────……響き渡っていた雪崩の余韻がようやく消え。
「ブック……」
私達はただ呼吸を繰り返しながら抱き合い続け、しばらくしてウラヌスがそう囁いた。出現したバインダーからカードを1枚外して遠くへ投げ捨てる。代わりに足元のカードを拾ってパチリと収めた。
「ブック。
はぁぁぁー……
もうだいじょうぶ……疲れたぁー」
バインダーを消して地面にへたりこむウラヌス。私も膝をついて、身体を支えてあげる。さっきまでの気勢が嘘みたいに、フニャフニャになってるな。もこもこの服の上からでも分かるよ。
斜面の雪は大幅にその量を減らしていた。大半が坂の下へ流れていき、私達が登ろうとしていた先の地面は、ところどころ雪がなくなってすらいた。
「だいじょうぶ……? ウラヌス」
「んー。
へーき、へーき……」
「……とてもそんなふうには見えないわよ」
「今の能力、なんだったのか後で教えてくださいね。
相当な大技だったように見えましたが」
というか、理屈が分からない。一体何をどうすれば、あんな雪の防ぎ方ができるのか。
シームは涙目をこすりながら興奮気味に、
「すごかったねぇ……
ボクすっごい怖かったけど、面白かった」
ウラヌスは力のない笑顔を浮かべ、
「ははー……
面白かったなら、なによりだよ。……ゴメンな、怖い思いさせて」
「……ううん」
「まさか、対雪崩用の能力というわけじゃないですよね?」
いくらなんでも、その為に能力を開発するとは思えないしな。
「まさかぁ……
雪崩にも有効な能力ってだけだよ。なかなか使いどころが難しいんだけどねぇ……」
「もう……いいわよ、そういう話は。
シーム、まだお茶残ってたでしょ? この子に」
「うん!」
この登り坂で、既に消耗してたんだろうな。イエティ相手にミスしてたし。よく雪崩を防ぎきってくれたよ。
シームから受け取ったお茶をくぴくぴ飲んで、「はぁー……」と息したウラヌスは、
「さて……坂を登るか降りるかなんだけど……
入手難度は温泉の方が上だから、坂を登っておきたいかな……
なんせ温泉が近いせいで、ふぅー……
雪崩の跡でアイテムを探してる時も、怪物が出そうだし」
「温泉を入手したら、怪物の出現率は下がるんですか?」
「多分ね……」
なら、そうするしかないな。温泉を取ってから、雪崩の跡を捜索か。
「でもさぁ。
探せばあると思うけど、さっさと温泉が見つかるとは限らないんじゃないの?
アンタもう余力ないんでしょ?」
「坂の上まで行っても、発見の目途が立たなかったら坂を降りるよ。
……シーム、もうちょっと頑張れるか?」
「うん」
「よし。
……あ、ゴメン。後5分だけ休ませて」
「大丈夫ですか?
……仕方のない人ですね」
もたれかかってきた柔らかいウラヌスを、私は苦笑しながら支え続けた。
小休止を終えて、急斜面を登り切った先は、なだらかな雪原が広がっていた。
雪崩が起きたおかげか、辺りは雪も少なくほどよい感じだ。陽が雪に照り返り、高所なこともあってなかなかの絶景だ。
「はぁー。ようやくここまで来たかぁ……」
ウラヌスは満足したとも疲労困憊とも取れる表情で、周囲に目を向けている。
「アレ……?
あそこに、なんか湯気みたいなの見えない?」
シームが指差す先。ちょうど盛り上がった向こう側だろうか? んんー……どうだろ。よく分かんないな。確かに白っぽい感じはするけど、眩しくて分からないぞ。
ウラヌスがそちらに目を凝らし、
「……うん。多分アレ、温泉の湯気だ。
なんとなく感じるオーラに覚えあるし」
ほぅ。──はぁっ!?
