陽が傾いてきている中、ウラヌスとメレオロンが並んで釣りを開始する。もう5時半か。
「ウラヌス、いつまで釣りを続けます?」
「んー……キリのいいところまでかなぁ。
少なくとも視界が悪くなったら退かないと。
……まさか、夜に怪物と戦ったり釣りをするのもいい修行だ、なんて言わないよね?」
「言いませんよ、そんなこと。お腹だって空きますし」
「うん……
俺とシームが結構消耗してるし、アイシャの『周』は後1回かけ直すとして、どんなに粘っても1時間半がリミットかな」
そうすると7時か。ほぼほぼ暗くなってるだろうし、確かに頃合いだろうな。……いや、まさか冬の街が近いから、暗くなるのも早いとか? でも陽の傾き具合を見る限りは……
まぁ聞いておくべきか。
「ウラヌス、いちおうの確認ですが、この一帯だと暗くなるのが早いとかありますか?」
「ううん、それは大丈夫。
この島の中はどこでも同じはずだから。いつも通りだと思ってくれればいいよ」
よかった。それなら大丈夫だろう。
「分かりました。
とりあえず怪物は任せてくださいね」
「お願いするよ。
とは言っても、あの白熊だけね。違う種類が来たら、初見は俺がやるから」
「お、こっちキタわよ」
「オッケ、ちょい待てよ。
……ん。じゃあがんばれ」
素早く自分の釣針を回収したウラヌスが、釣竿を置いてメレオロンを『周』でサポートする。なんだかんだで重労働なんだよな。
そつなく釣り上げるメレオロン。
「あー……これは」
「トラウトだな。見事な雑魚」
「っさいわね。
にしてもコイツ、よく釣れるわー」
「ホントこいつは、しょっちゅう釣れるよ。
アイシャとシームは、コレとかサーモンに食いつかれないよう逃げまくってたからな。
ま、メレオロンは気にせずジャンジャン釣れ。ポケットにはまだまだ余裕がある。
エサも有り余ってっからな。正直、買いすぎた」
「はいはい」
うむ……私とシームが勝負したせいだな。時間を使って、小物を釣らなかったから。
「シームはしっかり休んでくださいね」
「うん」
結構ムチャしてたみたいだからな。今は食料とお茶とカイロ、『絶』も使って回復中だ。しばらく2人に釣ってもらって、シームの回復を待とう。
あーでも。
「そういえば、シームも戦う予定だった子熊が出てきませんね」
「あっ」
……完全に忘れてたな、シーム。
ノンビリ釣糸を垂らしながらウラヌスは、
「普通の熊自体、あんまり出てきてないからね。
速攻で片付けてるせいで、印象薄いのもあるけど」
どっちかって言うと、どさくさに出てきて印象が薄れてる気がするよ。毎度ヘンな時に来るからな。
「っと。噂をすれば」
ウラヌスの声が聴こえたように、少し離れた岩陰から白熊がのそりと現れる。私はすぐ立ち上がり、
「釣り、中断しなくていいですよ。
すぐ片付けます」
来るのを待たず、白熊の元へ近づいていく。
至近距離まで歩いて詰めると、予想通り白熊が立ち上がり、右腕を振りかぶった。
攻撃に合わせ、身体を左へと流し避け、くるりと回りながら熊の右腕へ触れる。向きを変えられ、川原へ突き立つ爪。同時に熊の鼻先へ裏拳を叩き込む。
宙を舞うカードを摘み取り、「ブック」でバインダーを出す。
私がカードを収めていると、シームがこちらを難しい顔で見ていた。
「どうしました? シーム」
「んー……
なんでかいつもより良く見えるから、アイシャが戦うのを見てたんだけど……すっごいことやってるなって。今さらだけどさ」
ほぅ。シーム、『凝』で戦いを見ていたのか。理論的なことはメレオロンから聞いてたような感じだけど、そういうのを自然にやれるのは凄いセンスだよ。
