どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百三十七章

 

 布袋から出した荷物の整理をあらかた終えた頃に、ベルさんが地下室へ戻ってきた。

 

「ただいまー♪

 瓶、これでいい?」

 

 ベルさんから渡された瓶を吟味するウラヌス。瓶の中にそこそこの数の薬が入っている。

 

「んー、市販薬の瓶か……

 まぁいいや。何粒入ってる?」

「30粒よ。

 減ってきたら、ウチに寄った時に補充するから言ってね」

「……そうだな。

 それはそうさせてもらうよ」

 

 うん。お互いに得だし、いい落としどころだな。ベルさん達だって、風邪薬70粒なんてそうそう使い切らないだろう。

 

「で、荷物整理は済んだ?」

「ああ、終わったよ。

 もう少しカード預けたいんだけど、いいか?」

「別にいいけど。

 なに預かればいいの?」

「いま確認するよ。ブック」

「わたしも出すわね。ブック」

「私達も出した方がいいですかね?」

「そうだね。

 みんな、いまバインダー出して」

『ブック』

 

 全員がバインダーを出し、全てのフリーポケットを見て回るウラヌス。

 

「んー、ちょっと待って……」

 

 メモを取り出し、カリカリ書き出すウラヌス。

 

「あんたも大変ねぇ」

「……ソロでやってた頃の方が、少なくともカード管理は楽だったな。

 取捨選択がシビアすぎてしんどかったけど」

 

 こういうのもウラヌスに任せっきりだからなぁ。前回も私は人任せにしてたから、正直今更できる気がしない……

 

「うーん、そうだな……

 『城門』と『交信』を5枚ずつってトコか。計10枚追加で預かってくれ」

「それだけでいいの?」

「充分だよ。

 10枠は空けとかないと、買い物にも事欠くだろ?」

「お釣りを店に預けないならね」

 

 うん……基本的にお金カードが一番枠を食うんだよな。そのせいで、買い物1つ気楽にできない。どうにかならないものか。

 

「預けてるつもりのカードではあるけど、モタリケにも『城門』は1枚渡しといてくれ。

 お守りくらいにはなるだろ」

「はいはい。あんたも心配性ね」

「そうは言うけど、万一『離脱』とか使われたらイヤだろ?」

「まあねぇ……」

 

 この夫婦はゲーム機の安全を確保できてないから、『離脱』でゲーム機に飛ばされると危ないもんね。確かに1枚くらいは持っておいてほしい。

 

「もしかして、『城門』は預けるのはそういう理由?」

「モノのついでだよ。

 邪魔だけど代わりも利かないから、狙われた時に備えて枚数確保しときたいカードではあるし」

「……りょーかい。

 そういうことなら、モリーには3枚渡しとくわ」

「なんなら、もう少し渡しとこうか?」

「別にいいわよ。多くても邪魔になりそうだし」

 

 話し終えて、それぞれのバインダーからカードを渡し合う。

 

 一仕事終えたとばかりに、ウラヌスは軽く伸びをし、

 

「さぁて。

 いい加減あっついし、そろそろスノーフレイに戻るよ。

 突然訪ねて悪かったな」

「ぜーんぜん♪ お土産も貰ったし。

 暑いならいっそ脱いじゃって、もうちょっとノンビリしていけばよかったのに」

「さっさと雪山に登りたいんだよ。暗くなる前には絶対降りたいから。

 どうせ明日になったら、しばらく一緒にいるだろ?」

「そうね。

 特別、なんか用意しておくことってある?」

「いや。

 俺達がまたここに、荷物いじりに来ることだけは確実だけど。

 置いてくモンと、取りに来るモンがあるからな」

「……しばらくスノーフレイって行かないのよね?」

「多分。あんまり同じところで長居しても効率悪いからな。

 明日ドリアス行ったら、また別のトコに行くつもりだよ。決めてないけど」

「ふんふん。

 ……じゃあさ。今日、あなた達のところへ行っちゃダメ?」

「は?」

 

 おん? ベルさん、なんか妙なこと言い出したぞ。

 

「どうせ明日、合流するじゃない。

 だったら今晩から合流したっていいと思わない? もちろんモリーも一緒に♪」

「……ベル、オマエさ。

 まさか温泉旅行一泊たかる気か?」

「ピンポーン♪

 どうせなら、あなた達の近くにいた方が安全だし。モリーと温泉入りたいのよねー♪」

「おいおい……

 俺達を巻き込むなよ。行きたきゃ2人で勝手に行きゃいいだろ」

「今晩、予定あるの?」

「ぅ……

 ……ないけどさ」

 

 ベルさんは「じゃあ♪」と嬉しそうに手を合わせるが、

 

「待てっ! ……待て、勝手に決めるな。

 攻略には支障ないかもしれないけど、仲間と相談くらいさせろ」

「どうぞどうぞ♪

 暑いだろうし、冷たい飲み物持ってくるから相談しといて」

 