「つーかオマエ、よくあんなの見分けられたな……
言われなかったら、俺この距離で気づけた自信ねーよ」
「へ? マジ?
シーム、アンタもう見つけたの?」
「私、言われても全然見分けがつかないですよ……」
だって、ほとんど全部真っ白なんだぞ。すっかり目が白さに慣れちゃって、遠くの湯気なんて目視できないよ。
「アタシ、『凝』使っても分かんないんだけど……」
「距離がそこそこあるしな。
最短で行けば、怪物との遭遇も限りなく減らせそうだ。
……助かったよ、シーム。ありがとな」
「え、えへへー」
おやおや、可愛らしい顔して喜んでるよ。
シームが指し示した方へ真っ直ぐ進んでいき、運良く怪物にも出会わずソコに到着した。
「おおおぉー……」
メレオロンが口許に当てた手から声を洩らし、感動すらしている。
見事な天然温泉が、不自然なぐらい雪の中にぽっかりと出来ていた。すごい湯気が充満してるな。大げさかもしれないけど、ここだけ別世界だ。
「間違いなく、これが探してた美肌温泉だよ。シーム、お手柄だったな」
「やったじゃない、シーム!」
「お見事です。素晴らしい観察眼でしたよ」
「そんないっぱい褒めないでよぉ……」
照れまくるシーム。水が絡んだ時の視力は、ホントにスゴイな。まず間違いなくキメラアント由来だろうけど、元々素質があったのかも。ここまで来ると才能の域だよ。
メレオロンが興味深げに覗き込みつつ、
「ところでさ。この温泉って入るの?」
「いやいや、やめとけって。
気持ちは分かるけど、こんなトコで入ったらヘタすりゃ風邪引くから」
「あ、やっぱり?
こうやって湯気に当たってるだけでも、だいぶ違うけどねぇ」
確かに。吸い込む空気が違うしな。むしろ、ちょっと蒸し暑いくらいだ。
「汗かくといけないし、このくらいにしとこ。
シーム、湯船に手をつけてみ」
「え?
あ、ちょっと待って。手袋外すから……んっ。
えっと、こう?」
手袋を外したシームが、おそるおそる温泉のフチからちゃぽんと手を付けた。
ボンッ! と温泉がまるごと消えて、カード化した。
『4:美肌温泉』
ランクA カード化限度枚数15
肌に関する悩みを全て解消してくれる温泉
1日30分の入浴で 赤ちゃんの様なスベスベの肌になる
温泉の熱気で雪が解けたであろう剥き出しの地面を前に、シームはそのカードを眺める。
「……これ、アイシャに渡せばいいんだよね?」
「いちおうな」
「はい、アイシャ」
シームが手にしたカードを渡そうとする。私は少し悩んだ後、
「あなたの手柄ですし、しばらく持ってていいですよ」
「え?