「私が凄いうんぬんはさておき、言われずとも戦いをよく観察できているのは結構なことです。
自分ならどう動くか、他の人の戦いを見ながら考えてみてくださいね」
「うん……」
身体能力は一朝一夕には伸びないだろうけど、念の技術的なことは吸収が早いかもな。本当は肉体の鍛錬を積みながらじっくり教えたいところだけど、事情が事情だし早回しも検討した方がよさそうだ。頭いいからね、シームは。
「でもさ。
アイシャの戦い方って、なんかカッコイイよね。ボクもそんなふうに戦いたいな」
ふふふ……やめろよ、シーム。照れるじゃないか。
ウラヌスとメレオロンが釣りを楽しむ中、私は合間に白熊を2匹仕留めつつ、シームと雑談を楽しんでいた。
「ん? 来たか?」
不思議そうなウラヌスの言葉。背後に現れた小さな気配へ振り向く。
今まで出現した白熊に比べれば、格段に小さい子熊が岩陰からのそりと出てきた。
可愛らしいと言っても普通の熊と比較すればの話で、少なくともシームよりは巨体だ。もちろん四つ足状態ではなく、全長の話だけど。こちらに向かって、「ぎゃー!」と低く吠えている。
「シーム、戦ってみるか?」
「ええっ!? いきなりっ!?」
「動きはむしろ、さっきまでの熊より単調だよ。
ただしそれなりに素早いけどな。ちゃんと『練』で防御しても、身体が変に固まったりしてると逆にケガする」
「だ、だからどうすればいいのっ!?」
「鼻っ柱にパンチ叩き込んでやりな。遠慮なく」
こんな様子で大丈夫か? ……いや、それをサポートするのは私か。2人がかりで戦うくらいのつもりでいいな。
「シーム。私も少し助けますが、攻撃はあなたがするように。
子熊の攻撃を誘いますから、隙を見て反撃してください」
「う、うん、やってみる!」
怖々と子熊に近づくシーム。けど威嚇に恐れをなしたか、それほどには近づかない。
私はポンとシームの背を叩き、
「釣りをする時の感覚を思い出してください。
見る、仕掛ける。基本はそれですよ」
そのまますれ違い、子熊の正面に立つ。私に対し子熊が立ち上がると、シームどころか私と同じくらいのサイズはあった。攻撃の気配を読み、噛み付いてくるのを下がり避ける。
再び前へ出て、両腕を交互に振り下ろしてくるのをやはり下がって避ける。
「シーム、もっと近くに。
そんなに離れてたら何もできませんよ」
背後から半ベソ気味な弱音が小さく聴こえたが、それを無視して私は再三攻撃を誘い、避ける。私が正面にいるから標的はそうそう変えないと思うけど、シームを狙って来たら考えないとな。
「シーム、アイシャの斜め後ろに付け。もちろんアイシャの動きは邪魔せずに。
アイシャより前に出るなよ。攻撃する時だけ素早く踏み込め。攻撃したら下がれ」
ウラヌスの言葉に返事はしなかったが、私の左斜め後ろにシームが付いた。
大振りの一撃を下がって避けながら同時に、
「今です!」
慌てたシームが拳を握って前に踏み込んできたが、遅すぎる上にかすりもしない。子熊、避けてすらいないんだけど。
「おぉい、シーム。ちゃんと狙わないと」
「シーム、まずしっかり足を動かしなさい。腰が下がりすぎてるわよ。
上半身だけ動かそうとしない」
ウラヌスどころか、メレオロンにまで指摘されるシーム。鼻をすすりながら、歯を食い縛ってるのが聴こえてくる。
私は子熊の噛み付きを避け、出鱈目に腕を振り下ろしてくる攻撃を更に回避。シームに手で合図。
今度は地面をダンと踏みしめ、しっかり狙ったシームの拳が子熊の顔面を捉えた。
残念ながら、鼻先をかすめただけだ。子熊の右眼に当たり、それなりに怯ませる。が、それだけだ。ダメージはほぼ通っていない。根本的に威力不足。
「シーム、『練』が乱れていませんか?
