どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百三十一章

 

 疲れ切ったシームの代わりに私がリュックを背負い、帰り道も安全を考えて『再来』で省略。都市の入口からトレードショップへ行き、換金と貯金とバインダーのカード整理を済ませた私達は、ウラヌスおすすめの鮭鍋を提供してくれる料理店を訪れていた。

 

 くつくつくつ……と揺れるフタ越しに聴こえる鍋の煮立つ音をソワソワと聴きながら、出来上がりを今か今かと待ち構えていた。お腹すいたぁー。もうね、漂ってくる味噌の、上質な味噌の薫りがぁぁぁぁ。

 

 ウラヌスはぐったり、メレオロンは私と同じように楽しみにしてる様子。……そんな中、シームは見事にむくれていた。私が最後に超大物(フグラ)を釣り上げ、釣果額がダントツだったことが相当お気に召さなかったらしい。

 

 私が目を向けると、シームが「フン!」とそっぽ向く。私は「あはは……」と苦笑し、

 

「すいません、シーム。

 でも勝負してたわけでもないですし、別にいいじゃないですか」

「ウラヌスが計算しちゃったから、勝負したのと同じ!」

「ええー……俺のせい?

 でもこういうの、勘定しとかないと気持ち悪いしさぁ。

 俺、マメに帳簿つけてんだぞ?」

「まぁウラヌスのせいではありませんよ。

 家計簿の管理、いつもありがとうございます」

「家計簿……」

「ずっと勝ってたのに!」

 

 妙な感じにカオスってる。まぁいいや。シームもヘトヘトでお腹すいたから、イライラしてるんだろうし。そんなに私に勝ちたいなら、日々たっぷり修行したまえ。

 

 ……なんかメレオロン、ぐったり変な顔してるウラヌスと私を交互にチラ見してるな。私の視線に気づくとニッコリ笑い、

 

「アンタ達、仲いいわよね」

「……うっせーよ」

「?」

 

 よく分かんないな。ウラヌスは分かってるのか?

 ごまかすような感じで「よいしょっ」とウラヌスが身を起こし、

 

「頃合いだし、そろそろイケるはずだよ」

「よっ、鍋奉行♪」

「ちげぇ」

 

 私の冗談に苦笑しながら返し、かぱっと鍋蓋を開けるウラヌス。

 

 ぐつぐつぐつぐつ……

 

 思わず両手を打ち合わせて『うっひょー』と言いたくなるのを堪える。お昼にも食べたけど、どうしてお鍋ってこうも美味しそうなんだろうね?

 

「んぁー。味噌鍋、たまんねーなぁ……」

「お肉の代わりに魚が入ってるお鍋って、食べるの初めてかも」

「鮭鍋って聞いてたから少し不安だったけど、野菜もすっごい美味しそうじゃない!」

 

 恍惚(こうこつ)とウラヌスが、不思議そうにシームが、嬉しそうにメレオロンが感想を言う。

 

 空きっ腹にこの光景は、むしろ目の毒だな。唾をこっそり飲み込み、

 

「それでは早速いただきましょう」

『おーっ!』

 

 フタをした状態でテーブルに運ばれてきたので、鍋の中を見るのは今が初めてだけど、これまたすき焼きに負けず劣らずのジャポン風な鍋料理だ。ウラヌスがそういう料理屋をチョイスしてるんだろうけど。鮭の他に、白菜・大根・ネギ・春菊・シイタケ・エノキ・しらたき・豆腐……

 

「ジャポンの北国で食べられる郷土料理だね。

 味噌以外にも、牛乳やバターが隠し味で入ってる」

「ほう。

 ……確かに煮汁や薫りが、マイルドな感じですもんね」

「あとサーモンも、よくある塩鮭じゃなくて生鮭を使ってるんだよ。

 どうしても鮭の臭みが残るから、それを……」

 

 ウラヌスはテーブルの調味料を手に取り、鍋で煮立つ鮭にササッと振りかける。

 

「山椒の粉末で和らげる。これで完璧かな。

 イクラもあるけど、お好みでどうぞ」

 

 鍋の外にイクラを盛った容器があるから、何かなと思ってたけどそういうことか。

 

「どうやって食べるの?」

 

 シームが尋ねると、ウラヌスは微笑みながら、

 