でもボクが持ってたら、盗られちゃうかもしれないよ?」
「そりゃたくさん指定ポケットカードを持ってりゃな。
ランクSの浮遊石も入れてんだし、今さらだと思うけど」
「シーム、今日1日くらい持ってなさいな」
「……うん、分かった。ブック」
シームはどことなく嬉しそうに、バインダーの指定ポケットにカードをパチリと収めた。
「さて、これで怪物の出現率は元に戻っただろうし、今度は下り坂だな」
「もしかして、捜索範囲けっこう広いんじゃないですか?」
「そうだね……
あの斜面を下りながら探すつもり」
そして坂まで戻り、柔らかくなった雪の道を慎重に下っていく。怪物の出現率はやはり低下したようで、温泉発見以降はモグラと1回遭遇しただけだ。
時間をかけて、急斜面の半ばぐらいまで降りてきたところで、
「ん。1個発見」
ウラヌスが進路変更し、私達も後ろをついていく。やがて足を止め、指先を下に向けるウラヌス。
「ここにあるんだけど……
雪を掘り返さないといけないんだよなー」
「結構深そうですか?」
「いや。多分50センチくらいのところにある」
「じゃあ、私が掘りますね」
ぐずぐずしてると、『周』がそろそろ弱まりだすからな。
雪に両腕を突っ込んで圧をかけて固め、ごそっと持ち上げる。
「掘るっていうか、えぐるって感じよね」
うっさいメレオロン。いいじゃないか、簡単なんだし。
どさどさっと横に雪を落とす。もう一度繰り返そうとして、
「あー、アイシャもういいよ。ハズレ」
ウラヌスが掘り返した雪に手を突っ込み、ボンッ! と煙が出る。
『4604:雪まみれの帽子』
ランクH カード化限度枚数828
雪の中から出てきた 誰かの帽子
……うん。ハズレだな。
また少し下りたところで発見し、今度はシームが挑戦。がんばって掘って、結果は──
『4606:凍てついた靴』
ランクH カード化限度枚数825
雪の中から出てきた 誰かの靴
「なにこれー……」
「見ての通り、靴。お察しの通り、ハズレ」
「で、これって取っとくの?」
「いるわけないだろ。
イベントもないし、モンスターカードより安い、正真正銘のゴミ」
つまんなさそうにポイ捨てするシーム。気持ちは分かる。
「──いった!?
ちょっと、なんか刺さったんだけどッ!?」
「あー……
たぶん凍ってるから固かったんだな。
……ほれ、やっぱりこれだった」
『4608:凍ったタワシ』
ランクH カード化限度枚数909
雪の中から出てきた 謎のタワシ
「ムッカー!!」
怒ったメレオロンが、タワシをゲインして思いっきり雪に叩きつけた。跳ねてどっかに飛んでくタワシ。まったく……悪ふざけが過ぎるよ。完全におちょくってるな。
しっかり探しながら下りてきたけど、結局坂を下り切るまでの間に発見できなかった。斜面の下──雪が大量に流れ落ちて、ずいぶんと景色が変わった中をきょろきょろ見回すウラヌス。
「さっきからハズレばっかりだけど、ホントにアタリあんのー?」
「いちおう残り2箇所とも見つかったから、どっちかはアタリだろ。
さて、どっちかなー?」
「事前に分かる方法でもあるんですか?」
「ううん。ただの指運」
3人とも「はぁー……」と溜め息。なら、どっちでもいいからさっさと行ってくれないかな。早く終わらせてほしいよ、こんなの。
ちらちらと雪が降る中、ウラヌスがワンコもといニャンコよろしく、せっせと雪を掘り掘りし、
「っしゃあ! 発見ッ!!」
『451:凍る白金の指輪』
ランクD カード化限度枚数52
ある未亡人が捜し求める 雪崩で亡くなった男の遺品
結婚指輪で 未亡人の名前が刻まれている
ウラヌスはスライムのカードを外してポイ捨てし、代わりに指輪カードを収める。
ほくほく顔でバインダーを眺めた後、ふと視線を上げると、何とも言えない表情をした私達を見て、ぎょっとする。
「……あ、えっと、うん。
みんながんばったね。みんなのおかげだよ」
「なぁに、その取ってつけたような感じー」
「ウラヌスずるぃー!」
「まさか最初からアタリの場所を知ってて……」
「いやいや、そんなわけないって! じゃ、じゃあ残り1つのハズレも俺が──」
「冗談ですって。
そんなのどうでもいいですから、早く帰りましょうよ」
「うんうん、もう帰れるんだよねっ!?」
「はよぅ」
「オマエラ」
4人でひとしきり笑い合った後、ウラヌスは微笑を残し、
「みんな、ホントにお疲れ様。
これで雪山でやるべきことは全て終了!