呼吸を整えてください」
言いたいことはいくらでもあるが、まずは落ち着かせる。涙を流しつつ、素直に深呼吸するシーム。
無難に攻撃を避けつつ、呼吸が落ち着いてきたシームに話しかける。
「いいですか。
踏み込みは悪くありませんでしたが、狙うのに時間をかけすぎです。
身体を止めることなく、移動しながら腕を振ってください。さっきの威力では、鼻先に当たったとしてもおそらく倒せません」
返事の代わりに、鼻をすする音が聴こえる。
「まずは威力、次に当てることです。
鼻先を正確に捉えなくてもいいですが、最低でも顔に当てること、そして速く攻撃してください」
シームの気配が整ったのを感じ取り、小熊の振り下ろし攻撃を避けつつシームに合図。
踏み込み、シームの腕が伸びる。怒りの形相を浮かべたシームの拳が、子熊の鼻先へと叩き込まれた。悲鳴が上がる。
が、まだだ。ダメージは通ったがトドメに到らない。悶えて暴れようとする子熊の腕を私が捉え、上半身を地面に叩きつけた。そのまま押さえ込む。
「シーム、もう一度!」
「あああああああッッ!」
吠えたシームの拳が、あがく子熊の鼻先を今度こそ叩き潰した。
ボンッ! とカード化する。
拳を振り切ったシームが、川原へ横倒しになった。私はカードを手に取り、内容を一瞥する。
『676:リトルホワイトベア』
ランクE カード化限度枚数90
白熊の子供 川に魚を求めてやってくる
遭遇するとこちらを追い払おうとするが 小熊なみのパワーしかない
倒れて息を吐くシームの顔の前に、私はしゃがみこみながらカードを置く。
「お疲れ様でした。
これはあなたの手柄ですよ」
「はあっ、はあっ、はあっ……
……ぜんぜん、違う。
ほとんど、アイシャが、戦ってた……」
「いいえ。あなたの力で倒したんですから、あなたの手柄です。
カード化が解けてしまいますから、早くしまってください」
「……。ブック」
のろのろとした動きで、横たわったままバインダーにカードを収めるシーム。
「まーったく。
アンタ、ほんとスパルタよねぇ」
うなじをかきながらメレオロンが、バツの悪そうな顔でウラヌスが歩いてくる。
「シーム、だいじょうぶか?」
「ほっといてよ……へいきだから」
なかばスネながらウラヌスの言葉に返すシーム。
「それなりに鍛えてたから、いけるだろうと思って戦わせてみたけど、課題が多いな……
まぁいい経験ではあったか」
「……」
シームの場合、動きが悪い原因は思い切りの足りなさなんだよな。多分、戦いに対する踏ん切りがなかなか付かないのだろう。
だから実戦経験を積ませるのが一番いい。こればっかりは仲間同士の修行だけでは補いきれない。
「シームを戦わせるのはいいとして、散々見た岩石地帯のザコとかと戦わせてからの方がよかったかもね。流石に初見のヤツはキツかったでしょうに」
メレオロンの指摘に、ウラヌスが「あーうん……」と頭をかく。
「やっぱそうだよな……
俺も初見はマズイかもとは思ってたんだけど、今の子熊って意外と出現率低いんだよ。だから今を逃すと、つぎ戦う機会は無いかもと思って」
「そういえば、強さのワリにランクEでしたね」
「出現率が普通の白熊より低いからだろうね。
白熊は1200ジェニーだけど、子熊は10000ジェニーで売れるし」
へぇ。強くないのに、白銀サーモンより高いんだ。
「なにかあるんですか? イベントとか」
「えーと……
多分だけど、こいつをバインダーに入れてる状態で釣りをすると、どうも親熊っつーか、大熊が出現しやすくなるみたい。確率の話だし、確証はないけど」
