余裕こいて釣れるようになるまで」

「えー……」

「正直そこまで期待しちゃいないが、オマエに練習させてるうちに来ると思ってた怪物がまだ出てこないしな。

 まさかイベント改変で出なくなったんじゃないだろな……」

 

 それはそれで嫌だな。せっかく身構えてるのに。

 

「──?

 あそこになんかあるけど」

 

 シームが指差す先。ここから少し距離をおいた川原に、立て札のようなものがある。

 

「あー、アレな。

 単なる注意看板だよ。大したこと書いてない」

「見てきていい?」

「構わんけど、メレオロンが釣りしてない時な。

 いま離れると、怪物が出るかもしれないからダメ」

「おねーちゃん、さっさと釣ってよ」

「くっそうぜぇ」

 

 

 

 しばらくしてメレオロンがサーモンを釣り上げた後、すぐ看板を見に行くシーム。

 看板の前に立って首を傾げた後、なぜかシームは看板に触れた。

 

 ボンッ! とカード化する看板。するのか看板。あれもアイテムなのか。

 カードを手に戻ってくるシーム。

 

「これ、どうしよ?」

 

 

『3190:くま出没注意看板』

 ランクG カード化限度枚数725

 くま注意と書かれた看板

 

 

「どうしよ? じゃねーよ、ンなもん取ってくんな。

 ゲインして元の場所に立てとけ」

「なんか効果ないの? くま除けになるとか」

「あると思うか?

 くま注意としか書いてない、ただの看板に」

 

 ないよねぇ。ていうか、もうちょっと注意喚起できそうなことを書けなかったものか。これじゃ無いよりマシとしか言いようがない。

 

 シームは不機嫌そうにほっぺたをふくらませ、

 

「ゲイン」

 

 アイテム化した看板をその辺にブッ立てた。くま注意シュールだな。

 

「おぉい。

 元に戻さなくてもいいけど、怪物と戦うんだから邪魔にならないトコにしてくれよ」

「もー細かいなぁ」

 

 ぶちぶち言いながら、私達がリュックを置いてる辺りに看板を立て直すシーム。

 

「……別にいいけどさぁ」

 

 諦めたようにウラヌス。確かにそこなら、看板が邪魔になることはないけどね。多分。

 

「じゃあメレオロン、釣り続けて」

「やっぱり? でもアタシ、結構上手くなってない?」

「うーん……まぁ贅沢言い出すとキリがないしな。

 あと3尾釣ってくれ。それで終わりにする」

「へいへい」

 

 くたびれたようにキャスティングするメレオロン。本人の言う通り、上手くはなってるんだよな。合わせのタイミングがまだズレ気味だけど。

 

 十数秒ほど釣糸を垂らし、

 

「ん? ──お、おぉっ!?

 なんかスゴイの来たけどッ!」

 

 派手に上がる水しぶき。ウラヌスが竿に触れながら、

 

「多分目当てのヤツだ!

 これが釣れたら合格にする!」

「っしゃあ!」

 

 俄然(が ぜん)やる気を出して踏ん張るメレオロン。なんだかんだで釣り姿がサマになってるよ。

 

「ぐぎ……重ぃぃ」

「まだまだ体力有り余ってるからな。

 粘れば釣り上げやすくなるんだけど。無理すると切れるぞ」

 

 ウラヌスが私の方をちらりと見てくる。そうだな、釣る時間が長引けば当然怪物が来てしまう可能性も高まる。

 

 メレオロンが格闘すること20秒。大きな気配が現れた。

 

「──ッ、ウラヌス!」

「分かってる! メレオロンいけるかっ!?」

「無理無理ムリ! まだキツイ!」

「くっそ……

 シーム、メレオロンのサポート! 最悪、竿を折られないように!」

「分かった!」

「メレオロン、手ぇ離すぞ!

