どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百三十六章

 

 夜更かししたワリに、結局みんなそれほど遅くない時間に起きてきた。四人部屋だから、1人起きるとみんな物音や気配で起きちゃうんだよね。

 

 眠そうなシームにウラヌスが「もう少し寝ててもいいぞ」と言っても「お腹すいた」と返してるのがなんとも微笑ましかった。

 

 部屋に運ばれてきた美味しい鮭定食に朝から舌鼓を打ち、そのまま皆コタツに籠もってお茶を飲む。

 

「まぁなんだな。結局こうなるか」

 

 まったり顔のウラヌス。寒い朝からおコタで暖まる……幸せの1つの形だよ。ぬくぬく。

 

「そういや、2人は風呂入ってこないのか?

 急ぐ必要もないけど」

 

 メレオロンとシームを交互に見ながら、尋ねるウラヌス。ああ、そっか。私達は夜中に入ったから流石にもういいしな。

 

「でもさー。

 アタシ達だけで入ると、イベント発生しちゃうんじゃないの?」

「……

 俺とアイシャが風呂付き合わずに、2人で混浴に入るなら、そうだな」

 

 考える姉弟。夜中に混浴でイベントが発生し、指定ポケットカードが入手できたことは2人にも伝えてある。無理して取る必要はないから、発生しても気にせず無視すればいいだろうけど……まぁ気になるか。

 

「男湯女湯に別れて入れば、気兼ねせずに済みますよ?」

「それもねぇ……」

 

 弟を気遣わしげに見るメレオロン。アレか、1人でお風呂に入らせるのが不安なわけか。昨夜のことがあるから、過保護とも言えないしな。

 

「あ、男湯女湯も温泉なの?」

「温泉だよ。同じ露天風呂。

 ……まぁ混浴と男湯がそうだったから、多分女湯もそうだろうと思う」

 

 シームの質問に答えるウラヌス。……外に直結する場所だし、やっぱり1人で入るのは避けた方がいいかもね。

 

「っと、忘れてた。

 あんまりグズグズしてると、他のプレイヤーがここに来るかも。

 朝からカード目当てに温泉巡りする連中もいるだろうし」

「うぅん……

 それ言われると、アタシはソッコー入ってこないとマズイわね」

「混浴に入るならな。

 女湯でも、絶対大丈夫って保証はないけど」

「……シーム、混浴に入りましょ。

 何かあったら困るし」

「おねーちゃんがそう言うなら、ぼくもいいけど……

 イベントはどうするの?」

「どっちかだな。

 無視するか、挑戦するか」

「やめときましょうよ。

 もう取ったカードなんでしょ? 朝から疲れるじゃない」

「私も無理して取る必要はないと思います。

 それに、挑戦するとしたらシームになっちゃうんじゃないですか?」

 

 ウラヌスに尋ねると、難しい顔で彼はうなずき、

 

「……クリアパターン把握してるの、男で挑戦した時だけだからね。

 俺が付いていっても、湯船にさえ入らなきゃパーティー判定にはならないだろうから、イベントは発生するだろうけど……シームにオーラで文字作って読ませるとか面倒だな」

「体力は温存してほしいですから、やめておきましょう」

「そうだね……

 2人とも悪いけど、イベントが発生してもゲームキャラは無視で」

「うん」

「分かったわ」

 

 

 

 姉弟が温泉に浸かってる間、私とウラヌスはコタツでぬくぬくしながら、今日の計画について相談する。荷物をどうするかという問題があるし、私だけでも予め聞いておかないとね。

 

「雪山に荷物は全部持っていかないんですよね?」

「もちろん。

 登山に必要な物をしっかり揃えつつ、余分なモノは置いてくよ」

 

 姉弟には洗濯物を預けないように伝えてある。この宿は引き払うから、預けた洗濯物を回収するタイミングがなくなっちゃうしな。

 それはそれとして、どこかに余分な荷物を置いていく必要がある。

 

「いつ戻ってこれるか分かりませんし、宿には置いていかず、モタリケさん達のところに荷物を一時的に預けませんか?