 軽い足取りで地下室からまた出ていくベルさん。完全に来るつもりだな、アレ……

 

 ウラヌスはゲンナリした表情を隠しもせず、

 

「……困った。どうする?」

「困りますけど、断りにくいですよね……」

「顔見知りとは言え、あいつらがそばにいると気楽に色々話せないしなぁ……

 あんまり気分も良くないし」

「それに、おねーちゃんが……」

「気分の良い悪いは別にしても、アタシが一番ネックなのよね。

 迷惑っちゃ迷惑なんだけど、断る理由がないとねぇ」

「正直に言うわけにもいかないしなぁ。

 まいった……」

「ただ、お2人を説得するなら絶好の機会じゃないですか?」

 

 私がそう言うと、ウラヌスは思案顔で腕組みをし、

 

「うーん……

 そりゃ、この家で話すよりはいいかもしれないね。

 現実へ戻る話を持ちかけても、この家の中だと未練たらたらだろうし。……でもなぁ」

「お2人が一緒だと、色々やりにくいですもんね……

 メレオロンはやっぱり断りたいですよね?」

「……

 食事と寝る場所を分けてくれるなら、アタシはいいけど?」

 

 あれ? 一番反対すると思ってたのに。

 

「メレオロン、マジか?」

「いいんですか? それでも結構動きにくいと思いますよ」

「おねーちゃん、ホントにいいの?」

「……仕方ないでしょ。

 預かってもらってるのに、気まずい感じにしたくないじゃない」

 

 私とウラヌスは何とも言えない顔をする。他にどうしようもないか……

 

「はぁ……しゃーない。

 どうせ明日から同行するしな。メレオロン、ホントにいいんだな?」

「心配しすぎよ。ちょっと合流が早くなるだけでしょ。

 ま、どうにかなるわよ」

 

 気楽そうにメレオロン。ほんとに大丈夫かな……

 

 

 

 しばらく相談を続け、ある程度まとまった頃合いでベルさんが戻ってくる。

 

「お待たせー♪ 決まった?」

 

 グラスを5つ乗せた盆を手に、そう問いかけてくるベルさん。

 

 ウラヌスはグラスを2つ手にし、メレオロンに1つ手渡す。手袋を付けた手で受け取り、ベルさんに背を向けるメレオロン。

 私もグラスを2つ取り、シームに1つ手渡した。

 

 んー。この飲み物なんだろ? 甘い匂い……ああ、カルピ○か。この島にもあるんだな。

 

 ウラヌスはグラスの氷をカランと鳴らして一口含んだ後、指を2本立てる。

 

「条件がある。

 店と宿は一緒でいいけど、食事と寝る部屋は俺達と別。それでもいいか?」

 

 指をチョキチョキさせるウラヌスに、ベルさんは不思議そうに首を傾げ、

 

「へ? いいの?

 夫婦水入らずにしてくるの?」

「その方がこっちとしても都合いいしな。

 食事代と宿代はこっちで持つ。

 ……明日ドリアスで遊ぶ軍資金も出してやるけど、諸々の雑費は自分達で賄ってくれ。正直、管理がめんどい」

 

 ベルさんは「ふーん」と言いながらグラスを傾け、

 

「ずいぶん気前いいじゃない。

 ホントにいいの? 無理かなーって実は思ってたんだけど」

「ゲーム攻略に協力してくれるんなら、これくらいはな。

 指定ポケットカードくれてやった方が俺達的には低負担だけど、そんなの別に要らないだろ?」

「集める気のない、二束三文の『複製』カードもらってもねぇ。

 誰かに売れればいいけど、その前に盗られちゃうかもしれないし」

「2人とも指定ポケットを集めてないおかげで、俺達もカード預けやすいんだしな。

 ただまぁ、今回は特別だぞ。毎度のようにねだられちゃ、流石に攻略にも差し支える」

「ありがたいわー。

 温泉旅行一泊プレゼントしてくれるとか、嬉しすぎるんだけど」

「まぁ交通費はかかんないしな」

 

 肩をすくめるウラヌス。そこだけは救いだよね。時間もかかんないし。移動スペル便利だよね……うん。レオリオさんだけでも手を貸してくれないかなぁ。

 

 

 

 ベルさん達と今晩から合流する約束を改めて交わし、私達はアントキバの市街へ出る。まぁちょっと予想外なこともあったけど、ちゃんと荷物を預けられてよかったよ。これでいくらか身軽になった。

 

 今後の予定は、今からスノーフレイで雪山に挑戦。雪山から降りたらベルさん達に連絡して、スノーフレイに来てもらい合流。一晩経ったらアントキバへ戻って、荷物とお金の整理。その後ドリアスへと向かう。

 

 ……雪山攻略がスムーズに行けばいいんだけどな。そこでつまずくと、後々面倒そうだ。

 