あー、なるほど。それはありそうだ。それでわざわざ低出現率でランクEとか、高額で売れるように設定されてるのかもな。
「とりあえずシーム、今日はもう戦わなくていいからしっかり休め。
釣りはまだやるだろ?」
「うん……
ぼく、戦わなくていいの?」
「ひとまずな。
アイシャ、いいよね?」
「私も、本人が望まないなら無理強いはしませんよ。
……さっきの私の教え方、どこかマズかったですか?」
「いや、アイシャはむしろよく指導できてたよ。
ちょっと俺達が急ぎすぎただけさ」
メレオロンが「ふぅ」と息を吐き、
「ウラヌスはまたずいぶん甘いわね。いつものことだけど。
ちゃんとアイシャにも言ってあげなきゃダメよ」
「……メレオロン。
なにか私のやり方で、気になるところがありました?」
「んー。
言われてやったんじゃ意味ないから、教えてあげない。
ウラヌスも言わないのはその辺を気にしてだろうし。自分で気づかなきゃダメ」
「そう言われましても……」
「じゃあヒント。
アンタとウラヌスの違いは何?」
……。
私はともかく、ウラヌスがやたらと優しいのは分かるけど。私は彼じゃないんだから、同じようになんて振る舞えないよ。
けど、母さんが言っていた女性らしくっていうのは、きっとウラヌスみたいな優しさを持ちなさいって意味もあると思うんだよな。難しい、難しい……
ウラヌスとメレオロンの2人が釣りを再開し、私とシームはお互い気まずげに休憩していた。あー、うん。そういうことか……
メレオロンは、アフターケアが足りないって言いたかったのか。……私も誰かと修行に励んでると、ふとしたキッカケで人間関係が悪くなることはよくあったんだけど、その辺ウラヌスはかなり気をつけてるみたいだもんな。ああいうふうにすぐ気がついて、適切に動ければいいんだけど……
ゴンとキルアの経験があるせいで、どうしてもシームに対しても同じようにしちゃうんだよね。2人は子供扱いされたがってなかったし。まいったな……
──いや。今からでも遅くはないか。
「シーム、さっきは無理をさせてすいませんでした」
「いいよ、別に。
アイシャが修行させたいのは分かってるし」
「それはその通りなんですが……
思ったより怖い思いをさせてしまったのは、私の落ち度でした」
「……
別にそんなの気にしてないから。
……ボクが嫌だったのは、カッコ悪いなって。なんかメチャクチャだったし。アイシャみたいにできないから、恥ずかしかっただけ」
あぁ、そっか……そのことが泣くくらい恥ずかしかったのか。
「シーム。
私も最初から上手くできていたわけではありませんから。
努力してるのに、恥ずかしいことなんて何もありませんよ。カッコいい悪いなんて気にしないでください」
「うん……うん」
膝小僧に顔を埋め、小さく泣き出すシーム。
そうだな……。ここのところシームの身の回りに色んなことが起こりすぎて、精神的に不安定なんだろうしな。こうしてちゃんと話すべきだったよ。
泣きやんだシームは、いつもの雰囲気に戻ってくれた。今は私と穏やかに雑談している。釣りをしてる2人は妙に静かだったけど。多分聞き耳を立ててるんだろう。
とは言え、アタリが来れば、にわかに騒がしくなる。ウラヌスが白銀サーモンを2度も釣りあげ、アチラはアチラで盛り上がっていた。こっちも白熊がちょいちょい来るけど。
何度目かの白熊を仕留め、カードをバインダーに収めていると、シームが物言いたげな顔で私を見てきた。
