どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第十五章

 

 少し遅い朝の時間。

 

 白いワンピースに、大きなリュックを背負い。

 そうして旅立つ私を、2人は門の外まで見送りに来てくれた。

 

「父さん、母さん。

 それじゃいってきます」

 

「いってらっしゃい、アイシャちゃん。

 ……男の子になったあなたも、ちょっと見てみたいわ。楽しみね」

「う、く……」

 

「まぁなんだ。俺から言えることは一つだ。

 うまくいかねぇことを祈ってるよ」

「父さぁん……」

 

「はっはっは! 冗談だよ、そんな顔されたら笑っちまうだろうが。

 ……気が済むまでがんばってきな。

 一つアドバイスしといてやる。

 そういうのはな、うまくいくいかないじゃねぇんだ。

 自分が納得できたら、そこがゴールだ」

「うん……

 分かった。納得できるまでがんばる。

 ……あんまり長くかかりそうなら、一度戻ってくるね」

「ああ。

 ……念の修行は、毎日『纏』と『練』で大丈夫なんだよな?」

「うん。

 今みたいに母さんを毎日具現化していれば、具現化の修行にもなるはずだから。

 毎日欠かさずしてほしいけど、『練』の修行はあまり無理しないでね。

 オーラを使いすぎると、次の日になっても回復しないことがあるよ」

「分かってる。

 ……心配しなくても、俺の部下にも念能力者はいるんだ。

 そいつらから助言を聞くなりなんなりして、無茶はしないでおくさ」

「……助言してもらうのはいいけど、念で戦う練習はしちゃダメだよ?」

「これはこれは、武神様の忠告は耳が痛いな」

「もう!

 ……もし護身の為なら、危なくなった時に『練』をして逃げるだけでも全然違うから。

 いつでも慌てず、すぐに『練』をできるようにしておくことくらい、かな」

「母さん、がんばっちゃうわ」

「母さんはがんばらなくていいです。逃げて」

「あらあら」

 

 3人で笑う。……楽しくて、いつまでも話し込んじゃうな。

 

「……待たせてるんだろ?

 そろそろいってこい、アイシャ」

 

 父さんが促し、母さんが笑顔で私を見つめる。

 

 2人とも……。大好き、だよ。

 

「それじゃ、今度こそ。

 父さん、母さん。いってきます!」

「いってらっしゃい、アイシャちゃん」

「気をつけてな」

 

 ……あれ、ちょっと泣いちゃった。……ま、いっか。笑顔笑顔!

 

 

 

 

 

 離れていく娘の背を、名残惜しそうに見送る2人。

 

「……ドミニクさん。

 アイシャと仲直りできたみたいね」

「まあ、な。……ずいぶんと時間がかかっちまったよ」

「……

 私がいない間、2人とも寂しい思いをさせて、ごめんなさいね」

「俺とアイシャもそうだったが……

 お前も自分を責めたりするなよ。

 誰もそんなこと、望んじゃいないんだ」

「……なんだか妬けちゃうわ。

 2人とも、すっかり仲良くなっちゃって」

「ミシャに嫉妬されるとは、アイシャも贅沢なご身分になったもんだ」

「あら、あの子はいいのよ。

 私の前で、あなたがデレデレしてるところを見せつけるなんてどういうつもり?」

「デレデレ?

 ……そんなつもりは無かったんだがな」

「ま、いいわ。

 しばらく私がドミニクさんを独り占めしちゃうんだから」

「全く……お手柔らかに頼むぜ」

 

 腕を絡ませてくるミシャに、ドミニクは苦笑する。

 ずいぶんと遠ざかったアイシャの背を、じっと眺めつつ、

 

「……にしても、すごい量の荷物を背負っていったな。

 あいつ山登りにでも行くのか?」

「ゲームの中に行くって言ってたわね。

 命の危険があるとか、お友達も話していたけど大丈夫かしら?」

「……大丈夫さ。

 俺達の子供は、何があってもちゃんと帰ってくるよ」

「そうね……」

 

 

 

 

 

 家からある程度離れた後。

 