 貴重品を宿に置いて行ったり、雪山まで持っていくよりは安全だと思いますが」

「……そうすると、『同行』を往復で2枚消費するね。『再来』はもう無いし。

 もったいないかなー」

「であれば、スペルカードを先に補充します?」

「んー……

 余分なスペルカードでフリーポケット圧迫したくないんだよね。雪山で結構カード拾うことになるから」

「たくさん買えばそうでしょうけど、少しずつ買えばいいんじゃないですか?

 必要分を確保したら買いやめる感じで」

「うーん。

 ……そっか、そうだね……

 いちおう関連カードは昨日『名簿』で調べてあるけど、念の為にもう一度確認した方がいいだろうし、先にマサドラへ行ってスペルを少し買い足そうか」

「モタリケさん達への連絡はどうします?」

「最優先かな。

 それを怠ってダメだった場合、マサドラへ行くのも無駄足になっちゃうし」

「じゃあ今から連絡します?」

「ううん。

 連絡すると出発時間を決めなきゃいけなくなるし、温泉浸かってる2人と相談してないからね。

 もう少しのんびりしよう」

「ええ、そうですね。

 ……じゃあ、少し食事に行きません? 2人を待ちつつ、食べながら相談しましょう」

「おっけ。行こっか」

 

 

 

 そして、売店近くのテーブルで。

 

「ホント美味しいですねぇ♪ この温泉卵。

 いっくらでも食べられますよ」

「あーうん。ホント好きだね、それ」

「だって宿を引き払うなら、これで食べ納めですし」

「まぁその通りだけどさ。

 なら俺も頼もっかな」

「あ、私も他のを頼んじゃいます」

「……アイシャ、相談がメインだからね?

 食事はついでだよ?」

「分かってますって」

「……」

 

 

 

「──で、2人だけで旨いモン食いまくってたと? んまー。

 ちょおっと目ぇ離したスキにカワイ子ちゃんが2人揃って、おっ上品なデートだこと」

「そ、相談がメインですよぅ……

 ついでに軽く食事しただけですってば」

「こんだけカラの容器が並んでるのに? へぇーへぇー」

「2人とも、ズールーいー」

 

 買い食いしてたところを、お風呂上がりの姉弟に見咎められ、今にいたる……

 

「俺は食いまくってないよ。食いまくってたのはこちらのお嬢さん」

「ちょっと、ウラヌス!」

 

 売りやがったコイツ! ちょっとぐらい、かばってくれたっていいじゃないか! ……事実だけどな、ちきしょう!

 

「分かってるわよ、それくらい。

 アンタ、そういう言い訳の仕方は感心しないわよ? 女心、理解できないの?

 あとアイシャは、食事する時に自分が女だと少しは自覚しなさい」

 

 ぐぉぉぉ……! メレオロンに、メレオロンにそんなこと言われたぁぁぁ……!

 

 テーブルに突っ伏す私達。ウラヌスだって、そんなこと言われたらショックだろうに。売られた私が同情するのもなんだけど。

 

「おねーちゃん、ちょっと言いすぎじゃない?」

「へいへい。言いすぎで悪ぅござんしたね。

 アタシ達も食べていいなら、別に文句ないわよ」

「もちろん、どんどん食べてください!」

 

 顔を上げて勢い込んで言う私に、3人は若干ヒキながら、

 

「えっと、食べるのは構わないけど、おなか壊さない程度にな?

 これから雪山行くんだし……」

「アイシャじゃないんだから、そんなに食べないよ……」

「そうよ、底なし沼と一緒にしないでよ」

 

 沼とはなんだ、沼とは! 遺憾の意を表する!

 

 

 

「ああ、別にいいんじゃないの?