 最大15秒粘れ!」

「えぇっ!? わ、わかったけど!」

 

 そんなやりとりを背に受けながら、私は岩陰から出てきた獣へ身構える。

 

 真っ白な毛並み、のっしのっしと四つ足でこちらを睨みながら近づいてくる。白熊だ。体長は2メートル以上あるか。

 相対距離はまだ10メートルあるが、おそらく駆ければ一瞬で詰まる。

 

「アイシャ、見といてね」

 

 私の横を通り過ぎ、そのまま歩いて白熊へ距離を詰めるウラヌス。

 

 白熊が四つ足姿勢のまま、近づいたウラヌスへ牙を剥き──

 

 パンッ!!

 

 熊の鼻っ面を上から叩く。大型犬のような獣の悲鳴。

 

 立ち上がり、吠えかかる白熊。瞬時、ウラヌスのハイキックがまた鼻先を捉えた。その蹴り足を下ろす軌道を捻り、白熊の向かって右わき腹へ爪先を抉り込む。

 

 ボンッ! と白熊がカード化した。

 

「ゴメン、拾っといて」

 

 すぐさま、メレオロンへと早足で向かうウラヌス。首肯しながら彼とすれ違い、落ちているカードを拾った。

 

 

『677:ホワイトベア』

 ランクG カード化限度枚数718

 大きな白熊 川に魚を求めてやってくる

 遭遇すると積極的に襲ってきて こちらを追い払おうとする

 

 

 拾ったカードを一瞥した後、私もすぐメレオロン達の方へ駆け寄る。既にウラヌスは、釣具の『周』へと戻っていた。

 

「イケるイケる、仕掛けろ!」

「おねーちゃんっ、右から思いっきり上げて!」

「うぅぅぅ……らぁぁぁぁぁッッッ!!」

 

 川面から、銀色に輝く魚体が宙へと舞い上がった。おおぉ!

 

 魚とともに勢いよく振り回される釣糸を、ウラヌスの伸ばす手が狙い澄まし、ビチッ! と制した。

 ボンッ! とカード化する。

 

 

『284:白銀サーモン』

 ランクE カード化限度枚数94

 充分な体力を残して遡上してきた 絶品のサーモン

 美しい魚鱗は美術品としても珍重され 味も美食家を唸らせる

 

 

 息を吐く一同。

 メレオロンの開いたバインダーに、白熊と銀魚のカードが収められる。

 

「はぁぁぁー。

 よりによって、いま襲ってこなくたって……心臓が躍ったわよ」

「ま、こういうこともあるわな。

 もうちょっと、じっくり戦うトコ見せたかったんだけど」

「アレだけ見せてもらえれば充分ですよ。

 本当は一撃で倒せたんですよね?」

「あ、やっぱり分かった?

 犬系と同じで鼻が弱点なんだけど、威力が足りないとああやって粘るんだよ。

 鼻を叩くと胴体のどこかのオーラが希薄になるから、そこを衝けば沈むんだけど……」

「私には見えませんから、鼻を一撃するしかないってことですね」

「至近距離に寄ると立ち上がるから、離れたところから一気に詰めて一撃でいいかな。

 アイシャならどうとでもするだろうし、あの程度なら手こずらないと思うよ」

「ちょっとー。

 大物釣ったアタシにお褒めの言葉はー?」

「はいはい、よくできました」

「雑ッ!?

 ちゃんと褒めてよ!」

「おねーちゃん、結構上手になったよね」

「……そう?」

 

 一言弟に褒められただけで、めっちゃ嬉しそうにするメレオロン。おやおや。

 

 

 

 大物相手に『周』なしでしばらく粘ったので、念の為に釣具を点検するウラヌス。少し傷んでいたらしく、釣針釣糸の交換をしている。

 

「さっきのが目的の1つなのよね?