 立ち止まって、リュックから携帯を取り出し、ウラヌスさんへ連絡を入れる。

 勢いよく出てきちゃったけど、まだすぐ行くとは限らないんだよねー、と。

 

「……あ、おはようございます、ウラヌスさん。…………はい、父さんと母さんに許してもらいました。…………はい。お待たせしてすいません。でも、まだやらなきゃいけないことがあって。…………ええ。みんな私がゲームへ入るのは反対だと思うんで。…………それなんですけど、1人、私の友達を紹介したくて。……いえ、一緒に行くわけじゃないんです。こっちに残ってもらって協力してもらおうと思って。…………それは大丈夫です。逢って話してもらえれば分かると思います。……ええ、それじゃ連絡して都合のいい時に。…………はい、じゃあ友達に連絡するんで、一度切りますね。……はい、のちほど。それじゃ。……」

 

 続けて、ゴンに連絡を入れる。

 

「……あ、おはようございますゴン。突然朝早くにすいません。……ちょっと相談したいことがあるので、ゴン1人だけで来てもらっていいですか? ……ええ、申し訳ないですけど他に誰かいらっしゃるようでしたらコッソリ。……ふふ、ごめんなさいね。えっと、場所は飛行船発着場……そうです。アームストルのです。その入口付近で待っています。……はい、お願いします。それじゃ」

 

 携帯を切る。再びウラヌスさんへ。

 

「あ、ウラヌスさん。いま都合がいいって話だったんで、もうそちらに伺おうかなって。……よかった。じゃあ、もう少ししたらそちらに。…………はい、ありがとうございます。それではのちほど。……」

 

 携帯を切り、私は息をついた。

 

「ふぅ……さあ、これが最後の関門かな」

 

 ゴンの協力なしに、リィーナ達を押しとどめることはできないだろう。申し訳ないけど、ゴンにはちょっとがんばってもらっちゃう。

 

「勝手なことしないって……約束したからね」

 

 私は携帯をリュックに仕舞い込み、再び歩き始める。

 

 

 

 

 

 ほんの少し、時間を遡り。

 再びかかってきたアイシャからの電話を取るウラヌス。

 

「はい。…………うん。いいよ準備しとく。……オッケー、待ってるよ。2人には、最初隠れててもらうから。……うん、後でね」

 

 携帯を切り、飛行船の中でくつろいでいる2人に声をかけるウラヌス。

 

「2人とも。

 アイシャが友達連れてくるって」

 

 メレオロンがベッドに足を投げ出したまま、弛緩した顔で聞いてくる。

 

「……さっきの電話でも話してたわね。

 それってもうじき?」

「うん。

 30分から1時間ぐらいじゃないかな」

「そっか、そっか。

 ……どうしようかな」

 

 メレオロンの言葉に、シームは不思議そうに首を傾げ、

 

「おねーちゃん、なに悩んでるの?」

「うーん……

 アイシャの仲間が来るっていうのは分かるんだけど……」

「仲間っつうか、友達って言ってたけど」

 

 ウラヌスが訂正するが、メレオロンは首を傾げ、

 

「そんなのアイシャの基準だろうし、違いなんて分からないわよ。

 その友達とやらは、ゲームの中に入るわけじゃないんでしょ?」

「……こっちで、アイシャの他の仲間が妨害しに来ないよう、ストッパーになってもらうつもりみたいだったな。

 まぁ色々あるんだろう」

 

「なら……

 アタシ達って、最後まで顔出さない方がいいんじゃない?」

 

 メレオロンの言いたいことは、ウラヌスにも分かる。が……

 

「少なくともアイシャは、君達のことを話しても大丈夫だと信用してる友達みたいだね。

 むしろ、こちらの目で信用に値するか、最初は隠れて見定めてほしがってたよ」

「……

 それってアイシャの提案じゃなくて、あなたの提案じゃないの?」

 

 ウラヌスは肩をすくめ、

 

「そのつもりだろうと思って確認とっただけだよ。

 実際、彼女も了承してる」

「……おねーちゃん。

 気持ちは分かるけど、アイシャの判断も信用してあげようよ」

「……。悪い子じゃないのは分かってるんだけどね」

 

 ウラヌスの方を見やりながら、メレオロンは3本しかない左手の指をわきわきさせ、

 

「あんたとアイシャはあっさり見破ってるから実感ないだろうけど……

 本当はアタシの能力って、そんなに弱くないはずなのよ。

 ……バレてさえ、いなければ。

 だから、できるだけ知ってる人は減らしておきたいんだけど」

「別に能力を明かす必要なんてないだろ?