「まったく、便利なんだか不便なんだか分かりゃしないな」

 

 くたびれ顔でウラヌス。まぁ他人だもんね。仲間同士のやりとりと違って、荷物を出し入れだけして、はい終わりとはいかないだろう。

 

「でも、これで釣りとかまた出来るじゃん。

 買い直したらもったいないし」

 

 シームの言うことも、もっともなんだよな。釣具程度ならともかく、大量の衣類なんて持ち運ぶにしても買い直すにしてもシャレにならない。

 

「まぁ遠慮なく倉庫代わりに出来ると思えば、安いもんじゃない?」

「……オマエがそう言うなら、別にいいけどさ」

 

 あの夫婦と付き合っていくのにどうしてもネックになるのは、メレオロンなんだよな。この件に限った話じゃないけど、難しいなぁ……

 

 

 

 アントキバのトレードショップで30万ジェニー下ろし、『再来』でスノーフレイへ。

 

 再びの雪景色の中、シームは嬉しそうに軽く駆け出し、

 

「すーずしー!」

「ハシャギすぎて転んじゃダメよー」

「わかってるー!」

 

 シームじゃないけど、涼しく感じるもんだね。あれだけ暑く感じたんだから、しっかり厚着が機能してるってことだな。

 

「やっぱり、暖かいトコと寒いトコを行ったり来たりしない方がよさそうだね」

「ええ、知らず知らず身体に負担がかかってるでしょうし。

 ある程度体温調節してから、雪山に向かった方がいいと思います」

「うん。とりあえずはお昼かな」

「どこで食べるかって決めてます?」

「決めてないんだよねー。

 どうしよっかなぁ」

 

 思案顔のウラヌス。今までスノーフレイで食べたのって、鍋と鮭定食だからな。他のも食べてみたいところだけど。

 ウラヌスは、意味ありげに私の方をちらりと見ながら、

 

「あんまり美味しいモノ食べられるとは思わないでね?

 これから雪山登山だから、軽めの食事にするつもりだし」

「あっ、はい……」

 

 牽制された。言ってることは正しいけどね、うん……

 

 

 

 つるつるつる……ずずー。

 

「──なーんて言うから期待してなかったのに、美味しいじゃないですか、ここ」

「あーうん。お口に合ったなら何よりだよ。

 足りないと思ったら、おかわりしてくれてもいいけど」

「美味しいよねー。ボク、ラーメンより好きー♪」

「……」

 

 ウラヌスが案内したメシ処「きつね月」で、私達はうどんとおにぎりといった慎ましい昼食を摂っていた──つもりだったけど全然いけるよ。ジャポン食ばんざい! ……量が慎ましいのはご愛敬だな。私は余分に頼むけどね!

 

 シームにも好評だけど、難しい顔してるのがメレオロン。うどんを箸で摘まむのが難儀らしく、周りを気にしながら手袋を外して食べている。おにぎりは素手で食べてるしな。

 

「おねーちゃん、美味しくない?」

「……味は悪くないんだけどね」

「悪いな、メレオロン。

 雪山登山直前の栄養って考えたら、この辺がベターなんだよ。

 がんばって食べてくれ」

「はいはい……わっと、あちっ」

 

 うどんを箸から滑り落として、汁を飛び散らせるメレオロン。あるある。

 

「おねーちゃん、そんなに食べにくいならフーフーしてあげようか?」

「ぇえ?」

 

 おっ。なんか面白いことしようとしてるな。

 

「いいってば、がんばって食べるから」

「熱いの飛んできそうで、怖いんだってば。

 いいから貸して」

「あ、ちょ」

「お箸。ほら」

「……ん」

 

 姉弟の様子をまじまじと見物する私とウラヌス。第三者視点だと、めっちゃ箸止まるな。

 

「なに見てんの。アンタ達は食べてなさい」

「ふー、ふー……

 はい、あーん♪」

「……。

 ……あーん」

 

 メレオロンの口に運ばれたうどんが、つるつるつると吸い込まれていく。複雑な表情で、もっちゃもっちゃと咀嚼し、

 

「美味しい?」

「……ぅん。そりゃ、まぁ」

 

 アレだな。この変態、自分がするのは平気だけど、誰かにされるのは恥ずかしいわけか。ウラヌス相手にあーんした時は照れもしなかったのにな。

 

 顔に赤みが差す様子をニヤニヤ眺めた後、ちらりとウラヌスを見る。サッ! と自分のどんぶりを抱えて私から身を離すウラヌス。……ちっ。

 

「ふー、ふー……」

「ちょっとシームー。1人で食べさせてよー。

 アンタの方のうどんが冷めるじゃない」

「だったら早く食べて。あーん♪」

 

 おうおう、仲睦まじいことで。……改めて、ホント仲がいいって伝わってくるよ。

 

 

 

 

 

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