アハハ……油断してたよ。お昼の時もサクラにバスタオル取られたりとかしたし、混浴だって意識がなかなか保てないな。楽しいからっていうのもあるんだけど。
ていうか、お昼の時はウラヌスが先に上がってて、私それバッチリ見てたしなぁ。まあ……いいや。今回のことは気にすまい。
「ウラヌスのこれ、写真に撮って残したいね♪
撮っちゃダメ?」
「ダメに決まってんだろッ!?
なに言ってんだ!」
3人とも私のすぐ後に上がってきて、脱衣所で着替え始めていた。で、シームの要望をウラヌスが一蹴した。ウラヌスの毛糸パンツ写真か……そういう写真が残るのはやっぱり問題あるな、うむ。裸見られたりするのとはまた別の恥ずかしさがある。誰に見られるか分かんないしな。
「シームもやるわねー」
隣の変態がなんか言ってる。私は浴衣の帯を締めながら嘆息し、
「ホンットに、あなたはシームの教育に悪いですね」
「へっ!?
いやいや、アタシのせいじゃないわよ」
「あなたのせいです」
まぁウラヌスが普段穿かないから、からかわれてるんだけども。……そういう意味ではウラヌスも教育に悪いな。穿かないにゃんこ姫め。
「あークソッ!
穿く必要なかった!」
ん?
「え? なんで脱いじゃうの?」
「別にいいだろ!」
んん? なんか向こう、妙な感じになってるな。
変態が首を傾げた後、迷わず覗きに行く。
「あれ?
アンタ、いつもの格好じゃないの」
……見に行ってもよさそうなので、私も気になってそちらへ顔を出す。
おや、ホントだ。ウラヌス、いつものワンピース姿だな。……あ、なるほど。それで、穿く必要がない、ね。
……。
「……ウラヌス。
下着は普通穿くものですよ?」
「知ってるよッ!! ほっといてよ!」
いやまぁ分かるけどさ。そこまで穿くのイヤか?
お茶とみかんを確保して、部屋に戻る私達。
3人浴衣に対し、1人ワンピースで浮いてるウラヌス。落ち着かなさげにお茶を煎れてくれてる。
「アンタさぁ。……スースーしない?」
「うるせぇぇぇぇッッ!!
いつも通りだよ、いちいち意識させんなッ!!」
うーむ、本人の自由ではあるんだけども。……改めて考えるまでもなく問題あるよね。
お茶を煎れ終え、こたつに入って「はぁー」と不機嫌に息を吐くウラヌス。
「その格好をしてるのは、出かけるつもりだからですよね?」
「……そうだよ。
モタリケに相談してこいって言ったの、自分達じゃないか。
だからこのあと行ってくる」
「あ、1人で行く気だったんだ」
シームがいま気づいたように言う。みんなでゾロゾロ行くと、急な訪問だから向こうも応対困るだろうしな。かえって話が長引く可能性もある。
「それはいいけど、『交信』で連絡しないの?
モタリケの都合が悪かったら、行かないかもしれないのに」
「行かずに済むなら着替えるだけさ。
『交信』使ったら、すぐ行くことになるだろうし、躊躇ってるんだよ。……話す内容がまとまってない」
「……ウラヌス。時間稼ぎはヤメてくださいね?
向こうでのお話も、長引かせる必要がないなら早めに切り上げていただけると」
「あっ、そういうこと。
アンタ、マッサージされたくないから寝る時間まで粘りたかったんだ?」
「ち……
ちがうよ。モタリケのやつと話に行くのが億劫なだけ」
どうだか。話すことなんて分かりきってるんだから、小動物よろしくコタツでモゾモゾしてないで、さっさと行けばいいのに。
「あんまりグズるようなら、私も付いていきますからね?」
「いいってば……
『再来』が2枚しかないし、俺これで往復する気なんだから。
きっちり手短に相談してくればいいんだろ?」
「そうですね……
では出かける前に、サクラを出してもらえますか?
サクラがオーラ切れで消える前に帰ってきてください」
「……」
「ぼくもそーしてほしいなぁ」
「もう温泉で桜出したじゃないか……」
「寝る前に呼ぶって約束じゃありませんでしたっけ?
今日もシーム、がんばってたじゃないですか。約束破りはいけませんよ?」
コタツに突っ伏すウラヌス。はっはっは、観念したまえ。
「なんか俺、今日めちゃめちゃ疲れるんだけど……」
「仕方ないんじゃない?
