どうしてこうなった? アイシャIF   作:たいらんと

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第百三十九章

 

 歩行練習を終え、私達はいよいよ雪山を登り始めた。ここからはモンスターが出るので、慎重に傾斜を登っていく。

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

 普段よりリュックが軽いとはいえ、急勾配を歩くのはシームにとってそれなりに負担なようだ。でもまぁ、重しがある状態で修行してるからね。これも修行の一環だ。がんばれ。

 

 

 

「ふぅー」

 

 長い登りが終わって、いくらか平坦な道が続くところでシームが一息吐いた。──直後、上空から羽ばたき音。

 見ると、白く大きな鳥がこちらへ飛翔してくる。狙いは、

 

「シーム!」

 

 私が声をかけ、メレオロンが襲撃に気づいてないシームの腕をぐいっと引っ張る。

 

 鳥はひと羽ばたき──その身体が不自然に揺れた。同じタイミングで、鳥のいた辺りを何かが飛び抜けた。

 鳥の胴体と片翼の付け根に、何かが生えていた。ぐらりと体勢を崩し、羽根をパラリと散らして急降下する鳥。どさっと雪上に落ちる。

 

「ふぅ。

 ……初っ端、危ないのが来たな。しかもシーム狙ってきたし……

 対処遅れてゴメンな」

 

 言いながら、カード化したそれを拾い上げるウラヌス。

 

 ……当てるか、あの距離で。相手が空なのも厄介だけど、相当な速さだったしな。私が同じ条件で念弾を当てられるか自信ないな。

 

 

『734:スワンイーグル』

 ランクE カード化限度枚数84

 雪空で獲物を狙うハンター

 巨大な鷲の姿で 凍りついた鋭利な羽根を飛ばしてくる

 

 

「今のは結構厄介なモンスターでしたけど、あなたも良く当てられましたね」

「あっ、ホントだ!

 アンタどんだけあっさり倒してんのよ」

「んー……

 実は1発外したんだけどな。針3本投げたうちの、2本アタリ」

「えっ!? いっぺんに3本も投げたのっ!?」

 

 落ち込み気味だったシームが、そのことに驚く。3本同時に放って、あの精度か……

 

 私達の反応に、ウラヌスは嬉しそうでもなく、複雑な表情を浮かべていた。

 

 

 

 地面から生えた真っ白な塊に、ローキックを合わせる。大した手応えもなく、あっさり煙と化した。既にウラヌスが2匹倒しており、周囲から気配が失せる。

 

「今ので終わりですか?」

「3匹目だから終わり」

 

 ウラヌスの返答で戦闘態勢を解き、カードを拾う。

 

 

『709:スノーモール』

 ランクF カード化限度枚数174

 突然雪の中から 真っ白な爪を伸ばしてひっかいてくる 雪モグラ

 すぐに攻撃しないと たちまち雪の中へ逃げてしまう

 

 

 私と同じようにカードを拾いながら、メレオロンが嘆息する。

 

「はぁー、ホント真っ白ねぇ。

 オーラで判別しなきゃ正直分かんないんだけど……

 なんでアイシャは、あんな超反応できるわけ?」

「気配ですけど」

「うそん。目でも耳でもオーラでもなしに?」

「……」

 

 ウラヌスがちらりと私を見る。うーむ、相変わらず技量を不思議がられてる感じがする。

 

「ねぇねぇ。ぼくも戦った方がいい?

 リュック軽いから、今のモグラなら倒せそうかなって」

 

 シームの問いに、沈黙で返す私達。

 

 言いにくそうにしながらも、メレオロンが口火を切る。

 

「……怪我すると大変だし、やめときなさい」

「かすり傷くらいならすぐ治してやるけど、深手だとすぐ治らないしな。

 モグラ自体はシームの『練』の攻撃力でも倒せるけど、ちゃんと当たればの話だ」

「ぅー……

 アイシャも同じ意見?」

「そうですね。生兵法は怪我の元ですから」

「でも……」

 

 やる気があるのは大変結構なことだ。けれど、それが勇み足であっては困る。私は膝を折って、シームと目線の高さを合わせ、

 

「実戦も大事ですが、ここで無理をするのは良くありません。

 普通の足場ではありませんし、もし転びでもしたらモグラの爪が顔に当たることだって有り得ます。

 ……戦いたいのであれば、いつもの修行の時に私やウラヌスがお相手しますから、今は我慢してもらえますか?