バインダーを消し、座りこんだシームの隣まで行って、私もしゃがみこむ。
「どうしました、シーム?」
「うーん……
アイシャって、ぼくの3つ上なんだよね?」
年齢の話か。まぁそうだけど。
「あなたが11で、私が14だからその通りですね」
私の誕生日が近いことは、ここでは伏せておく。ウラヌスの誕生日に話が及ぶとマズイしな。
「……アイシャが今までずっと修行してたとしても、どうやってそんなに強くなったのか分かんないなって。
学校とか行ってた?」
お、おう。イイとこ突いてくるな。学校に行ってたとか言うとボロが出そうだよ……。この世界の学校に通ったことないから、色々質問されるとヤバイ。
「その……色々ありまして。
学校のような施設には通わず、母さんに自宅で勉強を教えてもらいました」
「ふぅん。
お母さんがアイシャに修行もさせたの?」
「あ、いえ。そういうわけでは……
身体を鍛えるのは自主的にしていましたが、武術の修行法は別の人に教わりました」
「もしかして、すっごく教え方の上手い人だった?」
「……
教え方が上手いと言うより、指導者として尊敬している方です。
私にとって、どれだけ感謝しても足りないくらいに」
本当は多くを語りたいんだけど、そこで言葉を止める。ああ、もどかしいなぁ……
その後も、シームが色々質問してくるのをのらりくらりとかわし、
「2人とも! そろそろ交代しよう」
ウラヌスが声をかけてきた。
あー、助かった。子供の質問攻めは怖いよ。ゴンもかなり突っ込んだトコまでぐいぐい聞いてくるしな。
ウラヌスが私に『周』をかけ直し、釣竿2本の釣糸釣針を交換した後。私とシームは、並び立って釣りを再開する。今度はもちろん勝負とか無し。むしろ雑魚も積極的に釣る。
そのせいで、かえって竿を補助するウラヌスが忙しくなり、
「もうちょっと狙ってくれてもいいんだよ?」
「でも、それはそれでストレスなんですよねぇ」
「だよねー。だって簡単に釣れるのに、わざわざ逃げるんだもん。つまんない」
はぁーと息を吐くウラヌス。私達も入れ食いってヤツを楽しみたいのだよ。悪く思うな。
そんなこんなで同時にアタリが来ちゃったり、アタリ中に白熊が来たりとわちゃわちゃ釣りを楽しむ私達。
そうこうしていると──
「げっ」
呻くウラヌス。かなり大きな気配が岩陰に出現した。そこから「ぐるるる……」と低い声が響いてくる。
「大熊ですか?」
「まず間違いなく。俺がやるよ」
のそりと姿を見せる獣。
でっ……か! 巨人やメラニントカゲほどじゃないけど、数メートルの巨体を誇る熊がこちらを睨みつけてくる。通常の白熊に見慣れて、比較しちゃうからってのもあるけど。一番近いメレオロンの横顔が引きつってる。
ウラヌスが近づいていくと、威嚇の為か二本足で立ち上がる大熊。
「ごああああああああああぁぁぁッッッ!!」
くっそ低い獣声で吠えかかってくる。メレオロンしっぽ巻いてソッコー逃げる。シーム釣竿かかえて竦みあがる。
……弱点、鼻だっけ? 狙うのキツイな。届かねーよ。私の身長の何倍もあるんだけど。川原に大岩は転がってるけど、足場にするには不十分だし。
歩きながら、右手を高速で振り抜くウラヌス。
ドッ! と小さな音。──仰け反った大熊の鼻先に、針のような物が生えている。
そのまま大熊は声もなく後ろへ倒れていき、ずずぅん……! と引っくり返った。
ボンッ! とカード化する。
しばらくして落ちてきたカードを、ウラヌスが指で挟み取った。