「ホントに自由だよ。

 鍋の具に乗せて軽く煮てもいいし、取り分けた自分の小皿で具と一緒に食べてもいい。

 そうそう。鮭と一緒にゴハンへ乗っけて、親子丼にするのもいいかな」

 

 親子丼? ……あっ、なるほど。鮭とイクラで親子丼か! いいねぇ、ゴハン何杯でもイケそうだよ。

 

「アイシャ、鍋だけで足りなかったら好きなモノ頼んでいいよ。

 鍋の具材追加でも、個別の料理でも。ここって鮭料理、他にもいろいろあるからさ。

 もちろんみんな、好きに頼んでいいからね」

 

 太っ腹じゃないか、ウラヌス! では遠慮なく、鮭づくしを堪能させてもらおうかな。ふふふ。

 

 

 

 サーモンのお造り、鮭の照り焼き、鮭と茸のパスタ、鮭のフライ……

 鮭鍋の具材も2人前追加し、がっつり鮭づくしを味あわせていただいた。

 特に鮭ぞうすいで、みんなで寄って(たか)ってフーフーして、ウラヌスにあーんさせたのは面白かったな。めっちゃ嫌がってたけど、恥ずかしがりながら食べるからまた面白いんだ。可愛いし。

 集団餌付けでたいそう笑わせてもらった後、鮭アイスという珍味でシメ。

 

 楽しい食事を終えた私達は上機嫌で、夜のスノーフレイを歩いていた。いまは温泉宿へ帰るところだ。……お支払いが3万越えてウラヌスの顔が引きつってたけど知らない。

 

 スノーフレイの夜は、あちこち街灯に照らされた雪が光を反射し、ウラヌスが言ってた通り全然明るかった。おかげで雪が積もっていても、それほど歩くのに困らない。

 リュックは引き続き、私とメレオロンが背負っている。もうシームは回復に専念させることにした。目に『凝』をしてたから、オーラの損耗が激しいはずだ。釣りで身体も酷使させたからね。

 

「やっぱ、この釣竿ジャマなんだよな……」

 

 なんだよね。釣竿2本。これはウラヌスが運んでるんだけど、当然かさばってしまう。ゴンが当たり前のように運んでたけど、他の荷物が少なかったから問題なかったんだよな。今の私達がこんなリュックに収まらない手荷物を運び続けるのは、文字通り荷が重い。

 

「モタリケのところに預ける相談、早めにした方がいいんじゃない?」

「んー……」

 

 メレオロンの提案に、難色を示すウラヌス。

 

「いずれにしろ声はかけなきゃいけないでしょうし、早い方がいいかもしれませんね」

「ぼくもそう思う」

「……。

 面倒だなぁ。なんて話すべきか悩ましいし。正直、気が重いよ」

 

 嫌なのは分からなくもないけど、避けて通れないしな。預かってもらえなかった場合、どうするか考えないといけないからね。荷物を一部処分することになれば、攻略に支障が出かねない。時間的猶予が少ない私達にとって、それは深刻な問題だ。

 

「釣りはまだやるんですよね?」

「……まぁね。

 黄金イクラ釣れてないし、ここでやめちゃもったいない」

「なら釣具は処分できないですし、宿を引き払う度に持ち歩くわけにもいかないじゃないですか。選択の余地はないと思いますよ?」

「……。預けられたら確かに楽ではあるんだけど、どーも足元見られそうな気がする。

 嫌な予感しかしないんだけど」

 

 ウラヌス、お人好しだもんねー。さて、どうだろうなぁ。モタリケさんだけじゃなくて、ベルさんも干渉してくるだろうし。

 

「一度話してみて、足下見られるなら撤回すればいいじゃない。

 少なくとも相談1つしない手はないでしょうに」

「……分かった。

 今日、軽く聞いてみるよ」

 

 メレオロンの言葉に、ようやく折れるウラヌス。あまり気乗りしないみたいだな……。しょうがない、ここはもう一押ししておくか。

 

「一度クリアした私の経験から言わせてもらえば、このグリードアイランドで協力関係にある人数が多いのは、やはり強みになります。

 だからこそ、あのハメ組もクリア寸前までいけたんでしょうから。

 あなたがプレイヤーキラーを排除できたのも、他のプレイヤーとの連携があってのことでしょうし」

「あー、それを言われるとなぁ……

 ん、分かった。心配しなくても、ちゃんと相談してくるよ」

 