 怪我をして、雪山探索が中止になったらイヤでしょう?」

「うん……」

 

 よしよし、素直な良い子だよ。頭を撫でてあげる。……これがゴンやキルアだと聞きゃしないからな。

 

「でも、実戦での修業はそろそろ考えてもいい頃かもしれませんね。

 リュックをベルさんの家に預ければ身軽になれますし、アントキバからマサドラへ行く道中の岩石地帯なら、既に知っているモンスターしかいませんから幾分安全に修行できるでしょう」

「……俺はまだ早いかなって気もするけど。

 オーラ量的に短時間なら問題ないけど、まだ『凝』の修行もちゃんとしてないからね」

 

 あ……そうだった。流石に『凝』くらいはつたなくてもいいから覚えてもらわないとな。目の『凝』だけじゃどうにもならない。シームが危なくなると、メレオロンが庇って怪我しそうだしな。

 

「確かに『凝』の修行が最優先ですね。

 シーム。実戦はまだ先になりそうですが、モンスターの動きはよく観察してくださいね。しっかり見て攻撃を避けるだけでも、充分実戦修行になります」

「ホントに?」

「ええ。私もそういう修行をすることはありますから」

「……うん。分かった」

 

 納得してくれたようだ。モンスター相手に、咄嗟の動きに迷いがあるとマズイからね。

 

 

 

 スライムの濁った身体を攻撃したメレオロンが、慌てて手を引っ込めた。

 

「──つべたっ! なんなの、コイツ?」

 

 ベタベタに濡れた手先を振るメレオロンに、ウラヌスは多少呆れ顔で、

 

「だから言ったろ?

 一見鈍重で簡単そうだけど、さくっと倒せないと冷やされるって。

 ちゃんと水気切って、カイロで暖めとけよ」

「体内の核も見えづらいですね」

「カードテキストにも同じこと書いてあったかな。

 まぁ俺が倒すよ」

 

 白く不透明なスライムに、ウラヌスの手刀が一瞬突き刺さり、煙に。……こうやって、たまに見せる殺傷力の高さがなぁ。どんな修行してきたんだろ。

 

 

『725:クールスライム』

 ランクG カード化限度枚数302

 強い弾性と 雪の性質を持った変種のスライム

 冷気を滋養とする 半透明の身体で体内の核が見えづらい

 

 

「雪……

 なるほど、それで岩場のスライムと比べて白く濁ってるんですね」

「スノーフレイ近辺にしかいない種類だからね。

 どのスライムも核があって、それが弱点なのは共通してるけど」

 

 

 

 相変わらず視界に広がる一面の雪に少し違和感を覚えた直後、行く手の正面の雪が突然膨れ上がる。膨らんだ雪は、あっという間に大きな人を模した像になった。

 

 ズゾ、ズゾ、と雪を踏みしめ、巨大な人型の雪像が迫ってくる。

 

「距離とって! すぐ倒すから!」

 

 ウラヌスの指示通り、メレオロンとシームが雪像から目を離さずに後退する。

 

 私は動きの鈍い雪像の脇をすり抜け、目ぼしい地面をダンッ! と踏みつけた。積雪が異様に陥没する。背後で雪像が倒れる音がした。

 

「えぇぇぇ……」

 

 目を丸くする姉弟と、自分で倒しそこねたからか呻くウラヌス。

 

「まぁ見当ついたんで。ここかなと」

 

 私は靴で陥没させた雪の地面を小突く。あ、でもこれ、カード掘り返すのメンドウだ。

 

 ウラヌスは納得いかない様子で首を傾げつつ、

 

「どうやって分かったの……?」

「さっきの雪像が、雪から起き上がってくる一瞬前、ここの雪が僅かに盛り上がったのが見えたんですよ。

 最初はモグラかと思ったんですが」

「うーん、そっか……

 雪像のオーラを見れば簡単に分かるから、逆にそういう見破り方は盲点だったよ」

「ところで、カードどうします?」

「……

 掘り返す方が大変そうだし、やめとこ。次の機会で」

 