 少なくとも、全部話す必要はないさ」

「じゃあアタシは、せいぜい透明になれるだけのマヌケな蟻ってことよね?

 それを匿うって話を、アイシャはその友達にするわけ?」

「謙遜するなよ……

 メレオロンのオーラ量は、普通に一流のプロハンターと比べても遜色ないぞ」

「……。

 アタシの身体能力は正直言って師団長どころか雑務兵レベルだから、オーラだけでもと思って死に物狂いで鍛えただけよ。特質だから打撃戦もキツイだろうし」

「うーん、そうだな……

 念に頼って身体を鍛えてないんじゃ、技術を要する格闘は厳しいってのは当然だな。

 その不利を補えるような、オーラ量を活かした『発』を開発するとか」

「……ウラヌス。

 あんた分かってて言ってるんじゃないの?」

 

「……。メモリ不足か」

 

「そうよ。特質系能力はおかしな能力が多いから、制約と誓約がキツくないと、メモリをあっという間に使い切っちゃうのよ。

 アタシは、【透明化】【神の不在証明/パーフェクトプラン】【神の共犯者】、この3つが念に目覚めた時点で出来ちゃったから、もう余地がないの」

「そうだな……

 いま持ってる能力に制約なり誓約を課さない限り、メモリ不足の解消は厳しいな」

「嫌です」

「言うと思ったよ」

 

 ウラヌスは腕を組む。当事者がアレも嫌、コレも嫌では、他人からすれば詰みである。

 

「まあ、それは分かったけど、じゃあここから離れとくのか?

 俺はちゃんと話した方がいいと思うぞ」

「誰と?」

「アイシャの友達と」

 

 メレオロンは首を傾げる。

 

「……ごめん。

 よく分からないから説明して」

「俺も大して根拠があるわけじゃないから、断言はできないけど……

 アイシャは一度グリードアイランドをクリアしてる。仲間と一緒にな。

 で、ここに友達を連れてきて紹介したいと言ってるんだ。俺達に。

 その友達は……おそらくグリードアイランドを同じくクリアした仲間の1人だろう」

「うん。

 それは理屈として分かるけど」

「これから俺達は、グリードアイランドをクリアする為に入るんだぜ?

 色々相談する良い機会じゃないか。お前らがいないトコで相談してどうするんだよ」

「そうは言うけど……

 いちおう、アンタが教えてくれたゲームの基本的なことは覚えられるだけ覚えたつもりだけど、まるっと暗記しただけなのよ?

 その程度で、ゲーム攻略に関して大したこと聞けるとは思えないけど」

 

「いや、ゲーム攻略はどうでもいい」

 

 メレオロンとシームは目を丸くする。いったい何を言ってるんだ、という顔。

 ウラヌスは、手を合わせて真面目な表情を返す。

 

「俺が2人をまじえて相談したいのは──

 

 クリア報酬として選択する指定ポケットカードの話さ」

 

 

 

 

 

 飛行船発着場に到着したアイシャ。建物の中へは入らず、入口前でゴンの到着を待っている。

 

「アイシャー!」

 

 声の方を向くと、遠くから相当な速さでゴンが走ってきた。

 手を振るアイシャ。ラストスパートでゴンは猛ダッシュ、アイシャの前でぎゅきゅっと足を止めた。

 

「ゴン、ごめんなさいね。急に呼び出したりして」

「ハァッ、ハァッ……

 アイシャ……どこか、行くの?」

 

 白いワンピース、かたわらに大きなリュックが置いてある。これで場所が飛行船発着場なのだから、どこかへ行くようにしか見えないだろう。

 

「まぁ、そうなんですけど……

 まずはゴンに相談があって。

 申し訳ないですけど、このまま立ち話させてください」

「うん……相談って?」

「えっとですね……」

 