……うん。水中のスライムを同じ方法で射抜いた時から、分かってたけど。
やばいな、この技量。完全に暗殺術じゃないか。初見殺しにも程がある。
バインダーにカードを収めながら戻ってくるウラヌスに、私は呆れて腕を組む。
「何の参考にもなりませんね」
「あ。ごめん……」
一個も真似できないじゃないか。今の私は物に『周』もできないし、念弾もオーラ砲も撃てないんだぞ。……ジャンプして攻撃するか、地面に倒して攻撃するか、身体に登って攻撃するか……。戦う機会があれば、その辺で攻めるとするか。
『678:キングホワイト』
ランクC カード化限度枚数47
極めて大きな白熊 川に魚を求めてやってくるが
遭遇すると他に目もくれず一直線に襲ってくる
熊系の怪物では最強の力を持つ
「え。え? アンタ、結局なにやったの?」
メレオロンは背を向けて逃げたせいで、決定的瞬間を見逃したらしい。
「別に大したことはしてないさ。
海で鮫とやりあった時と同じ。針で急所を一刺しだよ」
ああ、そんなこと言ってたね。
「あんなのでも一発とか、ウラヌスめちゃくちゃ強いね」
「……シーム。ああいうのは強いって言わないぞ。
ただ不意を突いて、仕留めただけだからな。
手ぇ抜きすぎて、むしろアイシャに怒られたよ」
「あー、えっと……」
そんなつもりで言ったわけじゃないんだけどな。参考にならなかったのは事実だけど。
「さっきも言いましたけど、私が戦う時にウラヌスの戦い方じゃ参考にできなかっただけですよ。……参考にできないのは私の問題ですし」
「んー。いや、俺の不注意だよ。
真っ向勝負すると、余分にオーラ食うから嫌がっただけだし。
参考にならなかったんなら危ないし、次も俺が戦う」
う、う。……どうやってもウラヌスのオーラが削れてく件。大丈夫なのか。
「オーラの残量、猶予あります?」
「……。
半分は切ってる。尽きはしないだろうけど、余裕もないかな」
「もう帰った方がいいんじゃない?」
シームの提案に、難しい顔をするウラヌス。
「……いや、まだ危険かもってほどじゃないよ。
ここで釣りをやめると後々響きそうだし、もうちょっとだけ粘りたい」
「ではせめて、大熊が出にくいようにした方がいいですね。
確か釣りをしてるプレイヤーが、子熊のカードを持ってると出やすくなるんでしたね」
「多分。
いま出てきたのも、シームが子熊を持ってる状態で釣りをしたから──」
「あっ!?」
「おっと、シーム。別にオマエのせいとかじゃないぞ?
俺は分かっててそのままにしたんだから。アイシャもそうだろうし。
大熊が出やすくなるのを狙ってそうしてたんだから、むしろ上手くいったんだよ。
ただ、この後は……」
「できるだけ負担をかけない方針でいきましょう。
今の釣り方は負荷が高いようですし、この後はまた大物狙いに切り替えます。
それでもいいですよね、シーム?」
「うん!
……おねーちゃん、カード預かって」
「子熊ちゃんのカードね。了解」
……子熊ちゃんねぇ。そんな可愛らしいモンじゃないんだけど。あの馬鹿デカイ親熊と比べたら、その通りだけどさ。
急ぐでもなく、穏やかに大物釣りに興じる私とシーム。徐々に暗くなる中、いくつかの良さげなモノを釣り上げた後、
「やっ!」
シームが軽快に釣り上げた釣糸の先には、
『286:
ランクE カード化限度枚数81
栄養価の高い 真っ赤なイクラ
普通のイクラに混じって まれに獲れる
滋養強壮の効果がある
ウラヌスは痛そうな表情でパチンと指を鳴らし、
「あー!