 ただ働きになった。まぁ大したお金にならないだろうけどね。……やっちゃったなぁ。

 

 

 

「伏せて!」

 

 声に反応し、姿勢を低くする。立っていた場所を、鋭い氷柱(つらら)が通り抜ける。

 

「あいたッ!?」

 

 シームの頭を押さえこんだメレオロンの悲鳴。弟を優先して自分が伏せるのが遅れたのだろう。

 

 氷柱の射出元──宙に浮いた水晶球が、再びイガ栗のように氷柱を生やす。次弾装填が速いな。しかも高速で曲線移動しながらか。

 

 パンッ!

 

 突如、それが砕けた。バラバラと破片が落ち、雪の上へ落ちる前にカード化する。

 

「……念弾ですか?」

 

 振り向くと、手をかざしたウラヌス。手を下ろしながらコクンと頷いてくる。

 

「今のヤツは威力と速度の兼ね合いで、念弾が一番まともな対処だったからね。

 針を投げても、氷柱で防がれたりするし。コスパはよくないんだけど」

 

 軽く疲労した様子で告げるウラヌスを傍目に、私はカードを拾いに行く。

 

 

『672:クリスタルボール』

 ランクD カード化限度枚数59

 一見するとただの水晶玉だが

 無差別に延々と氷柱を放ってくる 危険な念の産物

 宙を浮いて高速移動するため 反撃も難しい

 

 

「メレオロンとシームは大丈夫か?」

「ぼくはだいじょーぶ! でも、おねーちゃんが……」

「平気平気。ガードは間に合ったから。

 怪我なんかしてないわよ」

「どこに当たった?」

「頭……まぁフードごしにね」

「オーラで守っただけか。いちおう診るよ」

「別にいいのに」

 

 ウラヌスは首を横に振り、手袋をはめた手をパンパンと打ち合わせ、

 

「いったん休憩」

 

 

 

「んー。見た目には問題なさそうだけどな……」

「だから言ったじゃない、平気だって」

「当たった箇所はいいとしても、頭揺らされたんだろ?

 脳震盪とか、首筋痛めたりはしてないか?」

「大丈夫、だと思う」

「自信なさげだな。ちょっと首も見せて」

 

 片耳にそんなやりとりを聞きながら、周囲の雪景色に目を向ける。

 申し訳ない程度に枯れ木が散見するが、多くは岩場のようで、その上に雪化粧がされている。登山開始から30分も経っておらず、まだまだ白い登り坂は続く。

 

「アイシャ、余裕があっても座って休んだ方がいいよ。

 まだ先は長いし」

「ええ」

 

 話しかけようか悩んでいた矢先、ウラヌスの方からそう声をかけてきた。反射的に答え、3人が固まるところへ行って、腰を下ろす。

 

「メレオロンの具合はどうですか?」

「外見的に痛めてるところはなさそうだね。

 頭に衝撃を受けたから、もう少し休んだ方がいいと思う」

「心配症ねぇ……」

「脳に異常がないかどうかなんて、俺には分かんないしな。

 メレオロンのオーラ量なら大丈夫だと思うけど、ひとまず安静が一番の薬だよ」

「だいじょうぶ、おねーちゃん……?」

「アンタまで心配しなくていいわよ。

 気にしない気にしない」

 

 妙なところで強がる癖があるから、いまひとつ言葉を信用しきれないのがメレオロンだ。とは言え、今回は2人が心配しすぎな気もするけどね。大事を取るのは反対しないけど。

 ウラヌスは私達を見回し、

 

「みんな、身体を冷やさないように自己管理してね。

 汗かくと急に冷えるから、カイロとかで体温調整してほしい」

「あー。

 言われてみれば、冷汗かいてちょっと寒いかも」

「おねーちゃん、お茶飲む?」

「うん。それは貰うわ」

 

 ウラヌスのパクってきたお茶、大活躍だな。……私も貰うけどさ。

 

 

 

 小休止を終えて登山を再開。しばらく進んだところで再び出現したスライムを私が撃破。倒せそうなモンスターは私が積極的に相手することになってるけど、正直不満だな。全然逃げないスライムなんて弱すぎるよ。

 