 やっと少し乗り気になったらしい。よかったよかった。

 

 

 

 温泉旅館『雪ん子の宿』に戻ってきた私達は、ひとまず部屋に荷物を下ろす。

 さてさて、美味しいゴハンも堪能したことだし、この後は。

 

 THE『温・泉』である。お風呂は良い……1日に何度入っても良いものだ。

 

 4人で移動し、すーっと何気なく男湯の方へ歩いていこうとしたウラヌスを──

 

 ガッ! と私とメレオロンが片腕ずつホールドした。

 

「ん?

 ──んんっ!?」

「アンタ、どこ行くつもり?」

「やだなーウラヌス。

 入口を間違えてますよ?」

 

 私達の視線の先には、温泉マークが描かれた暖簾。混浴の入口である。

 

「えッッ!?

 なんでっ!? もう終わったじゃん!」

「何が終わったって言うんですか?」

「だっ……

 だって、混浴はアレだろ? ……俺を診断したいから、一緒に入ったんだろ?

 もう必要ないじゃん!」

「確かイベントが発生するかもって言ってたじゃないですか」

「そうだけど、言ったけど!

 アレは1日のうちどっかの場所で発生するって意味のランダムだから!

 今日はもうここ入ったから意味ないって!」

「へー、そうなんですか」

「ところでアイシャ、アンタは混浴イヤじゃないの?」

「んー……

 恥ずかしいのはあるんですけど、今にして思えばすごく楽しかったなって。

 お風呂はいつでも1人2人で入れますけど、せっかくの機会ですし」

「いいこと言うじゃない!

 やっぱり思い出作りは大切よねぇー」

「ちょっと待って、俺の意見はっ!?」

「ボク、おっけーだよ」

「はい多数決、シームナイスよー」

「シィィィィムッッ!! なんでこういう時だけしっかり裏切るっ!?」

「ぼくは始めっから敵でーす♪」

「あ、私も敵に回りますね」

「うわぁぁぁぁんっ!」

 

 にゃんこが泣いた。

 

 

 

 脱衣所にて。

 

「そういえばさ。

 イベントが発生するの、1日のうちどっかって言ってたけど、1日の境目っていつ?」

「あー。

 混浴イベントの基準は分からんけど、大体ゲーム内のイベントは午前0時が境目だな。

 だからまぁ、この宿を発つ前にもう1回入らにゃいかんのだけど……」

「へー。やっぱり可愛いねコレ」

「さっ!? ……わんなよ!

 もぅ!」

 

 あっちでなんかイチャイチャしとりますな。仲のよろしいことで。

 メレオロンがこそこそ移動したので、私もこそこそ付いていく。

 覗き見。

 

「……ぶふっ!」

「ちょっと、また!?」

「あははは!」

 

 笑いながら顔を引っ込め、ウラヌスのぷりんとしたお尻を覆う黄色い毛糸のパンツ姿を思い返す。だから女子力、パないってば。もー。

 

「アイツ、今日勝負する気よ」

「何と勝負するんでしょうね」

「2人ともッッ!!」

 

 アハハハハ、ほんっと笑いが止まんないや。

 

 

 

 のんびり準備を終えて、曇りガラスの戸を開ける。

 

 脱衣所に冷気と湯気が混じりあって流れ込むのを肌で感じながら、その向こうの景色を見る。

 昼見た時と違い、夜空をバックに雪化粧した山が望める。チラチラ降っていた雪が今も降り続き、露天温泉の中へゆるゆると落ちてきていた。

 

 ヒタヒタと歩いていき、手の平で雪を受ける。……いいねぇ、こういう風情。

 

 掛け湯をしてから湯船へ。お昼と同じように、3人固まって湯船に浸かっていた。

 温泉のフチに腰かけて、足だけ湯に沈める。稚気が湧いて、両足をパタパタさせてみる。

 

『おぉー』

 

 なんか姉弟が妙な声を出した。

 

「……なんです?」

「そりゃアンタ。

 生きた芸術を見た! っていう感動よ」

「アイシャ、なんでそんなエロいの?」

 