惜っしいなぁ、シーム。
あとワンランク上なら、目当ての黄金イクラだったんだけどなー」
「えぇー」
「でも、これもなかなか釣れないやつだぞ。
15000で売れる。ちなみに大熊も同じ売値な」
「シーム、大儲けじゃないの」
「んー。でも、どうせなら黄金イクラの方がよかったなぁ」
不満を言いつつも、姉に頭を撫でられ、まんざらでもなさげなシーム。微笑ましいな。
にしても、怖い怖い。もしさっきと同じ勝負してたら負けてたところだよ。あっぶない。
そんな和やかな雰囲気で、キャスティングする私達。
川の流れをぼんやり眺めながらシームが、
「黄金イクラ、ポンと釣れないかなぁ。
全然釣れないよね」
「そうですね。ウラヌスでも釣れませんし、かなり厳しいんでしょうか」
「お。
さりげにアタシをハブるアイシャ発見」
「あああ、ごめんなさい。
メレオロンも白銀サーモン釣ってましたね」
「そーよー。
どっかのお子様はまだだけどねぇー」
「むー!」
「あははは。シーム、気にしなくていいですよ。
4人の中で一番の稼ぎ頭は、きっとシームですから」
多分ね。ちゃんと計算してないから自信ないけど。
「ウラヌス、ほんと?」
「んー……
釣りに関しちゃシームがトップだと思うけど、怪物込みならアイシャかも」
「あー。それは勝てっこないね」
そうかなぁ。私は白熊狩ってるけどアレってそんなに高くないし、釣りの方はそれなりだから、子熊を倒したシームの方が稼いでるような……。シームはかなり釣ってるから、やっぱり私が負けてるんじゃないか? んー……もしかして2人とも、子熊を私の手柄にカウントしてる? 違うって言ってるのにな。
色々もやもや考えていると、岩陰に小さな気配が出現。
ん? 子熊か? にしては気配が小さいけど……新手の怪物か?
岩陰から、ちょこんと何かが顔を出した。
「……熊?」
シームが不思議そうに言う。
う、うーん。熊だとは思うんだけど……サイズが小さいのはいいとして、なんか見た目違くね? 散々相手した
「ウラヌス」
いちおう釣針を回収しながら尋ねると、緊張感もなく頬をぽりぽり掻いてるウラヌス。
「あー、うん。熊は熊だね。
ただリアルな熊じゃなくて、見ての通りヌイグルミみたいな熊だよ。
怪物じゃないから、襲ってはこない」
「危険はないんですか?」
「まったく、ない」
ウラヌスの言葉を聞き、私達は緊張を解く。まぁ警戒したくなくなるような外見だけど、そもそもグリードアイランドの怪物は、みんな念獣だからな。見た目で安心するわけにはいかない。
その熊(?)は岩陰から出てくると、トテトテ頼りない二本足で歩いてくる。……ホントちっちゃいな。シームより身長低いぞ。
なぜか私達の荷物の方へ歩いていき、立ち止まる。シームが立てたくま出没注意看板を見上げ、口許に両手を当て、
「こ、こわいくまー」
──ぶはぁッッ!?
ちょ、待て! どこから突っ込めばいいんだ! めっちゃ可愛らしい声で言いやがったけど! なんかガクブルしてる!
「熊がクマーって鳴いた!?」
「なんでコイツ、くま注意見て怖いくまーとか言ってんの!?」
「んー……」
姉弟の的確なツッコミに、ウラヌスが唸る。
やがて、こちらへトテトテ歩いてくる熊。
私達の前でヒョイと片手を上げ、
「食材よこせくまー」
へ? 食材っ!? なにそれ、追い剥ぎ? いや待て、食べ物じゃなくて食材??