 まぁでも、飛んでるモンスターは相手させてくれないだろうしな……向こうが近づいた時に迎撃すれば倒せるだろうけど、近づいてくるまでの間みんなが危険に晒され続ける。そういうモンスターはウラヌスに一任するしかないんだよね。

 

 緩やかな斜面を登っていき、隆起がある地面を進んでいく。

 

 ──肌がざわつき、周囲に気配が生まれた。視界を白い何かが複数動いた。

 

「2人とも『練』で防御! アイシャ手伝って!」

「はい!」

 

 返事しながら、突然飛びかかってきた白い塊に手刀を叩きこむ。さほど手応えもなく、打ち抜いた白兎がカード化する。

 

 メレオロンとシームにそれぞれ襲いかかる兎達──両手で掴み取り、掴んだ2匹を互いぶつけて倒す。ウラヌスが2匹片づけたようで、あと7匹。カードを手にする暇もなく、周囲を飛び回る兎達に意識を向ける。マリモッチほどじゃないが、なかなか素早い。

 

 一斉に跳ね上がる兎4匹──地面から飛び跳ねようとした一瞬前に、動きを止めた隙を狙って私が爪先で薙ぎ払ってやった。まとめて煙になる兎達。

 目の端に、宙に舞う兎達をウラヌスの指先が掠めていくのが映った。

 

 大量の煙に包まれる中、気配が全て消える。

 

 

『717:ホイップバニー』

 ランクG カード化限度枚数730

 雪兎 群れで襲い掛かり ひたすら飛び跳ねて体当たりしてくる

 縦横無尽に跳ね回るので捉えづらく 時おり牙を剥くので注意

 

 

 ウラヌスが1枚摘まんだカードを受け取り、内容に目を通す。まぁランクG程度だなと思うけど、同じく数で攻めてくる一つ目巨人とはまた違ったウザさがあるな。

 

「カードって、これ1枚だけでいいんですよね?」

「うん。これは600ジェニーでしか売れないし、しばらく持ち歩くから2組もいらない。

 ……手間なだけで、ソンなモンスターだよ。全く」

 

 不満そうにつぶやきながら手袋をはめ直すウラヌス。なるほど……私も手袋付けてると指先を使う微細な技術が封じられて困るんだよな。いっそ外してしまうのも手か。普段は付けてないとダメだけど……手がかじかんだら本末転倒だし。

 私が「ブック」でバインダーにカードを収めていると、メレオロンはシームの頭を撫でながら、

 

「アンタ達もあんな気張らなくてよかったのに。

 あれくらいの兎がちょっとやそっと当たったぐらいで、怪我なんてしないでしょ?」

「いや……

 アイツラたまーに牙を剥いてくるんだけど、それが馬鹿にならない威力なんだよ。

 可愛い外見と体当たりしかしてこないからって油断してるとザックリ──ってやられる怖いヤツラさ。……説明しなかったっけ?」

「ぅへー。

 ああ、アンタ説明してたわね。そんなようなこと」

 

 うん……事前に説明しててもコレだからな。直前にならないと説明したくない気持ちも分かるよ。

 

 そうこうしてるうちに、拾わなかったカードが1分経って次々と兎のモンスターに戻る。もちろん動き出す気配はない。

 

「……」

「どうした、シーム?」

 

 小首を傾げたシームに尋ねるウラヌス。何か気になることでもあったんだろうか。

 

「んーと、カード化が解けてるなと思って。

 いま倒したモンスターって、カードになってる時に誰も触ってないでしょ?

 なのに1分経ったら……」

「あー、昨日の話か。

 あれはアイテムが初めからカード状態で、それをプレイヤーが手にした時の話だよ。

 アイテムに触れるとか、モンスターを倒すとか、カード化する条件を満たした場合は、カード化した時点から1分経過するとカード化が解ける。

 まぁ俺の説明が足りてなかったな」

「ふぅん」

「倒したらすぐカード拾って、バインダーに入れないとダメってやっぱりキツイわよね」

「だな。モンスターの数が多いと、どうしても取りこぼしが出ちまう」

 

 なんだよね。私は前回人数いたから回収するのも楽だったけど、今回はそれも大変なんだよな。

 

 

 

 

 

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