 シラねーよ。……母さん、ちょっぴり恨むよ。ここまで美少女に生んでほしくなかったんだけど。母さんの母乳効果もあるんだろうけど、困るんだよなー……色々と。

 

「……」

 

 顔をそむけてるかと思いきや、ウラヌスはちょっと距離を開けつつもこちらを見ていた。

 

「お、ウラヌスもきっちり見てるじゃない」

 

 変態に言われて顔を逸らすウラヌス。

 

「やっぱり、ああいうのに憧れちゃう?」

「……。

 …………まぁ」

 

 何となく恥ずかしくなって、湯船に身体を落とす。当然だけど、慣れるもんじゃないな、こういうのは。うぅ、この程度のことで動じない精神が欲しい……

 

 ふぅー。……うん、いい温泉だな。小さな雪がふわふわ降ってくるのも幻想的でいい。

 少し冷えた肺を、湯気を吸い込んで暖める。姉弟のそばまで近づく。

 

 私をしばらく見た後、メレオロンは首を傾げ、

 

「そういえばアイシャ、アンタこの後どうするの?

 またお医者さんごっこするわけ?」

「しませんよ! そもそもそんなことしてません!

 ……温泉あがった後、マッサージはするつもりですが」

「おぼえてたー……」

 

 ぶくぶくぶく、と湯船で泡を吐くウラヌス。ふふふ、忘れるものかよ。

 

「そーだそーだ。

 全身マッサージするって言ってたわね」

「ええ。

 ちゃんとシームにも、やり方教えてあげますからね」

 

 嬉しそうにするシーム。泡噴いて白目を剥くウラヌス。そんなに嫌か。……まぁ嫌か。

 なんだかんだで今日はウラヌス散々だったろうし、マッサージは真面目にするとしよう。ある程度な。

 

 

 

 湯船から上がり、身体を洗い始める私達。

 

「ウラヌス、シャンプーはちゃんと持って来てますかー?」

「持って来てるよ!

 だから来なくていいからね!」

 

 ちっ、しっかりしてやがる。彼の髪の毛、洗ってあげるの楽しいんだけどな。トリートメントとリンスは流石にもういいだろうけど。

 なぜか隣にいるメレオロンは、短い金髪をシャカシャカシャカと鼻歌混じりに洗ってる。元々の髪質は余り良くなさそうなんだけど、手入れがそれなりにされてるから良い感じに見えるんだよな。腰の後ろで丸まったしっぽが、みょんみょん揺れてるのも気になる。

 

「ん? どしたの?」

「……いえ、シームは洗ってあげなくていいのかな、と思いまして」

「そうしたかったんだけど、なんか嫌がるのよ。髪の毛洗ってあげようとすると。

 自分で洗うって断られちゃった」

 

 こっちもか。ま、今日2回目の温泉だしな。毎回しっかり洗髪する必要もないか。

 

「アンタも洗いたかったの?」

「……洗いたかったですね」

「アレだもんねぇ。そりゃそうか。

 ……ちなみにアンタの髪洗いたいって言ったら」

「お断りします」

「あ、やっぱり?」

 

 そりゃそうだろう。絶対髪の毛洗うだけで済まないじゃないか。……ウラヌスもそれを見越してたんだろうけど。多分シームもかな。

 

 

 

 私も洗髪は適度で済ませ、早々に湯船へ戻る。夜だし雪も少し降ってるから、肌寒いんだよね。

 

「はぁー……」

 

 ぱしゃぱしゃと顔をぬぐう。湯船から遠く白化粧された山を眺めていると、ウラヌスもそちらへ視線を向けた。

 

「いい景色ですよね」

「うん、そうだね。

 見えてるあの雪山が、明日登山する予定の山だよ」

「……あの山って、どれですか?」

「あれで一繋がりの山なんだよ。

 いくつもあるように見えるけどね」

 

 なるほど。ちょっと急斜面の山があるから、あんなのどうやって登るんだろうと思ったけど、あそこまでは行かないのかもな。

 

「どこにあるか分かってるんですか?」

「んー?