 荷物預かってくれるって言っても、どんだけ預けられそうか一度見てみたかったし」

 

 相談していた内容について伝えると、甘い物を食べて機嫌が直ったのか、メレオロンはあっさり頷いた。シームも口にクリームをつけたまま、うんうんうなずき、

 

「ぼくもいいよー。

 なに預けるかって決めてるの?」

「んー。ぼんやりとだな。

 アイシャは?」

「改めて聞かれると悩ましいですね」

 

 なくすと惜しい物は多いんだけど、雪山登山に持っていくのも怖いしな。いったん手元から離れるのもやむなしか……

 

「そこも踏まえて向こうと相談かな。

 思ったよりバタバタするかもね」

 

 

 

 部屋に戻り、ウラヌスが『交信』でベルさんに連絡を取る。

 

『──ああ、はいはい。言ってた一時預かりの件ね。

 もう片付けて場所確保してあるから、いつ持ってきてもいいわよ』

「そっか。助かるよ。

 ちょっとこっちもバタバタするし、午前中のどっかになりそうだけど構わないか?」

『別にいいわよ。わたしはずっと家にいるから』

「分かった。なるべく急ぐようにするよ。

 それじゃ──」

『あ、待った。

 1個忘れてないでしょうね?』

「うん? なんのこと?」

『あー。やっぱり忘れてる。

 お・ん・せ・ん・み・や・げ』

「……おおっと。確かに忘れてた。

 もしかしたら行く前に思い出したかもしれないけど、今は忘れてた。ワリ」

『あっははは!

 もー、覚えてるとか言っとけばいいのに、マジメちゃんなんだからー♪ でもおみやげ楽しみにしてるわ。じゃあねー』

「じゃあな」

 

 通信を切るウラヌス。

 

 私達が微妙な顔で見ていると、ウラヌスは不機嫌そうに見返してきて、

 

「……俺って、そんなにマジメちゃん?」

 

 私は思わず「ぶふーっ!」と噴き出した。

 

「ええっ、なに? なんでアイシャ、んなツボってんの?」

「だ、だって……

 マジメじゃないヒトが、俺ってマジメちゃん? なんて聞くわけ……アハハハ!」

 

 私がバンバンこたつ布団を叩いて笑ってると、メレオロンが呆れた顔で、

 

「あー確かに。

 アンタ、ほんっと生真面目よね」

「っせーよ! ほっとけ!」

 

 うっかり、にゃんこ乗っけてマジメな顔したウラヌスを思い浮かべ、私はしばらく笑い転げた。助けてキュマニャン!

 

 

 

 ほっぺたプッとふくらませてスネるウラヌスを横目に、預ける荷物を吟味する。着替えとか色々あるからあんまり見られたくないけど、時間かけるわけにもいかないしな。

 姉弟の荷物は多くないのでウラヌスに任せ、2人とも居間のコタツに籠もったままだ。うらやましい……

 リュックから引っ張り出した衣服を、寝室のあちこちにバサバサ広げて畳んでしてると、ウラヌスは「んー」と考え込み、

 

「どうしました?」

「普段着や夏服を預けた方がいいか悩んでて。

 預けたらだいぶ荷物減らせるけど、アントキバやマサドラを冬装備でウロウロしなきゃいけなくなるから……」

「あー。

 でも預けた方がいいかもですね。服ならどうとでもなりますし。

 貴重品は持って歩いた方がいいかもしれませんが」

「まぁ冬服でうろつくのは我慢できなくもないけど……

 貴重品は貴重品で預けた方がいいかも。

 預けたら盗まれる可能性もあるけど、雪山で荷物を放棄しなきゃいけない可能性もゼロじゃないし」

「あ。あー……」

 

 それもそうだ。私はなくす心配をしてたけど、捨てなきゃいけない可能性もあったか。結局リスクをどこにやるか、ってだけの話だな。

 

「ところで、これから登る雪山ってそんなに険しいんですか?」

「……雪山は素人でも登れるっちゃ登れるよ。登頂するわけじゃないから、クライミングなんてしないし。

 ただ、たとえ念能力者でも楽勝じゃない。

 更に言えば、怪物は全く別問題」

 

 なるほどね。なら厳しめに考えた方がよさそうだな。いい修行になるといいんだけど。

 

 

 