 後は黄金イクラだかなんだか釣ったら終わり?」

「その通りだけど、むしろこっからが本番だよ。

 白銀サーモンはぶっちゃけ何度でも釣れる。けど黄金イクラは、ほんっと釣れない」

「だから2人体制なんですね」

「そ。ちょっとでも試行回数を増やさないと。

 ここからは技術よりも、忍耐がモノを言う。

 もちろん運がよければすぐ終わるけど」

 

 そもそも釣具の購入にも元手がかかってるからな。釣具店だけで36000ジェニーも使ったから、それ以上釣らないと赤字になってしまう。

 

「ゲイン」

 

 釣具セットをもう1つアイテム化し、そちらの準備もするウラヌス。

 

「おさらいしとくけど、俺とメレオロン、アイシャとシームのペアで。

 メレオロンはさっきまで練習してたから、しばらくはアイシャとシームが釣り。

 もしさっきと同じ白熊が出てきたら──」

「私が釣りを中断して戦います。

 私にアタリが来てる最中だったら、お任せします」

「うん。

 いずれにしてもアタリが来てない時に怪物が出たら、みんな釣りは中断してね。

 もちろんアタリが来た時も、もう1人はすぐ釣針を引き上げて。お祭りしちゃうこともあるし」

 

 私は何となく分かったけど、姉弟が首を傾げてる。

 

「お祭りってのはアレだよ。

 2人とも魚が掛かって、お互いの魚が逃げた先で釣糸が絡んじゃうことがある。それがお祭り。ちなみにメレオロンが釣糸に色々絡まったりしてるのもお祭り」

「うるさいわー……」

 

 

 

 相談を終えて、ようやく私にウラヌスの『周』が掛かる。

 

 シームと2人並んで、キャスティング。それぞれ邪魔にならない程度の距離を空けて、水面に釣針が落ちた。

 

「アイシャ、勝負しない?」

「ほぅ?」

 

 シームから思わぬ提案が来た。

 

「どういう勝負ですか?」

「そうだねー……

 5回釣って、カード売った時の合計額が高い方の勝ち、とかは?」

 

 ……ふむ。面白いけど、ゴン相手に恥ずかしい思いしたから、慎重にいきたいな。

 

「釣りそこねた場合は?」

「1回カウントで。

 ウラヌス、イクラ釣った時ってエサなくならないの?」

「なくならないな」

「じゃあエサ5回使い切ったら、その人は終了でいいかな」

 

 うーん。……もうちょっとルール詰めたいかな。こっちからも提案しないとつまらない。

 

「それだと、先にエサを5つ使い切った方が待ちになってしまいますね。

 ちょっと非効率じゃないですか?」

「じゃあ、どっちかがエサ使い切ったら2人とも終了にする?」

「それだと急いで釣った方が有利ですし、合計額を競うルールとしてはどうでしょうね?

 それにエサを消費しないイクラを釣った方が有利になりすぎますし。釣りなんですから、どうせなら大物で競いたいじゃないですか」

「うーん……それはそうだけど」

「なので、こうしませんか?

 2人ともエサを5つ以上使い切ったら、その時点で勝負終了。

 釣ったカードで、上から高い順に5番目までの売値の合計で競う。

 もちろんエサを無駄に消費して、5枚未満しか取れなければ不利になります。たくさん釣った方が有利にはなっても、上から5枚までなら圧倒的な差は付きにくくなるでしょう。先んじてたくさん釣るのも、じっくり狙って釣るのも、作戦のうちとなります。

 これでどうです?」

「……うん、分かった。そのルールでいいよ」

 

 私達の話を聞いていたメレオロンが首を傾げ、

 

「え? 結局どういうルールなの?」

「……2人は勝負始めていいよ。俺が説明しとく」

 

 ウラヌスのフォローに苦笑いしつつ、私達は『よーい、ドン!』で勝負を開始した。

 

 

 

 【釣り勝負】

 ・2人がそれぞれエサを5つ以上消費した時点で、勝負終了。

 ・1人がエサを5つ消費しても、もう1人がエサを5つ消費するまでは続けて釣れる。

 ・魚にエサを盗られるなどしてなくなった場合は、エサ1つ消費とカウントする。

 ・イクラを釣ってエサを消費しなかった場合は、エサ消費としてカウントしない。

 ・釣りで入手したカードのうち、売値の高いカード5枚分の合計額が高い方の勝ち。

 ・終了時に入手したカードが4枚以下でも、そのカードの合計額で競うこととする。

 