 入手イベントが発生する場所を知ってるのか、って意味?」

「ええ、まあ」

「……そんな分かりやすい話じゃないかな。

 指定ポケットカードだけに限定して言えば、入手場所はランダムだから分からない」

 

 ふむ。ということは、だ。

 

「指定ポケット以外に取れるカードがあるってことですね」

「そういうこと。

 指定ポケットのアイテムに繋がるカードを色々取らないといけない。

 詳しくはまた明日話すよ」

 

 はぁ……改めて大変なゲームだって実感するよ。フリーポケットの枠が充分なかったら、とてもプレイ出来る気がしない。よくこんなゲーム、ウラヌスはソロでやってたな。

 

「よく1人でプレイ出来てましたね」

 

 そう言うと、ウラヌスは難しい顔をする。

 

「……改めて考えてみると、俺は逃げてたのかもね。本格的な攻略から。

 本気でクリアしようと思ったら、どうしても誰かと協力するか奪い合うかしないと無理だもん。まともにプレイしてたら、絶対フリーポケットが足りなくなる」

「……カードを預ける仲間だけでも、いないとツライですね」

「それはもう、いないとどうしようもないかな。

 前回の俺ですら、何度かカードを人に預けたりしてたし。

 ゲインして手元でかさばったアイテムをどうするかって問題もあるからなぁ……」

「前回はアイテムをゲインした後、どうしてたの?」

 

 シームが尋ねると、ウラヌスは湯船から出ている滑らかな肩をすくめてみせ、

 

「そりゃ処分したさ。1人で持って歩けるわけがない。

 特に市販品は使い捨てて、必要になったらまた買ったりしてたよ。

 いちおう指定ポケットの『隠れ家不動産』を使えば、一時的な隠し場所は確保できるんだけど」

「ありましたね、そういうの。

 今回は使わないんですか?」

「前にも言った気がするけど、1人でしか使えないんだよ。

 自分以外の誰かがその隠れ家の部屋に入ったり、隠れ家のことを喋ると強制的にそこを追い出されるんだ。

 ……そこにいる時、移動スペルで誰か飛んできただけでアウトなんだよね」

 

 あー、やっぱりそうなのか。使いにくすぎるよな。相談なく使わなきゃいけないなんて、今の私達の状況と全く噛み合わない。

 

「ま、横着はできないってことだよ。

 だから俺も、カード入手より優先して効率的なイベント攻略法を調べたりしてたんだし。

 全然フリーポケットが足りないせいで、非効率なプレイやってたなぁ……」

 

 はー、と息を吐くウラヌスに、私は微笑みかける。

 

「そのおかげで、私達は今スムーズに攻略できてるんですね」

「うん……

 報われたとは思ってる」

 

 しみじみつぶやくウラヌス。

 

「でもアンタ、急がないといけないワリに、前はのんびりやってたもんねぇ。

 早くクリアしないと、って焦る気持ちはなかったの?」

「んー……

 状況が違うしなぁ。昔はまだ余力があって、余裕かましてたんだよ。

 仮に余裕がなくても、急いでクリアしなきゃって焦ったりはしなかっただろうけど」

「なんで?」

「クリアした後もゲームが続くって分かってたから。

 誰かが一度クリアしただけで、これだけの規模のゲームが突然はい終了、にはならないだろうなって。

 俺の場合はアイテムを研究する時間を稼げればよかったから、別に誰かがクリアしても構わなかったんだよ。……そう思ってた」

 

 また疲れたように息を吐くウラヌス。けど、その目論見は外れちゃった、か。

 

「まさか締め出されるとは思わなかったからなぁ……

 たまたま俺が外に出てたのも運がなかったけど、ゲーム再開まで結構待たされたしさ。

 再開まだかまだかって、気が気じゃなかったよホント」

「アハハ……」

 

 すまんかった……ホントにすまんかった。

 

「あっ、いや。

 別にアイシャは悪くないよ? 俺がマヌケだっただけで」

「そういえば、気にはなってたんだけど。

 アイシャって、他のプレイヤーに目を付けられたりとかしてないの?

 クリアプレイヤーなんて知られてたら、逆恨みされることだって有り得そうだけど」

 

 メレオロンがなかなか鋭い指摘をする。さて……

 

「……ご存知の通り、私は移動スペルの恩恵を受けられません。

 最初の1ヵ月間は隠れていたのもあって、ゲーム攻略という意味で私はほとんど動けていないんですよ。

 なので、結果的に私がクリアプレイヤーであることを知る人はほぼいないでしょうね」

 

 表だって動いてくれたのはリィーナだからな。あの子は誰かに恨まれてるかもしれないけど、この場にいないんだし気にしなくていいだろう。現実で誰かに後れを取るとも考えにくいし。

 

「バッテラの懸賞金が消えたからツェズゲラは戻ってこないだろうし、警戒するとしたらハメ組の残党かな。

 ……アイシャはハメ組の襲撃、受けたことある?