 預ける荷物の(よ )り分けが済んで、ウラヌスが用意していた布袋にそれぞれ預ける荷物を詰め終える。それから私達は冬装備を着込んだ。軽くなったリュックは、姉弟に背負ってもらう。預ける予定の荷物を詰めた布袋は、私とウラヌスが持つ。釣竿2本はウラヌスが持っている。邪魔になった時だけ、釣竿は私が預かることに。

 

 そして部屋を出て、売店でベルさん達へのおみやげを買い、宿をチェックアウト。

 

 玄関口でそれぞれ靴を履く。ウラヌスが目配せする。メレオロンが1つ頷き、フードを目深に被った。

 

 私達が言葉もかわさず玄関を注視していると、ガラガラと外から戸が開く。

 

 向こうも当然気づいていたのだろう、見覚えのない男数人がこちらを見ながら玄関戸を潜って入ってきた。ヒゲをボーボーに伸ばしたおじさんが、

 

「よう。

 アンタ達、ここはどうだった?」

 

 と低い声で聞いてくる。ウラヌスは質問の意図を察したらしく頷きながら、

 

「ああ、ここが今日のアタリだよ」

「おっ、いいねぇ。

 情報ありがとよ!」

 

 言って、プレイヤー達はドカドカ旅館の廊下を歩いていった。あー、土足だし……

 

 ゲームキャラが出迎えてきて、ああだこうだ、やりとりしてる。

 

「……ふー。ぎりぎりだったわね」

「ここはまだマシだったんだろうけど、指定ポケットが取れる可能性のある旅館だしな。他の旅館が今日ハズレなら、ここにもそれなりに人は来ちゃうだろ。

 貸し切り状態で利用できたのはラッキーだったよ」

 

 全くだな。あの人達には悪いけど、同じ屋根の下で寝泊まりなんてゴメンこうむるよ。部屋に鍵もかけられないからな、この宿……

 

 とは言え、短い間だけどお世話になったよ。さらば、雪ん子の宿!

 

 

 

 徒歩でスノーフレイのトレードショップまで移動し、貯金を全額下ろすウラヌス。全部出しちゃって大丈夫なのかと思ったら、途中でアントキバに寄るから、そこで予算を確保し直すつもりらしい。そういえば、ここのところアントキバからお金を移動させてないし忘れてたよ。

 

「──『同行/アカンパニー』オン。マサドラ」

 

 

 

 で、マサドラに来たわけだけど……

 

「なんかアレだね……」

 

 シームがしみじみ言う。やっぱりガチガチの冬装備で、温暖な都市へ来ると……ハンパじゃなく浮くな。涼しげな格好のゲームキャラ達がいる中を歩くのは、妙に気恥ずかしい。

 

 ウラヌスは何も言わず、厚着の装いで街中をスタスタ歩いていく。私達も付いていく。

 

「あー。ちょーっと歩いただけでも暑いわぁ」

 

 手団扇をしながらメレオロン。まあね……仕方ないとは言え、あまり長居したくないな。まさかスノーフレイの寒さがすぐ恋しくなるとは。私がマフラーを外すと、釣られて3人ともマフラーを外す。それを預かり、歩きながらシームのリュックポケットに詰め込んでおく。

 

 やや早足でマサドラのトレードショップへ辿り着き、手持ちのお金をいくらか貯金する。36万ジェニーを持って、スペルカードショップへ。

 そして予め話していた通り、まとめてではなく少しずつパックを購入。開けては買い、開けては買いを繰り返す。『再来』が8枚出るまで買った結果、25パックを購入。スペルカードは合計145枚。

 

 

 