 

 

「2人とも、いちおう怪物が来ることも警戒しときなよー」

「もちろん分かってます」

 

 当然だな。ここでの釣りは怪物との戦いも織り込み済みなんだから、無視するわけにはいかない。

 

 キャスティングを双方一発で成功させ、水面へと意識を集中させる。

 

「エサ釣りなのに、2人してアクションさせてるな……」

「どういうこと? 解説のウラヌスさん」

「……あのな。いやまぁいいけど。

 えっと、疑似餌(ル ア ー )を使った釣りだと、エサに見せかける動きをして魚を誘ったりする。

 けど、エサ釣りはそんなことしなくても釣れるから、垂らしたままにすることが多い。派手に動かすとエサが取れちゃうしな」

 

 メレオロンへの解説を私達も聞いている。それは分かってるから、私達もあまり大きく動かしていない。少なくとも私は、小さな気配が近づいたら離す、大きな気配にはできるだけ近づけるようにしている程度だ。

 

「キタ!」

 

 くっ、先手を取られた。シームの竿をウラヌスが補助し、私はその間に釣針を回収する。同時にアタリを出すとマズイから仕方ない。

 

「やぁ!」

 

 シームが難なく釣り上げた。

 

「シーム、高級トラウト。1300」

 

 ふー、安いヤツか。初っ端で差を付けられたらやりづらいからな。勝負はこれからだ!

 

 再びキャスティング。

 

「キター!」

 

 シーム、はえぇよ! またか! ゆっくり釣らせろよ! オマエはゴンか!

 

 私が釣針を回収する隣で、もそっと釣り上がる粒々。

 

「シーム、イクラ。1500」

 

 カードを収め、念の為ちゃんとエサが付いてるか確認するシーム。その間、私は水面に意識を向けておく。

 

 キャスティング。僅かに狙いを逸らし、釣針を着水させてからそちらへ近づけていく。

 ……ぐ。食いつかないか。気配が逃げていってしまった。

 その様子が見えていたのか、シームがニヤニヤした。オノレ。

 

「あれ? 普通にアイシャ負けそうじゃない」

「今のところ、シーム優勢だな。

 結局、大物を釣れるかどうかだろうけど」

 

 だと思うんだけどな。でも最初に数撃ちゃ当たるをされたら、確かに不利だ。どうしたものか。──ちっちゃい気配が来たから、逃げ逃げ。

 

 あ、キタ。

 適度に泳がせた後、機を見て釣り上げた。

 

「アイシャ、高級サーモン。2400」

 

 少し不機嫌そうにするシーム。よしよし、やっと勝負の形になってきたぞ。

 

 

 

 ──シーム、高級トラウト。1300──

 

 ──シーム、高級サーモン。2400──

 

 ──アイシャ、高級トラウト。1300──

 

 ──アイシャ、高級サーモン。2400──

 

 ──シーム、イクラ。1500──

 

 ──シーム、レインボートラウト。2700──

 

 

 

「いま、スコアどうなってんの?」

「えーと……

 アイシャが6100、エサ5つ消費まで残り2。

 シームが9400、エサ5つ消費まで残り1」

 

 ぐぅ。やっぱり形勢不利か。勝負が始まって15分、シームのアタリに対して、私は半分だからな。大物釣れなきゃ普通に負けるぞ。

 内心焦りながら、水面に意識をやり──

 

「っ。アイシャ、来たよ」

 

 ウラヌスの声と同時に現れる気配。舌打ちしそうになりながら、釣針を急ぎ引き上げる。シームが後ろを振り向き、慌てて回収を始めた。

 

 さっきと同じ白熊が出現していた。今度は私の番だ。

 釣竿を落とし、足早にウラヌス達とすれ違い、白熊へと向かう。

 