初日で汗フキフキした清算もしてるんだし、こういう日もあるでしょ」
メレオロンの言葉に、ぷくーと頬を膨らませるウラヌス。仕方ないね、ウラヌス自身も望んだことなんだし。今夜マッサージがてら診断してあげたら、ホントに清算終了だな。
「で、なに預けるかアテはあるの?」
「んー。
今のところ、直近で邪魔になってくるのは釣具と冬着、冬装備だな。
スノーフレイの宿を引き払うまでは使うからいいけど、別の都市へ行く時には預けたい。
できればカードも預けたいかな……。こっちは今のうちに預けたいくらいだけど」
「今日釣った白銀サーモンとか?」
「うん、一番かさばるのはそれかな。
今すぐ持ち歩く意味がないカードで価値が微妙なヤツは、雪山のカード収集に悪影響が出るから預けたいと思ってる。
ま、向こうがまともな条件で了承してくれりゃあね」
「預かってもらう対価は?」
メレオロンの矢継ぎ早な質問に、ウラヌスは少し首をひねり、
「カネ、かな。
預かってもらう期間を決めて、預かり賃を渡せばいいかと思ってるけど」
ふむ。……まぁそんなトコか。いくら出せば、何をいつまで預かってもらえるかは交渉次第だからな。そこはウラヌスに任せるか。
「他に質問は?」
「……アタシからは無いわ」
「ぼくから。
ウラヌス的には、お金をいくら払って、どれくらい預かってもらえたらOKなの?」
ウラヌスは視線を逸らして、悩ましげな顔をする。
「……預けるモノにもよるけど、1ヵ月で10万なら文句なし」
なるほどねぇ。私達からすれば、その条件なら喜んで預けるけど、モタリケさん夫婦がどうかは分からないからな。おそらくそれより安くはならないだろう。
「他に何かある?」
「ううん」
「私からは特にありません」
「うん。
それじゃもう連絡するか。……ブック」
バインダーを出すウラヌス。一口お茶を飲んでからバインダーを開き、最後のページを操作する。
「……ウラヌスだ」
『お? そっちから連絡してくるなんて珍しいな。
日曜の話か?』
「いや、それとはまた別件だよ」
『あら? じゃあなに?』
「ベルか。
えっと……ちょっと手荷物が一杯になってきたから、物を預ける相談がしたくて」
『ああ、そういう話?
それくらい別にいいけど』
『ちょっと待て。
荷物ってカードか? アイテムか?』
「……両方。特にアイテム」
『物置で預かるくらい、構わないわよ』
『だからちょっと待て。
あそこは物置じゃないって何度も言ってるだろ』
「おぉい、揉めるな。時間切れになるだろうが。
俺が聞きたいのは、物を預ける相談がしたいから、今そっちに行っていいか? だよ。
揉めるなら、俺がそっち行ってからにしてくれ」
『わたしはオッケーよ♪』
『……話くらいは聞くけど、オレは乗り気じゃないぞ』
「金は払うって言ってもか?」
『……』
『モリー。あんまり甲斐性ないのは感心しないわよ。
いいじゃない、お金なんて貰わなくても』
『お前こそ、見栄を張るなよ……
浪費するのはお前の方じゃないか』
『ちょっとモリー』
「やめろっつってんだろ、バカップル。
行っていいかダメか、きっちり返事くれよ」
『だからわたしはオッケーだって』
『さっきも言ったけど、話ぐらいは聞くよ。
ホントにすぐ来るのか?』
「アントキバの入口に『再来』で飛ぶから、5分か10分したら行くつもり」
『何人で来る?』
「俺1人だよ。別に身構えなくていい。
晩も食ったしな」
『分かった。
それなら、あまり遅くならないうちに来てくれればいつでもいい』
「助かる。じゃあ、また後で」
『ああ』
『日曜の話もしたいし、待ってるわね。バイバーイ♪』
「……。ブック」
バインダーを消し、コタツにあごを乗せるウラヌス。
「あいつらと話すの、つかれる……」
そこは同意する。
「にゃうん?」
「わーい♪」
ウラヌスの頭上にお呼び出しされて、コタツに飛び乗ったサクラを、嬉しそうに両手で迎えるシーム。嘆息するウラヌス。コタツから出て、立ち上がる。
「そんじゃま、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
「あんまり遅くなっちゃダメよ。
不機嫌になったこの2人の相手とか、アタシ嫌だからね」
「おねーちゃんこそ、今日はビール禁止!」
「えーっ!」
「アハハ……
もし遅くなるようなら、連絡してくださいね。
やむを得ない場合もあるでしょうから」
「うん、出来るだけ早く帰るよ。
3人を長時間ほっとくわけにもいかないからね。
それに、あっちはあっちで疲れそうだし……」
部屋を出ていくウラヌス。玄関口で靴を履いてから『再来』を使うのだろう。
「ふにゃあん」
「んー♪」
さて。サクラはシームに取られてるし、ウラヌスが帰ってくるまでどうしようかな。
アントキバの入口へ飛んできたウラヌス。
なんとなく夜空を見上げ、「ふぅ」と息を吐いた後、1人寂しげに歩きだす。