 『透視/フルラスコピー』1枚

 『防壁/ディフェンシブウォール』7枚

 『反射/リフレクション』2枚

 『磁力/マグネティックフォース』3枚

 『掏摸/ピックポケット』3枚

 『窃盗/シーフ』2枚

 『交換/トレード』1枚

 『再来/リターン』8枚

 『擬態/トランスフォーム』4枚

 『複製/クローン』1枚

 『左遷/レルゲイト』3枚

 『初心/デパーチャー』2枚

 『離脱/リーブ』3枚

 『漂流/ドリフト』5枚

 『徴収/レヴィ』2枚

 『城門/キャッスルゲート』20枚

 『贋作/フェイク』1枚

 『強奪/ロブ』2枚

 『堕落/コラプション』4枚

 『妥協/コンプロマイズ』2枚

 『看破/ペネトレイト』1枚

 『暗幕/ブラックアウトカーテン』4枚

 『聖水/ホーリーウォーター』3枚

 『追跡/トレース』1枚

 『投石/ストーンスロー』3枚

 『凶弾/ショット』2枚

 『道標/ガイドポスト』1枚

 『解析/アナリシス』3枚

 『宝籤/ロトリー』8枚

 『密着/アドヒージョン』2枚

 『浄化/ピュリファイ』1枚

 『神眼/ゴッドアイ』1枚

 『再生/リサイクル』4枚

 『名簿/リスト』5枚

 『同行/アカンパニー』15枚

 『交信/コンタクト』15枚

 

 

 

 カードの束を何度も確認した後、ウラヌスは「ふー」と暑そうに嘆息し、

 

「だーんだん、不要なスペルがよく出てくるようになってきたかな……

 本格的に攻略始めたチームが増えてきてるのかもね」

 

 かもしれないな。外の状況が分からないから何ともだけど、懸賞金が増えてたり、外で準備を終えた念能力者がゲームを開始すれば、時間が経つごとに状況が膠着してくるかもしれない。あまり悠長に構えない方がいいかも。

 

「せめて『堅牢』が引けたらなぁ……」

 

 全くだよ。カード化限度枚数が一杯なわけでもないのに、ほんっとアレだけ引けないな。いつかは自力で引き当てたいもんだ。

 

 

 

 で、毎度のように『宝籤』はスッカスカだった。こっちも期待はしてないけどさ……

 

 再びマサドラのトレードショップへ行き、不要なスペルを売却。お金を全て貯金して、『再来』でアントキバへ。

 

 街の入口から歩いていき、モタリケさん宅へ到着。

 

「いらっしゃーい♪

 あらあら、みんなすっかり着こんじゃって、暖かそうね♪ どうぞ上がってー」

 

 可愛らしく涼しい衣装のベルさんに迎えられ、私達は遠慮なくお邪魔させていただく。

 靴をそれぞれ苦労して脱いで、全員が上がったところでベルさんの案内についていく。メレオロンは冬用の靴下だったおかげで、気にせず上がれたな。

 

「ワリと急ぎ?」

「あんまりのんびりしたくないかな。

 やっぱ暑くてさ」

「そりゃそうよね♪

 いいなー。雪国の温泉旅行」

「んないいモンじゃねーよ。

 まぁ雪祭りは楽しかったけどな」

「温泉は?」

「……」

 

 ベルさんとウラヌスがそんな会話をする中、地下室まで降りてくる。むしろ、地下室のひんやりした空気が心地いいな。

 

「にしてもあんた、もこもこねー♪

 モリーが見たら喜んでモデルにしたがったでしょうに」

「うるせーよ。

 なんでモタリケを喜ばせなきゃいけないんだ」

 

 あー、確かに。このカッコのウラヌス、絵画にしたら良さげな感じなのになぁ。

 そんな話をしながら、ベルさんが部屋の灯りを点ける。お、かなり片付いてるよ。前に見た時はかなり散らかってたからね。

 哀れ、モタリケさんのキャンバスも部屋の隅に寄せられている。壁に掛けられた絵画はそのままだけど。

 私達がウラヌスの絵と交互に見比べると、かなり嫌そうな顔をするもこもこにゃんこ。

 

「余計なモン眺めてないで、さっさと荷物置いてくよ。

 アイシャ、ほら」

 

 うー。もうちょっと見てたいのに……

 仕方なしに布袋を降ろすと、

 

「アレ、そんだけなの?