 接敵。四つ足で、下から睨みあげるようにして「ウォー!」と吠えかかってくる白熊。

 逃さず体毛に触れ、その勢いを地面へ向けた。ぐわしゃッ! という音とともに川原に鼻先を沈める白熊。

 

「うわぁ」

 

 一撃でカード化した白熊の有様に呻くメレオロン。再びすれ違いざま、彼女にカードを手渡す。「しまっておいてください」とだけ告げて。

 

 急ぎ釣竿を拾い上げ、キャスティング。遅れてキャスティングするシーム。

 

「んな急がんでも……」

 

 呆れたように言ってくるウラヌス。分かってるけど、意識を切りたくないんだよ。

 より大きな気配を探り、粘る。シームも小物釣りはせず、大物を求めてるな。

 

 ──っ! キタキタキタ! この手応えは──

 

「アイシャ、キングサーモン。4800」

 

 よっしゃ、やっぱりそうだった!

 

「もしかして逆転した?」

「したな。アイシャが10900、シームが9400だから」

 

 シームが痛そうな顔をする。くっくっく、私は4回釣ってそのスコアだけど、シームは6回釣った結果のスコアだからな。5枚で下切りルールがあるから、そう簡単にスコアは伸ばせないぞ。

 

 ……! シーム、なんか雰囲気変わった! キャスティングした後、目の動きが格段に鋭くなってる。まさか──

 

「えっ、なんかシームの様子ヘンじゃない?」

「しぃー! ……たぶん今、目に『凝』ができてる」

 

 おぉい! 教えてもないのにっ!? 素晴らしいけど今はやめてよ、ちょっと!

 

 シームの竿にアタリが来て、さほど苦もなく釣り上げる。また同じの釣りやがった。

 

「シーム、レインボートラウト。2700」

「今、どういう状況なの?」

「シームがエサ5つ消費したから、アイシャが今のエサ使ったら終了。

 アイシャ10900、シーム10800」

 

 ということは、私がシームより先に小さいのを釣ってやれば勝ちか。

 

 ……いや、そんな決着は望んでない。最後は大物をきっちり釣って勝ちたい。せっかくシームが『凝』を自力で開花したんだ。真っ向勝負してやろうじゃないか。

 

 シームがちらりと見てきたので、私は口許だけ笑い返す。すぐ視線を水面に戻し、2人同時にキャスティングした。

 

 ──勝負事でこんなに緊張するのもしばらくぶりだな。楽しい。

 

 互いに小さな気配から逃げるのを繰り返す。──均衡を破ったのはシームだった。

 あっさり釣り上げた先には、色鮮やかなイクラの粒々。

 

「シーム、高級イクラ。5000」

 

 5000っ!? そんなするのかアレっ!?

 

「スコアはどうなったの?」

「計算めんどくさいな。えっと……

 アイシャ10900、シーム14300」

 

 ニヤリとするシーム。ぐ、ということは最低でもキングサーモンを釣らなきゃ負けか。……いいだろう、釣ってやる!

 

 鋭くキャスティング。シームも変わらず、目を機敏に動かしている。

 

「なんか無駄に白熱してるわねー」

「しっ、水差すな。……俺も同感だけど」

 

 うるせぇよ。いいだろ、別に。楽しいんだから。

 っと、集中集中。

 

 ────およそ5分。気配を探り続ける私、視線を泳がせ続けるシーム。

 

「ッ! あーもう、俺が相手するからやってて!」

 

 背後に怪物の気配が出現。私が動く前に、ウラヌスがそちらへ向かう。

 ウラヌスが怪物を蹴る音が響き、

 

『キタッ!』

 

 よりによって、2人同時にアタリが来た! あああ、ヤバイヤバイ! 私もシームも、多分小物じゃない!

 

「ああぁー、もぉーっ!」

 

 叫びながら驚異的な速さで戻り、私達の竿に伸ばした両手で触れるウラヌス。

 

「俺の手が離れない範囲で釣って!」

 

 うわ、難しい注文! そうするしかないけどさ!