 えっと、リィーナさんと一緒の時に」

「……あります」

「なら、誰かがキミのことを覚えてる可能性は否定できないね。

 アイシャがハンター協会の会長総選挙で一度当選してることを考えると、ハメ組所属のプロハンターなら記憶してる可能性は高いかも。

 恨みうんぬんは別にしても、アイシャがクリアプレイヤーっていう情報は絶対バレないとは言えないかな」

 

 あー、確かに……

 可能性を言い出すとキリがないけど、否定する材料がないなぁ……

 

「ま、いずれにしろハメ組の残党は警戒すべきだからね。

 気にしすぎても仕方ないけど、注意だけはしておこう」

「はい……」

 

 ホント、あの会長当選は余分だったよ……どこまでも付いて回るんじゃないだろうな。

 

「はぁ……

 私、先に上がりますね」

 

 なんだか疲れてしまい、のぼせてきた気がするので上がることにする。

 

 ウラヌスが目を丸くした。不思議に思いつつも私は端まで移動し、湯船から身体を持ち上げる。あー、火照った身体に冷気がひんやり気持ちいいな。

 鼻歌混じりに、身体に巻いていたバスタオルで髪をこする。はぁー、さっぱり……

 

 ──って、しまった! うっかり巻いてたバスタオルで……! しかもこのバスタオルめっちゃ透けてるじゃん、やべッ!

 

 背後に3人の視線をバッチリ感じつつ、私は脱衣所へ一目散に走った。あああぁ、気ぃ抜きすぎてた、恥ずいハズイ!

 

 

 

 

 

 ピシャッ! と脱衣所に繋がる曇りガラスの戸が閉まった後、呆然とする湯船の3人。

 

「え?

 なんであの子、あんな凡ミスしたの?」

「アイシャってさぁ。

 エロイえろいって注意してるのに、なんか気をつけないよね」

 

 姉弟が酷評を下す中、顔を赤くしたり青くしたりするウラヌス。

 

「ふふん。

 やっぱりキレイよね、あの子の身体。憧れる気持ちは分かるわよ?

 でもアンタは、ケッコー見慣れてるわよねぇ。

 だってあの子の氷像、あれだけ正確に作れちゃうんだし」

「ゃ、やめろオイ……」

「すごいよねぇ。

 アイシャのおっぱいって、後ろから見ても分かっちゃうもんね。

 ウラヌスの作った氷像、大きさとか全く同じだったんじゃない?」

「バババカ、やめろシーム!」

「オシリもさぁー、素晴らしくプリップリでしょ?

 あれ、いつ見ても羨ましいよねぇ。何度見ても飽きないわぁ。

 ねぇねぇ、アレってどんな触り心地?」

「やめろぉぉぉー……」

 

 ぶくぶくぶくと沈んでいくウラヌス。ちなみにからかう為に言ってるだけで、とっくにこの変態は触り済みである。

 

「それに、あの濡れた黒髪も芸術品よね。

 ていうか全体的に美しすぎでしょ。なに、あの奇跡のバランス。

 なのに自分が美少女って、自覚してるんだかしてないんだか、分っかんないしさぁ」

「へ?

 アイシャって、自分が可愛いって分かってないの?」

「分かってるつもりなのよ、本人はアレでも。

 でも人からどういう目で見られてるか、ちゃんと理解してる感じじゃないのよね」

「あー、そうかも」

「オマエラ……」

 

 メレオロンは「ふふーん」と楽しげに、

 

「あの子にちゃんと教えてあげたら? 油断しすぎだって。

 アンタもそうだけど、へんなトコでポヤヤーンとするクセあるし」

「お、ちょっと待て。

 なんだそのポヤヤーンて」

「自覚ないし。

 ……せいぜい全身マッサージされて、身悶えしながら考えてみなさい」

「うぉぉい!

 マジでやめろぉ、忘れてたのにぃぃ……」

 

 

 

 

 

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