 

 

 ──少女説明中──

 

 

 

 私がゴンに話したことをまとめると、こんな感じだ。

 

 まず、私をグリードアイランドに誘ってくれた人がいて。

 その人は、指定ポケットカードのアイテムを研究しており。

 私が諦めたホルモンクッキーによる性転換が、もしかしたら何とかなるかもしれないと教えてもらい。

 その人と一緒に、もう一度グリードアイランドへ私も入りたいので、リィーナ達が私のジャマをしないよう、うまく言いくるめてほしいとお願いした。

 

「オレにできるかな……」

 

 自信なさげに言うゴンに、私はふふっと笑いかけ、

 

「大丈夫ですよ。

 いちおう言い訳は私の方で考えたので、誰かに聞かれたらその通りに答えてください」

「う、うん。分かった」

「それでは詳しい話をしたいので、一緒についてきてもらえますか?

 私を誘ってくれた人に、ゴンのことを紹介させてください」

「いいけど……

 アイシャとその人、2人だけでプレイするの?

 オレも付いていかなくて大丈夫?」

「大丈夫ですよ。その辺は色々考えています。

 どうしてもゴンには、こちらで皆が来ないようにしてほしいですから。

 それに……」

「それに?」

「こういうことをゴンにお願いするのはですね。

 ゴンとした約束を守りたかったからです。

 ……次は勝手なことしないって」

「アイシャ……」

 

 私は照れくさくて、何となく空を見上げる。

 

「……それに、どうしても皆、私が男になるのは反対だと思うんで。

 その点、ゴンは理解してくれてるんでしょ?」

「え?

 う、うん。まぁ」

「……あれ? ゴンも反対なの?」

「…………」

 

 ありゃりゃ。ゴン黙っちゃった。困ったなぁ……

 

「……アイシャ、その服かわいいね」

「ん?

 褒めてくれるのは嬉しいんですけど、何か含んでません?」

「うーん……」

「……ゴン。正直に言ってくれていいんですよ。

 父さんと母さんにも皆に言い訳してもらうようお願いしてるので、このことは話してるんですけど、父さんは最後まで反対していました」

「うーん……。

 あ、そういえばアイシャ。身体の具合ってどうだったの?」

「あっ、話してなかったですね。ごめんなさい。

 えっと……

 ゴンと世界樹で別れた後、スワルダニシティで──」

 

 

 

 ──少女説明中Ⅱ──

 

 

 

「……気にしてることがあるから、具合が悪いのかもしれないってこと?」

 

 ゴンが尋ねてくるので、私は首肯した。

 

「私はそう考えています。

 心残りがあると、どうしても気になっちゃいますから。

 だから、可能性があるならちゃんとやっておこうかなと思って」

「うん……分かった。

 じゃあ、オレは反対しないよ」

「……ところでゴン、なんで反対だったんですか?」

 

「んー、だって……

 今のアイシャ、すっごい女の子なんだもん」

 

 ……ふぇ?

 

 なにそれ。すっごい女の子ってなに……?

 

「…………」

 

「アイシャ?」

「……え、ぅ? はぁ、ひぃ……」

 

 ふぅぅ顔が熱いぃー……

 なんで。なんでこんな恥ずかしいの? え? え?

 なんで、こんなに身体ぷるぷる震えてるんだろ?

 えーと呼吸呼吸……ふーふー。……ん、ん。大丈夫大丈夫。

 

「えー、うん。ごごごごん」

 

 誰だゴゴゴゴンて。

 

 ゴンが「ぷーっ!」と吹き出した。

 

「ごめんね、アイシャ。

 からかっただけだから、気にしないで」

「……ぇ?

 え、えー、ゴンー。

 そういうの、やめてくださいよぉぉぉ」

「ゴメンごめん。それじゃ、そろそろ行こうよ」

「もうー」

 

 まだ軽く震えの残る手でリュックを抱え、私とゴンは歩き出した。

 

 ……すっごい女の子、ってどういう意味だったんだろ。ごにょごにょ……

 

 

 

 

 

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