だから、さっさと帰っちゃうね。──『同行/アカンパニー』オン、スノーフレイ」
そうして、私達は冬の雪空へと舞い上がった。
白雪都市スノーフレイに到着し。
『はぁぁぁぁぁー……』
緊張の糸が切れたのか、モノの見事に崩れ落ちる3人。
「つっかれたぁー……」
「もうボク歩けなーい……」
「ぅー…………」
おいおい、こんなところで潰れられても困るよ。他のプレイヤーが来たらどうするんだ。
「あなた達、さっきまで立ってたじゃないですか。気を抜きすぎですよ」
「うん……まぁアイシャの言う通りなんだけどさ」
「ほら、こんなトコでヘタってたら危ないですよ。
安心して休める場所に辿り着くまで頑張ってください」
「アイシャ、元気だねー……」
へろっへろのウラヌスに比べりゃね。私だって休みたいけど、まだダメだろ。こっちも雪降ってるしさ。
「ほらほら、荷物を預かりますから2人とも立って。
メレオロン、ここなら寒さもいくらかマシなんですからシャキっとしてください」
「まぁそうだけどさぁー」
関節回りを擦ってるから、やっぱり冷えてたんだろうな。けどオーラに一番猶予があるのもメレオロンだろうに。
「ウラヌス、宿を取りに行きましょう。
今夜もここで寝泊まりするんですよね?」
「そうだよー。
あのバカップルに温泉旅行一泊プレゼントするから、俺達もここに泊まらないと……」
「アイシャ、荷物はアタシが持つから、そいつに肩貸してあげなさいよ」
「……そうですね」
「えぇっと、いい、いい。
歩くくらいできるって……よっと。ね?」
立ち上がるウラヌス。そんな元気アピールしたところで、
「そんなフラフラじゃ信用できません。
うっかり滑って転んだりしたらいけませんから、ほら」
「ああぁぁぁ……」
都市の入口からしばらく、厚く雪の積もった細い路地を進んでいき、やや大きいけれど古めかしい温泉旅館に辿り着く。
うむ……これは老舗旅館っぽい雰囲気が出るのを狙ってるな。お店の名前も、湯煙温泉旅館『古都の余韻』と、また重い重い。
「あなたも、よくよくこういうところ見つけてきますよね。
なんだかんだでジャポンのこと、大好きなんじゃないですか?」
道案内したウラヌスに尋ねると、肩を借りてる彼は聞こえるように息を吐き、
「そういうアイシャだって、こういうトコは好きなんだろ?」
「ええ、そうですよ。
私、ジャポンのこと嫌いだなんて言いましたっけ?」
「言ってないよ。
……ちぇっ、からかい返したのにノリ悪いの」
「ふふ。
でもスノーフレイって、こういう宿ばっかりなわけじゃないですよね?」
「まぁねー。
ホテルでもスパリゾートでもペンションでも、この街にはあるんだけどさ。
どーせなら、隠れた名所でのんびりしたいじゃん」
「ほら、2人とも。
イチャイチャしてないで早く入りましょうよ」
「ここにもゲームあるの?」
「あー。前のトコに負けず劣らず、ふっるいのがあったと思うけどなー」
・雪山登山リザルト
消費アイテム:カイロ16個 お手製おにぎり16個
購入額合計:2067ジェニー
※下1ケタの端数は、カイロが1ダース800ジェニーの為
トレードショップ売却額合計:1694900ジェニー
※モンスターカード各1枚とイベントカードを除くと328700ジェニー
所要タイム(登山開始~移動スペル使用):3時間17分40秒
・入手カード内訳(売却額1000ジェニー未満のカードは必要な分を除いて破棄)
『4:美肌温泉』1枚
『451:凍る白金の指輪』1枚
『516:イエティ』2枚
『538:ダイアーウルフ』5枚
『546:シルバーフォックス』48枚
『672:クリスタルボール』5枚
『709:スノーモール』21枚
『713:ホワイトラット』1枚
『717:ホイップバニー』1枚
『725:クールスライム』15枚
『734:スワンイーグル』5枚
『758:アイスファントム』5枚