「……えっとね。
コイツは『メイドクマ』。あれだよ、『メイドパンダ』の類似品。
だから食材よこせってのは、料理させろって意味」
あーあー。なるほど、そういう意味か。確かメイドパンダって炊事できるんだっけ。
「で、この子どうすればいいんです?」
「ラッキーはラッキーなんだよ。
こいつ、白銀サーモンを渡すと受け取るんだけど、計20枚渡すと黄金イクラを代わりにくれるんだ。いつまでも黄金イクラが釣れないプレイヤーへの救済アイテムだね」
「なるほど……
でも20枚ってかなり多いですね」
「正直キツイ。あくまで保険と考えた方がいいよ。
だから黄金イクラを狙いつつ、こつこつ白銀サーモンを釣っていくのが最善。こいつがいれば、だけどね」
ふむ。なら順調ってことだね。それは結構なことだ。
「食材よこせくまー」
私に向かって訴えてくる。……えっと。
「もしかして、渡さないとずっと言ってくるとか?」
「食材よこせくまー」
「まぁうっとうしいよね……
中途半端に渡すのもアレだから、こうすればいい」
ウラヌスが歩いてきて、熊の頭にポンと手を置くと、
「くまっ」
可愛く一鳴きして、カード化するくま。うん……
『199:メイドクマ』
ランクA カード化限度枚数19
絶滅寸前の珍獣 料理が趣味だが
爆裂クッキングしかしない 基本的に役立たず
メイドパンダがライバル
ランクAて。なのに、なんだこの役立たずカード。冗談が過ぎるぞ。いくら可愛くても許されざるよ。
……せめて黄金イクラと白銀サーモンの交換、テキストにヒントくらい書いといてよ。知らなきゃ売っちゃうじゃないか。
「必要になったら、ゲインして白銀サーモンを渡せばいい。
さすがにずっとそばにいたらウザイしな」
「ちなみに売ったらいくら?」
「……9万」
高ぇよ。
ともあれ、気を取り直して釣りを再開。でも大分暗くなったし、フリーポケットもほぼ満載だからシメ時かな。
シームが意地を見せて白銀サーモンを釣り上げてみせ、私が無闇やたらに重い魚を釣り上げたところで、フリーポケットが満タンになった。
本日の釣りはお開きとなり、半分ほど余ったエサはウラヌスが景気よく川へバラ撒いた。
ちなみに釣りあげたのはフグラだった……。またコイツか。だから毒魚もってくんな、食べられないだろ。しかも体重2トンもあるから、竿折れそうだったぞ。
・川のぬゲフンゲフンw……サーモン釣りリザルト
釣果カード枚数:アイシャ16 シーム29 ウラヌス10 メレオロン20
全釣果売却額:アイシャ140900 シーム76800 ウラヌス34500 メレオロン31700
怪物カード枚数:アイシャ7 シーム1 ウラヌス4
全怪物売却額:アイシャ8400 シーム10000 ウラヌス18600
特殊カード枚数:ウラヌス1
全特殊売却額:ウラヌス90000
入手カード枚数:アイシャ23 シーム30 ウラヌス15 メレオロン20
全入手売却額:アイシャ149300 シーム86800 ウラヌス143100 メレオロン31700
エサ消費数:アイシャ16 シーム21 ウラヌス8 メレオロン25
キャスティング回数:アイシャ45 シーム45 ウラヌス25 メレオロン40
釣り時間:2時間25分4秒
・アイシャ入手カード内訳
トラウト600×2
サーモン800×1
高級トラウト1300×3
高級サーモン2400×3
レインボートラウト2700×2
キングサーモン4800×3
白銀サーモン8000×1
フグラ100000×1
ホワイトベア1200×7
・シーム入手カード内訳
トラウト600×5
サーモン800×2
高級トラウト1300×5
イクラ1500×5
高級サーモン2400×2
レインボートラウト2700×4
キングサーモン4800×2
高級イクラ5000×2
白銀サーモン8000×1
赤銅イクラ15000×1
リトルホワイトベア10000×1
・ウラヌス入手カード内訳
サーモン800×1
イクラ1500×2
高級サーモン2400×3
レインボートラウト2700×1
キングサーモン4800×1
白銀サーモン8000×2
ホワイトベア1200×3
キングホワイト15000×1
メイドクマ90000×1
・メレオロン入手カード内訳
トラウト600×7
サーモン800×4
高級トラウト1300×4
イクラ1500×1
高級サーモン2400×2
キングサーモン4800×1
白銀サーモン8000×1