モタリケ夫婦宅へ到着。回復する為の『絶』をやめると、しばらくして屋内から足音が聞こえてきた。
ガチャリと扉が開き、
「おう。よく来たな」
「ああ、また来たよ」
いつも通りのモタリケを見て、ウラヌスはなぜかほっとする。
ダイニングへ通されるウラヌス。食卓に着いていたベルが「いらっしゃーい♪」と軽く声をかけてきた。可愛らしいカーディガンを羽織っている。
「コーヒーいるか?」
「ありがたくちょうだいするよ」
キッチンへ行くモタリケの背を眺め、知らず息を吐きながら食卓へ着くウラヌス。長い髪を両手で梳いた後、頬杖をつく。
「あらら。なんだかお疲れねぇ」
「んー……
まぁな。疲れるのはいつものことだけど、今日はめちゃめちゃ疲れたよ……」
「今日はどこ行ってたの?」
「……スノーフレイ」
「ああー。それは疲れるっていうか、寒くてキツかったでしょ。
この間ソルロンド行ったんじゃなかったっけ? ポンポンあちこち行き過ぎよ」
「あんまりのんびりしてられないしな。
別に慌ててアチコチ行ってるわけじゃないさ。半分は観光だよ」
「……寒いっていうより、やっぱりお疲れって感じね。
その格好で観光したわけじゃないんでしょ?」
「当然。ガチガチの冬仕様だよ。
だからスノーフレイで色々荷物が増えすぎて……」
「そういうこと♪
なに預けるとか、いつから預けたいとか決めてるの?」
「おーい。
オレ抜きでそういう話はじめるなよ」
キッチンから苦言を呈するモタリケ。
「だとよ」
「面倒ねぇ。どうせ預かるのは決定事項なのに」
そりゃお前の中ではな、と思うウラヌス。少なくともあんまり足元を見られるようなら、ウラヌスは提案を引っ込めるつもりではいた。
ベルの話相手を適当にしてるうち、うとうとしだすウラヌス。
ふと気がつくと、目の前からコーヒーの薫りが漂っていた。これで目が覚めたらしい。
両肩と背中に違和感を覚えて見ると、ベルのカーディガンを羽織らされている。
モタリケは食卓に着きながら、
「本当に疲れてるみたいだな。顔色悪いが、大丈夫なのか?」
「疲労が溜まってるんでしょ。
どっかでまとまった休み取った方がいいわよ」
「……。
このカーディガン……」
「羽織ってなさいな」
「話をするって言ってたけど、後日でもいいぞ。
すぐ預けたいって言うなら別だけど」
夫婦から気遣われ、疲労と眠気もあって何だか眩暈を覚えるウラヌス。
「あー……
いや、大丈夫だよ。心配しなくていい」
「そんなナリで、くたくたな顔して、心配しなくていいなんて言われてもねぇ。
いつも通りなら、わたしが近くへ来てソレ着せる前に絶対目を覚ましたでしょうに」
「……」
全くもってその通りではある。ただウラヌスも、疲労のせいばかりとは思えずにいた。
「……さっきまで温泉に入ってたからな。
ちょっと気が抜けてたんだよ」
「温泉!
そっか、スノーフレイだもんね。
いいわねぇモリー……温泉だって。羨ましいわー」
「ほら、こうやって浪費しようとする」
「ははは……」
乾いた笑いで返すウラヌス。この夫婦は終始この漫才である。
「スノーフレイって、確か混浴なかったっけ?」
「……あるな。
指定ポケットカードのイベントだし」
「じゃあ混浴に入ったわけ?」
「……。
はいったけど」
「きゃー! だいったぁーん♪
ねぇねぇ。もちろんあの子とよね?」
言うと思ったよ……
きゃっきゃと騒ぐベルに、ぶすっとしながらウラヌスは、
「4人でだよ」
「あ、4人……なるほど」
急に盛り下がるベル。直後、また盛り上げ直し、
「で、で。
あの子、やっぱりナイスバディーだった?
興奮した?」
「……ベル。
お前が期待してるようなことなんて、何もなかったからな?
ちゃんと身体は隠してたよ。当たり前だろ」
「なぁんだ」
なんでお前が興奮しとるんだ、と不機嫌になるウラヌス。モタリケは2人の顔色を窺うだけで、口を挟んでこない。
タタタン♪ とベルは食卓を爪で小突き、
「せめて温泉土産とかないわけー?」
「みやげなぁ。いま宿泊してる真っ最中だから、土産って感じでもないだろ。
……まぁそんな気の利いたもんじゃないが」
ワンピースのポケットから、みかんを2つ取り出して食卓に置くウラヌス。
「オレンジ?
なんでこんなの持ってたの?」
「オレンジっつーか、厳密にはミカンな。
俺達が泊まってる温泉旅館で売ってたもんだよ。
どうせなら持ってきてやろうと思って」
ベルはミカンを手に取り、
「へぇー。可愛い果実ね♪
これって、皮は手で剥けるの?」
「子供でも余裕で剥けるよ。
手軽に食えるオヤツみたいなもんさ」
カップを手に取り、コーヒーを口に含むウラヌス。「ふぅん」と言いながら、ミカンを手にするモタリケ。食卓に置き直し、
「それはいいけど、相談しなくていいのか?」
「よくねーよ。
相談始めていいのか?」
「ほいほーい♪」
剥いたミカンを早速口にして上機嫌なベル。手で話を促し、コーヒーを飲むモタリケ。
ウラヌスは一息吐き、話を切り出した。