 もっとたくさん置いてくのかと思ってたのに」

「そうか? この釣竿なんて、かなり邪魔だと思うけどな」

「ああ、まぁそれはね。

 モリーも嫌がるだろうなとは思うけど。あなた達、釣りもしてたんだ?」

「そういうイベントがあるからな。

 荷物にならなきゃ釣りも悪くないんだけど……」

「冬の釣りねぇ。

 氷に穴開けたりとか?」

「しない、しない。

 アレだよ、預けてただろ? サーモン釣りだよ」

「ああ、そっか!

 イベントアイテムって聞いてたけど、あのサーモンも釣ったやつなんだ。

 いいわねぇ、なんか食べたくなってきたわ」

「あー……

 それを土産にすりゃ良かったか。食べたいなんて言うとは思ってなかったしな」

「気にしない、気にしない。

 そういうのは現地で食べるのが一番だもん♪」

「……預けたヤツを食うなよ?」

「食べないわよ。

 で、お土産自体はあるの?」

「いま渡そうと思ってた。

 まーつまらんモンだけどな」

 

 言ってウラヌスは、布袋から平たい箱2つをベルさんに渡す。

 

「……温・泉・饅・頭……

 なんていうかアレね。ド定番すぎてセンスないわね。

 しかも同じの2つだし」

「具体的にオーダーしないからだろ? いい感じの土産が他になかったんだよ。

 違うの1つずつ買ってきたら、お前1人で全部食いそうだしな。

 同じの2つなら流石に途中で食い飽きるだろ」

「そーゆー余計な気は、回さなくていーの!」

 

 いー! と歯を剥くベルさん。ほんと仲良いな、この2人。

 

「もぉー。せめて珈琲に合うお土産なら嬉しかったのにー」

「あー……まぁそこまでは気が回らなかったな。

 おっと、そうだ。

 土産ってわけじゃないけど、いいもんあるぞ」

「えっ。なになに?」

 

 ごそごそと布袋を漁るウラヌス。

 

「んんー……

 あった。これだ」

「なにこれ? って、魔女の薬じゃない!」

 

 へ? 魔女の薬って……ああ、『宝籤』で当てた風邪薬か! すっかり忘れてたよ。

 

「風邪薬かー。

 あれば助かるけど、ホントにいいの? あなた達、これから雪山なんでしょ?」

「うん。だから全部持ってかれると困る。

 別の瓶に俺達が必要分だけ移して分けてほしいんだよ。100粒も要らないからな」

 

 なーるほど。確かに100回も風邪薬使うことなんて、まず無さそうだもんな。

 

「使いきれなくて邪魔なんだったら、こっちに預けとけばいいのに」

「言った通りさ。100粒も使いきれないよ。

 お前らに風邪引かれても困るから、使ってくれ。

 ただ俺達も手持ちがゼロだと困るし、分け分けにしようぜって話。

 携帯しやすいように、小瓶に詰めてくれると助かる」

「……分かった。ご厚意に甘えるわ。

 適当な小瓶に薬詰め替えて持ってくるから、荷物の整理進めといてね」

「あ。

 ベルさん、ちょっと待ってください」

「ん? なに」

 

 私もごそごそ布袋を探り、

 

「これ、いりません?」

 

 取り出したのは缶ジュース。

 

「アイシャ……なんかゲインしてるなとは思ってたけど」

「くれるの?」

「買いすぎちゃって、余ってしまいまして。

 もうぬるくなってるんで、冷蔵庫で冷やして飲んでもらえれば」

「ああー、そういうこと。

 ありがたくもらっとくわ」

「えっと、後3本あるんですけど……」

「あ、はいはい。そっちもね」

 

 温泉饅頭の箱の上に缶ジュースを4つ置き、魔女の風邪薬も持って階段を慎重に登っていくベルさん。完全に押しつけちゃったなぁ……

 

 メレオロンが首元をパタパタさせながら「ふー」と息を吐き、

 

「饅頭やジュースはともかく、風邪薬あげるなんて気前のよろしいことで」

「かもな。

 でもああいうのは、必要なところに必要なだけあるのが一番だよ。缶ジュースと同じさ。

 誰かに売ってやろうかとも思ってたんだけど、なんとなくな」

 

 ウラヌスらしいというか、なんというか……

 

 

 

 

 

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