 

 ウラヌスの手が触れる箇所を軸に、身体ごと竿を傾け、魚の動きをコントロールする。ホントよりによって、今までで一番手強いヤツだ。シームもかなり苦戦してる。

 

 ウラヌスがシームの竿を掴み、

 

「手伝うから、無理やりイケ!」

「──ぅぅぅりゃあああああッッ!」

 

 珍しくシームが吠え、強引に釣り上げてみせた。魚を捕らえてカード化した直後、私の竿へ注力するウラヌス。

 かなり余裕が生まれたので、しばらく魚を泳がせて、タイミングを見極め、一気に釣り上げる!

 

 銀色に輝くこの魚は──

 

「はあ、はあ、はぁ、はぁー……

 シーム、キングサーモン。4800……

 はあ、はぁ……

 アイシャ、白銀サーモン。8000」

 

 息も切れ切れにそう告げるウラヌス。運がなかったとは言え、申し訳ないな……

 

「で、どっちが勝ったの?」

「待て待て。

 えーと……

 アイシャ、18900。

 ……。

 シーム、17600。

 アイシャの、勝ち」

 

 っしゃあーーー!! 思わず、固く拳を握る。ぐったりと項垂れるシーム。呼吸を整え、カードをバインダーに収めるウラヌス。

 

 メレオロンが弟の肩に手を置き、

 

「……シーム。惜しかったわね」

「ふぅー。実際アホほど接戦だったしな」

「……いいよ、なぐさめなくっても」

 

 慰めはいらない、か。

 勝者が敗者に掛ける言葉はない、とは思うけど。別の意味合いならいいかな。

 

「シーム、見事な腕前でしたね。特に最後は素晴らしい集中力でした。

 オーラの使い方も堂に入ってましたし、修行の成果がきちんと発揮できていましたよ」

「……。ホントに?」

「ええ」

 

 ちょっと褒めすぎだとは思うけどね。でも、少なくとも目の『凝』に自力で到るほどのセンスを発揮してみせたのに、それを貶すようなことはしたくない。

 

「ていうかアイシャ、めっちゃ焦ってたもんねぇ。

 かなり本気でやってたし」

「せっかく初めて勝てると思ったのになぁ……」

「まぁ遊びだからな。

 そういう勝負なら、いくらアイシャでもまぎれはあるさ」

 

 ぅぐ。……子供相手にムキになったのが、今さら効いてきた。ま、まぁ今の私じゃ仕方ないさ、うん。

 

「ざーんねん。人魚姫の初勝利はお預けねぇ」

「おねーちゃん、それやめてってば!」

 

 じゃれあう姉弟を眺め、それを見るウラヌスと顔を見合わせ、私達は苦笑しあった。

 

 

 

 

 




 
 
 
 
 
・釣り勝負リザルト



 釣果カード上位5枚合計額:アイシャ18900 シーム17600 勝者アイシャ

 全釣果カード合計額:アイシャ18900 シーム23200

 釣果カード枚数:アイシャ5 シーム9

 エサ消費数:アイシャ5 シーム6

 キャスティング回数:14

 勝負時間:27分45秒



・アイシャ釣果内訳
 高級トラウト1300×1
 高級サーモン2400×2
 キングサーモン4800×1
 白銀サーモン8000×1

・シーム釣果内訳
 高級トラウト1300×2
 イクラ1500×2
 高級サーモン2400×1
 レインボートラウト2700×2
 キングサーモン4800×1
 高級イクラ5000×1





・おまけのカードデータ



『282:レインボートラウト』
 ランクF カード化限度枚数177
 虹色の魚鱗を持つ 美しいマス
 味も美味だが その見た目から縁起物として珍重される


『287:高級イクラ』
 ランクF カード化限度枚数164
 口当たりのいい 高品質のイクラ
 普通のイクラに混じって たまに獲れる


『293:高級トラウト』
 ランクG カード化限度枚数373
 高品質のマス 味はサーモンにも劣らない




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。